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竹林軒出張所

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iPadの衝撃 その1

 アップルがもうすぐiPadを発売するが、iPadの発売で、新聞・出版が大きなパラダイム・シフトを迎えるのは間違いないだろう。かつてiPodが音楽産業に与えた影響を上回る衝撃を新聞・出版産業に与えるのではないかと思われる。そこで、iPad発売を控えたこの時期に、iPadについて考察しておこうと思う。

iPodの衝撃
 新しい発明というのは、発明者個人が突発的に世の中に送り出したのではなく、社会的な土壌ができあがり、そこにさまざまな発明や改良が現れ、最終的に実用になったものがいわゆる「発明」になるんだそうだ(『発明はいかに始まるか』参照)。グーテンベルグもライト兄弟もジェームズ・ワットもしかりである。
 アップルがiPodを世の中に出して、音楽界にパラダイム・シフトを興した状況を考えてみるとわかりやすい。当時、アップルは、携帯プレイヤーの元祖ではまったくなく、すでにMP3プレイヤーは相当数世の中に出ており、しかも価格もこなれたものになっていた。つまり1つの市場としてできあがっていた。また、iTunesのような、パソコンで音楽を管理するタイプのソフトも結構普及しており、そういう意味ではアップルが特段目新しいことをやったわけではない。強いてアップルの功績を挙げるならば、iPodに大容量のハードディスクを搭載して大量の音楽データを持ち運べるようにしたことと、パソコンとの統合を洗練されたものにしたこと、さらに音楽の電子版の販売もそこに統合したことである。だがおそらく、後世から見ると、音楽媒体の電子化の発明者はアップルということになるんだろう。
b0189364_122381.jpgb0189364_1201619.jpg 当時の状況は、MP3形式が一般的になって、それまでCDなどの形でしか持ち運べなかった音楽をパソコンに保存できるようになった……という状態であった。これは当時のユーザーにとっては衝撃であった。CD1枚分の音楽データをパソコンに入れると650MBほどの容量を消費するのだが、MP3形式に変換すればこれが1/10くらいの容量になる。当時のハードディスク容量はおそらく1GBから5GBが一般的だったのではないかと思うが、CD1枚が50MB程度であれば数枚分はパソコンに保存できるということになる。かく言う僕も、よく聴く曲に限ってだが、パソコン上に取り込んで、ジュークボックスみたいにしてよく聴いていた。その際、僕が使っていたソフトはSoundJam MP Plusというものであった(Mac版、WindowsではWinAmpを使っていた)。このMP3形式の曲を持ち歩くために、ソニックブルー製のRioというMP3プレイヤーも買った。容量が128MBで値段は1万円もしなかったと思う。すでにこなれた値段だったことがおわかりいただけると思う。軽い上に衝撃にも強いので、ジョギングで使うのに最適だった。USBメモリーと同じように使える(USBメモリーにもなった)ので、曲はパソコン上で通常のファイルと同じような方法でコピーしていた。
 こういった状況でアップルがiTunesとiPodを投入してきたわけである。だからアップルが出てきたときにはすでに土壌はできあがっていたことになる。その後は、先ほども言ったように、アップルの一人勝ちの状況になっていった。ちなみにiTunesは、SoundJam MP Plusを母体にして作られたものである。結局、SoundJam MP Plusはアップルに売却され、その後廃止されることになった。このソフトを購入して使っていたユーザー(僕も含む)は、サポートが打ち切りになった上、しかもアップルが無料で同様のものを出すということになって、大いに馬鹿を見た。
第2回に続く)
上の図はどちらもSoundJam MP Plus。「スキン」を変えることで外観をこのように変えることができる。僕は下のスキンを使っていた。

参考:
竹林軒出張所『iPadの衝撃、もといiPod Touchの衝撃』
by chikurinken | 2010-03-31 12:05 | 社会

『火の魚』(ドラマ) ラストが特にヨイ

火の魚(2009年・NHK広島)
演出:黒崎博
原作:室生犀星
脚本:渡辺あや
出演:原田芳雄、尾野真千子、高田聖子、岩松了

b0189364_11493859.jpg 1時間のドラマだが、半分ずつ2日に分けて見た。こういう見方が良いかどうかわからないが、1日目は少しガッカリしながら見て、2日目にかなり引き込まれた。結局2日目は、前半部分も見直すことになった。最初からまとめて見れば良かったんだ、結局は。
 というわけで、こちらも一種の恋愛ドラマなんだろうが、ベタな面はなく、恋愛ドラマという観点からは非常に上品にまとまっている。原作が室生犀星で、小説家と装丁家とのやりとりがメインの小説のようだ。読んでないので詳しいことはわからない。どこまでが原作で、どこまでがドラマの部分なのかも判然としない。
 シナリオはよくできており、主役の作家(原田芳雄)の独白がところどころ挿入されるんだが、これがなかなか決まっている。原田芳雄の存在感もなかなかのものである。
 ただし、編集者(尾野真千子)と作家のセリフが、どうにも僕にはなじめなかった。嘘臭いというかわざとらしいというか、本当に現代人の口から発せられている言葉かと疑いたくなるような響きがある。原作のセリフをそのまま使っているのかどうかはよくわからないが、少しばかり時代錯誤の感じがあった。「前半部分でガッカリ」というのは、このあたりが要因である。だが、演出などはなかなか凝っていて、見るべきところも多かった。小品ではあるが、昨今のドラマの中では際立った要素を持つ佳作である。
平成21年度文化庁芸術祭大賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『一番電車が走った(ドラマ)』
竹林軒出張所『鯉昇れ、焦土の空へ(ドラマ)』
竹林軒出張所『帽子(ドラマ)』
竹林軒出張所『無垢の島(ドラマ)』
竹林軒出張所『命のあしあと(ドラマ)』
竹林軒出張所『“くたばれ” 坊っちゃん(ドラマ)』
by chikurinken | 2010-03-29 11:51 | ドラマ

『遠まわりの雨』(ドラマ) ラストですべてぶちこわし

遠まわりの雨(2010年・日本テレビ)
演出:雨宮望
原作:山田太一
脚本:山田太一
出演:渡辺謙、夏川結衣、岸谷五朗、田中美佐子、AKIRA、井川比佐志、YOU

注意:これから見る方はご注意を。ストーリーや内容についてかなり触れています。

b0189364_1112352.jpg 山田太一の単発ドラマがなんと日テレで。
 山田太一が日テレで仕事をしたというのは、今まであまり聞いたことがなかったが、日テレでもやはり山田ドラマは山田ドラマだった。山田太一は演出面にも相当口を挟むらしいから。今回も山田節が随所に現れるが、むしろ少し古くささを感じた。演出面でも、そろそろターニングポイントに来ているのだろうか……と感じる。
 蒲田の町工場が舞台ということで、山田ドラマらしく鋭い踏み込みを見せはしているが、目新しさはあまりなく、いつものように新しい世界を垣間見せてくれるというようなものではなかった。ストーリー展開についても、山田ドラマの中でも素朴な部類に入る。こちらも目新しさはなく、全体を通してなるようにしかならなかった。つまり自然な流れというか、ありきたりというか、もちろんどう感じるかは見る人次第だが。
 意外だったのは、最後に昔の恋人同士(渡辺謙、夏川結衣)が鎌倉で密会するというシーンで、一気に恋愛ドラマの様相を呈してきたことだ。それまで、恋愛ドラマとは思えないような、家族を中心とした展開だっただけに少し驚きであった。恋愛ドラマにするんなら、家族や同僚、ご近所になるべく焦点を当てず、もっと個人的な関係性を強調すべきではないだろうかと思う。そういうこともあって、鎌倉前、鎌倉後で大きくドラマが分離しているような印象を受けた。そういう点でも、妙に素人っぽく感じたのだった(大先生に対して失礼であるが)。
 2つの家族が登場しそこにさまざまな関係性が生じるというドラマは、山田太一の得意分野であり、これまでもいくつかあった。その中でも『沿線地図』(1979年・TBS)が、「関係性」という点では今回の話に割と似ているような気がする。で、やはりこの家族間にも恋愛みたいなもの(つまり不倫だが)が起こったんだが、関係を持った当事者は、むしろそれに対し嫌悪感を持つという展開になり、一種の事故のような扱われ方だった。こういう扱い方が家族ドラマとして非常に自然な流れで、とにかく身辺がざわついているという印象が伝わってきて、そのあたりが良かったのだ。だから、今回のドラマみたいに、メロドラマに仕立て上げて、強引におもいっきり臭い場面で終わらせてしまうというのはちょっとどうよ、と感じてしまうのである。
 一般的に山田ドラマは、最終回が一番つまらない(本人もクライマックスが苦手だと公言している)のだが、それは、それまでの過程があまりに充実していて、必ずしも完全に収束できないためである。だが、人間の生活なんて必ずしもきれいに収束しないんであって、そういう終わり方も、山田ドラマの質に鑑みるのであれば、実は「あり」なのではないかとも思う。最後に、苦笑い(製作者側に対するもの)が少し生じるというのも、山田ドラマ独特で、それは展開のあまりのすばらしさに対する対比であって、それはそれで良いものである。今回のドラマは、そういう苦笑いの要素はなく、強引(と僕は思ったんだが)に恋愛ドラマのクライマックスに到達したんだが、見ているこちらとしては完全に引いてしまって「もう無理!」という感情が押し寄せてきた。僕にとって、このシーンは、それまでのストーリー展開をすべて台無しにするものであった。台無しになるくらいなら、中途半端なクライマックスの方がずっと良い。中途半端であってもそれは個性みたいなものなんだから、くだらない恋愛ドラマを真似することなんかないと思うが、ほんと、つまらない終わり方をしてくれたと思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『沿線地図(1)〜(15)(ドラマ)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
by chikurinken | 2010-03-28 23:05 | ドラマ

樹里からん、選曲の妙

b0189364_20174674.jpg 以前、樹里からんというジャズ歌手のことを少しだけ書いた(「ジャズヴォーカルもヴィジュアル系」)が、このたび彼女の新しいアルバムをゲットできたので、すこし報告したいと思う。「新しい」といっても昨年の秋に出たもので、なかなかレンタル店に登場しなかったため今の今まで待たされることになった。気に入ってるんだったら買えばいいじゃないかという声が聞こえてきそうだが、1枚良かっただけだから、やはり買うには少し躊躇する。もう少し様子を見させてという感じである。
 で、この新しいアルバム、『She -loves jazz-』だが、樹里からんのアプローチの方法というか、どういう方向に進もうとしているかが、何となくわかるような気がする……というようなCDであった。基本的にこのアルバムも1作目の『Lover's Jazz』と同様で、スローバラードばかりを集め、それをしっとりとした歌唱で歌っている。だから前作が気に入った人は、たぶん2作目も気にいるんではないかと思う。かくいう僕も気に入った。何と言っても選曲が良い。「My heart will go on」に「She」に「Always Love You」だ。もっとも僕は1曲もタイトルは知らなかったんだが(ポップスには疎いもので)。映画『タイタニック』、『ノッティングヒルの恋人』、『ボディガード』のテーマだそうで、聴いてみて、あ、あれかってなもんだ。『Lover's Jazz』も選曲が抜群だったので、たぶこの歌手のセンスの良さから来ているんだろう。ベタに過ぎるという言う人もいるかも知れないが、いろいろな見方があるのはいたしかたないところ。
 樹里からんについて少し補足しておくと、『Lover's Jazz』が、「iTMS(iTune Music Store)を介してワールドワイドな評価を受け、特にヨーロッパでは、イタリア/オランダ/ベルギーでDL(ダウンロード)チャートBEST5入り、その評判が飛び火した台湾等アジアでも高い人気を博」(樹里からんOfficial Siteより、かっこ内は当方の補足)したということである。以前YouTubeでもこのアルバムの中国語版のプロモーション映像が出ていたんで、台湾では人気があるんだろうとなんとなく感じた。日本ではほとんど話題になることもなかったし、プロモーション映像が出たかどうかすら知らない。
 ともかく、このアルバムは、ゆったりと安心して聴くことができるカバー集である。うるさくないのでバックミュージックにも最適である。そういうわけで、新しいアルバムが楽しみな、数少ない歌手の1人である。次のアルバムは是非とも買いたい……と思う……。
by chikurinken | 2010-03-27 20:18 | 音楽

『ランドラッシュ』(ドキュメンタリー)

ランドラッシュ 世界農地争奪戦
(10年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

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 将来の食糧危機に備えて、他国から農地を買収したり借りたりすることで農業生産を確保するという動きが、世界中で広がっているらしい。このドキュメンタリーは、現在進行しているそういう動きを紹介し、日本がその動きに乗り遅れていることを訴えている。
 この番組では、韓国、中国、インドなどがロシア、ウクライナ、アフリカなどで土地を買収(または借用)しているというケースが紹介されていた。特に韓国は国策としてこういう動きを推進しているらしく、政府レベルで動いていない日本の企業が、買収(または借用)合戦で負けるというケースが紹介されていた。「オリンピックでもサッカーでも経済でも負けて今度は土地買収でも……」ということを訴えたいのかどうだかわからないが、かなり煽っているような印象を受けた。正直言って、こういう動きがほめられたもんじゃないのは明らかである。現に韓国は、マダガスカルの農地の半分を99年間借用するという契約を現地政府と結ぶという話があったらしく、それが原因でマダガスカル政府が転覆されたらしい。これはこの番組で紹介されていたケースで、番組自体が農地争奪自体を全面的に肯定しているわけではない(と思う)んだが、全体的に「乗り遅れてはいけない」という主張のように感じた。アフリカの農地買収で起こったさまざまな問題も紹介しているんだが、何となく「言い訳」めいた印象を受けるのだ。
 実際のところ、日本の国内自給率は40%程度で、何かことが起こったら食料安全保障が破綻するのは目に見えているわけで、何年も前から大勢の人がそれについて危惧していたわけだ。ただ、それを解消する方法として他国の農地を奪い取るというやり方が良いとも思えない。日本では耕地が放棄されているケースも多く、農業が職業として機能しにくいという現実がある。行政レベルでこれに対する施策をとってこなかったのは明らかで、それならば食料安全保障という観点からそれに対する施策をやれば良い。こういう理由付けをすれば人々も納得すると思うんだが、ここ数十年、経済効率重視で、農業がないがしろにされてきた。番組でもそこらあたりについては触れているんだが、こちらも何となく「言い訳」みたいに聞こえる。
 現在進行しているランドラッシュの事実をまったく知らなかったので、そういう意味では僕にとって役に立つドキュメントだったんだが、煽りの姿勢は大変不快だった。見る側のこちらとしては、こういう動きから距離を置く方が賢明だと感じたんだが、何となく、韓国との競争に敗れる「負け組」というイメージを押しつけられているようで、後味が悪かったわけである。

★★★
by chikurinken | 2010-03-25 22:06 | ドキュメンタリー

『バレエ・リュス 踊る歓び、生きる歓び』(映画)

バレエ・リュス 踊る歓び、生きる歓び(2005年・米)
監督:デイナ・ゴールドファイン、ダニエル・ゲラー
出演:レイヴン・ウィルキンソン、ナタリア・クラソフスカ、イボンヌ・クレイグ
   ドキュメンタリー

b0189364_9292496.jpg バレエ・リュスの映画があると知って見てみたんだが、いろいろな意味で予想と違っていた。
 そもそも僕が期待していたのは、1900〜1920年頃のディアギレフが主宰したバレエ・リュスを扱った映画だったんだが、この映画は、ディアギレフが死んでバレエ・リュスが解散した後の、新生バレエ・リュスのドキュメンタリーであった。もっとも新生バレエ・リュスが存在すること自体知らなかったし、第二次大戦後まで活動していた(しかもアメリカで!)こともまったくの初耳であった。そういう意味で新鮮ではあったんだが。
 ディアギレフが主宰してパリで人気を博したバレエ・リュスは、ディアギレフが死去してから解散したが、その2年後、2人の興行師(ヴァシリー・ド・バジル大佐、ルネ・ブルム)が「バレエ・リュス・ド・モンテカルロ」という名前で再興する。ディアギレフ時代のバレエ・リュスの舞台、振り付けを踏襲して再び人気を集めるようになり、英国にまでその活動範囲を広げていく。その後、バジル大佐とブルムの確執で、バレエ・リュスは2つに割れ、やがて「バレエ・リュス・ド・モンテカルロ」と「オリジナル・バレエ・リュス」に分かれる。第二次大戦でのヨーロッパの混乱に伴い、両バレエ団はアメリカに舞台を移し、ここでも大人気を博すが、やがてそれぞれ解散へと向かっていく……というのが、この映画で扱われているバレエ・リュス(バレエ・リュス・ド・モンテカルロ)の歴史である。
 この映画では、当時のスターたちのインタビューによる回想を基に話を進めている。インタビューは、その都度部分部分が切り取られて、映画の進行に合わせて使われている。リズム感が生じて演出上良い方法で、多くのドキュメンタリーで使われる手法であるが、ただ、インタビュイーのスターたちについて顔も特徴もまったく知らなかったので、途中、誰が誰かわからなくなって混乱してしまった。もちろんそれでも、バレエ・リュス・ド・モンテカルロの歴史は大体わかるようにはなっているが、総じて、教養ドキュメンタリーみたいな印象は拒めない。あまり感情移入することもなく、お勉強のために見たという感じの映画であった。

★★★
by chikurinken | 2010-03-24 22:22 | 映画

『劔岳 点の記』(映画)

b0189364_9144248.jpg劔岳 点の記(2008年・東映)
監督:木村大作
原作:新田次郎
脚本:木村大作、菊池淳夫、宮村敏正
音楽:池辺晋一郎
出演:浅野忠信、香川照之、松田龍平、仲村トオル、宮崎あおい、小澤征悦

 いろいろな映画で撮影監督をやっている木村大作が、初めてみずから監督したという山岳映画。
 監督がカメラマン出身というのが納得できる映画である。映画は、映像、ストーリー、会話の密度、役者の演技などいろいろな要素で構成されている。この映画は、映像は確かに美しいが、その他の部分は実にありきたりで、特に会話や演出はきわめてステレオタイプだ。下手なテレビ・ドラマを見ているかのように、様式的というか通り一編である。
 また演出面でも、登頂が困難を極めるというシーンが繰り返し画面に出るんだが、撮影が大変だったんじゃないかという以上の感想を持てなかった。「困難な登頂」の演出としてはもの足りない気がする。
 僕は原作も読んでいて、登頂実現に至るまでに、確か長次郎(香川照之が演じる役)が冬に一度単独で登ってみたんじゃなかったかと記憶している。実はこの部分が登頂成功の鍵になるんで一番印象的な部分だったんだが、映画ではそれがそっくり抜け落ちている。困難を極めた劔岳登山がこれで一気に解消に向かうという大事なポイントがないんで、なぜ登頂が不可能から可能に変わったかが映画ではよくわからなくなっている。
 というわけで、映像以外あまり見るべきところがない映画だったと言わざるを得ない。ただし劔岳の映像は非常に美しい。山好きの人にはお勧めである。

★★★
by chikurinken | 2010-03-22 22:11 | 映画

『純粋理性批判』は大きな壁である

 「カントは哲学界のホームラン王です」と学生時代から公言していた僕としては、カントの三批判の筆頭である『純粋理性批判』も是非しっかり読んでおきたいところである。これまで何度か岩波文庫版にトライしたことがあるんだが、その都度途中でやめた。挫折したという感覚ではなく、飽きたという感覚である。とにかく翻訳文がわかりにくい。というか、こんなの日本語じゃねー!というような文章である。正直日本語を読みながら原文を予測するという作業をずっと続けなければならない。言っておくが、カントはことさらに難解な書物を書こうとしたわけではなく、出版当時、わかりにくいという批判を浴びて何度も改訂版を出してわかりやすくするよう努めたんである。もっともそういう文章であるから、元々わかりにくい文章であることは確かなんだろう。ただこれまで(途中までとは言え)読んできた感覚から言うと、それほど難しいことを書いているわけではないということだ。カントは、潔癖かつ整理魔であるゆえ、それまでの哲学界で主流だった理論に検討を加えた上でその対象となった問題を整理した。それが『純粋理性批判』であるというのが僕の認識である。だから内容はともかく、文章自体をややこしくかつ小難しくする必要というのはまったくないのであって、それでもこんなに読みにくい翻訳になっているのは、ひとえに翻訳者の未熟さゆえである……と断じてしまおう。だから、ちゃんとした英語版があれば、そっちを読んでみようかなどと考えていたくらいである。ドイツ語版の翻訳なんて、僕の語学力からすれば無理だから。
b0189364_18461564.jpg で今日、丸善に行ってみたら 『完全解読 カント「純粋理性批判」』 という本が出ていて、これがどうやら、これまでの翻訳に対するアンチテーゼとして、こなれた翻訳の『純粋理性批判』を出してみたというコンセプトらしい。かなり食指が動いたが、とりあえず衝動買いはやめて、一度図書館で借りてみて良かったら買おうということにした。それでも気になるんで、家に帰ってAmazonで少し調べてみたが、もっと良さそうな 『純粋理性批判』の翻訳本も、最近光文社から出たらしい。Amazonの読者批評でも上々である。こちらは全7巻だそうな……。ちなみに岩波文庫版は全3巻、『完全解読』の方は1巻である。どうして7巻にもなるのか僕には見当が付かない(しかも第1巻だけで400ページもあるらしいし)が、そのコンセプトからして非常に興味をそそられるところだ。このシリーズでは『永遠平和のために』も出されているようで、こちらも興味をそそられる。図書館に揃うまで待つか今のうちに買ってしまうか、少し迷っているところである。もっとも買ったところで途中でやめる可能性も非常に高いわけで、それに、たとえこの第1巻を読んだとしても、2巻以降はこれから配本されるということで、なんだか先が長い話になりそうである。フルマラソンを走るような気構えが必要になりそうだ。

追記:
 学生のときに倫理学の先生から「わからないでも良いから原語で読みなさい。読み終わる頃にはなんとなくわかってくるから」と言われたことがある。なんでもこの人は学生時代、『純粋理性批判』をドイツ語で読了したが、読み終わってもさっぱりわからなかったらしい。随分忍耐強い人なんだろう。僕にはまったくもってそんなことは不可能である。ホントは「マンガ純粋理性批判」みたいなものがあればそちらで済ませたいくらいだ。
by chikurinken | 2010-03-20 22:40 |

『独立少年合唱団』(映画)

独立少年合唱団(2000年・サンセントシネマワークス)
監督:緒方明
原作:青木研次
脚本:青木研次
音楽:池辺晋一郎
出演:伊藤淳史、香川照之、光石研、岡本喜八、國村隼、藤間宇宙、滝沢涼子、泉谷しげる

b0189364_9361850.jpg 山間の全寮制中学、独立学園を舞台にした青春(?)映画。
 時代設定が1970年頃ということで、自伝的な話かとも思ったがどうもそういう情報もない。とはいえ妙なリアリティもある。70年という設定もストーリーを考えると確かに納得。紅衛兵や交番爆破事件などがストーリーの重要な要素になっているため、この時代でなければならなかったのだろう。
 全体のテンポはゆったり目で、落ち着いたカメラ・ワークが安心感を誘う。ストーリー自体は結構スリリングでサスペンスもあるが、あまり不安感が前面に出ないのはそのためか。一時期、14歳の少年が持つ不安や逡巡が社会的に話題になったが、この映画ではまさにそれがテーマになっている。そういうわけで、少年期の不快な部分が表現されていてかなり気分が悪かったが、映画としては完成度が高い。よくできた映画だと思う。
 タイトル通り、独立学園のグリー・クラブが中心のモチーフであるが、『スウィングガールズ』みたいな脳天気なサクセス・ストーリーとは少し違って、爽快感はない。どうもストーリーの内容に個人的な土臭いにおいがするのである。

 また、映画監督の岡本喜八が園長役で出演していたのが目を引いた。監督と師弟関係でもあったんだろうかと勘ぐってしまう。
ベルリン映画祭新人監督賞受賞
★★★

参考:
竹林軒出張所『制服の処女(映画)』
竹林軒出張所『女の園(映画)』
竹林軒出張所『いまを生きる(映画)』
by chikurinken | 2010-03-18 22:35 | 映画

森麻季……いろっぽくて良い

b0189364_20301714.jpg 今日は、朝から森麻季の歌を聞いていた。
 森麻季は女性オペラ歌手で、例によってヴィジュアル系。今まで4枚のソロ・アルバム(他にベスト盤が1枚)を出している。ヴィジュアルだけでなく実力も高く評価されているようだ(プラシド・ドミンゴ世界オペラコンクールで優勝など)。
 森麻季という人、僕はNHKのトップランナーという番組でたまたま目にして知ったんだが、そのとき歌っていた『カルメン』の「ハバネラ」がすごく良かった、色っぽくて。カルメンが実在していればこんな感じだろうかという……。だから歌唱云々より演技力がすごいというのが最初の印象であった。オペラ歌手であるんだから演技力が重要なのはいうまでもない。というわけでこの歌手の一番のお奨めはオペラのアリアである。
b0189364_20292763.jpg オペラのアリアを収めたアルバムは『愛しい友よ〜イタリア・オペラ・アリア集』だけだが、イタリア・オペラであるため、残念ながら「ハバネラ」は収録されていない。アルバムとしては、これよりもデビュー盤の 『あなたがそばにいたら』 の方がまとまりがあって良いと思う。「オン・ブラ・マイ・フ」や「春の声」、「踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ」など、有名な曲も入っていて、選曲も非常に良い。歌唱も良い。アメリカでやったリサイタルのライブ録音だそうだ(ただしこれはCCCD!←したがって買ってはいけない)。
 なお、YouTubeでもいくつか映像があり、その中にトップランナーの映像もあった。ただしこれは「ハバネラ」ではなく、プッチーニの『ラ・ボエーム』のアリア(「ムゼッタのワルツ」)である。でもこれもコケティッシュな良い女を好演していて、なかなか色気があって良い。この曲は『愛しい友よ〜イタリア・オペラ・アリア集』に入っているが、このトップランナーのライブ映像の方が断然良いように思う。そういう点でも、やはりヴィジュアル系なのだなと思う。
by chikurinken | 2010-03-16 20:31 | 音楽