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竹林軒出張所

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『本の歴史』(本)

b0189364_923698.jpg本の歴史
ブリュノ・ブラセル著、木村恵一訳、荒俣宏監修
創元社「知の再発見」双書

 本の歴史を、手描き複製(マニュスクリプト)の時代から、グーテンベルグの活版印刷の時代を経て、現代に至るまで時系列で紹介した本。
 ただし「本の歴史」と言っても、ほとんどヨーロッパ(およびその周辺)の事情であって、東洋の事情についてはほとんど触れられていない。東洋(中国とその周辺国)には古くから木版印刷の技術があって、木版による本は随分前から存在しており、金属活版印刷が登場したのも東洋の方が早い。もっとも、文字が非常に多いなどの理由で普及しなかった。そういうわけで活版印刷が本という形で実用化したのはヨーロッパであり、それが今の本の文化に引き継がれていることを考えれば、「ヨーロッパの本の歴史=現代の本の歴史」という見方もできる。だからこの本でヨーロッパの本の歴史しか扱っていなくても何の異存もない。
 この本は「知の再発見」双書というシリーズの一冊で、このシリーズについてはよく知らないが、カラーの写真や絵が多用されていて、見ていてなかなかわかりやすく楽しい。ただし、ほとんどのページに本文と注と図版がズラズラと並べられていて、通読する上では大変読みづらい。文字組がページごとに変わっているような印象すらある。また内容についてもとりとめがない印象で、その意味でも読みづらかった。おそらく、この本の形式からして、通読するような類の本ではなく、拾い読みすることを前提に作られた本なのではないかと感じた。それならそれで結構。実際僕も最初は拾い読みしていたのだから。本としてもの足りない気はするが。
 また、記述内容が、他の本と矛盾する箇所も見受けられ、どれが事実なのかか不明で、かえって混乱した。僕が一番知りたかったのは銅版画がいつ本に利用されるようになったかということと、グーテンベルグ以前の活版印刷事情(ヨーロッパの)であったのだが、そのあたりは適当にごまかされているような印象で、当初の目的にはかなわなかった。残念。

★★★
by chikurinken | 2011-01-30 23:00 |

『昭和ちびっこ広告手帳』(本)

昭和ちびっこ広告手帳 〜東京オリンピックからアポロまで〜
昭和ちびっこ広告手帳2 〜大阪万博からアイドル黄金期まで〜
おおこしたかのぶ、ほうとうひろし編
青幻舎

b0189364_1231426.jpg 昭和30〜40年代の子ども向け雑誌広告ばかりを集めた資料本。
 昭和30〜40年代と言えば、子ども向けマンガ雑誌の創生期で、そこにどんな広告が載っていたかは日本の風俗史の上でも興味深いことであるし、何よりもわれわれ世代にとっては懐かしいことこの上ない。だがこの頃のマンガ雑誌は、その(使い捨ての)性格上、現在あまり残っていないらしい。そこで、編者達は、こういった類のマンガ雑誌をあちこちから借り受け、デジタル・データの形式で残すべく、地道な作業を続けたという。そしてその結果が『ちびっこ広告図案帳』という本で結実した。本書はそれをいくぶん改訂した上で、文庫サイズにしたものである。
 基本的に各ページに1ページ広告が1枚ずつ掲載されるという形式で、広告は一定のジャンル(「お菓子」、「プラモデル」など)ごとに集められている。巻末には、それぞれの広告の出典が、各ページのサムネールの下に示され、資料としても非常に価値が高い作りになっている。
b0189364_123353.jpg 出典で多いものは『少年サンデー』、『少年マガジン』、『週刊マーガレット』で、おそらく原資料の入手のしやすさからこういった傾向になったのだろうと思われる。実際のところ、僕はこういう雑誌を頻繁に読んでいたわけではないので、懐かしさという点では少々もの足りなさも残る。ただし、他の雑誌やテレビCMなどと共通する商品、品目は多く「こういうのがあったあった」という感覚はあちこちで得られる。たとえば「悟空のきんそう棒」(アニメ『悟空の大冒険』で出てくるアイテムを玩具にし、それを景品にしたもの)や「メダルシール」(金属的な外見のシールで、これもハリスキックガムというお菓子の景品)は、すっかり頭の中から消えていたもので、こういった広告を見て当時のときめきが甦る思いがした。こういった景品の類は、広告の見せ方がうまいせいもあり、見ていてとても心ときめくものである(今でも)。たとえばトランシーバーやテープレコーダーなんかが景品に出ていると、今見るとチープなアイテムなんだが、それでもなんだかとても良さそうに見えるから不思議である。
 また、菓子メーカーがアニメ番組とタイアップして、そのキャラクターを利用して売上を伸ばしている構図というのも見受けられる。お菓子を買って応募すると、そのキャラクターの景品が当たるというのがやたら多いのも特徴である。当時一社提供のアニメ番組が多かったせいもあってこういうことができたんだろう。『鉄人28号』はグリコ、『オバケのQ太郎』は不二家、『ゲゲゲの鬼太郎』はシスコとか、今でもアニメとメーカーのイメージが結びついているから、ある意味怖い。
 カメラや時計など、少しお兄さん向けの広告もあって、「大人の世界」に心引かれる思いもする(このあたり、完全に子ども目線になっているが)。少女雑誌の広告は、ジャリジャリした少年雑誌と比べて内容も大人っぽく、落ち着きがあって少しエレガンスも漂う。驚いたのは「アンネタンポン」の広告(『週刊セブンティーン』掲載)で、なんと処女膜の解説が小さな文字で書かれている。イヤ勉強になりました。他にも「セックスを研究して博士になろう」(集英社『なぜなぜ学習漫画 人体の科学』の広告、少年ジャンプ掲載)とか、「土方は地球の彫刻家!」(『自伝わたくしの少年時代』の広告、少年マガジン掲載)とか、ものすごいコピーがあったりしてなかなか楽しめる。何よりも当時の風俗というか子どもブームの流れが手に取るように体感でき、そういう意味でも非常に価値の高い本と言える。残念だったのは、切手や小物(アイデア商品、「まつみ商会」など)の通信販売の広告がほとんどなかったことで、こういうものももう一度見てみたいと以前から思っていたのだな。とは言うものの、これだけの広告を集めて、しかもデジタル・データ化したという労力は、賞賛に値する偉業である。拍手パチパチである。
 ちなみにこの2冊、どちらも身銭をきって(当然だが)買いました。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『昭和子どもブーム(本)』
竹林軒出張所『ぼくらの60〜70年代宝箱(本)』
竹林軒出張所『キックの鬼』
by chikurinken | 2011-01-28 12:04 |

キックの鬼

b0189364_1642527.jpg 『昭和子どもブーム』を読んで以来、昭和レトロにはまっている僕であるが、もちろん昭和レトロといっても子どもの頃ほぼ体験していることばかりなので、レトロ感覚を味わうというよりも懐かしさに浸るという感覚である。
 そういう僕が最近図書館で借りてきた本が『ザ・テレビ欄 1954〜1974』『ザ・テレビ欄 1975〜1990』で、この本には、1954年から1990年までのテレビ番組表(新聞のテレビ欄)が半年ごとに1週間分ずつ掲載されている。つまり半年単位で、どのようなテレビ番組が1週間放送されたか確認できるようになっている。ほとんど元々の新聞からコピーしてきただけのような本(若干のコメントが付加されているが)で、それこそほとんどの人には役に立たない本だが、僕はこの本をペラペラめくりながら非常に感動したのである。テレビっ子だった僕にとって、これはまさに子ども時代を甦らせてくれるツールである。その当時のいろいろなこと(生活や環境)が思い出されて、大げさに言えば涙が出そうなほどであった。
 ま、それでTBS系列月曜日19:00から放送されていた『キックボクシング』という番組に目を留めたんだが、1974年10月14日放送分が「富山勝治対ビラチャイ・ホーマチャイ」というタイトルになっていた。富山勝治はともかく、ビラチャイ・ホーマチャイという名前はまったく記憶がなかったが、その連想で突然「ルンロード・ホーマチャイ」という名前を思い出した。確かルンロード・ホーマチャイという名前のムエタイ選手がいたよなとふと思い出し、ネットで調べてみると、案の定、沢村忠と対戦していた。やはり記憶違いなどではなく、実在していたのだった。ずっと頭の表部分から消えていたにもかかわらず、番組表を見て甦った記憶である。つまり深層心理の部分(脳内の海馬領域の奥の方か?)に残っていた記憶ということになろうか。
 さて、このTBSのテレビ番組『キックボクシング』であるが、『ザ・テレビ欄』の記述によると1968年10月から月曜19:00に登場しており、78年10月が最後になっている。ということは79年3月までの放送か。事実79年4月からは『クイズ100人に聞きました』に替わっている(今Wikipediaで調べたところ「1968年9月30日から1979年3月26日まで」ということである)。この番組を牽引したのは、「キックの鬼」沢村忠であり、沢村忠については、彼をモデルにしたアニメ(『キックの鬼』)まで登場し、当時の子ども達にとっては非常に馴染みのある人であった。
 当時、沢村忠と言えば、とにかくやたら強く、放送ではめったに負けることがなく、今考えると格闘技の世界ではありえないことのようにも思えるのだが、実際に非常に強かったらしい。しかも毎週のように試合をさせられていたというのだから恐れ入る。もちろん毎週キックボクシングの試合をやるとなると、強い相手とばかりやっているわけにもいかず、そのあたりはマッチメークが巧みだったらしいが、それでも手強い相手にも勝ち続けていたらしく、やはり相当な実力者だったと逆に今になって思う。その沢村選手であるが、非常に記憶に残っているのが、チューチャイ・ルークパンチャマという強い選手にボコボコにされ、KOされてのびてしまった試合である。それからしばらくして沢村選手が失踪したらしいが(僕の周辺でも沢村が精神病院に入ったとかいろいろな噂が流れていた)、そういうこともあり、このチューチャイという名前と共に、件の試合は鮮明に覚えているのだった。
b0189364_1675025.jpg で、ちょっとこのあたりの事情もネットでいろいろ調べてみたんだが、沢村選手がチューチャイ選手に負けたとき、すでに引退を希望して数年経っていたところで(沢村本人がすでに限界を感じていたらしい)、しかも相手は階級が上(沢村がライト級、チューチャイがウェルター級)だったということで、ちょっと無理なマッチメークであったらしい。しかも毎週のように試合があって満身創痍だったようで、そういうことを考え合わせると、「キックボクシング」という興行自体が、沢村選手にちょっと依存しすぎだったんじゃないかと思う。だが一方で沢村選手が選手生活の最後の方にリングに這いつくばるようにして朽ちていった(少なくとも僕はそういう印象を持った)というのは、格闘家の生き様を見せつけてくれたとも考えられるのではないか、今にして思えば。彼がリング上で息絶え絶えになっていたのは、当時子どもだった僕にとってはちょっとショッキングではあったが。(「失踪」云々についてだが、2年後再び沢村選手がプロモーターのもとに現れたそうで(脳の障害などの)噂はすべてデタラメであることが判明した。なかなか引退させてもらえなかったので実力行使に踏み切ったんじゃないだろうか。沢村さん、現在もお元気なようだ)
 何でもこのあたりの事情を紹介している本もあるようだ(『真空飛び膝蹴りの真実―“キックの鬼”沢村忠伝説』)。そのうち読んでみようと思っている。それから当時の彼の試合も今の視点で見てみたいという気もする。DVDも出ているようで、こちらも機会があれば是非という感じである。

参考:
竹林軒出張所『昭和ちびっこ広告手帳(本)』
竹林軒出張所『昭和子どもブーム(本)』
竹林軒出張所『ぼくらの60〜70年代宝箱(本)』
竹林軒出張所『真空飛び膝蹴りの真実 “キックの鬼”沢村忠伝説(本)』
竹林軒出張所『買った、見た、ふるえた……キックの鬼 最終章』
竹林軒出張所『四角いジャングル 激突!格闘技(映画)』
by chikurinken | 2011-01-26 16:08 | 日常雑記

『初女さんのおむすび』(ドキュメンタリー)

初女さんのおむすび 〜岩木山麓・ぬくもりの食卓〜(2008年・NHK)
NHK-BShi

b0189364_12435210.jpg 青森県の岩木山の麓で「森のイスキア」という宿泊施設を営んでいる佐藤初女さんにスポットを当てたドキュメンタリー。
 「森のイスキア」には、心が疲れたり問題を抱えたりしている人が泊まりに来る。初女さんは、そういった人達の心に寄り添い、食事を振る舞う。食事は、初女さんとスタッフが心を込めて作った手料理で、精神的に大変な状況にある人々もこれで癒されていくようだ。何やら『食堂かたつむり』や『かもめ食堂』を彷彿とする世界だが、このドキュメンタリーを見ていると、なるほどああいう映画世界というのも実在するのだなと思う。
 画面作りも、静かなときの流れをそのまま表現したような癒しの映像が続き、見ていて心が安まる。都市の喧噪などというものとまったく縁のない静かな生活が映し出されていく。それは細部まで徹底しており、タイトルやテロップも楷書体で書かれ、端正ながら穏やかな印象を与える。またナレーションを務めるのも、癒し系の日本代表、井川遥で、このあたりにも細部へのこだわりが感じられる。
 佐藤初女さんには何冊か著書もあるようで、興味のある方はそちらも参照なさってはいかがだろうか。
ATP賞ドキュメンタリー部門優秀賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『おむすびの祈り 「森のイスキア」こころの歳時記(本)』
竹林軒出張所『食堂かたつむり(映画)』
竹林軒出張所『しあわせのパン(映画)』
by chikurinken | 2011-01-25 12:46 | ドキュメンタリー

『三つ数えろ』(映画)

b0189364_9413816.jpg三つ数えろ(1946年・米)
監督:ハワード・ホークス
原作:レイモンド・チャンドラー
脚本:ウィリアム・フォークナー、リー・ブラケット
出演:ハンフリー・ボガート、ローレン・バコール、ジョン・リッジリー

 私立探偵、フィリップ・マーロウが活躍するレイモンド・チャンドラー原作のハードボイルド映画で、ハンフリー・ボガートとローレン・バコール(この映画の後ボガートの奥方になる人)が主演するということになれば嫌が上にも期待が高まるが、内容は、在りし日の日活無国籍映画みたいでハチャメチャであった(日活無国籍映画の方がこちらを真似したんだろうが)。それにミステリー仕立てになっているが、種明かしが最後までよくわからなかった……というかピンと来なかった。ハンフリー・ボガートはキマっていてなかなかかっこいいが、そういうわけで最後までモヤモヤが残る映画だった。実のところ、以前見たことがあるようで、「ようで」というのは見たことすらはっきり憶えていないためで、所々のシーンはけっこう憶えていたのでおそらく見たことがあるのだろう。内容をはっきり憶えていないという事実から判断すると、そのときもおそらく印象に残らなかったんだと思う。今回も、部分部分はともかく、全体としてはまったくもって印象に残らない映画だった。もちろん、ハードボイルド映画なのであちこち見所はあるが、こういったものが好きな人以外、あまり見るに値しないと思った。残念!

★★☆
by chikurinken | 2011-01-23 22:39 | 映画

『秩父山中 花のあとさき ムツばあさんの秋』(ドキュメンタリー)

秩父山中 花のあとさき ムツばあさんの秋(2007年・NHK)
NHK-BShi ハイビジョン特集

b0189364_1123199.jpg 埼玉県秩父市吉田太田部楢尾という山間の集落に住む一人の女性(小林ムツさん、この番組放送時84歳)にスポットを当てたドキュメンタリー。
 これに先立つ2002年にも『秩父山中 花のあとさき』というタイトルのドキュメンタリーが放送されており、このムツさんの生活が紹介されている。実は今知ったんだが、この『秩父山中 花のあとさき』は、その後、『ETV2002』と『にんげんドキュメント』でも形を変えて放送されている。『秩父山中 花のあとさき』は、特に目を引くような著名人ではない市井の人を扱う番組で、どうも何を目指しているかわからないようなところがあって、(再三再放送されたにもかかわらず)今まで見ていなかったんだが、おそらく元々は『にんげんドキュメント』あたりの企画だったんだろうということで納得した。『にんげんドキュメント』ならこういう内容でも納得できる。
 第1作目の『秩父山中 花のあとさき』では、比較的地味な過疎地の様相に過ぎなかったが、その続編の『ムツばあさんの秋』(本作、2007年)、『秩父山中 花のあとさき〜ムツばあさんのいない春〜』(2009年)が登場するに至って、様相が変わってきた。過疎が進む田舎の断片にしかすぎなかったものが、時系列を超えてゆくことで、新たなドラマが生まれてくる。それに伴い、ムツさんとその家族、その近所の人がとても身近に感じられるようになる。『エリックとエリクソン』同様、こういう企画ができるのはNHKならではで、テレビ・ドキュメンタリーの新しい可能性を見せてくれる。
b0189364_11251135.jpg このドキュメンタリーの大きな魅力は、ムツさんの人間性が画面を通して伝わってくることである。ムツさんが、大地に根を下ろして、以前と変わらない生活を続けているのがまた魅力的で親しみやすく、まるで田舎の肉親のような感情さえ感じてしまう。そのムツさんであるが、第2作、つまりこの『秩父山中 花のあとさき ムツばあさんの秋』の撮影中に倒れて入院してしまうのである。実は第1作と第2作の間に、夫が亡くなっていて、太田部楢尾はますます過疎が進んでいたのだが、ついにムツさん自身が倒れて集落を離れることになる。これはつまり、滅びに向かう日本の集落の断面であり、それが赤裸々に映し出されていく。だが「滅びに向かって」いるとしても、それはやはり日本人の目から見ると、大切にしたい文化でもあるのだ。テレビ番組だからといって客観的な視点で冷淡に見ることができない要素がある。そしてそういう主張を、ムツさんという1人の市井の人を通じて、声高ではなく静かに語りかける……そういった魅力がこのドキュメンタリーにはある。
 このドキュメンタリーを通して、たまに田舎に帰って感じるような、切なさや寂しさ、そして人々の明るさなど、いろいろなものを身近に感じることができた。さすがに評判通りの名作ドキュメンタリーである。ちなみに、この第2作目の後、ムツさんは亡くなってしまう。第3作目は「その後の太田部楢尾」である。
★★★★
by chikurinken | 2011-01-21 11:25 | ドキュメンタリー

『田んぼにトキが舞いおりる』(ドキュメンタリー)

田んぼにトキが舞いおりる 〜佐渡 生き物と共生する米作り〜
(2011年・NHK)
NHK教育 ETV特集

b0189364_1139376.jpg 2008年、新潟県佐渡島の佐渡トキ保護センターから10羽のトキが放鳥された。一度は絶滅したトキを自然に帰すという取り組みはこれまで数十年に渡って続けられていたが、これによって、トキ復活プロジェクトは新しい局面を迎えることになった。
 トキの絶滅の原因はいろいろ考えられるが、その中に、トキの餌場である周囲の田んぼで農薬が使われるようになったことがある。つまり農薬のせいでトキの餌が少なくなったということらしい。そのため、トキを放ち野生のトキを復活させるに当たって、周囲の田んぼで餌がとれるようにするというのが大命題になってくる。というわけで、2001年、自治体により、保護センターの周辺で米の無農薬栽培をしないかという提案が農家に対して行われた。この申し出に応えた農家はわずか7件であったが、この7件の農家が「佐渡トキの田んぼを守る会」を結成して、米の無農薬栽培に取り組むことになった。このドキュメンタリーでは、その取り組みの始まりからトキの放鳥に至るまでの足跡を追っていく。
 無農薬栽培を始めるにあたり、不耕起農法を採用することにし、その提唱者、岩澤信夫氏を呼んで勉強会を開いたりもするが、当初は、雑草がはびこって収量が大幅に落ちるという惨憺たる状況が続く。それでも、消費者側の支援(労働参加や精神的な部分)を受けるなど、コミュニティも広がっていき、何より農業者の労働意欲が向上した。やがて農業者自身で雑草対策の工夫を重ねるなどして、収量も徐々に上がっていき、経営としてやっていけるメドがついてくる。その成功に伴い、かれらの会に参加する農家も増えてくる。こうして約10年かけて、トキのための周辺環境が整って、ついに放鳥に至ったのだった。放鳥後、トキも自然の中で生活するようになったが、いまだヒナを育てるという段階にはなっていないらしい。しかし、田んぼには自然が甦り、いろいろな生物があふれかえるようになっている。また、子ども達や近所の人々も田んぼに集まってくるようになり、さながら田んぼに生命が復活したかのようである。農業の原点に戻った農業者にも充実感と喜びがあふれているように見受けられた。
 トキがきっかけになって自然環境が甦っていく過程が過不足なく表現されており、内容の濃いドキュメンタリーに仕上がっている。「さすがETV特集」という充実した内容であった。

★★★★
by chikurinken | 2011-01-20 11:40 | ドキュメンタリー

『チネチッタの魂 〜イタリア映画75年の軌跡〜』(ドキュメンタリー)

チネチッタの魂 〜イタリア映画75年の軌跡〜(2011年・NHK)
NHK-BShi

b0189364_8215023.jpg イタリアの映画撮影所、チネチッタのあれこれを紹介する番組。
 映画監督の井筒和幸がナビゲーターになって、チネチッタの内部を紹介する他、元映画編集者や俳優(ジュリアーノ・ジェンマ)のもとを訪ね、チネチッタの全貌にアプローチする。
 一方で、チネチッタで撮影を行った映画監督、フェデリコ・フェリーニやエルマンノ・オルミ(『木靴の樹』の監督)らにも迫る。総じて、イタリア映画案内みたいな内容になっており、興味深い点もあったが、物足りなさも残る。それにやたらにフェリーニの映画(特に『道』)のシーンが登場するのもちょっと閉口する。実はこの番組を見始めたあたりから、20年ぶりに『道』を見てみようかなと思っていたのだ。『道』については、忘れている部分が非常に多いので、新鮮な気持ちで見れるかもと感じていたところであり、ネタばらしみたいにやたらいろいろなシーンが出てくるのは正直大変迷惑である。しかも、重要なシーンが次々に登場し、とうとうラストシーンまで出てきた。もちろんこのあたりは飛ばして目に触れないようにしたが、映画の紹介の仕方をもう少し考えてほしいものである。
 この番組で紹介された、興味深かった事実としては、チネチッタが75年前にムッソリーニによって建設されたこと、アメリカ映画『ベン・ハー』がチネチッタで撮影されたこと、チネチッタにフェリーニ専用の試写室(ほとんど劇場クラス)があることなどがあった。映画好きには楽しめる番組で、しかもチネチッタのスタッフの職人芸にも感心するが、ドキュメンタリー番組としてはやはり少々食い足りない。もう少し突っ込みがほしいという感覚も残った。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『道(映画)』
by chikurinken | 2011-01-19 08:22 | ドキュメンタリー

『崖』(映画)

b0189364_9343751.jpg(1955年・伊仏)
監督:フェデリコ・フェリーニ
脚本:フェデリコ・フェリーニ、エンニオ・フライアーノ、トゥリオ・ピネッリ
出演:ブロデリック・クロフォード、リチャード・ベースハート、フランコ・ファブリッツィ、ジュリエッタ・マシーナ、ロレッラ・デ・ルーカ

 フェリーニが、『道』と『カビリアの夜』の間に作ったというイタリアン・ネオリアリズモの映画。スチール写真が興味深かったこともあり、前から見たかった映画の1つである。
 ネオリアリズモの映画らしく、内容は自然主義的で、はなはだしく暗く重い。戦後イタリアの世相のためだろうが、今の日本に通じるようなところもある。
 ブロデリック・クロフォード演じる主役のアウグストは、40台後半の詐欺師で、仲間からは年寄り扱いされている。本人も将来に不安を感じて少し焦っている。この主人公、奇しくも僕と同じ年齢で、将来の展望が見えてこないのは同様である。現在の厳しい世相ともども、今の自分に通じるものが多く、非常に身につまされる内容であった。
 ストーリーは、原作モノかと思うほど洗練されていて、映像もネオリアリズモ流でインパクトがある。ストーリー全体が引き締まっているため、見ていて飽きがこないが、ストーリーの最後の部分に今一納得がいかず、なんとなくモヤモヤが残った。ストーリー的にちょっと矛盾しているような印象がある。とは言うものの、厳しい社会のありようを扱ったリアリズム映画としては優れたもので、さすがフェリーニといったところであった。
 キャストは、ハリウッドの役者も使っており、このあたりも当時のイタリア映画でよく見られる傾向と言える(イタリア語は吹き替えられているのか、そのあたりいつも気になる)。なんでも主役のアウグストは元々ハンフリー・ボガートが想定されていたらしい(ボガートは当時ヨーロッパで活動していたが、この映画の直前にアメリカに移ったという)。また、『道』と『カビリアの夜』で堂々の主演をはっていたジュリエッタ・マシーナ(フェリーニの奥方)は、この映画では脇役である。DVDの表のパッケージ写真に載っているが、大変紛らわしい扱いと言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『道(映画)』
竹林軒出張所『サテリコン(映画)』
by chikurinken | 2011-01-17 09:35 | 映画

『昭和子どもブーム』(本)

b0189364_1174129.jpg昭和子どもブーム
大崎悌造著
学研ビジュアル新書

 昭和34年生まれの著者が、昭和30〜40年代の子どもブーム(子どもの世界でだけ巻き起こる大きなブーム)について解説する本。「ビジュアル新書」だけに当時のガジェット(キャラクター商品や雑誌)がふんだんに写真で紹介されている。
 紹介されるブームは「テレビアニメ」、「忍者」、「お笑いアニメ」、「怪獣」、「スパイ」、「スポ根」、「怪奇」、「変身ヒーロー」などで、30〜40年代に子ども時代を過ごしてきた人にとっては、懐かしいものばかりである。実際のところは、この本の章立てのように、それぞれのブームがばらばらに子どもにやってきたわけではなく、かなりの部分が重なっていたという実感がある。それに、当時の子ども(つまり自分だが)にとってなぜブームになったかすらわからず、ただ何となく心惹かれたというものも多かったような気がする。本書ではそのあたり(なぜそれがブームになったか)についても記述があり、頷かされる部分も非常に多かった。
 解説の内容もなかなか面白いが、何より写真で紹介されるガジェットが懐かしい。当時以降今に至るまでまったく目にしなかったものもかなり紹介されており、マジックプリントやココア缶、キャラクタートランプなどは、(写真ででも)目にすると当時の感慨が甦ってくる。また、著作権を無視したような、キャラクターに似せられた絵(つまりパチモン)のメンコなども多数収録されており、「こんなのもあった、あった」と感激することひとしおである。
 さらに、梶原一騎の『巨人の星』が『ちかいの魔球』(「消える魔球」や魔球の投げすぎで再起不能になる点など)や『なげろ健一』(キャラクターが似ている)などのパクリであった(一部梶原本人も認めているという)など、初めて聞く話も多く、非常に新鮮な面もあった。というわけで、「昭和30〜40年代に子ども時代を過ごしてきた人」にとっては大変面白い本である。が、それ以外の人にとってはまったくわけのわからない、つまらない本である可能性もある。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『昭和ちびっこ広告手帳(本)』
竹林軒出張所『ぼくらの60〜70年代宝箱(本)』
竹林軒出張所『キックの鬼』
by chikurinken | 2011-01-15 11:08 |