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竹林軒出張所

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『クレオパトラ』(映画)

クレオパトラ(1963年・米)
監督:ジョセフ・L・マンキウィッツ
脚本:ジョセフ・L・マンキウィッツ、シドニー・バックマン
出演:エリザベス・テイラー、レックス・ハリソン、リチャード・バートン、ロディ・マクドウォール

b0189364_8202876.jpg 全編4時間の超大作(途中休憩が入る)。いかにも全盛期のハリウッド映画という感じで、スケールの大きなセットと豪華絢爛な衣装で歴史絵巻が再現される。
 エジプトの女王、クレオパトラから見たローマ帝国史の一断片で、カエサルからアントニウス、オクタヴィアヌスまでの時代背景がよくわかる。絶世の美女、クレオパトラを演じるのはエリザベス・テイラーで、このあたりのキャスティングはまったく異存のないところ。カエサルのレックス・ハリソン、アントニウスのリチャード・バートンもなかなか好演で、それぞれの性格がよく表現されている。
 監督のマンキウィッツはこの映画を6時間で公開したかったらしいが結局4時間まで切り詰められることになったらしい。監督自身、この切り詰められた公開版には大層不満だったようで、公開当初にこういうエピソードが知られていたこともあり、公開時は不評で、興行的にも大赤字が出たという。
 まあしかしこういうのは面白いとかどうとかいうものでもなく、歴史をこれだけのスケールで再現したということ自体がすごいわけで、たとえ面白くなくても(実際は結構面白かったが)こういうものが映像として存在することに価値があるんじゃないかと思う(デキがあまりにも悪ければ別だが)。ある種、オペラみたいなもので、これ自体に骨董的な価値があると言える。そう言えばオペラみたいに冒頭に序曲が流れるなど、最初から豪華な雰囲気が漂っていた。70ミリのでかい劇場スクリーンで見れば満足感もひとしおという代物である。僕はといえば、15インチのアナログテレビ、プラス・イヤフォンでひっそり寂しく見たんであった。
1963年度アカデミー賞撮影賞、美術賞他受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ベン・ハー(映画)』
竹林軒出張所『十戒(映画)』
竹林軒出張所『エジプト人(映画)』
竹林軒出張所『スパルタカス(映画)』
by chikurinken | 2012-05-30 08:22 | 映画

DVDレコーダー、動作を停止す

b0189364_7313445.jpg
 DVDレコーダーでDVDを見ようとしたら、レコーダーが突然動作を停止した。うちのDVDレコーダーは、7年前に買ったもので、デジタル放送対応機種の初期の型番である。パナソニックのDIGAの(当時の)最下位機種で、最下位機種だけに使い勝手はあまり良くないが、今まで故障もまったくなく「さすがパナ!」と思っていた矢先である。ちなみにこのDVDレコーダーにはアナログテレビをつないでいるので、これがなければテレビ放送が見れなくなる。
 さて状況を説明すると、映画を録画中だったのだな、そのとき。ところが最下位機種だけに、録画中は他の作業ができないと来ている。DVDを見ようと思っても録画を中止しなければ見れないわけね。とりあえずDVDを入れたは良いが、録画中でいかんともしがたいので、録画を中止したのだった。で、しばらく待ってDVDを見ようと思いDVDの再生モードに切り替えたのだが、本体のLEDに「PLAY」と表示されはするが、テレビの画面はブラックアウトのまま。リモコンのスイッチをいろいろ押しても一向に変化がないので、とりあえずレコーダーをオフにした。すると今度はLEDに「PLEASE WAIT」と出て、うんともすんともいわない。もちろんイジェクトスイッチを押してもDVDは吐き出されない。レコーダーの指示に従って10数分待ってみたが、相変わらず「PLEASE WAIT」と表示されている。思いあまって、コンセントを抜いてから再び起動を試みた。それでも相変わらず「PLEASE WAIT」と出るだけである。
b0189364_732364.jpg ハードディスクで7年目といえば、いつ壊れてもおかしくない状態と言える。だからここでハードディスクが壊れても文句をいう気はないんだが、それでもテレビが見れなくなるんだから困る。ましかし、そこはそれ、ここのところいろいろなものがたてつづけに壊れて免疫ができているので(竹林軒出張所『いろんなものが壊れる日々』参照)、使えなくなってしまえばあきらめるしかないという、ちょっとした覚悟はある。ただ一つ気がかりなのが、DVDレコーダーに閉じ込められているDVDが、ちょっとだけいかがわしいものであるという点である。知り合いの電器屋さんに修理に出すのは少しはばかられるんで、結局しばらくはなしで過ごすしかない……自分の中でそういう結論に達したのだった。
 その後、レコーダーのコンセントを外した状態でずっと置いていたんだが、先ほどネットで何気なく調べてみたら(検索ワード「DIGA PLEASE WAIT」)、こういう場合の対処方法がいくつか見つかった。こういう症状は故障の線が強いらしいが、それでも治るケースもあるという。何でも数時間コンセントを外してからもう一度電源を投入するというごく簡単な方法である。あえて言うが、僕でもそのくらいのことは予想できてはいたんだが、しかしすでに壊れた気でいた僕にとって、「直ることがある」という情報は結構重要だったのである。少なくとももう一度トライしてみようというモチベーションにはなった。
 で、やってみたところ、やはり同じ状態が続き、その後「PLAY」という表示になる。このあたりは前と大差ない状態である。モード切替ボタンやいろいろなボタンを押してみるもやはり変わらずで、最後に電源ボタンを10秒以上押し続けるという作業をやってみた(設定のリセット機能が働くという情報あり)。これもネットの書き込みにあった情報が元だが、そうすると「PLEASE WAIT」と出た後、しばらくしてLEDに時刻が表示されたのだった。これは正常動作時のオフの状態である。この状態でイジェクトボタンを押すと、ややあって出て来たんである、ちょっといかがわしいDVDが。なんと、こうしてDVDレコーダーは復旧したのであった。ハードディスクの中身を見てみるとすべて無事で、その後、何事もなかったかのように動作を続けている。
 要はレコーダーが、入れたDVDを読み込めなかったということなのか。ただし読み込めないDVDは通常、その後イジェクトすることができる……はずである。試しにこのDVDをパソコンで読み込んでみたが、問題なく普通に読み込むことができた。DVDが悪かったのか、それとも操作が悪かったのかよくは分からないが、結局はちょっとした騒動で済んだというそういう顛末である。今後は乱暴に扱わずに注意して使おうと肝に銘じた昼下がりだった。同時に、レンタルしたDVDが入ったまま壊れて取り出せなくなったらどうなるんだろうという素朴な疑問が渦巻くのであった。

参考:
竹林軒出張所『プライベート・ビエラ -- ユニークな製品だが使い方を選ぶ』
竹林軒出張所『パソコンからレンタルDVDが出てこなくなった話』
by chikurinken | 2012-05-29 07:34

『フロント・ページ』(映画)

フロント・ページ(1974年・米)
監督:ビリー・ワイルダー
原作:ベン・ヘクト、チャールズ・マッカーサー
脚本:ビリー・ワイルダー、I・A・L・ダイアモンド
出演:ジャック・レモン、ウォルター・マッソー、スーザン・サランドン、ヴィンセント・ガーディニア、デヴィッド・ウェイン

b0189364_8221952.jpg 戯曲が原作の作品で、これまで何度も映画化されている。いかにも舞台(=戯曲)というような展開、台詞まわしである。実はこの映画の前の映画化作品、『ヒズ・ガール・フライデー』も見ているんだが、ケイリー・グラントが主役という以外、内容をまったく憶えていない。新聞記者のドタバタコメディだったくらいの記憶はある。
 さて本作だが、ビリー・ワイルダーが監督したというだけあって、ひねりがあちこちにちりばめられたちょっと気の利いた映画になっている。ジャック・レモンとウォルター・マッソーの機関銃のようなセリフが小気味良いのもワイルダーの映画らしい。(ワイルダー、レモン、マッソーらの)映画職人が丁寧に作りあげた映画という印象で、全編安心して楽しめるし飽きることもないが、舞台劇らしく大団円で終わって、「毒にも薬にもならない」というか、結局「ああ面白かったね」だけだったような部分もある。それはそれで良いのだが多少の物足りなさは残る。
 ストーリーは、コアの部分以外『ヒズ・ガール・フライデー』とも若干違っているようで(なんせあまり憶えていないんで)、内容はもう少し硬派な印象が残った。そのあたりはワイルダーらしい味付けと言える。
★★★
by chikurinken | 2012-05-28 08:22 | 映画

『グランド・ホテル』(映画)

b0189364_9583618.jpgグランド・ホテル(1932年・米)
監督:エドマンド・グールディング
原作:ヴィッキイ・バウム
脚本:ウィリアム・A・ドレイク
出演:グレタ・ガルボ、ジョン・バリモア、ジョーン・クロフォード、ウォーレス・ビアリー、ライオネル・バリモア

 昔シナリオの先生から「主人公は1人じゃなきゃ映画として成立しない」と言われたことがあり、これについては十分納得していたが、しかし現実的にこの『グランド・ホテル』みたいに主人公クラスの人間が大勢出てくる映画も存在するわけだ。で、こういった構成(主人公が多い作品)は、この映画のタイトルからグランド・ホテル形式と呼ばれているんである。
 この『グランド・ホテル』は古典中の古典映画であるが、見るのは今回が初めてということになる。序盤は主人公クラスの人間が大勢登場し、しかもグランド・ホテル内の雑多でにぎやかな雰囲気と相まってあまりまとまりがない印象である。やはり主人公が多いというのは問題があるよなあと思っていたが、これが見事に一点に収束していき、そしてスカッと終わらせる。非常に巧みな脚本であることがわかる。
 結局のところ、主人公は大勢の人々ではなく、このホテル自体なのだと思えるようになる。つまりホテルに出入りする人々は、ホテルを演出する素材でしかない。このあたり、すべては登場人物によって2回に渡って語られる「グランド・ホテル、人が来ては去って行く、ただそれだけ」というセリフに集約されている。もちろん映画では人間ドラマを扱っているが、舞台こそ主役というわけだ。だから「主人公が1人」という命題はある意味で成立しているとも言える。
 キャストも豪華であるが、やはりストーリーと脚本の見事さが最後まで印象に残る映画だった。ちなみに男爵役のジョン・バリモアと社長役のライオネル・バリモアは兄弟だそうで。
第5回アカデミー賞最優秀作品賞受賞
★★★☆
by chikurinken | 2012-05-26 09:59 | 映画

『わたしのペレストロイカ』(ドキュメンタリー)

わたしのペレストロイカ
(2010年・英米Red Square Productions / Bungalow Town Productions他)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

b0189364_97162.jpg ソビエト体制下で幼少時代を過ごし、その後ソビエトの崩壊、資本主義体制への移行などを目の当たりにした人々に取材したドキュメンタリー。
 登場する人々は多くが同級生で、同じ激動の時代をくぐり抜けながらも、それぞれ独自の人生を送っている。各人の話をうまく編集しながら、時代背景を示す映像が挿入される。かれらの子ども時代の映像もふんだんに登場する。
 われわれにはソビエトは暗黒社会みたいな印象があるが、彼らに言わせると子ども時代は不幸に感じることはまったくなく毎日が楽しかったらしい。質素ではあっても、それなりに社会はうまく機能していたことが窺われる。その後、ゴルバチョフが登場して連邦体制は崩壊し、ロシア社会は混沌としてきた。市場からモノがなくなり、社会不安も増えてくる。社会が不安定になっても、人々はかれらなりに生活を送らなければならない。パンクロッカーになった者や教師になった者など各人各様である。クラス一の美人だった女性は、いまやシングルマザーで、アパート住まい、生活も苦しいらしい。インタビューを通じてそれぞれの人物に共感を感じるようになるが、かれらの来し方に接すると、一種の同窓会みたいな雰囲気さえ出てくる。成功した者も困窮している者もいて、これからも互いに何とかやっていこうよという気分になる。
 日本では安っぽい同窓会ドラマも多いが、この番組はドキュメンタリーでありながら、とってつけたようなドラマよりずっと質が高い上、見ていて面白いし、共感できる。背景を流れるのが激動の時代であっても、ミクロレベルではそれぞれの人生に収斂する。子どもの頃に同じ時期を同じ場で過ごした人々が、それぞれの人生に枝分かれしていき、ある一点でスナップショットとして互いにそれを披露する。それが同窓会であり、このドキュメンタリーはまさしくそういう構成になっている。国家の崩壊という特異な社会背景を抜きにしても、同窓会ドキュメンタリーとして非常に質が高い秀作であった。なおこのドキュメンタリーにはナレーションが一切なく、インタビューと映像を巧みにつなぐことで、庶民から見た歴史を描いているが、結果的に非常に大きな効果をもたらすことになっている。
★★★★
by chikurinken | 2012-05-25 09:07 | ドキュメンタリー

『画材の博物誌』(本)

b0189364_8451155.jpg画材の博物誌
森田恒之著
中央公論美術出版

 画材のあれやこれやについてトリビア風に書き綴った本。著者は美術館の学芸員などを経験した人で、初出はほとんどがギャラリーの機関誌(日動画廊の『繪』)で、さまざまな絵画技術と画材について解説した連載を一冊にまとめたのがこの本ということになる。
 扱われているテーマは、フレスコ、テンペラ、油絵、水彩、アクリルなどの絵の具から、紙、板、カンバスなどの支持体、炭や膠、あげくに銅版画や石版画までときわめて広い。またどれも内容が充実していて、目からウロコの記述も多い。現代に生きているわれわれにとっては、たとえば油絵と水彩といえば同格であり、極論すれば絵を描くときにどの画材を選ぶかという一つの選択肢に過ぎないが、どの画材にも歴史があり、社会での変革が影響している。今見れば横並びの同等のものであっても、時間軸の中ではそれぞれ独自の背景を持ちながら別々に登場して、それが現代に残っている(あるいは残っていない)に過ぎないということがよくわかる。また同時に、それぞれの画材の登場には必然性があるということもこの本を読むとわかる。
 たとえばカンバスが絵画用の支持体として普及したのは帆船用の布地の加工技術が進んだためとか、レンブラントが油絵の具の盛り上げ効果を巧みに使えたのはこの時代に油絵の具が改良されて硬練りが可能になったためとか、美術作品にはその時代の社会的な背景が反映されている。今の時代から過去の絵画作品を見ると、どうしてもそれぞれの巨匠画家の天才性や卓越した技に注目が集まるが、しかしその背景には必ずそれを誘発する技術革新があったということがよくわかるのである。画材の登場には工業技術の発展に伴う必然性があるが、それを活用した作品にもそれと同様の必然性があるということだ。
 たとえば水彩の記述が特に目を引く。現在水彩には基本的に透明水彩と不透明水彩(ガッシュ)の2種類があって、一般的な考え方ではヨーロッパ大陸で伝統的に不透明水彩が使われ、英国で透明水彩が使われたと考えられている。しかしこれは必ずしも正確でなく、元々は水彩はテンペラの1つのバリエーションに過ぎなかったという。テンペラといえば顔料に卵黄を混ぜて、卵黄を接着剤として顔料を支持体(紙やカンバス)に定着させる方法だが、卵黄の代わりにいろいろな媒材(膠など)を接着剤として使うこともあったらしい。その中にアラビアゴムを使う方法もあり、「ガムテンペラ」と呼ばれていたが、実はこれが現在言うところの不透明水彩で、元々水彩も不透明だった(下の地が透けて見えない)。透明水彩が生まれたのは18世紀の英国で、工業技術が発達し顔料を微細に砕くことが可能になったことがそもそもの原因である。この微細な顔料のために下地が透ける透明絵の具が実現したということらしい。つまり透明水彩は、不透明水彩の改良型であり工業技術の成果でもあるというわけだ。そのため両者が登場したのは時代的にも間に数世紀開いている。またこの時代、英国でこの透明水彩が工業製品として売り出され、急速に普及することになった。それまで絵の具は画家がみずから顔料と媒材を練り合わせて作るものだったが、それがこの時代に変化し、誰でも絵の具を使えるようになって、透明水彩による絵画が趣味として普及することになった。こうして透明水彩が英国で普及し、大陸には従来の不透明水彩が残ったというのが、「大陸=不透明水彩、英国=透明水彩」という今日の図式になった。さらに付け加えると、絵の具の工業製品化(練りチューブ化)は結果的に屋外写生を可能にし、バルビゾン派や印象派の登場を促す直接的なきっかけにもなっている。
 こういうふうに、画材にも絵画にも、その背景には大いなる歴史が横たわっているということがよくわかる非常に有意義な本であった。ところどころ読みづらい記述もあるが、それでも何度も目を通したいと感じさせる本であった。
★★★★
by chikurinken | 2012-05-24 08:45 |

『姉妹』(映画)

b0189364_8434081.jpg姉妹(1955年・中央映画)
監督:家城巳代治
原作:畔柳二美
脚本:新藤兼人
出演:野添ひとみ、中原ひとみ、内藤武敏、望月優子、河野秋武、川崎弘子、多々良純

 畔柳二美という人の小説が原作の映画である。監督は家城巳代治で、有名な監督であるにもかかわらず今までこの人の作品は見たことがなかった。演出は正攻法で破綻はない。何でもレッドパージのときに組合活動のために松竹を追われ、その後独立映画作家として映画を製作してきた監督だという。そのせいか、本作でも組合活動が主要なモチーフとして取り上げられている。
 基本的には姉妹の成長譚で、どこか青少年向け小説みたいな青臭さが漂うが、しかし本作で描かれる当時の風俗はなかなかシビアである。リストラによる首切り、障害者や病人続出で生活できなくなった家族、妻に過激な暴力を振るう夫など、生きるのに苦しむ庶民の姿が描かれていく。そういう意味でリアリズム映画とも言える。ストーリー自体は小津映画を彷彿とさせるような嫁入り話で、時代的にも小津映画と同時代だが、小津映画が完全にブルジョア志向であるのと対照的である。田舎の一般庶民の結婚や生活となると随分様相が違うということがわかる。そういうふうに見ると、小津映画のアンチテーゼとして見ることもできる。当時小津映画を批判していた若手の松竹ヌーベルバーグの監督たちは、ああいったブルジョア映画を作らずに社会問題を描くべきだとしきりに主張していたらしいが、おそらくこの辺のことを言っていたんだろうと思う。ただ、だからといって松竹ヌーベルバーグの映画やこの映画が、小津映画より優れているかと言えば決してそんなことはなかったわけで、要は社会の底辺を描くのも1本の映画だが、底辺社会の現実が描かれていなくてもそれも1本の映画ということである。何を題材にするかではなく、扱い方の問題ではないだろうかと思う。実際、今の時代になってみると、多くの小津映画には独特の品格があり、優れた名品のような味わいがあって、他の映画にはない上品さがあることがわかる。
 だが言うまでもなく、本作で描かれている社会の底辺も映画として十分インパクトを持つものである。「携帯もパソコンもTVもなかったのに、どうしてあんなに楽しかったのだろう」(『Always 三丁目の夕日』より)などというような脳天気な世界観からは見えない現実が、この映画からはよく見えてくる(竹林軒出張所『レトロにもほどがある -- ALWAYS 三丁目の夕日(映画)』参照)。
 野添ひとみ、中原ひとみという目の大きい美少女が主役の姉妹を演じているが、このダブルひとみ、どこか中原淳一の絵を彷彿とさせるような風貌である。僕はといえば、二人とも、目が大きいので「ひとみ」という芸名がつけられたのかしらんなどと脳天気なことを考えながら見ていたのだった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『裸の太陽(映画)』

by chikurinken | 2012-05-22 08:44 | 映画

『マーラー 君に捧げるアダージョ』(映画)

マーラー 君に捧げるアダージョ(2010年・独墺)
監督:パーシー・アドロン、フェリックス・アドロン
脚本:パーシー・アドロン、フェリックス・アドロン
出演:ヨハネス・ジルバーシュナイダー、バルバラ・ロマーナー、カール・マルコヴィクス、エヴァ・マッテス

b0189364_7533797.jpg 作曲家のグスタフ・マーラーとその妻のアルマ・マーラーとの関係を描いた伝記映画。
 アルマとグロピウス(建築家)の不倫のせいで神経衰弱状態に陥ったグスタフ・マーラーが、精神科医、フロイトのところに赴くところから話は始まる。で、フロイトの治療、つまり心の中にあることを語らせるという方法によって、マーラーにアルマへの思いを語らせ、回想形式に持っていくというなかなか巧妙な構成になっている。ところどころ、周辺の関係者がカメラに向かって、インタビューに答えるかのように彼らについて語るシーンが挟まれ、このあたりの構成はドキュメンタリー・タッチになっている。このインタビュー風の部分に登場する人々には、ツェムリンスキー(作曲家)、クリムト(画家)、ブルクハルト(演出家)、ブルーノ・ワルター(指揮者)も含まれ、実に多彩である。もっともすべてフィクションであり、それぞれ役者が演じているに過ぎない。しかしドキュメンタリーを感じさせるような演出で、アルマ・マーラーの華麗な人間関係(恋愛遍歴)の一端が覗けるような豪華絢爛な登場人物群である。
 この映画の核心部分は、マーラー夫妻の関係性で、このあたりはうまく解釈を施していて大変わかりやすい。単に好奇の目でアルマを扱うのではなく、一人の女性の人生として真摯に分析している点に好感を持てる。解釈に破綻もなく共感できるような話に仕上がっている。共感できなかったのはキャスティングで、特にアルマを演じた女優に華がなく、とてもじゃないが「ウィーン随一の美女」(ワルター談)には見えない。どうしてこの女優を起用したのかまったくわからない。演技云々じゃなくて見栄えのことを言っているのであって、この女優が悪いとかそういうことではなく、アルマという役柄に合っていないんじゃないかということである。風貌は少し似ているような気もするが、たとえ似ていても与える印象がまったく違うということはままある。そんなわけでこのアルマにはガッカリなのだった。クリムトやワルターは似た役者を起用していてこちらは映画に良い雰囲気を与えている。マーラーを演じたジルバーシュナイダーもメイクなどで似せた風貌にしていて悪くない(何より神経衰弱加減がうまく表現されていて好演であった)。ともかくアルマには、似てなくて良いから「ウィーン随一の美女」にふさわしい女性を起用してほしかったと思うのである。そうそう、背景には、タイトルが示すようにマーラーのアダージョ(やアダージェット)がふんだんに流れます(交響曲第4番、5番、9番)。
★★★

参考:
竹林軒出張所『アルマ・マーラー ウィーン式恋愛術(本)』
竹林軒出張所『別れの曲(映画)』
竹林軒出張所『ラフマニノフ ある愛の調べ(映画)』
竹林軒出張所『チャイコフスキー(映画)』
by chikurinken | 2012-05-21 07:56 | 映画

『テルマエ・ロマエ I、II』(本)

b0189364_9522887.jpgテルマエ・ロマエ III
ヤマザキマリ著
ビームコミックス

 古代ローマ人が主人公のマンガ。古代ローマが舞台、しかも何だかひねりが利いているらしいということで前から読みたいと思っていたところ、最近映画化されたということもあっていよいよ実際に手に取ることになった。
 で、どういう話かというと、古代ローマの浴場設計士、ルシウスが、浴場設計でいろいろな難題に突き当たり、そのたびに現代の日本に(たまたま)タイムスリップし、風呂にまつわるさまざまなアイデアに感心し、それをローマに持って帰って成功するという、はなはだバカバカしいストーリーである。もっともバカバカしくはあるが面白い。基本的に1話完結の短編を集めたもので、どれもワンパターンの展開。もちろん、あるときは日本の公衆浴場、あるときは内風呂、あるときは温泉という具合にネタは毎回変わるし、ストーリーも進行していく。ハドリアヌスやマルクス・アウレリウスなどの五賢帝も登場して、歴史好きには楽しい。ただこのマンガに描かれている時代考証が正しいのかどうかはよくわからない。何となく現代日本風味な気もする。
b0189364_9533258.jpg 考えようによっては壮大な話であるが、基本は現代日本を外の目で見るという異文化交流がテーマである。普段何気なく接しているものごとでも、外から見ると意外に思われることは多い。日本の場合、来日した外国人にとってトイレや風呂が驚きの対象になることが多いらしいが、そういう意味でも風呂を題材として取り上げたのは正解と言える。だが極論すれば「外国人による日本観」に他ならない。BOSSのコマーシャルで宇宙人ジョーンズが現代の地球にやってきて、奇妙な文化に驚くというのがあるが、あれもおおむね外国人が日本に来て驚くネタばかりである。あれも異星人の間の壮大な話だが、ほとんどが日本特有の文化をいじる異文化交流の話に過ぎない。でも、自国の文化がよそからどう見えるかというのは存外面白く感じるものである(特に日本人は)。そういう意味であのCMは面白いんだが、『テルマエ・ロマエ』にも同様の面白さがある。というより、同じ発想じゃないかと思う。著者は、イタリア在住の日本人女性ということで、日本文化を外部から見ることの面白さを知っていて、それでこういう話を割合安易に作ったんじゃないかと思う。絵については、線はきれいだが並のレベル、ストーリーはそこそこよくできているが「タイムスリップ」には少々安直さを感じる。特に最近の日本のドラマやなんかはなんでもかんでも「タイムスリップ」と来ていて、僕などは少々辟易しているのだ。たしかに時代を超えた異文化交流が面白いのはわかるが、ちょっと能がないんじゃないかと思ってしまう。もっともこのマンガの場合、「タイムスリップ」自体にそれほど重きが置かれておらず、一つのツールとして使われているため、それほどの違和感は感じない。全編「よそから見た日本文化」のおかしさがちりばめられていて、楽しく異文化交流を体験することができる作品といえる。なおタイトルの『テルマエ・ロマエ』は「ローマの浴場」の意味……だと思う。
マンガ大賞2010、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞作
★★★☆
by chikurinken | 2012-05-19 09:53 |

『洋菓子店コアンドル』(映画)

洋菓子店コアンドル(2011年・『洋菓子店コアンドル』製作委員会)
監督:深川栄洋
脚本:深川栄洋、いながききよたか、前田こうこ
出演:江口洋介、蒼井優、戸田恵子、江口のりこ、尾上寛之、加賀まりこ

b0189364_8195933.jpg 田舎からぼっと出の若者がひょんなことから高級洋菓子店に入りそのバイタリティだけで真のプロに成長していくという、割とありきたりなストーリー。また登場するエピソードも、かつて伝説のパティシエと呼ばれていたが事故がきっかけで菓子作りを辞めた男とか、大事なイベントを前に突然休業を余儀なくされる洋菓子店とか、こちらもきわめてありきたり。ありきたりなものが多く、シナリオに工夫がないという印象である。美味しそうなケーキがたくさん出て、これもやはり若い女性を当て込んだハナコ映画と見た(竹林軒出張所『食堂かたつむり(映画)』参照)。
 とは言うものの、映画自体はよくできており、演出やカメラワーク、全体を流れる穏やかな雰囲気など、実に巧みで、映画としての完成度は非常に高い。こういった映画が最近の日本映画には多く、ある意味、映画製作者としてすばらしい職人芸を持っている人が多いわけで、その点感心させられる。3、40年前の、斬新なネタではあるが完成度が低い映画と対照的で、完成度が低い映画はそもそも人に見せるものとしてどうよと思っている僕にとっては好ましい傾向ではある。だがそれにしても、ストーリーがあまりにチープなものが多いのも事実で、こういう予定調和的なものばかりになるのはつまらないとも思う。まあ、安心して見られると言えば言えるんだが。蒼井優、江口洋介が好演。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『食堂かたつむり(映画)』
竹林軒出張所『しあわせのパン(映画)』
竹林軒出張所『トイレット(映画)』
竹林軒出張所『プール(映画)』
竹林軒出張所『喋々喃々(本)』

by chikurinken | 2012-05-18 08:21 | 映画