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竹林軒出張所

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2010年ベスト

 年末ということで、今年も恒例のベストというのをやってみます。「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、今年の総括ということで、ひとつヨロシク。
(リンクはすべて過去の記事)

今年見た映画ベスト5

b0189364_11245548.jpg『歩いても 歩いても』
『鴨川ホルモー』
『王妃マルゴ』
『潜水服は蝶の夢を見る』
『親密すぎるうちあけ話』

 今年は仕事がヒマだったせいもあり、映画をかなり見ていた(92本!)。
 『歩いても 歩いても』は、情感を重んじた非常に日本映画らしい作品で、今の日本映画のレベルの高さを感じさせるものだった。日本映画のレベルの高さと言えば『鴨川ホルモー』も同様で、こういうハチャメチャな青春映画を、デタラメに陥らずに高い完成度で作り上げるスタッフ、キャストに脱帽であった。この作品については賛否両論あるようだが、僕にとってはいつまでも後を引く映画で、もう一度見たいと思う秀作であった。
 『王妃マルゴ』の歴史スペクタクル、『潜水服は蝶の夢を見る』の斬新な表現は、どちらも映画の可能性を見せてくれるもので、映画の遺産といって良いものである。同じく『親密すぎるうちあけ話』も映画の可能性を広げるような新しさがあった。

今年読んだ本ベスト5

b0189364_11254088.jpg『ダムはいらない! 新・日本の川を旅する』
『脳は眠らない 夢を生みだす脳のしくみ』
『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する』
『発明はいかに始まるか』
『コミック昭和史』

 『ダムはいらない! 新・日本の川を旅する』は、30年前に、破壊されていく日本の自然環境を告発した野田知佑の『日本の川を旅する』の続編で、野田知佑健在を印象づけた一冊である。また、日本の環境破壊が同じく健在であることも認識させられた。前著とあわせて古典的名著と言って良い秀作である。『脳は眠らない』、『たまたま』は、新しい視点を与えてくれた本で、真摯な良書であった。『発明はいかに始まるか』は、発明をテーマにした大著で、知識の集成という意味で優れた本である。『コミック昭和史』は水木しげるが、自分の半生を鑑みながら昭和という時代を振り返り、それを時系列でまとめたマンガによる歴史書で、昭和という時代を非常に身近に感じることができた。

今年見たドキュメンタリー・ベスト3
『スリーパー 眠れる名画を探せ』
『あるダムの履歴書』
『フェルメール盗難事件』

 『スリーパー 眠れる名画を探せ』、『フェルメール盗難事件』はどちらも美術関連のドキュメンタリーであるが、NHKの底力を見せつけるような作品であった。それぞれ2004年、2001年の作品であるが、こういうものがときどき再放送されるのがNHK-BSの良いところである。ただ、来年から1チャンネル減るそうで、再放送の機会も少なくなるのではないかと危惧している。優れた作品は何度でも放送していただきたい。それはドラマでも共通である。
 『あるダムの履歴書』はETV特集として今年放送された1本で、今まであまり一般に知られていなかった沙流川流域のダム建設の問題を告発するドキュメンタリーである。行政による環境(および文化)破壊、しかもそれが行き当たりばったりの政策によって行われ、莫大な金額が投入されて、取り返しの付かない状況を生みだしてしまっている。その状況が、しっかりとした構成のドキュメンタリーで報告され、告発される。これぞ、ドキュメンタリーの真髄である。

今年見たドラマ・ベスト3
b0189364_11271312.jpg『「英雄」〜ベートーベンの革命〜』
『鬼太郎が見た玉砕』
『ジェネラル・ルージュの凱旋』
番外:『前略おふくろ様』

 『「英雄」〜ベートーベンの革命〜』はBBC製作の歴史ドラマで、「英雄」交響曲の初演をドラマで再現するという試みである。したがってドラマといってもその半分以上は演奏シーンである。ユニークなドラマでありながら、細部にも非常にこだわっており、演奏も古楽器で行われる。しかも「英雄」の歴史的な意義がハイドンの口からさりげなく語られるなど、心憎い演出が光っていた。
 『鬼太郎が見た玉砕』は2007年作のNHKスペシャルで、水木しげる作の『総員玉砕せよ!』をドラマ化したものである。香川照之の熱演も含め、原作をうまく再現できていた(原作を超えていたかも?)。
 『ジェネラル・ルージュの凱旋』は今年放送されたドラマで、2010年を代表するドラマではないかと思う。チープなドラマが多い昨今ではあるが、こういった硬派の原作ものドラマも作れるんじゃん、と感心した次第である。是非(小説の)原作ものドラマも、継続して取り上げていただきたいと思う。ちなみに先頃放送された『フリーター、家を買う。』も、まだこのブログでは書いていないが、大変デキが良かった。
 番外の『前略おふくろ様』は、放送後すでに35年経つが、今回が初見である。強烈なインパクトはないが、それでもやはり評判に違わない優れたドラマであった。敬意を表して「番外」に列せさせていただいた。

 ということで、2010年の竹林軒出張所はこれで終わりです。これまで読んでいただいた皆様には、感謝の言葉もありません。当初の目標は、丸2年は続けるということでした。したがって少なくとも2011年6月までは続けていく所存でございます。2011年も何卒よろしくお願い申し上げます。
by chikurinken | 2010-12-31 11:28 | ベスト

『歌う。尼さん』(本)

b0189364_9542650.jpg歌う。尼さん
やなせなな著
遊タイム出版

 シンガーソングライター、やなせななのエッセイ。やなせななを知らない人にとってはあまり興味が湧かないと思うが、やなせななの音楽を愛する人にとっては、彼女の背景がよくわかるガイドブック的な価値がある。やなせななについては、以前このブログでも少しだけ触れたので、興味のある方は参照されたい(『蜜柑』)。
 やなせななという人は、歌手でありながら浄土真宗の僧籍も持つという異色の経歴を持つが、音楽家としてみれば、特に歌詞の印象が強く、それを優しく語りかけるようにはっきり歌うという姿勢が大変好ましい。歌詞は、孤独や死について考えさせるものが多いという印象で、心にしんみりとしみてくる。メロディーは比較的平凡ではあるが、アコースティック楽器と優しい歌声がマッチしていて、独特の味わいを醸し出す。そういうわけで、僕はやなせななのアルバムは全部持っているのだ。しかもiTunes Storeでもシングル曲(『蝶々・七夕』)を買ったくらいだ。「蝶々」と「七夕」はおそらく恋の歌だと思うが、それまでのやなせのイメージと違う激情的な面も見せていてなかなかに刺激的である。あたらしいアルバムが待ち遠しい歌手の一人である。
 そんなやなせななであるが、本書によると順風満帆な歌手人生だったわけでなく、デビューに至るまで、いろいろな音楽事務所にデモテープを何度も送り断られてへこむということを繰り返していたという。やっとCDデビューを果たすも、すぐに売れるほど甘い世界ではなく、しかも自分自身の身体に子宮体ガンが見つかり、子宮・卵巣摘出手術を受けることになった。そのためもありその後更年期障害に悩まされ、所属していた音楽事務所が倒産するなどの不幸にも見舞われて、自殺まで考えたという。そんな彼女が、自分の進むべき道を見つけ、音楽を人々に届けることに喜びと自身の価値を見出すことになった。本書では、その半生が平易な言葉で明るく語られる。読んでいて、自分自身前向きになれる、元気をもらえる本であった。
 最後の章で、自身のこれまでの歌について、その製作の背景を解説していて、これが非常に良かった。やなせの歌詞はいくぶん抽象的な(というかぼかした表現の)ものが多く、しかも人生のエポックを扱っているものが多いので、その背景が非常に気になっていたところである。やなせ音楽鑑賞の助けになる。

★★★
by chikurinken | 2010-12-28 09:55 |

『坂東三津五郎 踊りの愉しみ』(本)

b0189364_9192436.jpg坂東三津五郎 踊りの愉しみ
坂東三津五郎談、長谷部浩編
岩波書店

 歌舞伎役者、坂東三津五郎の芸論であり、『坂東三津五郎 歌舞伎の愉しみ』の続編という位置付けらしい。
 僕自身、歌舞伎は見るが、歌舞伎の中の舞踊については正直あまり関心がない。そのため、内容についてはついていけない部分が多く、どちらかと言えば『歌舞伎の愉しみ』を読んだ方が合っていたかも知れない。毎日新聞の書評で絶賛されていたから借りたんだが、その点ちょっとハズレだったかも知れない。
 ただ、内容はなかなか興味深く、前半部分の第1章「舞踊の本質」と第2章「私の踊りをつくってくれた人々」では、三津五郎の生い立ち、舞踊観や哲学が語られて面白かった(三津五郎さん、いろいろよく考える人のようだ)。一方後半部分は、それぞれの舞踊芝居の演目ごと(たとえば『道成寺』や『六歌仙容彩』など)にそれぞれの演目の内容や舞踊の特徴について語られるが、これが少しわかりにくい。それぞれの芝居を知っていればよくわかるんだろうが、まったく知らない演目については、何が語られているかさえ皆目見当が付かない。僕はたまたま少し前に『襲名 十代目坂東三津五郎』というドキュメンタリーをNHKで見ていたので、いくつかの演目についてはよく理解できたが、理想を言えば、こういう企画は本ではなく映像でやる方がわかりやすくて良いんだろう。とは言うものの、歌舞伎舞踊の好きな人にとっては、本書は十分楽しめる内容なのではないかと思う。ちなみに坂東三津五郎は日本舞踊坂東流の家元でもある。そういう意味でも、彼の舞踊の芸論には大きな意義があると言える。

★★★
by chikurinken | 2010-12-26 09:21 |

『甘いチョコレート 苦い現実』(ドキュメンタリー)

b0189364_122499.jpg甘いチョコレート 苦い現実
(2010年・英BBC)
NHK-BS1

 チョコレートの原料、カカオは、その多くが西アフリカのガーナとコートジボワールで生産されているが、そのカカオ生産の多くに児童労働がかかわっているということを告発する番組。
 多くのチョコレート製造メーカーは、自社のチョコレートには児童労働を使った生産者は介在していないと主張している。そこで、現地に足を運び、カカオ豆の調達と仲介業者への販売を実際に試み、児童労働カカオ豆が大手のカカオ商社に流れていく過程を実証する。また、児童労働に従事していた1人の子どもを救出し、親元に帰すということも番組で行っていた。
 現地での取材は、児童労働調査に対する警戒もあって、多くは隠しカメラで行われており、取材者もカカオ仲買人を装って人々に近付いている。どこか「ドッキリ」を思わせるような取材方法で、BBCにはこういった番組が多いように思う。西アフリカの児童労働は、ILOが規定する「最悪の形態の児童労働」に該当するもので、「子どもを学校に行かせず、危険な労働に従事させる」というものであり、とうてい看過できないものだが、本当にこういう番組作りが良かったのかは少し疑問が残る。番組では、1人の子どもを救出したんだが、それに伴い現地の警察が協力して、その雇い主らが2人逮捕(起訴後、釈放)されることになった。取材の際には、同じように働く年長の子どもも立ち会っていて、雇い主のことを(名前なども含め)いろいろと語っていた(これが雇い主逮捕のきっかけになった)んだが、その後、彼らが雇い主からひどい目にあっていないか気がかりになるところだ。告発するのは大変有意義だが、ドキュメンタリーでここまでやる必要があったのか少々疑問を持った。1人救出したところでカカオの児童労働の根本的な解決にならないどころか、他の子ども達を危険にさらす可能性だってある。製作者側の自己満足ではないのかという気もする。
 このドキュメンタリーの意図するところはよく理解できるし、今後はチョコレートもあまり食べないようにしようと思うが、しっくりいかない気分が最後まで残る番組であった。

★★★☆
by chikurinken | 2010-12-24 12:02 | ドキュメンタリー

『美人は得をするか 「顔」学入門』(本)

b0189364_18243945.jpg美人は得をするか 「顔」学入門
山口真美著
集英社新書

 『美人は得をするか』というタイトルから、ナンシー・エトコフ著の『なぜ美人ばかりが得をするのか』を連想して読んでみたが、残念ながら面白さに欠ける退屈な本だった。内容は心理学概論みたいなもので、そのためか退屈な話がダラダラと続く。さまざまな事例を挙げて論を進めていくが、どれも琴線に触れなかった。似顔絵の話がやたら出てくるのにも閉口で、論理にも説得力がない。大学の教養部で行われる(面白くない心理学の)授業みたいで、途中何度も読むのをやめようと思った。
 「美人は得をするか」というテーマについてもわずか数ページで触れているだけで、もの足りない上、面白くない。思うに本書には明確なテーマが欠けているために、散漫な内容の本になったのではないか。もちろん「顔」をモチーフにして、それについて心理学的に論述するというアプローチはわかるが、それにしても論点を欠いたような印象を受ける。明確なテーマ(できれば自分の専門分野)に基づいて書いた方が、内容もしっかりするし、読む方も読みやすい。それに面白さも感じると思う。
 終章に、著者の身に最近つらいことが起こった旨いろいろ書かれているので、正直あまり批判めいたことを書きたくない(どこかで著者の目に触れるかも知れないので)のだが、(タイトルを含め)企画のせいか著者のせいかわからないが、非常にもの足りない本であった。僕とは不幸な出会いだったと言わざるを得ない。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『女の影に犯罪あり?』
by chikurinken | 2010-12-22 18:24 |

『前略おふくろ様II』(1)〜(24)(ドラマ)

前略おふくろ様II(1976年・日本テレビ)
演出:高井牧人、田中知巳、吉野洋他
脚本:倉本聰
出演:萩原健一、梅宮辰夫、川谷拓三、室田日出男、桃井かおり、小松政夫、木之内みどり、風吹ジュン、坂口良子、田中絹代

b0189364_1010353.jpg 『前略おふくろ様』の続編で、舞台も登場人物も前回とほぼ一緒(職場は変わっているが)。『前略おふくろ様』の世界をうまく継承している。続編になるとダメになるドラマが多い中、これだけの質を維持しているあたり、当時の倉本聰の力量を感じさせる。
 内容や構成は前作とほとんど同じで、そういうところを勘案すると、『前略おふくろ様』の続編というより、一つながりで1本のドラマと見ることもできる。今回は特にそれぞれのキャラクターの面白さを強調しているようで、青春群像としての要素が強いように感じた。
 最終回に、同居する新人板前(岩城滉一)が出てくるが、この設定は2007年の『拝啓、父上様』でも再利用されている。安易なリサイクルだったんだなと今にして思う(よくよく考えると『拝啓、父上様』は使い回しばかりであった)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『前略おふくろ様(1)〜(26)(ドラマ)』
竹林軒出張所『うちのホンカン(ドラマ)』
竹林軒出張所『昨日、悲別で (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』
竹林軒出張所『100年インタビュー 倉本聰(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『駅 STATION(映画)』
竹林軒出張所『冬の華(映画)』
by chikurinken | 2010-12-21 10:10 | ドラマ

『本田美奈子.最期のボイスレター』(ドキュメンタリー)

b0189364_850761.jpg本田美奈子.最期のボイスレター
(2008年・NHK)
NHK-BShi

 歌手の本田美奈子が亡くなったのはもう5年前で、当時38歳であったことも相まって、多くの人々に相当な衝撃を与えた。僕など、本田美奈子のことはテレビで見たことがある程度でまったく興味がなかったが、それでも年齢が若かったので少しばかりびっくりしたのだった。ただ、その後、本田美奈子のCDを何枚か借りてきたりして聴いてみたが、クラシック音楽に日本語の歌詞を付けて歌うなど、なかなか意欲的な活動をしていたらしく、それを思うと惜しい歌手を失ったという感を持つ。彼女のCDを聴いて感じたのだが、音楽への取り組み方が真摯で、アイドル時代の印象と大きく異なっていたことも印象的であった。
 そのクラシック志向のCDで、原曲に付ける日本語詞を書いたのが作詞家の岩谷時子である。本田美奈子と岩谷時子はミュージカルを通じて知り合い(出演者と作詞家の関係)、岩谷時子が本田美奈子の歌をいたく気に入ったことから2人の親密なつきあいが始まり、ミュージカル以降も親しくつきあうようになったという。
 本田美奈子が、身体の不調を訴え入院したのが2005年初頭で、のちに白血病であることが判明する。その後治療を長きにわたって続けるが、随分つらい治療だったことが(このドキュメンタリーから)うかがわれる。そんな折、本田が入院していた病院に、岩谷時子が大腿骨骨折で担ぎ込まれる。高齢であることもあり、治療も入院生活も難航することが予想された。そんな折、岩谷の入院を聞いた本田は、岩谷を励ますためにボイスレコーダーにメッセージを吹き込んで岩谷の元に届けた。当時本田は無菌室におり、当然外出ができず岩谷の見舞いが不可能なため、こういう方法で励ますことにしたのだ。やがて、岩谷の方からもボイスレコーダーにメッセージが吹き込まれ、それが本田の元に届けられるようになる。こうして2人の文通ならぬ声通が始まった。メッセージは合計30回ほどやりとりされたようだが、途中から本田が歌を贈るという形で、岩谷作詞の歌をメッセージの最後に吹き込むようになった。このドキュメンタリーでは、そのメッセージを紹介しながら、2人の交流を描いていく。
 番組では、本田の関係者のインタビューを交えながら、メッセージ(および本田が歌った歌)がそのまま流される。その間、病室から見たようなイメージ映像が流れるが、これが非常に味があって、すばらしい効果をかもし出している。その後、本田が一時退院してこの声通はほぼ終わる(その後数回本田の自宅から送られている)が、本田の「歌が人を励ます」という信念が体現されたようなメッセージは、本田の真摯さ、優しさだけでなく力強さを感じる。それから3カ月後、本田美奈子の容体が急変し、白血病で亡くなることになる。
 死を間近に感じた本田美奈子のメッセージは、病苦と闘う人のそれで、生きることの喜びやつらさなどが(明るく)表現される。また、困難に陥った人でこそ他人の苦しみに共感できるということが、本田のメッセージからは伝わってくる。こういう部分が歌手としての力量や表現力になり、その成長につながることを考えあわせても、歌手としての本田美奈子を失ったことがかえすがえすも残念に思えてくる。本田美奈子の冥福を祈りたい。

★★★★
by chikurinken | 2010-12-20 08:50 | ドキュメンタリー

『ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか?』(本)

ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか? 脳と身体がよみがえる!「睡眠学」のABC
ウィリアム・C・デメント著、藤井留美訳
講談社

b0189364_16502234.jpg 睡眠科学の権威、デメント(『脳は眠らない』にもたびたび登場した)による、睡眠全般を扱った概論的な書。「概論的」ではあるが、睡眠のしくみや睡眠障害にまで広範囲にわかりやすく語られており、非常に読みやすく有用な本である。
 ヒトは一定の睡眠時間を取らないと、足りない分が睡眠負債として蓄積されていく。現代人は睡眠を過小評価しており、ややもすると睡眠時間が削られる傾向にあり、こういう状態が続くと、睡眠負債が大きくなり、集中力や労働効率も低下していく。睡眠負債があまりに大きくなると、自然に短時間の眠りを取ることになる。こういうものがドライバーやパイロットの事故の原因になることが多いという。この本を読むと、睡眠がいかに大事か認識を新たにできる。
 また他にも、睡眠に入るまでの脳波の変化(睡眠のしくみ)や、睡眠負債と体内時計の関係(なぜ午後眠くなるのかという回答になっている)など、睡眠科学の最先端(?)の研究結果にも触れることができる。夢遊病やナルコレプシーなどの睡眠時障害、年齢に応じた眠りの変化などにも触れられているなど非常に多方面にわたって記述されており、睡眠雑学的な側面も持つ。巻末には自分の寝不足度と最適な睡眠時間を探るためのテスト方法なども具体的に紹介されており、「睡眠大全」と言っても良いほどの密度である。翻訳もなかなか良く、非常に読みやすい良書であった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『脳は眠らない 夢を生みだす脳のしくみ(本)』
竹林軒出張所『「金縛り」の謎を解く(本)』
竹林軒出張所『子どもの夜ふかし 脳への脅威(本)』
by chikurinken | 2010-12-18 16:50 |

『運命の一手 渡辺竜王 VS 人工知能・ボナンザ』(ドキュメンタリー)

運命の一手 渡辺竜王 VS 人工知能・ボナンザ(2007年・NHK)
NHK-BShi

 コンピュータは将棋で人間に勝てるか?という話は、将棋の世界ではいつも話題になるテーマである。ただしここで言う「人間」とは、一流のプロの話で、素人の僕などは、コンピュータ・ソフト相手でもなかなか勝てない。
b0189364_9502124.jpg チェスの世界では、すでにチェスのチャンピオンのカスパロフが「ディープ・ブルー」というコンピュータに負けて話題になっていたが、将棋の場合は取った駒が使えるため、チェスと比べものにならないくらい多様な可能性があり、コンピュータがプロ棋士に追いつくのはまだまだ先ではないかといわれていた。そんな折に突如現れたのがボナンザという名前のコンピュータ・ソフトで、コンピュータ将棋の大会で、新顔でありながらいきなり優勝をかっさらっていった。当時の他のソフトと異なり「全幅検索」という手法を使っていたことが、その強さの理由らしい。
 こうして鳴り物入りで登場したソフトをプロ棋士と対戦させたいと考えるのは、関係者に共通の考え方のようで、2007年3月にとうとう対局が叶うことになった。しかも相手は当時竜王位を守り続けていた若手のホープ、渡辺明である。
 というわけで、このドキュメンタリーでは、その対局をメインに据え、ボナンザの作者、保木邦仁と渡辺竜王の双方の人間性や背景に交えながら展開していく。NHKでは、「ロボットコンテスト」なども同様の手法でドキュメンタリーとして作っており、番組の作り方はまったく同じ手口である。いわば「ロボコン」フォーマットというような形式である。そういうこともあり、ドキュメンタリー番組としてはあまり目新しさはないものの、渡辺竜王対ボナンザの詳細はまったく知らなかった上、将棋番組などでもよく話題になることであるし、個人的には大変興味深かった。また、面白くまとめられているのは確かで、対戦物ドキュメンタリーとしてはよくできていたのではないかと思う。ただし、それは一般向けの番組と考えた場合で、将棋番組としてはかなりもの足りない。将棋ファンとしては、対局中にエピソードを交えるよりも、エピソードを最初にまとめた上で、対局は(将棋対局番組のように)解説を交えながら一直線に進めてほしかったところである。途中エピソードなどで進行がたびたび中断され、かなりイライラした。
b0189364_9551821.jpg それにしても、ボナンザの作者の保木氏が将棋のことをあまり知らなかったというのはなかなか面白い。一部では「将棋のことをよく知らなかったからボナンザを作れた」という声もあるが、なにしろ対局の終了直前に「投了は自分の手番でするんですか?」などと訊ねていたのは非常に微笑ましかった。
 それはともかく、結論から言うと、この対局は人間(渡辺竜王)の一方的勝利というわけではなく、終盤までボナンザが優位だったのだ。89手目の「2四歩」(「2六香」と指すべきだった)が失着になって結局負けてしまったが、最高レベルのプロと互角に渡り合うレベルにすでに達していたという事実が明るみに出た重要な一局となったのである。ちなみに今年、女流のトッププロ、清水市代女流六段(現在はタイトルがないが、タイトル通算獲得数は歴代1位)がコンピュータに負けて、大きな話題になった。伝え聞くところによると、清水女流六段が中盤でミスを重ねたのが敗因だったらしく、また女流棋士と男性プロ棋士との実力差がまだあることから、このことがすなわち、コンピュータの方が強いという証明にはまったくならないんだが、一つの可能性を示したことは確かである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『棋士VS将棋ソフト 激闘5番勝負(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『最強ソフトVS個性派棋士(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2010-12-16 12:00 | ドキュメンタリー

『ミスター・ロンリー』(映画)

b0189364_9324263.jpgミスター・ロンリー(2007年・英仏)
監督:ハーモニー・コリン
脚本:ハーモニー・コリン、アヴィ・コーリン
出演:ディエゴ・ルナ、サマンサ・モートン、ドニ・ラヴァン、ヴェルナー・ヘルツォーク

 「ヴェルナー・ヘルツォーク」で検索して引っかかった映画なんで(このブログの『キンスキー、我が最愛の敵』の項参照)、てっきり監督がヴェルナー・ヘルツォークだと思い込んで見ていたんだが、ヘルツォークは監督ではなく出演者だった。
 さて、映画の方は、実験的な手法を取り込んだり、映像の詩的表現を目指したりしているようだが、何といっても展開がまどろっこしくて疲れる。ストーリー自体は、コスプレの物まね芸人が集まるなどなかなか奇抜で面白いんだが、この希薄な話をダラダラと2時間見せられると完全にだれてしまう。途中から時計との勝負になった。また、ストーリーと関係ない別の話が同時進行で進んでいくんだが(この部分にヴェルナー・ヘルツォークが出演)、なぜこの話が挿入されているのか、最後まで意味がわからなかった。そういうわけで、残念ながら、わけのわからない不出来の映画という印象しか残らなかった。不幸な出会いだった。

★★☆
by chikurinken | 2010-12-14 09:34 | 映画