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竹林軒出張所

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原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版

 原発事故が実際に日本で起こったのが2011年。原発が54基もある日本で重大事故が起こるのは十分考えられていたとは言え、実際に起こってしまうと自分にとっても衝撃は計り知れない。同時にこれが原発の一掃につながるんじゃないかという期待はある。あらためて振り返ってみると、僕自身知らないことが意外に多く、今年原発関連の本を読みあさることになった。今年出版された本は良いものもあったが、便乗本も結構あって、ゴミと化すべき運命の本も多かったと思う。だが、どうせ読むなら良いものを選びたいもの。というわけで「原発を知るための本2011年版」である。ちなみに旧版の「原発を知るための本 5冊+1冊」はこちら
 原発関連のドキュメンタリーも今年多く放送され、こちらも質の高いものが非常に多かった。そのためこちらも「2011年ドキュメンタリーのベスト」として別枠で紹介しようと思う。

原発を知るための本 2011年版
1. 『原発ジプシー』
2. 『原発を終わらせる』
3. 『原発と日本の未来 原子力は温暖化対策の切り札か』
4. 『東海村臨界事故 被曝治療83日間の記録』
5. 『福島原発の真実』
番外:『大地動乱の時代 地震学者は警告する』

b0189364_10545932.jpg 『原発ジプシー』は、昨日も紹介したが今年ベストの一冊である。
 『原発を終わらせる』は、事故後出た本ではもっとも内容が充実していた本で、原発関連の専門家がそれぞれの専門分野からの視点で原発の問題点を書き綴っている。内容は若干読みにくい部分もあるが、福島第一原発事故、科学・技術的側面、社会的側面など原発を多角的に分析しており、福島原発事故後の原発学習教材のスタンダードとなるような書と言える。
 『原発と日本の未来 原子力は温暖化対策の切り札か』は、日本の原子力行政の特色を明快に示した本である。この著者も先の『原発を終わらせる』に参加していて内容的には少し重複しているが、原子力行政にも関わった人であるだけに内部からの告発として非常に説得力がある。
 『東海村臨界事故 被曝治療83日間の記録』は古い本で、1999年に茨城県の東海村で起こったJCO臨界事故を扱ったものである。この事故では放射線により2人が死亡、1人が重症を負ったが、放射線障害のすさまじさがよくわかるのでここに取り上げた。NHKのドキュメンタリーで放送された内容をまとめた本であるが、そのインパクトはテレビ放送に劣らない。
 『福島原発の真実』は、福島県の原発行政がきっかけとなって失脚した元福島県知事、佐藤栄佐久氏による著で、原発行政がどのように執り行われ、国策が地方行政にどのように押しつけられるかその過程がよくわかる。原発行政に不満を持って対立したために職を追われた元県知事の言葉だけにどれも説得力がある。原発事故前に書かれた『知事抹殺』という本もあり、こちらでは失脚の過程がより具体的に記述されている。
 番外の『大地動乱の時代 地震学者は警告する』は、原発本ではなく地震に関連する本だが、日本でどれほど地震が起こりやすいか、その構造をわかりやすく説明する。また近い将来に大地震が起こることが予測されていて、その根拠も紹介されている。ちなみにこの著者も『原発を終わらせる』に参加している……というより編者である。

原発を知るためのドキュメンタリー 2011年版
1. 『終わらない悪夢』(仏)
2. 『被曝の森は今』(仏)
3. 『チェルノブイリの真相 ある科学者の告白』(英米独)
4. 『アメリカから見た福島原発事故』(NHK教育ETV特集)
5. 『原発事故への道程 前編』(NHK教育ETV特集)

b0189364_10553072.jpg 『終わらない悪夢』は、前編、後編に分かれた90分間のフランス製ドキュメンタリーであるが、世界中の放射能垂れ流しの事例を次から次へと紹介する。特にフランスのラ・アーグ核燃料再処理工場に力を入れているが、日本でも推進されている核サイクル・システムがどういう問題をかかえているかがよくわかる。こういう現状を知るだけでも原子力に賛成するのは不可能になるんじゃないかと思うが。
 『被曝の森は今』は、旧チェルノブイリ原発周辺の現在の状況を紹介するドキュメンタリー。放射線のために生物が一切生息できなくなっているのではないかという危惧とは裏腹に、実は人がいなくなることで野生の楽園がもたらされていたという報告である。この地で実験、研究を繰り返している学者の研究結果もあわせて紹介されるが、その内容はまさに驚嘆に値する。
 『チェルノブイリの真相 ある科学者の告白』は、チェルノブイリ事故を再現ドラマにしたもの。チェルノブイリ事故の過程がよくわかる上、放射線障害の恐ろしさもよくわかる。
 『アメリカから見た福島原発事故』は、福島第一原発で使われていたMark I型原子炉の問題性が20年以上前から指摘されてきたことを示すドキュメンタリー。原子炉導入以降の日本の原子力行政のいい加減さがよくわかる。最後の20分間に収録されていた、科学ジャーナリストと元原発技術者との対談も、原子力行政の特質を物語っていて非常に面白かった。
 最後の『原発事故への道程 前編』は、日本の原子力行政の歴史を追うドキュメンタリーで、「核アレルギー」を持つ日本人の間に、「夢の技術」原子力がどのようにして浸透していったかが示される。もちろんこの番組には後編もあって、反原発勢力を中心に描かれるが、目新しさという点で前編をお奨めしたいと思う。
 NHKのドキュメンタリーは再放送されることが多いため、おそらくここで紹介したドキュメンタリー番組も今後何度も地上波かBSで放送されることと思われる。興味を持たれた方は、定期的に番組表などをチェックされると良いでしょう。

 ということで、2011年の竹林軒出張所はこれで終わりです。今年は世間ではいろいろあって大変でしたが、来年は世界にとっても皆様にとっても、平和な日々が来ることを願ってやみません。
 では良いお年をお迎えくださいますよう。
by chikurinken | 2011-12-31 10:56 | ベスト

2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)

 分量が多くなってしまったので、本、ドキュメンタリーは別枠にしました。また、今年は、福島第一原発の事故もあり、原発関連の本、ドキュメンタリーに多く接していますので、それについてもさらに別枠にしました(明日、掲載予定)。
(リンクはすべて過去の記事)

今年読んだ本ベスト5
b0189364_9154115.jpg1. 『原発ジプシー』
2. 『予想どおりに不合理 増補版』
3. 『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』
4. 『土の文明史』
5. 『一刀一絵 江戸の色彩を現代に甦らせた男』
番外:『地を這う魚 ひでおの青春日記』

 今年は原発関連の本をよく読んだが、そんな中でも特に出色だったのが『原発ジプシー』で、原発という表に出にくい領域に入ったというだけでなく、ルポとして最上級のものになっている。今年新装版が再発されたこともあり入手しやすくなった。どこの図書館にも入っているのではないかと思う。機会があれば是非読んでいただきたい。社会の暗部がこれだけはっきりと照らし出されている本はめったにないと断言できる。言うまでもなく、原発を知るための本としても恰好である。
 『予想どおりに不合理』は、今までまったく知らなかった行動経済学の事実が提示されて、大変新鮮な「目からウロコ」の本であった。内容は高度だが、読みやすくなおかつ非常にわかりやすい。しかも説得力がある。何度でも読み直したい本である。
 『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』は、日本格闘技史の大著。著者の怨嗟が全編を貫きながらも、上級のエンタテイメントになっている。こちらも(僕にとっての)新事実が続出で、「読んで良かった」と思わせてくれる快著であった。
 『土の文明史』も(僕にとっての)新事実が続出の本で、土壌から歴史を解釈するという斬新さが目を引く。しかもそれが大きな説得力を持つ。人為は決して自然から離れることができないということを思い知らされると同時に、土壌が環境問題の基本中の基本であることがよくわかる。現代人が知っておくべき事実だという思いを新たにした。いずれ世界中のドキュメンタリーやテレビ番組などで頻繁に取り上げられるようになるテーマだと思う。
 『一刀一絵 江戸の色彩を現代に甦らせた男』は、版画家である著者、立原位貫の半生と美術作品について書いた自伝的な著だが、(こともなげに達成している)その業績がすごい上、芸術に対する彼の真摯なアプローチが文章から伝わってくる。人間性があふれ出た著書で、読んでいて気分が高揚するようであった。
 番外の『地を這う魚 ひでおの青春日記』は、マンガ家、吾妻ひでおの自伝的なマンガだが、表現方法が特異で、しかも完成度も非常に高い。マンガ家の青春記は面白いものが多いが、単にノスタルジーに終わらず、未来への情熱や青春のほろ苦さも伝わってくる高い水準のマンガである。著者の名著『失踪日記』にひけをとらない秀作であった。

今年見たドキュメンタリー・ベスト5
1. 『秩父山中 花のあとさき ムツばあさんの秋』
2. 『家族と側近が語る周恩来』(1)(4)
3. 『100マイルチャレンジ 地元の食材で暮らす』
4. 『独立時計師たちの小宇宙』
5. 『バイオリンの聖地クレモナへ』
番外:『クジラと生きる』

b0189364_916644.jpg 『秩父山中 花のあとさき ムツばあさんの秋』も、映画『エンディングノート』同様、一人の市井の人間の人生を照らし出すドキュメンタリーである。過疎化が進む秩父山中に住み続け、昔ながらの生活を頑なに守っている女性、小林ムツさんを追いかける。日本の農村に古くから伝わる生活様式や市民のメンタリティといったものが、ムツさんを通じて巧みに表現されていて、優れたドキュメンタリーになっている。
 『家族と側近が語る周恩来』も一人の人間の人生を照らし出すドキュメンタリーではあるが、こちらは近代史に名を残す中国の政治家である。共産党革命や文化大革命を経験し、米国や日本との国交樹立に奔走した周恩来について、周辺の人物の証言によりその人物像を描き出す。激動の近代中国の渦中にいて、命の危険にも何度もさらされた政治家の意外な人物像まで見えてくる。また一人の人間の歴史から激動の近代史を照らし出すという手法も効果を上げていた。4回シリーズだったが、どの回も密度が濃かった。
 『100マイルチャレンジ 地元の食材で暮らす』は、食のあり方を問い直すドキュメンタリー。身辺100マイルで生産された食品だけで100日間生活してみようという試み(100マイルチャレンジ)に挑戦する数家族に密着する。現代のわれわれの食生活はきわめてグローバル化している。この番組で取り上げられる「100マイルチャレンジ」は、食をローカルなものに戻そうとする試みなんだが、実際にやってみようとすると、結果的に食べる物がほとんどなくなってしまうのだ。どれほど食品を海外に依存しているかがわかる(ちなみにこれはカナダの事例)。現代の生活で、食を身近にするというただそれだけのことがどれほど困難であるかがよくわかる。同時に、食を身近にするという試みがどれほど人々の健康にも生活にも良いか、そして人間性の回復にもつながるかが表現される。
 『独立時計師たちの小宇宙』は、スイスのフリーランスの時計職人を追うドキュメンタリー。小さな腕時計の中に複雑な小宇宙を詰め込む人々の技術がカメラで見事に捉えられる。ある意味正攻法のドキュメンタリーで、密度が非常に濃く、職人技の崇高さまで垣間見られる。アナログ腕時計の周辺についてまったく知らなかったこともあって、こういう世界が存在するということを初めて知った。
 『バイオリンの聖地クレモナへ』は、一人のヴァイオリニストが、イタリア・クレモナのヴァイオリン製作職人を訪ねるという紀行番組。こちらもまったく知らない世界が扱われており、しかもイタリアで修行しているヴァイオリン製作家に若い日本人がいるということも知らなかったし、その中の一人がチャイコフスキーコンクールのヴァイオリン製作部門で一位を受賞していたということも知らなかった。そもそもチャイコフスキーコンクールに楽器製作部門があることすら知らなかった。番組も結構ドラマチックな展開になっていて、構成が非常にうまかった。案内役のヴァイオリニスト、川久保賜紀の驚きや喜びまでが画面を通じて伝わってきた。
 番外の『クジラと生きる』はNHKスペシャルだが、映画『ザ・コーヴ』に対するNHK側の反論である。主張が非常に明確で、感情的なクジラ保護論に一石を投じるドキュメンタリーである。『ザ・コーヴ』撮影の裏側も見せていて、世論をミスリードする方法が暴かれる。そういう面もわかって面白かった。NHKがこういった意欲的な番組を作ったことも評価したいと思う。
by chikurinken | 2011-12-30 09:17 | ベスト

2011年ベスト(映画、ドラマ編)

 今年も恒例のベストです。当然「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れません(というより無意味?)。ま、個人的な総括ですんで、そこんとこヨロシク……です。
(リンクはすべて過去の記事)

今年見た映画ベスト5
b0189364_8352271.jpg1. 『利休』
2. 『エンディングノート』
3. 『死の棘』
4. 『流れる』
5. 『南極料理人』
番外:『地下室のメロディー』

 今年も昨年以上に仕事がヒマだったので、100本近く映画を見ていた。このブログに書くという目的で見たものも結構あるんで、自分の生活にとってこのブログが良いのか悪いのかにわかに判別できない面もある。それぞれの評はリンク先の記事に当たっていただくとして、簡単に補足を。
 まず『利休』であるが、あまりの完成度の高さと芸術性に感嘆したので、古い映画であるにもかかわらず「今年一番」に持ってきた。十分な時間を確保した上で、精神的に余裕を持って堪能したい逸品である。
 『エンディングノート』は先日公開されたばかりのドキュメンタリーだが、笑わせながらホロリとさせる好い映画である。しかも1人の市井の人間の人生をまるごとドキュメンタリーにパッケージするという試みも目新しい。主役の人間に対する愛情まで感じられて心持ちが良いのもこの映画の魅力であった。
 良い映画というのは一般的にがっしり作られた堅牢な印象を受けるが、『死の棘』もまさにそれで、小栗康平作品の中では出色である。内容は結構きついが、それを独特の映像的なユーモアを交えて描いていて、こういうのはなかなかできない技だ。「描ききる」という表現がピッタリ来るような完成度の高さにも惹かれる。
 『流れる』も古い映画で恐縮であるが、今まで少し距離を置いていた成瀬己喜男の魅力に気付かせてくれた作品である。古いタイプの置屋の崩壊を冷徹に描く手法にも感心するが、映像で表現される空間の見事さに当時の日本映画の実力を見た。キャストの豪華さも大きな魅力である。
 『南極料理人』は2年前の映画だが、昨今の日本映画の質の高さを体現するような作品で、乾いた笑いや空気感が心地良い。いつまでも身を置いていたくなるような気持ち良さがあった。
 ということですべて邦画になってしまったので、番外として、洋画の名作『地下室のメロディー』を取り上げようと思う。センスが良くて質が高く、さらに完成度も非常に高い、「いかにも映画的」なフランス映画であった。

今年見たドラマ・ベスト5
b0189364_8375880.jpg1. 『鳥帰る』
2. 『坂の上の雲』
3. 『フリーター、家を買う』
4. 『ハワイアン ウエディング・ソング』
5. 『胡桃の部屋』

 ヒットしたドラマ(『家政婦のミタ』)や一部で話題になったドラマ(『それでも、生きていく』)はそもそも見ていないので、このランキングには当然入っていない。いずれDVDで見るかも知れない。でも食指があまり動かないのも事実。これまでの経験からヒットドラマや話題のドラマは、センセーショナルなだけでつまらないもの、くだらないものがきわめて多い。ま、機会があったらということで。
 『鳥帰る』と『ハワイアン ウエディング・ソング』は、山田太一脚本の古いドラマである。山田太一作品は質が高いのでどうしても外せないところなんだが、かつての山田作品を上回るドラマがなかなか出てこないというのも問題ではある。『胡桃の部屋』にしても向田邦子作品のリメイクだし、いつまで経っても、今の日本のドラマのレベルはたかが知れているという印象しかないのだ。だから『家政婦のミタ』がどれだけ人気を集めたとしても見るまでもないんじゃないかとつい思ってしまう。しかも『妖怪人間ベム』や『怪物くん』までリメイクしてしまうような放送局の作品だし。
 『坂の上の雲』は、NHKが総力を挙げて作ったという意気込みが伝わってくるようなドラマであった。だが何度も繰り返すが、3年間に分けて放送するというのは絶対に賛成できない。これが恒例化しないことを願う。
 『フリーター、家を買う』は、素材(原作)が良かったことと、それをおそらく忠実にドラマ化したであろうことが功を奏したのではないかと思われる。主役の二宮和也があまりにもキャラクターにはまっていたのも特筆ものである。これも去年のドラマだったんだが、第1回を見逃していてそれを今年見たため、今年の「ベスト」に入れた。そういう意味でも全然即時性がないランキングになってしまった。反省しきりである。
by chikurinken | 2011-12-29 08:38 | ベスト

『ニノチカ』(映画)

ニノチカ(1939年・米)
監督:エルンスト・ルビッチ
原作:メルキオール・レングィエル
脚本:ビリー・ワイルダー、チャールズ・ブラケット、ウォルター・ライシュ
出演:グレタ・ガルボ、メルヴィン・ダグラス、アイナ・クレアー

b0189364_8314520.jpg 名匠、エルンスト・ルビッチの小粋なコメディ……であるが、これがルビッチかと思うような陳腐な話だった。
 ソビエトからパリに派遣された女性監督官(グレタ・ガルボ)が、当初はいかにも官僚然としていたのが、パリの空気と色男に触発されてエレガントな美女に変貌するというようなストーリーで、『ローマの休日』と『マイ・フェア・レディ』を合わせたような話である。
 ただやはり、登場するソビエト女性がいかにもというようなステレオタイプな描かれ方で、コメディだから良いといえば良いんだろうが、どうにもつまらない。パリでの変貌ぶりも無理がある。そもそも展開すべてに無理がある。ソビエトを皮肉るという狙いらしいが、ロシア人を小馬鹿にしているようにも思えて不快に感じる。またパリの貴族的な浪費生活を賞賛しているような印象を受けたが、これについても個人的にまったく同意できない。ドラマとして見ても実に安っぽい。繰り返すが、これがホントにルビッチの作品かと思ったほどである。時代が生んだ駄作と言える。
★★☆
by chikurinken | 2011-12-28 08:32 | 映画

『坂の上の雲』(1)〜(13)(ドラマ)

坂の上の雲(2011年・NHK)
演出:柴田岳志、佐藤幹夫、加藤拓、木村隆文、一色隆司
原作:司馬遼太郎
脚本:野沢尚、柴田岳志、佐藤幹夫、加藤拓
出演:本木雅弘、香川照之、菅野美穂、阿部寛、渡哲也、柄本明、高橋英樹、藤本隆宏、松たか子、石原さとみ、竹下景子

b0189364_851263.jpg 第一部から第三部を3年に分けて放送するという無茶なプランで放送された『坂の上の雲』が先日ついに完結。前も書いたが(竹林軒出張所『坂の上の雲のドラマ版を見た』参照)、やはり3年は長すぎる。見始めたは良いが途中で(自分が)死んだりしたらイヤだなと思い見るのを控えるつもりだったが、結局全部見てしまった。僕はと言えばいまだに生きながらえている。でも実際、身の回りにこの3年間で亡くなった人はいるわけで、自分だけが例外などとは思えない。たまたま生きながらえたわけだが、断じて言う。こういう放送パターンは大変問題ありだ。ただ、元々が長い話なので、第一部から第三部に分けたのは良かったと思う。だからといって1年に一部ずつの放送を肯定しているわけではない。かつてやはり三部構成の大河ドラマ(『炎立つ』など)なども存在していたわけで、しかもデキが良かった。三部構成をまとめて放送しても一向に差し支えないのだ。
 さて前にも書いたように、原作については、過去二度、日露戦争の前(5〜6巻くらい)で読むのをやめていたため、その後(この小説が)どう展開するのか詳しいことがわからなかったが、今回ドラマを見終わって、やっとそれがすべて判明したことになる。もっともそれ以前の既読の部分も大半は忘れていた。で、このドラマが原作に忠実に作られているかどうかわからないので原作の問題かドラマ独自の問題かはわからないんだが、二百三高地のくだり(第11回)がわかりづらい上にストーリー展開に矛盾を抱えている。秋山真之の戦略の正しさを持ち上げようとしたためか知らんが、ちょっと無茶が過ぎたようだ。展開がどうにも納得できないので調べてみたが、やはり事実をちょっとムリにねじ曲げているような印象を受ける。それに、奉天会戦での秋山好古の「活躍」もそれほど特筆することなんだろうかと思う。(必要以上にしゃしゃり出る)語り部、つまり作者だが、その趣味で話を盛り上げようとしているようにも思えて、あまり良い気持ちはしない。そういうことを考えると、原作を読むのを5〜6巻くらいでやめたのもあながち外れではなかったなと思う。
b0189364_8464877.jpg 原作についてはこのようにいろいろ不満はあるが、このドラマの優れた面はなんといっても、そのスケールの大きさであろう(とこのあたり「語り部」風に語ってみた)。旅順攻防戦や日本海海戦の迫力やリアルな質感は、これまでの日本のあらゆる戦争映画を凌駕していると言っても過言ではない。海戦を描いた映画やドラマで一番見栄えが悪いのは船がいかにも模型然としていることで、ミニチュア模型を使って撮影すると、波の大きさとのバランスが悪く、模型のデキがどんなに良くなおかつ巧妙に撮影したとしても、チープさが前面に出てしまう。このドラマの海戦シーンにはまったくそういうものがなく、実際の戦闘もかくならんやと思うばかりの再現映像である。おそらくコンピュータを使ったSFXの威力なんだろうが、随分進歩したものだと思う。また、戦闘員がちょっと残虐な死に方をするのも良い。結果的に、残虐さこそが戦争であるということを強烈に印象づけることになっている。同時に死ぬ人間に敵も味方もないという表現にもつながっていて、「戦争賛美」に堕してしまわない演出が非常によかった。Wikipediaによると
<司馬遼太郎には連載中から「本作を映像化させてほしい」とのオファーが殺到していたという。しかし「戦争賛美と誤解される、作品のスケールを描ききれない」として司馬は許可しなかった。当時、NHKもオファーを行っていたが2週間考えた末の司馬の結論は「やっぱり無理やで」だったという。>
ということだが、それについては十分クリアしていると思う。また戦闘シーン以外のセットも丁寧に作り上げられていて、まったく安っぽさがない。そういう点では劇場映画としても十分通用するレベルである。
 キャストも好演が多く、本木雅弘、香川照之、菅野美穂の主役三人については前回も触れたが、東郷平八郎(渡哲也)や乃木希典(柄本明)らの軍人についても人間的魅力がしみ出ていた。阿部寛の秋山好古も豪放磊落さがよく出ていたが、少しドラマから浮いているような印象がある。もっとも秋山好古自体、原作でも少し浮いているようなフシがあるので、実は演出としてはもっとも良かったと言えるのかも知れない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『「坂の上の雲」のドラマ版を見た』
竹林軒出張所『二百三高地(映画)』
by chikurinken | 2011-12-27 08:51 | ドラマ

『ロープ』(映画)

b0189364_753579.jpgロープ(1948年・米)
監督:アルフレッド・ヒッチコック
原作:パトリック・ハミルトン
脚本:アーサー・ローレンツ
出演:ジェームズ・スチュワート、ファーリー・グレンジャー、ジョン・ドール

 ヒッチコックの映画にしてはなんだか地味な映画で、ネタが荒唐無稽だなと思っていたところ、なんでも実話が基になっているらしい。まさに「事実は小説より奇」である。「時の単一」、「場の単一」、「筋の単一」(三一致の法則)が忠実に守られていることから元は舞台劇かと思いながら見ていたがやはりその通りで、実話を基にした戯曲を映画にアレンジしたのが本作ということになる。
 話は、舞台劇らしく会話中心……というか会話だけのストーリーで、まあ退屈な内容ではあるが、そこはヒッチコック、緊張感を持たせた映像技巧が駆使されていて、そういう点ではなかなか面白い。映画の教科書みたいな演出であった。ただやはり舞台劇であるためか、映画らしいダイナミックな映像はなく、同時期のヒッチコック映画らしい緊迫感もあまりない。少しもの足りない印象であった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『巨匠たちの肖像 ヒッチコック(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『知りすぎていた男(映画)』
竹林軒出張所『マーニー(映画)』
by chikurinken | 2011-12-26 07:54 | 映画

『「演歌」のススメ』(本)

b0189364_935042.jpg「演歌」のススメ
藍川由美著
文春新書

 著者の藍川由美は、声楽の歌手であるが、同時に「声楽(ソプラノ)の分野では我が国初の博士(音楽)号取得」(藍川由美のホームページより)という学究肌の面もお持ちの方。確かにこの本を読むと、そういう部分が見え隠れする。原典(オリジナルの楽譜)に対する執拗なこだわりや、音楽の文化遺産を正しい形で後世に残すべきという思い入れはひしひしと伝わってくる。学術的アプローチにとってこういう態度は非常に重要である。
 本書の主張は、クラシック音楽至上主義のためにないがしろにされた近代日本歌曲(流行歌を含む)の価値を見直そうというものであるが、これは著者の音楽活動とも軌を一にしている。著者が日本の歌曲を積極的に録音しているのは一部で高い評価を受けている(ようだ)。本書でも、本居長世や中山晋平らの作曲家、詩人の野口雨情などについて、かれらの作品の特色やその価値を論じている。さらに古賀政男については一章を割いて論じており、タイトルを見てもわかるようにこの本の中心的なテーマになっている。
 なんでも古賀政男の曲、ジプシー音階を取り入れたり、フォックストロットやタンゴなど、世界中のさまざまな音楽を取り込んだりしていて非常に意欲的で芸術的価値も高いらしい。だが、流行歌であったこともあり、初演において古賀政男の所期の意図どおり歌われていないことが多く、本当の魅力が今に伝わっていないと著者は言う。実際、著者は楽譜に忠実に従って古賀作品を演奏し録音しているので、それを聴けば著者の言わんとすることは伝わるのではないかとも思う。が、手元にその類の録音がないと、著者の伝えようとするメッセージがなかなか伝わってこない。音楽的な素養があれば別なんだろうが、僕など読んでいて今ひとつよく掴めない箇所が非常に多かった。これは中山晋平や本居長世の記述についても同様である。
b0189364_941157.jpg ジャンルにとらわれず、良いものは正当に評価すべきだとする著者の主張はまったく同意するが、古賀政男がそんなに優れた作曲家なのかは個人的には留保したいところである。僕はこれまでも何度か古賀メロディには挑戦しているが、もう一つ良さがわからない。著者が勧める他の作家、中山晋平や小関裕而は良さがわかるし、伊福部昭も良いと思う。また筒美京平や加藤和彦などの流行歌作家も素晴らしいと思う(そういう意味で僕はクラシック至上主義ではないと思う)が、どうしても古賀政男はやはりちょっと受け付けない。実際、著者が発表している古賀政男作品のCD『誰か故郷を想はざる〜古賀政男作品集』も少し試聴してみたが印象は大して変わらない。そういうわけで、著者の主張は理解できるが古賀メロディに対する感覚はいまだに変わっていないのだ。
 著者、藍川由美については、他のCDについても僕は結構聴いているが、たしかに原典主義は尊重に値するし、原典を尊重した演奏としての資料的価値は認めるものの、歌曲としての面白さが伝わってこないものも割にある。特に流行歌については、『東京行進曲〜日本の歌謡』などを聴いてみたが、オリジナルの歌手の方が良いと思うものが多かった。
 また蛇足ではあるが、本書の記述に、他の著述者(金田一春彦など)に対する辛辣な記述が散見されるのもあまり良い気持ちがしない。また「自虐史観」などという記述が出てくると、この人の思想的な立場にまで疑問を持ってしまう。この著者が別のCDで録音している戦時歌謡や軍歌についても、音楽的な観点から分け隔てなく録音しようとする姿勢は理解できるが、本当に純粋に音楽的観点だけなのかと自分の中で疑問に感じてしまう部分もある。ジャンルに貴賤を見ないという考え方も賛同するし、原典を尊重すべきという原典主義にも同意するが、こういうアプローチが原典主義ではなく原理主義に基づいていれば話は別である。この本からそういう印象を持ったのも確かだ。
★★★☆
by chikurinken | 2011-12-25 09:06 |

ビデオのダウンロードレンタルに見るコペルニクス的転回

 昨日紹介した『プリンセス トヨトミ』は、アップルのiTunes Storeでレンタルしたもの。「iTunes Storeでレンタル」と言っても「何を言ってんだか」と思う人もいるかも知れないが、要は「アップルの音楽ソフトiTunesで、映画をダウンロードして見る」というシステムである。iTunes Storeで音楽を購入するというのと大体似たような方式で、ほぼ同じものと考えていただけるとわかりやすい。ただし「レンタル」であるため見る期間が限定されるという点が、通常のダウンロード方式の音楽購入システムと違うところである。
b0189364_92544.jpg なんでもこのシステム、ダウンロードしてから30日間はいつでも見ることができるが、いったん見始めるとそのタイミングから48時間以内に見終わらなければならないというものらしい。要するにパックを開かなければ賞味期限は30日だが、パックを開いたら48時間しか持ちませんということなんだろう。48時間以内であれば、いつでもどの箇所からでも自由に見ることができる。実際問題、本当に見たくてダウンロードしたものであれば、ほとんどの場合連続して見るんでそんなに問題はないと思う。ハードディスクに溜めておくような人には向いていないが、そもそも溜めておいてもあまり良いことはないので、こういう時間制限はかえって良いかも知れない(なお、48時間経った時点で映像データが消されていました)。
 映画をレンタルショップで借りるときに一番問題になるのは、借りた瞬間は見たいという気持ちが乗っていても、家に帰った瞬間に興味を失ってしまう……そういうことがままあることだ。そういう場合、せっかくレンタルしたものの見るのが非常におっくうになってしまう。特にネットレンタルの(ネット経由で申し込んでDVD/CDが郵送される)システムでは、レンタル手続きしてから数日間タイムラグが空くためにそういう傾向が強い。iTunes Storeの場合は、たとえば時間が空いたときなどに、申し込んでからほとんどリアルタイムで見ることができるため、僕みたいな飽きっぽい人間にも向いている。現に僕も、今回レンタルしてから途中で止めることなくそのまま最後まで見た。「ネットを介してデータだけ送られる」のが、実はレンタルにもっとも適した方法ではないか……ということを実感したのだった。
 iTunes Storeでビデオレンタルが始まったという話を聞いたとき、実は僕は非常に懐疑的だったのだ。実体(つまりモノ)が存在しない状況でそこに貸し借り/売買などに伴う満足感や実感が買い手側に生じるのだろうかという、「商売の基幹部分に対する消費者の感覚」とでも言ったらいいのか、ともかく買い手側に高い壁があるんじゃないかということである。少なくとも従来のようなデータの販売なら、モノがいつまでもこちら側に残るので違和感も多少緩和されるが、レンタルということになるとやはり抵抗があるんじゃないか。少なくとも僕には抵抗があった。日本のiTunes Storeでレンタルが始まったのは昨年の12月だが、1年間アップルの(データ)レンタルに手を出さなかったのは抵抗が大きかったためだ。しかし実際にやってみると、むしろデータ型レンタルが物理型レンタルよりも消費者にとって優れている点も結構あるということがわかる。先ほど書いたリアルタイム性もそうだし、レンタル店まで足を運ぶ必要がないという点も大きい。なんせ返しに行く必要がないのである。店が近所にあればともかく、僕のような辺鄙なところに住んでいると、結構これが厄介だったりする。ましてや新作はおおむね二泊三日以内に返さなければならないことになっているため、しきいが高くなる。そういうことを考え合わせると、iTunes Storeがちょっと割高であっても(実際割高なんだが)新作はこちらで……と思ってしまう。
 なお、iTunes Storeのレンタル映画を見るに当たっては特に問題は発生しなかった。もちろん基本的にパソコンの画面で見ることになる。ただしApple TV(竹林軒出張所『Apple TVは面白い -- または、テレビもアップルに取り込まれるのか』参照)を使えば、テレビの大画面で見ることができる。少しだけ試してみたが問題はなかった。ちなみに当方の環境は、IEEE 802.11gの無線LAN環境で、今となっては低速な部類に入るかも知れない。今後、レンタルのオプションとして、個人的に大いに期待が持てると思う。現在一番のネックはソフトの少なさで、基本的に売れ筋のものしか置かれていない。その辺がどう解消されるかが今後のポイントだと思う。ちなみにこういうレンタルシステム、アップル以外にもやっているところは多いようだ。興味のある方はご自分で調べてください。

参考:竹林軒出張所『映画の見方、その変遷』
   竹林軒出張所『Apple TVは面白い』
by chikurinken | 2011-12-24 09:05 | 映画

『プリンセス トヨトミ』(映画)

プリンセス トヨトミ(2011年・フジテレビジョン)
監督:鈴木雅之
原作:万城目学
脚本:相沢友子
出演:堤真一、綾瀬はるか、岡田将生、中井貴一、沢木ルカ、森永悠希、笹野高史

b0189364_8584554.jpg 『鹿男あをによし』、『鴨川ホルモー』などでお馴染み、奇想天外小説の万城目学の原作を映画化した新作ということで期待したんが、ちょっと残念な結果になってしまった。『鹿男』も『ホルモー』も奇想天外なストーリーが良くできており、映画、ドラマを見たときに大変感心したんだが、しかし一人の作家が奇想天外なストーリーを湯水のごとくたてつづけに出し続けるということはちょっと考えにくい。いずれどこかでネタ切れになって壁にぶつかるんではないかと内心余計な心配をしているんだが、この『プリンセス トヨトミ』は、ちょっとストーリー的にムリがありすぎ。規模を大阪全体に広げたために整合性を保つのが難しくなっていて、ちょっと対象を大きくしすぎたような印象が残る。いくら奇想天外な話でも、この映画のようにリアリティを欠いてしまってはダメである。文章だとそんなに気にならないのかも知れないが、映像化してしまうとその辺がもろに表に出てしまう。そういうわけで「奇想天外」が「荒唐無稽」に堕してしまった……そんな印象がある。
 エンタテイメントとして話を面白くしようという工夫が感じられ、見ていてそこそこ楽しめるが、「ねえねえおもしろいでしょ?」としつこく押し売りされても「ウーム」とうなるしかないのである。ま、次回作に期待……ということで。
 唯一良かったのが合戦シーンで、大阪城が燃えるシーンはなかなか見事だった。
★★★
by chikurinken | 2011-12-23 09:00 | 映画

森田芳光の映画、3本

b0189364_8401567.jpg 映画監督の森田芳光の訃報(Asahi.net『映画監督の森田芳光さん死去』)に接して、思わず「まだ若いのに」と思ったがよくよく見ると61歳とある。いまだに30台くらいの印象だったので、むしろそちらで驚いたほどだ。森田芳光と言えば、僕が映画をよく見始めた頃、新進監督として華々しい活躍を始めていて、その頃彼は30台だった。僕の方も20台だったが、ということはいまだに自分が20台でいるような錯覚がどこかにあるということなんだろうか。
 当時『家族ゲーム』を見たときは、これはすごい奴が出てきたなと思ったものだが、その後は、アイドル映画なんかも撮ったりして、何だかあまりパッとした作品がなかったような印象もある。僕自身彼に相当期待していたので、新作の映画は割と追っていたし、彼の過去の映画についても劇場やビデオで(期待しながら)見た。森田芳光の場合、ちょっと確信犯的に変な映画を撮っているようなところがあって、特に初期の映画なんかは「なんじゃこりゃ」という代物が多かった。一部の映画マニアは評価していたみたいだが、僕には悪い冗談にしか思えなかった。
 『家族ゲーム』が当たってからは、日本の映画界があまり盛況でなかったにもかかわらず、大手の会社でもコンスタントに映画を撮影していたが、三文商業映画みたいなもの(『バカヤロー』シリーズや『愛と平成の色男』など)が続いて、その頃から僕の中ではもう「あまり注目に値しない映画人」になってしまった。本人もその後少し映画作りで迷いがあったようだが、作風も映画の内容も一定していなかったように思う。とは言え、それでも森田映画は目にすることが割に多く、彼の監督作品については半分以上見ている計算になる。そこで、追悼の意味も込めて「私の森田映画ベスト3」を紹介してみようかなと思う。

私の森田映画ベスト3
b0189364_8403730.jpg1. 家族ゲーム(1983年、ATG)
2. (ハル)(1996年、東宝)
3. ときめきに死す(1984年、NCP)

 『家族ゲーム』は、先ほども書いたが、森田芳光に注目するきっかけになった映画で、世間的にも評価が高い。今さらここでいろいろ書くまでもないんだろうが、乾いたユーモアと空気感が斬新で、80年代を代表する映画と言っても良いんじゃないかと思っている。メッセージ性とかストーリー展開とかそういったものを超越したところに転がっているような面白さである。初期の森田芳光の実験的な要素が良い方に出た映画ではないかと思う。
 『(ハル)』は、「パソコン通信を介した恋愛を映画にしてみた」という映画だが、これは森田演出が光る逸品で、恋愛映画の傑作と言って良いと思う。正直恋愛映画はあまり好きじゃないのだ。大げさだったりやり過ぎだったりすることが多く、白けてしまうことが多いためで、見ていて恥ずかしくなることも多い。だが、この映画はそういった要素がなく、多くを語らない、いかにも日本的な演出が心地良い。主演の深津絵里と内野聖陽がまた良い味を出していて、こういう演出もできるのかと森田芳光の新しい可能性を感じたのだった。
 で、3位には『ときめきに死す』を入れたが、他のもの(『武士の家計簿』や『39 刑法第三十九条』など)でも良いかなと思う。『家族ゲーム』と『(ハル)』が最上位で、後はできの良いものが数本、その下はそこそこのものとひどいものが半々というのが、森田フィルモグラフィーに対する僕の印象である。中でも格段にひどかったのは、にっかつ作品の『ピンクカット 太く愛して深く愛して』で、見ていて腹が立つような映画だった。製作総指揮の『バカヤロー』も腹立たしい作品だった。期待をよく裏切る監督だったが、それでもいつまでも追いかけてしまうようなところがある、そういう映画人であったように思う、森田という人は。それだけは確かである。

森田映画関連の過去の記事:
竹林軒出張所『武士の家計簿(映画)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(映画)』
竹林軒出張所『断定する人』
竹林軒出張所『39 刑法第三十九条(映画)』
by chikurinken | 2011-12-22 08:43 | ベスト