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竹林軒出張所

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『嘆きのテレーズ』(映画)

b0189364_8511217.jpg嘆きのテレーズ(1952年・仏)
監督:マルセル・カルネ
原作:エミール・ゾラ
脚本:マルセル・カルネ、シャルル・スパーク
出演:シモーヌ・シニョレ、ラフ・ヴァローネ、ローラン・ルザッフル

 『天井桟敷の人々』のマルセル・カルネが、エミール・ゾラの『テレーズ・ラカン』を映画化したもの。
 マルセル・カルネの映画だからてっきり『天井桟敷の人々』みたいなテイストの映画かと思っていたが、サスペンスものだった。サスペンス映画はあまり好きじゃないのでちょっと参ったが、それなりに見ることができた。なかなか凝ったストーリーではあるが、途中である程度結末が読めてしまった。原作は『テレーズ・ラカン』であるが、原作ではこの映画の後もまだ話は続くようで、おそらく監督のカルネが原作のサスペンスの部分を強調して映画化したのではないかと思う。『テレーズ・ラカン』では、主人公のテレーズとその相手のローランとの背徳性が執拗に描かれるらしいが(なにぶん原作を読んでいないのでよくわからない)、映画ではそのあたりは割とサラッとしていた。また、テレーズを演じたシモーヌ・シニョレの演技も必要以上にクールで、この映画では「激しい恋」に落ちたことになっているが、そういう要素は感じられなかった。
 正直ストーリー展開以上の面白さはあまり感じなかったが、サスペンスとしては良くできた映画で、サスペンス映画の教科書みたいな映画であった。
ヴェネツィア映画祭銀獅子賞受賞

★★★☆

参考:
竹林軒出張所『霧の波止場(映画)』
竹林軒出張所『港のマリー(映画)』
by chikurinken | 2010-08-30 08:52 | 映画

『修復からのメッセージ』(本)

b0189364_9191667.jpg修復からのメッセージ
森直義著
ポーラ文化研究所

 ベルギーで修行し、現在、西洋絵画の修復士として活動している著者による修復概論。
 絵画の修復の実際やその歴史について述べられているが、広範囲にわたって概論的に記述されているため、教科書であるかのような印象を受ける。また、僕のような修復の素人にとっては容易に理解できない箇所もある。図版が多用されていて、その点は理解を助けているんだが、図版が入っている場所と、それに対応する解説の場所が離れていることが多く、読むときに前後に頻繁に移動しなければならない。図版を一箇所に集めようとしている意図はわかるんだが、読みづらいったらない。このように本の体裁としては疑問符が付くが、内容は修復の基本を理解する上で役に立つものである。
 絵画は、経年と共に劣化してくるので、どのようなものであっても修復が必要になるが、これまで行われてきた修復はひどいものも多いらしく、加筆も多く(しかも悪い方向へ!)、画面を拡大して加筆するなどといったことすら行われているらしい。そういうこともあって、修復についてはさまざまな議論が(ヨーロッパで)重ねられてきており、現在では、オリジナルを損なうことなく修復を行うことが主流になっている。どうしても加筆が必要になる場合(欠損部があって鑑賞が損なわれるような場合)は、後で簡単に除去できるような方法で行うようにするという。
 結局のところ、修復においては、何よりも、作品に対する(文化史的)理解が必要で、それぞれに適した修復を施すことが重要であるということ。現代的な視点から見ると至極当たり前の結論ではある。
 分量もあまり多くなく、図版も多用されているので、入門書としては適していると思う。ただし「絵画修復」の入門が(僕を含めて)一般人にとって必要かどうかはよくわからないが。絵画鑑賞の理解の助けにはなる……かな。

★★★
by chikurinken | 2010-08-29 09:19 |

『イルカを食べちゃダメですか?』(本)

イルカを食べちゃダメですか? 科学者の追い込み漁体験記
関口雄祐著
光文社新書

b0189364_1943761.jpg イルカ漁を告発したドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』が話題になって久しいが、本書は、告発された側、つまり和歌山県太地町の側からの言い分である。
 著者は、かつて水産庁調査員(非常勤、つまりバイト)として同地に住み、数年にわたり同地のイルカ追い込み漁の漁師らと寝食を共にした、動物生態学の研究者である。映画で告発されたイルカ追い込み漁にも参加している。
 僕は『ザ・コーヴ』は見ていないし、その主張するところにもまったく共感を抱いていないので、本書の言い分(つまりおそらくは漁師側の主張)はほぼ100%共感できる。僕自身は、イルカだろうが鯨だろうが、人間以外の生き物を人間が食べることを悪いとも思わないし、それが気に食わないからと言ってそれにイチャモンを付けたり、威力業務妨害をする人々に対してまったく共感を憶えない。しかも文句をつけている側の人たちも、獣を虐殺して獣肉を喰っているわけで、まったくもって説得力がないと思う。鯨やイルカ(基本的に同類だそうだ)を食べる人に文句を言うならベジタリアンになってから言えよな、と思う。ちなみに僕はペスコ・ベジタリアンで獣の肉は食べない。だからといって、西洋人に牛肉を食べるのをやめろなんてことは言わない(牛肉を食べることが良いことだとは思っていないが)。そういうのは不遜な態度であって、自分がそう信じるからと言って人に押しつけるのは、ただの原理主義に過ぎないわけだ。
 少なくとも反捕鯨運動が、これまで鯨漁(イルカ漁も含む)を生活の糧にしてきた人を圧迫しているのは確かである。それまで誇りを持ってやって来た仕事が、急に周囲から極悪非道のように糾弾されだしたら誰だって戸惑うだろう。しかも攻撃する側の主張ばかり表に現れ、被害者である漁師の主張は表に現れることはない。そういった現状を考えると、このような本が出てきたのはすばらしいことなのである。是非、この内容を映像化して、ニュース番組などで大々的に取り上げてほしいものだと思う。
 さて、本書の内容だが、まず第1章と第2章で著者の太地での経験が語られる。同時に、イルカ追い込み漁の方法や同地での習慣などが紹介される。実体験に基づいているだけあり、迫真的で、一番面白い箇所である。第3章は、イルカ追い込み漁の歴史、古式捕鯨との関係などが語られるが、正直この章は、本書の中で一番つまらない箇所であった。その後は、イルカの生け捕り、捕鯨の問題、鯨肉の食文化についての話が続く。
 第3章もそうだが「どうしてこういうことをわざわざ取り上げているのか」という箇所が多かったが、おそらくこれは『ザ・コーヴ』を意識してのことだと思う。たとえばイルカや鯨が水銀汚染されていることについて検討している箇所があるが、実に唐突である。だがどうも『ザ・コーヴ』に、鯨類が水銀に汚染されていて食に向かないみたいな主張があるようで(未確認)それに対する反論になっているのだろう。第3章の古式捕鯨との関係も、イルカ追い込み漁が伝統的な漁法ではないという主張に対抗するものなんだと思う。本の展開としてはこういった箇所は余分で、全体のスムーズな流れを断ち切るような要素になってしまっている。もちろん、本書が『ザ・コーヴ』に対する反論という立場で書かれていることを考えると致し方ないのかも知れないが(そのあたりだけまとめて記述するなどの方法もあったのではないかと思う)。
 正直『ザ・コーヴ』についてはあまり関心はないが、この映画にまつわる一部のナショナリストの動きは非常に不快なものであった。上映を妨害して何になるのかと言いたい。むしろ漁師側の立場を悪くしてしまったのではないかとさえ思える。かれら(ナショナリスト)のやっていることは、自分の考え方を他者に押しつけることであって、要するに反捕鯨運動と同じように原理主義なのだ。あの一連の事件は原理主義者同士のぶつかり合いで、そういう愚か者たちの行動のせいで迷惑を被るのは、普通に生活を営んでいる漁師たちなんだな。要は、原理主義者に煽動されることなく自分の頭で考えることが大切ということ。この本がそのための良い材料を提供してくれていると思う。

追記:第3章の冒頭に、現地にやってくる環境保護団体の人々についての、現地の人々のコメントが書かれている。
「あいつらはホンマ、やくざやで。ちょっと、ぶつかると大げさに転んで、『いてててヤラレタよ〜』と叫んでそれを撮影させる」
「とにかくいうことを聞かない。(立入禁止)と英語でも書いてあるのに、平気で入ってくる」
(本書87ページ)
 僕はこの部分を立ち読みで読んで「さもありなん」と思い、この本を読む気になった。

★★★☆
by chikurinken | 2010-08-28 19:05 |

『御伽草子 マンガ日本の古典21』(本)

b0189364_20153332.jpg御伽草子 マンガ日本の古典21
やまだ紫著
中央公論社

 日本の古典をマンガ化するという企画で、全32巻ある中の第21巻。題材は『御伽草子』で、これを担当するマンガ家はなんと、やまだ紫! やまだ紫……知らない人はまったく知らないと思うが、相当な実力者で、作画も内容も傑出した作家である(昨年脳内出血で死亡)。そのやまだ紫が苦労に苦労を重ねてマンガ化した(という)のがこの『御伽草子』である。
 ただしマンガ化した対象が『御伽草子』というのは少し残念な気もする。『御伽草子』は、室町時代頃の説話を総称したもので、有名なものに「一寸法師」や「鉢かづき」、「ものくさ太郎」などがある。というわけで、ふたを開けてみると「おとぎ話じゃん」ということになる。こういうものを原作(つまり古典作品)で読めば、現代のおとぎ話とギャップがあってさぞかし面白いと思うが、これをマンガ化すると、それこそ子ども向けおとぎ話集になってしまうわけで、そのあたりが残念なところである。もちろん、さすがやまだ紫で、絵や表現は抜群のうまさ、面白さなのだが、なにしろ内容が内容。他の古典作品をマンガ化してほしかった気もするが致し方ない。
 さて、この『御伽草子』で取り上げられたのは、上記の3編の他、「長谷雄草子」、「酒呑童子」、「猫の草子」で計6編。この後者の3編については、僕は内容をあまり知らなかったのでなかなか楽しめた。先ほども言ったが、とぼけた表情や優美な女性の表現など、マンガ表現はなかなかのものである。さながら現代の絵巻物といった風情で芸術性も高い。もっとも「現代のマンガはかつての絵巻物の系統をひいている」という人もいるくらいなんで、現代最高のマンガ作家の1人、やまだ紫の作が「絵巻物」的であってもまったくもっておかしくはないのだが。
 このシリーズ、他にも錚々たる顔ぶれ(マンガ家)が、古典のマンガ化に挑んでおり、なかなか意欲的であると同時にうれしいシリーズである。決して学習マンガのレベルではない。今後何冊か読んでみたいと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『今昔物語(上)(下) マンガ日本の古典8、9(本)』
竹林軒出張所『落窪物語 マンガ日本の古典2(本)』
竹林軒出張所『源氏物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『とはずがたり マンガ日本の古典13(本)』
竹林軒出張所『春色梅児誉美 マンガ日本の古典31(本)』
竹林軒出張所『平家物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『太平記(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『奥の細道 マンガ日本の古典25(本)』
竹林軒出張所『日本人なら知っておきたい日本文学(本)』
竹林軒出張所『セクシィ古文(本)』
by chikurinken | 2010-08-26 20:16 |

今日の歳時記 「処暑にあたり」編

b0189364_9563799.jpg 頭が痛い。
 ここのところ暑いので夜は扇風機を回しながら寝ているが、暑い間は夜中じゅう扇風機を回してもそれで風邪をひくというようなことはない。ところが、昨日は朝方ちょっと寒さを感じたので、それが悪かったのかも知れない。
 僕は低体温のせいか、ちょっとしたことで風邪をひく。夜中に寒さを感じたら風邪をひくことが多いので、冬は布団や毛布を幾層にも積み重ねてその中に潜り込んでおり、感覚としては冬眠中の熊に近い。
 昨日は夜中に寒さを感じたので、そろそろ灼熱の夏も終わりなのかと思ったら、案の定、二十四節気の処暑(8月23日)ではないか。処暑というのは、暑さが後退し始める時期で、しかるべき書物では「陽気とどまりて、初めて退きやまんとすれば也」とされているらしい。この二十四節気というのは、1年を24に分けてその時期の特徴を表す名称が付けられたもので、日本では江戸時代に採用されたらしいが、これがまったく馬鹿にならない。先日も、真夏であるにもかかわらずふと秋を感じる日があったが、その日がちょうど立秋に当たっていた。
 太陽の位置に従って季節を分けているので、毎年同じような特徴が出るのも当然といえば当然なのだが、毎年「ズバリ、ドンピシャ」と思えるタイミングが必ず何度かある。昔作られたものだといっても、今もってまったく廃れていないと感じる。もっとも二十四節気を気にするのはおおむね、灼熱の夏と厳寒の冬くらいではあるが。
 処暑を迎えて、いよいよ暑さも一段落と見て良いのだろう。これからは逝く夏を惜しむ日々になるのか……と感傷に浸りながらも、自分はといえば、ひどい頭痛に苦しんでいるのだ。

(処暑にあたり……)
   灼熱の次は頭痛で苦しみぬ

(立秋にあたり……)
   小さい秋見つけた 今日は立秋なり
by chikurinken | 2010-08-24 10:01 | 歳時記

『39 刑法第三十九条』(映画)

b0189364_9241041.jpg39 刑法第三十九条(1999年・光和インターナショナル)
監督:森田芳光
原作:永井泰宇
脚本:大森寿美男
出演:鈴木京香、堤真一、岸部一徳、江守徹、杉浦直樹、吉田日出子、樹木希林

 タイトルの刑法第三十九条とは「心神喪失者を責任無能力として処罰せず、心神耗弱者を限定責任能力としてその刑を減軽すること」(Wikipediaより)を定めた法律で、凶悪犯罪の加害者が無罪になるなど、被害者の心情を逆なでにするような扱いが往々にして議論の的になるものである。この映画でもこの点をテーマに据え問題提起している。が、問題提起が主というよりも、むしろサスペンス・ドラマのモチーフという扱いで、問題提起はありきたりである。
 ただしドラマとしては秀逸で、森田芳光の才能がいかんなく発揮されている。森田芳光ほど、傑作と駄作を大量に生み出している映画監督はいないと思うが、ちゃんと作った映画と適当に作った映画がはっきりと分かれていて、「ちゃんと作った映画」については、意欲的なものが多く、演出も優れている。この映画も「ちゃんと作った映画」に入り、演出が凝りまくっている上、キャストもすごい。演出やカメラワークは意表を突くものが多いが、奇を衒うというものではなく、大きな効果を上げている。キャストはそれぞれ芸達者な人達をピックアップしており、隙がない。
 この映画は意表を突くストーリーが持ち味であるため、ストーリーについては触れないが、法廷での場面なども、一般的な映画やドラマみたいにさっそうとした弁護士や検察官が登場するわけではなく、弁護士や検察官もなんだかやる気がなさそうな感じで、とてもリアリティを感じた。実際の公判は見たことがないのでどちらが本物に近いかはわからないが、法廷シーンが異色であることは確かである。
 全体に堅牢な作りで、がっしりと構築されているという印象で、非常に濃密な映画であった。ただし、内容が少し複雑であるため、途中わけがわからなくなる箇所があったが、僕の場合、法廷ものを見ると大抵同じようなことになるので、これがこの映画の欠点なのかどうかはよくわからない。また、ストーリーも一部ご都合主義的なところがあったが、全体として見ればあまり無理がなく、展開をぶちこわしにするようなものではなかった。サスペンスものとして非常に優れた映画であると思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『森田芳光の映画、3本』
竹林軒出張所『武士の家計簿(映画)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(映画)』
竹林軒出張所『断定する人』
by chikurinken | 2010-08-22 23:22 | 映画

『生活保障』(本)

b0189364_8314830.jpg生活保障 排除しない社会へ
宮本太郎著
岩波新書

 今の日本の社会保障制度が立ちゆかなくなっているのは、多くの人が共通に感じていることで、早急になんとかしなければならない問題と考える人は多い。本書では、なぜ近年、日本の社会保障制度が(事実上)崩壊したか、その基本構造を明らかにすることで解明し、同時に、将来どういう方向性をとるべきか、その大目標というべきプランを提示する。
 日本の社会保障制度は、企業が労働環境、家庭環境、引退後の環境を保証するという、企業中心の「日本型生活保障」に基づくもので、北欧や西ヨーロッパの生活保障とも違う独特な制度である。だが、雇用スタイルと家族環境が変容していく中でそれに対応できなくなり、その結果、現在のような破綻状況が生じたというのが著者の分析である。
 他方、社会保障の「優等生」といわれる北欧の生活保障は、雇用を中心とした制度で、離職した人々に対して生活保障を行いながら再教育を行うことで再び新しい分野の雇用へと駆り立てるというものである。これまで成功を収めていたこの制度も、グローバリズムなどの影響で新しい雇用を生み出すことが難しくなり、見直しが始まっているという。
 世界中で社会保障制度に行き詰まりが生じている状況で、本書では新しい社会保障制度として、雇用と教育、雇用と家族(介護など)、雇用と失業、雇用と病気・引退などとの間に流動性があり、簡単に職場に復帰できる制度を掲げている。このとき(地域活動などを含む広い意味での)職場が、個人と社会との関わりや自己実現をもたらす場として想定されている。このような流動性をもたらすシステムこそが理想であり、そのために現在の諸制度を作り替え、国、自治体、地域コミュニティのレベルで責任(つまり負担)を分担していくべきだとする。確かに、著者が掲げるシステムは魅力的ではあるが、実現するためには相当な労力が必要になりそうだ。たとえば国、自治体、地域コミュニティで負担を分担するシステムを作るのは、それぞれの利害もあることだし、かなり難しいのではないかと思える。そういう意味で本書の主張は「大目標の提示」というふうに理解できるのではないかと思う。著者は行政の社会保障関連の審議会のメンバーにもなっているということで、このような「大目標の提示」を行政レベルでやっていただけると大変ありがたいと思う。いずれにしても、現在の機能しない社会保障は早急になんとかしなければならない……これは万人の共通の認識である。
 一言付け加えると、本書は内容も難しいが、記述も平易とは言い難く、大変読みづらい本であった。まあ、これだけの内容をこの分量にとじ込めているのでしようがない面はあるが、大学の教養部の授業を聴くように、少しずつ時間をかけて読んでいくのが良いのではないかと思う。

★★★☆
by chikurinken | 2010-08-20 08:32 |

『煙突の見える場所』(映画)

b0189364_8533532.jpg煙突の見える場所(1953年・新東宝)
監督:五所平之助
原作:椎名麟三
脚本:小国英雄
出演:上原謙、田中絹代、芥川比呂志、高峰秀子

 映画雑誌『キネマ旬報』が毎年洋画と邦画のベスト10を発表する「キネマ旬報ベストテン」という企画がある。映画関係者、映画評論家などがそれぞれその年のベスト10を決めて、それを集計したものが「キネマ旬報ベストテン」になるわけで、おおむねその年に評価が高かった映画が上位に来ることになる。そのため、映画をよく見るようになった頃、これを参考にして上位の映画から集中的に見るようにした。たとえば自分が生まれる前であれば、どういう映画が良いかなんてことはまったくわからないので、(しかも当時予備知識もなかったこともあって)ひとつの指針として利用したのだ。実際、現在日本の映画で評価の高い、黒澤明、小津安二郎、成瀬己喜男、木下恵介、今井正などの作品はおおむね上位に来ているので、このベストテンもあながちいいかげんとは言えない。つまり当時の評価をわりとよく反映しているのではないかと思えるわけだ。で、1953年の「キネマ旬報ベストテン」は、1位、にごりえ(監督:今井正)、2位、東京物語(監督:小津安二郎)、3位、雨月物語(監督:溝口健二)ときて、4位がこの「煙突の見える場所」で、名だたる名画に続いて高い評価を得ている。そういうわけで、この映画はタイトルしか知らないにもかかわらず、長い間気になっていたのだった。
 で、このたび機会ができて、見てみたんだが、正直何が評価されているのかよくわからないのである。ストーリーも凡庸で、途中から(序盤で)大体筋が見えてしまった(『狐の呉れた赤ん坊』などのバリエーション)。演出もあまり見るところがない。実ははじめの方で見るのをやめようかと思ったんだが、中年夫婦の夫(上原謙)と間借り人の女(高峰秀子)の間に特殊な関係があるかのような演出があり、見るこちらも少し張り切ってしまって、結局最後まで見てしまった。でも実際には何もなかったわけで、ちょっとこんな演出ないんじゃないのと突っ込みたくなるところだ。
 というわけできわめて凡庸な映画であるにもかかわらず、当時は評価が高かったようで、こういう「なぜかわからないが当時評論家受けした作品」というのが「キネマ旬報ベストテン」には割に多いのも事実である。この映画もそういった映画ではないかと思う。
 もちろん、人情の機微というか、赤ん坊が入ることで生じる夫婦間のきしみみたいなものも表現されてはいるが、インパクトは弱い。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『五重搭(映画)』
竹林軒出張所『マダムと女房(映画)』
by chikurinken | 2010-08-18 08:54 | 映画

『しあわせのかおり』(映画)

b0189364_933691.jpgしあわせのかおり(2008年・東映)
監督:三原光尋
脚本:三原光尋
出演:中谷美紀、藤竜也、田中圭、八千草薫

 市井の料理人にシングル・マザーの女性が弟子入りするという自分探しの映画だが、どことなく『のんちゃんのり弁』を彷彿とさせる話である。言ってみればよくあるストーリーで、映画でもテレビでも頻繁にリサイクルされるような話である。登場人物がそれぞれのマイナス面を補い合いながらプラスに転じさせ大きな幸せを作り上げるというハートウォーミングなストーリーであるため、万人受けしそうで、そのあたりが使い回しされる理由なんだろうと思う。
 ただし本作は、ストーリーはともかく、全体の作りが非常に丁寧で、映画としては上質である。料理(すべて中華)のシーンが多いのも楽しい。もともと料理のシーンが目的で見た映画ではあるが、それについては十分で、ほんとうに「おなかいっぱい」という感じである。キャストの中谷美紀や藤竜也も、それなりに中華料理のトレーニングを積んできたのではないかと思われるほど、調理シーンが自然に見えた。といってもこれは、料理の素人である僕の目から見ての話である。演出面も手堅く、スタッフの力量を感じさせられる。舞台が金沢ということもあり、僕はてっきり原作ものかと思ったが、監督のオリジナル作品のようだ(これについては未確認)。よくある話ではあってもディテールが非常によくできていたので、原作もののような気がしたんだが、そのあたりは脚本家(つまり本作では監督ではあるが)の力量と言うことができる。ただ、中国のシーンは不要ではないかと思った。このシーンについてはちょっともたついた印象がある。
 とは言え、全体的に破綻はなく、ドラマとしても料理映画としても優れた作品に仕上がっていて、安心して見ることができる。家族で見ることができる優良映画であると思った。大変おいしゅうございました!

★★★☆
by chikurinken | 2010-08-16 09:09 | 映画

『総員玉砕せよ!』(本)

b0189364_8365057.jpg総員玉砕せよ!
水木しげる著
講談社文庫

 水木しげるの戦記ものの代表作。ラバウルでの実体験がかなり盛り込まれているので、リアリティがある。というより、逆にこれがリアルな戦争なのかと納得する。実体験は盛り込まれているが、すべてが自伝的というわけではなく、一部フィクションになっている(著者によれば「90%は事実」)が、戦友に対する鎮魂という要素が作者にあったのだろうか、展開が一部わかりにくくなっている。悪くいえば「独りよがり」の部分が見受けられる。人に読ませるというよりも自分のために描いたんだろうかと推察される由縁である。また、一部、登場人物が区別しにくい箇所もあった。とは言え、文章ではなく絵で見せることで臨場感をもたらしており、これは文字ではできない芸当である。そういう意味でも、日本の戦記文学(マンガを文学というカテゴリーに含めた場合)の代表作であるのは確かで、実体験を芸術に昇華できた稀有な作品の一つと言うことができる。
 先日紹介したドラマ、『鬼太郎が見た玉砕』は、本書の忠実なドラマ化になっており、内容はほとんど同じである。役者が登場人物を演じているため、マンガでは区別しにくかった登場人物の違いはよくわかった。また本書のあとがき(著者によるもの)や解説もドラマには盛り込まれており、その点でもよくできていたと思う。
 ともかく、戦場の理不尽さと(日本)軍の愚かさがよく伝わってくる快作であった。表紙の絵もヨイ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『鬼太郎が見た玉砕(ドラマ)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』
竹林軒出張所『敗走記(本)』
竹林軒出張所『野火(映画)』
竹林軒出張所『俘虜記(本)』
竹林軒出張所『ゆきゆきて、神軍(映画)』
by chikurinken | 2010-08-15 22:34 |