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竹林軒出張所

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『コミック貧困大国アメリカ』(本)

b0189364_11402264.jpgコミック貧困大国アメリカ
堤未果著、松枝尚嗣漫画
PHP研究所

 『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)をマンガ化したもの(らしい)。元本を読んでいないのでどこまで反映されているかはわからない。
 教育、医療、くらしが、市場原理に飲み込まれて完全に破綻してしまったアメリカの現状を、マンガでわかりやすく紹介している。エピソードをマンガで、その後に文章でその解説という構成になっている。出てくるエピソードは「サブプライムローン」、「貧困と肥満」、「医療と破産」、「医師たちの転落」、「出口のない若者」、「戦争とワーキングプア」の6本で、どのエピソードもNHKのドキュメンタリーなどで何度も見聞きしているものだが、マンガになると衝撃度が一段と上がる(表現がオーバーなためか)。絵もきれいで、マンガとしての完成度も高い。マンガの中でも、重要な箇所はト書きのような形で説明文で解説されており、そのあたりはマンガの限界といえば限界か。それぞれのエピソード(章)の最後にある解説も、絵による展開に慣れてしまっているため、一挙に読みづらくなるような感覚に陥る。マンガと文章の乖離を少しばかり感じる。
 しかしそうは言っても、アメリカの貧困状況を伝えることには成功しており、企画としては素晴らしいものと言える。せめて日本はこういうふうにはならないよう願いたいものだ。アメリカのこの状況を反面教師として多くの人々に広く知らせる上で、手軽にアクセスできるマンガという手段は恰好のものだと思う。そういう意味でも「真摯な」良書の部類に入る。ま、でも、あまり売れないだろうなとも思う……『マネドラ』と違ってね。

★★★☆
by chikurinken | 2010-10-30 11:40 |

もし頑固な中年オヤジが『マネドラ』を読んだら --『マネドラ』(本)

b0189364_9203633.jpgもし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
岩崎夏海著
ダイヤモンド社

 今とっても売れているらしい、通称『マネドラ』。初めて見たのは本屋さんの平積みであった。少女マンガ風の装丁とタイトルのアンバランスさが面白く、思わず手に取ってみたら、中身は拙そうな小説だった。もちろんそのまま平積みに戻した。マンガだったらよかったのに……と思いながら。
 それでもこの本、結構話題になっていたらしく、あちこちで話を聞く。だからと言って買うのはちょっと……というわけで図書館に行く。と、なんと、200人以上の人々が予約を入れて待機状態になっていた。しようがないので僕も予約を入れた。それが数カ月前の話。その『マネドラ』がついに僕のところにまわってきた。
 さっそく読んでみた。タイトルが示すとおりの物語で、随所にドラッカーの『マネジメント』が引用される。ちなみにドラッカーの『マネジメント』という書について、僕はまったく知らなかった。何でも経営学の元祖のような本だということだ。実際に、本書で『マネジメント』に少し触れることができるが、学の書というよりもエッセイに近いような印象である。僕にとっては、宮大工の口伝なんかに結構近いイメージである。それに、本書で引用されている『マネジメント』は翻訳のせいで読みづらい。学問の書ではないのだから、もう少し平易な日本語を使ったらどうだと思う。
 閑話休題(それはさておき)。ストーリーは、高校野球の女子マネージャーが、ドラッカーの『マネジメント』を参考にしながら野球部の組織改革に乗り出して成功するという話で、それに涙と感動のスパイスを加えた、ありきたりのものである。一番の特徴は、「小説」風になっていながら、従来の「小説」とは根本的に違うことである。話の展開は語られるが、そこには個人レベルの情感がほとんどないため、ただ単に登場人物を動かすというようなものになっている。端的に言えば、梗概(あらすじ)に近い。人間は動いているが、高い位置からマクロ的に描いているため、登場人物に対して身近な感覚はほとんど湧かない。学術書などで、ある記述の例えとして何人かの人物を設定して説明するような箇所が出てくるが、あれを敷延した感じである。
 そういう風に考えると、この「小説」は、ドラッカーの『マネジメント』を説明するために作ったサンプルと考える方がつじつまが合う。したがってタイトルは、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」にするよりも、「もしドラッカーの『マネジメント』を高校野球部の例に適用したら」にする方が、内容を正しく説明している。そのため、本書には、物語としての面白さはない、と断言しても良い。物語はミクロ的だから面白いのであって、梗概はしょせん梗概である。
 『マネジメント』入門書として読めば、そこそこ役に立つのではないかと思うが、小説を装いながらその実ただの実例集になっているわけで、小説を期待して本書を手に取る読者(おそらくほとんどがそうであろう)の期待に添っているとは思えないのだ。「顧客を満足させることこそ、企業の使命であり目的である」(『マネジメント』)というドラッカーの主張を本書が満たしているとは到底考えることができない。著者は、本書が売れることを予見していたらしいが、この本を生み出すことがクリエイターとして本当に「真摯」(ドラッカーが経営者に不可欠なものとして強調している……らしい)な態度なのかどうか、問いたい気分になった。
 文章は非常に読みやすいが、同時に非常に拙い。エレガンスも何もあったもんじゃない。サブプロットらしきものはあり、ストーリーとしては比較的よくできている。いっそのこと、装丁が物語るように「マンガ・ドラッカー入門」みたいなものにすれば、もう少し質が高くなり、正しい読者(顧客)のもとに届けることができたんじゃないかと思う。あ、ちなみに近々、アニメ化されるそうです。

★★☆
by chikurinken | 2010-10-29 09:26 |

「また見つかった 何が? 新手のサギが ネットにとけゆく大金が」または 「これ……サギだと思う……」

b0189364_8104235.jpg
 最近、Webを見ていると、オークションのネット広告がやけに目立つ。その広告によると、iPadの落札額が300円とかカメラの落札額が500円とか書いている。一度、あるサイトを見てみたことがあるが、オークションといっても、Yahoo!オークションなどと違い、そのサイトの運営者が出品しているようで、どう見ても販売サイトではないのかと思う。ということはそのサイトが儲かっているということで、ということはiPadが無条件で300円で買えるわけではなさそうである。怪しい臭いがプンプンするので、さっさと引き取らせていただいた。
 で、昨日、このオークション・サイトのことについての解説が「SAFETY JAPAN」というサイトに掲載されていて、合点がいった。

「3万円の人気ゲーム機が3000円!」で噂を呼ぶ「ペニーオークション」。その「怪しい正体」(SAFETY JAPAN)

 要するに、オークションに参加し入札するときに、金を払わなければならないということらしい。たとえば、定価6万円のある商品が出品されていて、これを僕が500円で入札するとする。その時点で手数料がかかる(75円が相場らしい)。ほんで別の人が510円で入札して、次に自分が515円で入札する。この時点で再び手数料がかかる。こういうわけで最終的に1万円でだれかが落札しても、それまでに入札がのべ1000回行われていれば、1000×75円で75000円ということになり、サイト運営者は、6万円の商品を、7万5千円+落札額1万円の8万5千円で販売できるということになる。こういうシステムを「ペニーオークション」というらしい。ということで、このシステムで儲かるのは、サイト側と落札者だけである。他の多くの参加者は、入札料をしこたまとられてチョンということになる。落札者とて、その商品に対してそれまでに何度も入札手数料を支払っていることになるわけで、どの程度儲かったかはにわかに判断できない。それに他の商品で損する可能性だって高い。つまるところ宝くじやパチンコみたいなもんで、大勢の損の上に、少数の得(または疑似得)が成り立っているというシステムなのだ。というわけで、SAFETY JAPANの解説では、このシステムはギャンブル、それも射幸心をかなりあおり立てるギャンブルだと結論付けている。サクラの存在も当然考えられるわけで、最終的に必ずサクラが落札するようにすれば、儲かるのはサイト側のみになるんだね。そうすると参加者は誰一人得しないというシステムもできあがるわけだ。おーーこわっ。
 こういうサイトが日本でも増えているらしく、試しにGoogleで「オークション」と入力して検索すると、上位に怪しげなサイトがズドドンと出てきた。世の中、ろくでもないこと(つまり詐欺行為)を平気でやる人々というのが大勢いるようで大変嘆かわしいが、こういう怪しい連中に引っかからないよう気をつけないと、それこそケツの毛まで抜かれてしまう(しかし汚い表現ですな)。ネットはいまだ無法地帯なんですね……。大変お勉強になりました。
by chikurinken | 2010-10-28 08:12 | 社会

ホグウッドのモーツァルト

b0189364_12531640.jpg クラシック音楽を聴くようになって久しいが、モーツァルトの音楽は長い間、謎……というかよくわからない対象であった。何が良いのかさっぱり分からない。エライ人の中には、死ぬことで一番不幸なのはモーツァルトが聴けなくなることだ、などとスカしたことを言った人もいるが、その心境も理解できなかった。フーンという感じである。
 ただ、何度も聴いているうちに、(オペラを含め)歌曲や協奏曲には面白いものもあると感じるようになった。それでも交響曲については、左耳から右耳に流れ去るだけで何にも残る感じはなかったのである。
 そんな折に出会ったのが、クリストファー・ホグウッド指揮、エンシェント室内管弦楽団演奏のモーツァルトの交響曲第25番であった。ホグウッドが指揮するモーツァルトの交響曲は、当時非常に話題になっていたのでホグウッドの名前は知っていたが、苦手なモーツァルトであるだけに食指は動かなかった。そういう状況で、たまたま輸入盤セール(当時は国内盤が高かったのでもっぱら輸入盤で済ましていた)で見つけたので試しに買ってみた次第。
 ところが、早速持ち帰り実際に聴いてみて、はなはだ驚いたのだった。これまでのモーツァルトの印象を覆すと言ったらちょっとオーバーだが、まったりとただ流れるだけといったイメージとはまったく違う、先鋭なモーツァルトがそこにあった。贅肉をそぎ落としたような演奏なのである。
 このクリストファー・ホグウッドという人は、演奏家と同時に研究者としても有名なようで、いくつか著書も翻訳されている。エンシェント室内管弦楽団は、その彼が創設した古楽器オーケストラである。古楽器であるから、基本的に18世紀から19世紀前半頃の楽器を使っていて、先鋭な感じを受けたのもその辺に原因があったのかも知れない。現在のオーケストラの楽器というのは、実は当時から大分改良が重ねられており(大きな音、安定した音が出るように……など)、モーツァルトやベートーヴェンの頃とは、音色も随分違っている(らしい)。ホグウッド/エンシェント室内管の演奏というのは、モーツァルトやベートーヴェン当時の楽器を使用して、当時と同じ音色で演奏してみようという試みで、モーツァルトやベートーヴェンが楽曲の中で想定していた音を再現することが狙いである。したがって、現在演奏される音色よりはるかに当時に近く、それに加えて、音楽に対するホグウッドの研究成果も十分に盛り込まれているのではないかと思う。
 20世紀後半のモーツァルト演奏は、優雅な演奏が主流で、僕がなじめなかったのはそういう演奏である。ホグウッドの古楽器演奏が新鮮で、好ましいと思ったのも、その辺に理由があったのかもしれない(モーツァルト好きの知人は、ホグウッドのモーツァルトはスカスカしていると言ったが、言い得て妙だと思う。確かに、従来のモーツァルト演奏のような優雅さは欠けている)。
 さて、そのホグウッドによるモーツァルトの交響曲であるが、すべての交響曲とそれに準ずる楽曲(一部のセレナードなど)がすでに全集として録音されている。CD19枚セットの大層なボックスであるが、4万円近くするので普通だとなかなか手が出ない。ところが、AmazonHMVなどのネット通販ショップを調べてみると、輸入盤が1万円程度で売られていたりする。中には8千円のものまであった。8千円だと1枚あたり400円ということになる。食指がかなり動いたが、よくよく調べると、レンタルCDショップにこの全集が置かれていて、1枚100円でレンタルされていた。というわけで早速借りたのだった(とりあえず半分)。ホグウッドのモーツァルトの交響曲は、第25番以外にも何枚か持っていたのだが、あらためてまとめて聴くと、どれも水準が高く面白い演奏である。
 ホグウッドは、モーツァルト以外にも、ハイドンやベートーヴェンの交響曲全曲録音に取り組んでいる(ハイドンは未完と聞いたが真相は分からない)。ベートーヴェンの交響曲全集は随分前に買ったが、こちらはあまり良い印象を持っておらず数回しか聴いていない。むしろベートーヴェン・ピアノ協奏曲全集の方が圧倒的に面白く、今でも僕の中のスタンダード演奏になっている。何といっても、各曲が作られた時期に合わせてピアノの種類(すべて古楽器)を変えているというのだから、徹底ぶりには恐れ入る。というのも、ベートーヴェンがピアノ協奏曲を作曲したこの時期、ピアノの改良が急速に進んでいたらしく、ベートーヴェンがそれぞれの曲で想定していた音色もその時代ごとに変わっていたはずという前提になっているのだな。いやはや、ホグウッドおそるべしである。
by chikurinken | 2010-10-27 12:58 | 音楽

タッチとリュウド

 出先でちょっとした文章を入力したいと思うことは多い。そんなわけで、ポメラみたいなツールがプチヒットするわけだが、さすがに単機能製品のポメラを買おうという気は起こらない。変換効率とか取り回しとかいろいろ厄介な問題が出てきそうでね。こういった問題はワープロ専用機の時代にすでに経験済みである。
 そうかと言ってパソコンを持ち歩くのも大げさである。で、ここで候補に挙がるのが、手元にあるiPod Touchである。iPod Touchで文字入力はもちろん可能だが、ただあの小さなスクリーン・キーボードでチマチマ入力するのは、効率が悪い上、精神衛生上も良くない。これにキーボードをつなげればさぞかし便利だろう……と思う。で、やはりそういう需要はあったようで、iPod Touch(やiPhone)に接続できるハンディなキーボードというのが、すでに結構な数出ていた。中でも、リュウドというメーカーのBluetoothキーボードが結構良さそうで、評判も上々である。このシリーズの新製品RKB-2200BTiというヤツが、Macユーザー向けのiPod Touch(やiPhone)用キーボードだそうで、今回これを買ってみた。ちなみにAmazonで8,200円であった。
 このキーボードは、BluetoothでTouchと接続する。つまり無線でTouchとつながるんである。そのために最初にちょっとした設定が必要になるが、それ以降は、Touchを出し、このキーボードを出して、何かキーを押すと、自動的にキーボードから入力できるようになる。取り回しはきわめて楽である。しかも、コピーやペーストでMacのキーボード・ショートカットが使える(Cmd+C、Cmd+V)。さらに、Touchを置く台まで内蔵されている。至れり尽くせりである。難点は、Returnキーが小さいために入力ミスが多くなることくらいか。だがこれも、頻繁に使っていれば慣れるんではないかと思う。ATOK(iPhone用)は現在使えない(実際には使えるようだが現時点では使いづらそう)が、変換効率もそれほど悪くないので実用になるんじゃないかと思う。
 僕の場合「メモ」アプリにデータを入力してとりあえず保存しておいたが、問題は、Touchで入力したこのデータをどうやってパソコンに送るかということになる。無線LAN環境があれば、Touchで「メモ」から「メール」にデータをコピーして、メールで送るという方法が一番手っ取り早い。またEvernoteなどのツールを使えばダイレクトでパソコン環境とシンクロできる。USBケーブルで直接接続するという方法もあるようだ。僕の場合まだまだお試しレベルなので、最良の方法は今後の課題ということになる(今回はメールの方法とEvernoteの方法を試してみたがまったく問題なかった)。
 現時点では、よく考えられた優れた製品という印象である。

 携帯性:★★★★(軽くて案外小さい)
 高級感:★★(安っぽい……値段相応)
 操作性:★★★(入力キーの配置に慣れなければならない)
 取り回し:★★★★(設定も簡単である)
 総合:★★★☆(これだけのキーボードは今までなかったんじゃないだろうか……)

追記:このキーボードについては、ネットのあちこちですでにかなり書かれているので、ここでは設定方法については触れません。興味のある方は調べてみてください。

折りたたむとこんな感じ。小さくて軽い。
b0189364_1323573.jpg

キーボードを開く。
b0189364_1325996.jpg

試しに新聞の記事を入力してみる。
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by chikurinken | 2010-10-26 13:04 | モノ

『さわの文具店』(本)

b0189364_10163690.jpgさわの文具店
沢野ひとし著
小学館

 元祖ヘタウマ・イラストレーター、沢野ひとしの文房具をテーマにしたエッセイ集。沢野ひとしのエッセイは、『本の雑誌』に連載していた頃(25年くらい前……今も連載しているのでしょうか)からよく読んでいたが、イラスト同様、文章にも味があって大変面白い。『本の雑誌』の同人(というか編集関係者)の椎名誠や目黒孝二などによると沢野氏は相当な怪人のようであるが、自身の文章から語られる本人は、当然のことながら、至って普通の人間である。もちろん平凡ではないが。
 テーマになっている文房具は、ゼムクリップからデスク・ライト、銅版プレス機に至るまで多種多様。なんでも文房具や画材を頻繁に衝動買いするらしく、バルセロナでは、「東京からバルセロナまで二回ほど往復できる定価」の「マルセル・プルースト」という万年筆セットを買ったというし、渋谷の画材屋では、1本数万円する絵筆を「ザーッと筆をつかみ、「とりあえずこれだけください」と言っ」て買ったりもしているという。僕には真似できないし、正直あまり感心できない。もっとも僕も画材には結構お金を使っているので、あまり大きなことは言えない。ただこういう話は聞いている分には面白いし、道具に対するマニアックな思い入れもなかなか楽しいものである。
 こういったモノに対する思い入れというのは誰にもあるわけで、こういうふうにエッセイにすると楽しいだろうな、とふと思ったりもした。そういうイマジネーションを喚起させてくれる楽しい本でありました。それにしてもあの沢野ひとし画伯が銅版画をやっているとはね……。
★★★

参考:
竹林軒出張所『古き良きアンティーク文房具の世界(本)』
竹林軒出張所『日本懐かし文房具大全(本)』
竹林軒出張所『かつをぶしの時代なのだ(本)』
竹林軒出張所『本当はちがうんだ日記(本)』

by chikurinken | 2010-10-25 10:17 |

『赤と黒』(映画)

b0189364_981395.jpg赤と黒(1954年・仏)
監督:クロード・オータン・ララ
原作:スタンダール
脚本:ジャン・オーランシュ、ピエール・ボスト
出演:ジェラール・フィリップ、ダニエル・ダリュー、アントネッラ・ルアルディ

 スタンダールの『赤と黒』の映画版。ジェラール・フィリップが、上昇志向を持つ下層階級の美青年、ジュリアン・ソレルを演じる。ジェラール・フィリップは、最高のジュリアン・ソレルの評価を受けていたと言う。
 ジェラール・フィリップ以外もキャストはすばらしく、ダニエル・ダリュー、アントネッラ・ルアルディの美貌の女優陣が相手を務める。原作で想定された世界もかくありなんという感じである。衣装や風俗も美しく、文芸ものの翻案としてはこれ以上ないほどの贅沢と言える。
 ただ、僕はどうもこのストーリーになじめなかった。ところどころ納得がいかない、というか僕の中でつじつまが合わない場面があったが、どうも原作を適当にはしょっているようで、確かに3時間半の大作だけに省略はやむを得ないとしても、結局そういう部分は違和感として最後まで残ることになる。要するに原作を読んだ人向けの映画ということなんだろう。僕は原作を読んでいないので、原作もそういうものかと思って見ていたが、今ストーリーだけを読んでみたところ、梗概レベルでありながらそういう部分もしっかり説明されていた。こういうところは映画の中でもしっかり説明が欲しかったと思う。それに映画では、心情の表現なども独自の解釈を加えているようで、そのあたりも僕は見ていて納得がいかなかった。これだけ良い素材を集めたんだから、原作に忠実に作ってほしかったと思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『原作と映画の間』
竹林軒出張所『居酒屋(映画)』
竹林軒出張所『ゴリオ爺さん(映画)』
by chikurinken | 2010-10-24 09:09 | 映画

『刑事』(映画)

b0189364_984458.jpg刑事(1959年・伊)
監督:ピエトロ・ジェルミ
原作:C・E・ガッタ
脚本:ピエトロ・ジェルミ、アルフレード・ジャンネッティ、エンニオ・デ・コンチーニ
出演:ピエトロ・ジェルミ、クラウディア・カルディナーレ、ニーノ・カステルヌオーヴォ

 『鉄道員』でお馴染みのピエトロ・ジェルミによるミステリー・ドラマ。ピエトロ・ジェルミが主役の刑事を演じているが、ちょっと「はぐれ刑事」が入っていて、怒鳴ったりどついたりして何だか感じが悪い。もちろん「太陽にほえろ」みたいなむちゃくちゃなことはやらないが、ドラマの刑事っつーのはどうしてもこういうふうになるのであろうか。
 主役に名を連ねるクラウディア・カルディナーレが目当てで見たんだが、あまり出てこない。むしろ端役のような印象さえ受けるが、途中から「あーなるほど」という具合になる。ドラマとしては、可もなく不可もなくという感じで、特に感じるところもなかった。エンタテイメント映画に成り下がっているというか、端からエンタテイメント映画だったのかも知れない。終いの方に、他のイタリア映画のパロディのような映像がいくつか出て来たが、一番の見所はそのあたりか。カルディナーレはやはりなかなか魅力的であった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『山猫(映画)』
竹林軒出張所『若者のすべて(映画)』
竹林軒出張所『ブーベの恋人(映画)』

by chikurinken | 2010-10-22 09:09 | 映画

『フェルメール盗難事件』(ドキュメンタリー)

フェルメール盗難事件〜解き明かされた名画の謎〜
(2001年・NHK)
NHK-BS2

b0189364_8395947.jpg フェルメールの絵画は、現在世界で30数点しか残されていない。そのため、希少性という点でも価値が高いが、そのうちの4点(のべ5回)が過去に盗難に遭っている。このドキュメンタリーでは、その盗難事件と、その事件に伴って明らかになったフェルメールの絵画の秘密について紹介していく。2001年に製作されたもので、先日NHKアーカイブスとして放送された。
 盗難事件についてはいずれもまったく知らず、なかなか細かい部分まで踏み込んでいて興味深かったが、なんといってもフェルメールの技法についての解説が面白かった。
 これまでフェルメールの遠近法の正確さについては、カメラ・オブスキュラ(カメラの原型みたいな装置)を使ったせいで可能だったと言われていたが、しかしこの番組で紹介されていた方法には説得力があった。
 「手紙を読む女」が2回目に盗難された後に発見された事実なのだが、フェルメールの絵画のうち約半分に、中心付近にピンホールが空いているということがわかった。ピンホールは、遠近法の消失点に当たる位置にあり、ここにピンを刺して糸を結び、それを周囲に伸ばして、糸にチョークを付け(大工が油壺でやるように)はじくと、簡単に基準線を作ることができる。番組では、これを発見した研究家が実演していたが、フェルメールの絵の、遠近感を作り出している線とピッタリ一致していた。
 また、地色に赤褐色系の絵の具を下塗りしていたという話も興味深い。この事実は図らずも、盗難時に絵が切り取られたせいで判明したらしい。長い目で見れば何が幸いするのか分からないものである。
 ともかく取材やインタビューなどもしっかり行われており、間口も奥行きも非常に深い、優れたドキュメンタリーだった。

 写真は、1990年にイザベラ・ガードナー美術館から盗まれて今なお所在が分かっていない、フェルメール作の『合奏』という作品。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『FBI美術捜査官 奪われた名画を追え(本)』
竹林軒出張所『消えたフェルメールを探して(映画)』
by chikurinken | 2010-10-21 08:43 | ドキュメンタリー

『ラ・ジュテ』(映画)

b0189364_9351664.jpgラ・ジュテ(1962年・仏)
監督:クリス・マルケル
脚本:クリス・マルケル
出演:エレーヌ・シャトラン、ジャック・ルドー、ダフォ・アニシ

 第三次世界大戦後の地下世界を舞台にしたSF映画。
 ま、しかし、そこはそれ、ヌーベルバーグの映画監督が作った映画なので、一筋縄ではいかない。なんと全編、静止画(つまり写真)で、ナレーションと音響、音楽だけがかぶせられる。大人向けの紙芝居といったところか。30分近くの映画だが、最後の方は少し退屈した。なんせ静止画だから。ただ使われている写真は質が高く、ストーリーもなかなか面白い。デキはよいが、映画としては相当変わっている。実験的にもほどがあるというものである。
 この映画、実は以前アングラ系の劇場で見たことがあるが、内容をまったく覚えていなかった。今回も見てから2日後に、さてラストはどうだったっけと思い直し、もう一度見返した。静止画のせいか、やはり印象が薄いのだな……。30分と短い映画で、それほど苦痛ではないので、機会があればご覧ください。

★★★
by chikurinken | 2010-10-20 09:36 | 映画