ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

カテゴリ:映像( 13 )

ヴェルディ 歌劇『椿姫』(DVD)

ヴェルディ 歌劇『椿姫』(1992年・フェニーチェ歌劇場ライブ)
出演:エディタ・グルベローヴァ(ヴィオレッタ)、ニール・シコフ(アルフレード)、ジョルジョ・ザンカナーロ(ジョルジョ)、マリアナ・ペンチェワ、アントネルラ・トレヴィザン
カルロ・リッツィ指揮
トスカーナ・バレエ団
フェニーチェ歌劇場管弦楽団&合唱団
1992年12月、ヴェネツィア、フェニーチェ歌劇場におけるライブ収録

『椿姫』初演時の再現? 病人に見えないヴィオレッタ

b0189364_801324.jpg ヴェルディのオペラは湿っぽいのでそもそもがあまり好きじゃないんだが、中でもこの『椿姫』の湿っぽさは格別。『椿姫』については、過去、デュマ・フィスの原作戯曲を読んだ上、このオペラ自体も見たことがあるような記憶がうっすらあるんだが、内容はあまり憶えていない。どっちみちあまり好きな作品でないのは確か。それでもまあ、今の時代まで残っているんで何か良いところがあるんだろうと思い、今回DVDを借りて見てみた。
 ストーリーは、若く美しい高級娼婦ヴィオレッタが青年アルフレードと出会うところから始まる。アルフレードはヴィオレッタに思いを寄せ、ヴィオレッタもアルフレードを愛するようになるが、アルフレードの父の反発に遭い、ヴィオレッタはアルフレードのために別れることを決意する。意味がわからずに別れを告げられたアルフレードは逆上するもやがて彼女を忘れるために姿を消す。その間にヴィオレッタは、肺病で患い、瀕死の状態になるが、父から真相を知らされたアルフレードが駆けつけ再会を果たすというもの。
 この薄幸の若き美女ヴィオレッタを演じるのがエディタ・グルベローヴァで、上演時すでに46歳。しかも恰幅が良く、どことなく春川ますみを連想させる。とてもじゃないが薄幸の若き美女を演じるには無理がある。ちなみにこの『椿姫』、1853年の初演時大失敗だったらしく、なんでもヴィオレッタを演じた主演女優が太っていた(病人に見えない)ために失笑を買ったという逸話が残っている。それを再現するつもりだったわけではあるまいが、僕はこの『椿姫』にも、似たような理由からまったく感情移入できなかったのである。実際に舞台を遠くの席から見ていればそれほど気にならないのかも知れないが、接写が頻繁に出てくるDVDの映像では、これはちょっと致命的ではないかと思う。しかも自ら「こんなに若くして死ぬなんて」みたいなセリフ(歌)があるんだが、悪い冗談にしか思えない。ただしグルベローヴァの歌唱は非常に良く、音だけで聴いたら良かったかも知れないとは思う。それから相手役のアルフレードもなんだか少々病的な印象で華がない。オペラは、聴くだけじゃなく見る要素もあるんだからヴィジュアル面にも気を遣ってほしいなというのが率直な感想である。
 『椿姫』自体については、第2幕の第2場にバレエが取り入れられたりしていてサービス精神もあるが、個人的にはやはり過剰なセンチメンタリズムが受け入れられず、途中から完全に飽きていた。やっぱり僕とは相性悪いんかしらね、ヴェルディ。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『椿姫(映画)』
竹林軒出張所『椿姫ができるまで(映画)』
竹林軒出張所『レハール 喜歌劇「メリー・ウィドウ」(放送)』
竹林軒出張所『モーツァルト 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」(DVD)』
by chikurinken | 2013-12-02 08:00 | 映像

レハール 喜歌劇『メリー・ウィドウ』(放送)

レハール 喜歌劇『メリー・ウィドウ』(2012年・東京文化会館ライブ)
出演:アンネッテ・ダッシュ(ハンナ)、ダニエル・シュムッツハルト(ダニロ)、ユリア・コッチー(ヴァランシエンヌ)、メルツァード・モンタゼーリ(ロシヨン)、クルト・シュライプマイヤー(ツェータ男爵)、ロベルト・マイヤー(ニェグシェ)他
エンリコ・ドヴィコ指揮
ウィーン・フォルクスオーパー合唱団&管弦楽団
ウィーン国立バレエ団
トーマス・ベトヒャー合唱指揮
ユルゲン・フリム演出
NHK-BSプレミアム 2012年5月24、26日東京文化会館公演より

b0189364_774333.jpg フランツ・レハール作曲のオペレッタ『メリー・ウィドウ』は、僕が一番好きな歌劇(厳密には喜歌劇)だ。今までライブで歌劇を見たのは2回しかないが、その2回とも『メリー・ウィドウ』なんだな、これが。1回目は字幕がなくてストーリーもよくわからなかったが、2回目に見たときはこじゃれた字幕が用意されていて、大変楽しめた。このときの字幕には、たとえば「えなり的とっちゃん坊や」などいったフレーズが使われていて、ちょっとやりすぎの感はあるが、『メリー・ウィドウ』の雰囲気にはよく合っていた。字幕があればもちろん楽しさ倍増だが、字幕がなくても音楽的に面白いのがこの『メリー・ウィドウ』で、とにかくメロディの宝庫と言っても良いほどあちこちに素敵なメロディが散りばめられている。一番有名なのは、最後に流れるメリー・ウィドウ・ワルツだろうが、これなんかもかつて、いわゆるイージー・リスニングのマントヴァーニ楽団が演奏したものがあるし、あちこちでときどき美しいメロディを耳にする。それから第二幕の「ヴィリアの歌」は、ジョン・コルトレーン・カルテットが取り上げたこともある(かつて『ジョン・コルトレーン・アンド・ジョニー・ハートマン』の初版CDに特典として収録されていた)。
 音楽性だけでなく、民族舞踊が出てきたり、カンカン踊り(かんかんのうではない、フレンチ・カンカン)が出てきたりして視覚的にも楽しめる。ストーリーもオペラ(厳密にはオペレッタだが)としてはよくできた話で、恋のさや当てや駆け引きなど、なかなかこじゃれている。ちなみにかつて映画化もされており(エルンスト・ルビッチ監督『メリィ・ウィドウ』)、多少ストーリーに手が加わっているが、よくできた映画だったと記憶している。
 で、先日、NHK教育テレビの『らららクラシック』という番組を見ていたら、2012年の5月に、ウィーン・フォルクスオパーが来日公演して『メリー・ウィドウ』を演ったという話をしていて、それをハイライトで放送していた。僕としては久々に映像で『メリー・ウィドウ』を見ることになったんだが、そのとき番組の最後で、その1週間後にBSプレミアムでまとめて放送するという告知があった。本場フォルクスオパーの『メリー・ウィドウ』! 「これは見なければいけません」ということで、録画していたんだが、昨日やっとこれを見ることができたんである。
 さて、今回の東京文化会館での公演では、『こうもり』、『ウィンザーの陽気な女房たち』、『メリー・ウィドウ』の3つの演目が、なんと11日間にわたって上演されている。演目はどれもフォルクスオパーの十八番で、説明の必要もないほどだ。歌舞伎の市川團十郎が海外公演するときに『勧進帳』と『助六』を持っていくみたいな感覚か。
b0189364_783627.jpg 今回の『メリー・ウィドウ』だが、さすがにフォルクスオパー、非常にウィーン風……と言いたいところだが、演出は現代的というか、舞台を現代に置き換えて演っていた。こういうのも昨今のオペラでは流行りのようだが、どうしても多少無理が生じてしまうのか、本来ならば「四阿(あずまや)」が出てくるところが「小部屋」になったりしていた(字幕では「小部屋」、原語では「Pavilion」のまま)。無理してそういう演出にする必要があるのかはなはだ疑問だが、大きな破綻はないんで、まあいいかという感じ。主人公の陽気な未亡人ハンナは、アンネッテ・ダッシュという歌手が演じていて、このお方、美しい人だが恰幅がよく、ごついハンナになっている。でもまあ好演である。恋多き人妻、ヴァランシエンヌ役のユリア・コッチーも悪くはないが、少し色気が足りないような気がした。こういう役を森麻季みたいな人がやったらちょっと面白いんじゃないかなどと勝手に想像しながら見ていた。
 『メリー・ウィドウ』の中で、端役でありながらよく目立つニェグシェ(執事)という役があって、この舞台でもロベルト・マイヤーが好演していた。で、最後の全キャストのカーテン・コールのときに姿を探したんだがどこにも出ていなくて、あれぇ?と思っていたら、なんとオーケストラ・ボックスの指揮席についていて、突然オーケストラを指揮し始めたんである。なかなかしゃれた演出で、これが本場のオペレッタかと感心した。『メリー・ウィドウ』は何度見ても楽しめるなとあらためて感じた次第。もう一度映画版も見てみようかなと思ったりした。
★★★☆

参考:竹林軒出張所『メリィ・ウィドウ(映画)』
竹林軒出張所『モーツァルト 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」(DVD)』
竹林軒出張所『ベートーヴェン 歌劇「フィデリオ」(DVD)』
竹林軒出張所『ヴェルディ 歌劇「椿姫」(DVD)』
by chikurinken | 2012-08-11 07:09 | 映像

ベートーヴェン 歌劇『フィデリオ』(DVD)

ベートーヴェン 歌劇『フィデリオ』(2004年・チューリヒ歌劇場ライブ)
出演:カミラ・ニルンド(フィデリオ実はレオノーレ)、ラズロー・ボルガール(ロッコ)、アルフレート・ムフ(ドン・ピツァロ)、エリザベス・ラエ・マグナソン(マルツェリーネ)、ヨナス・カウフマン(フロレスタン)他
ニコラス・アーノンクール指揮
チューリヒ歌劇場合唱団&管弦楽団
エルンスト・ラフェルスベルガー合唱指揮
ユルゲン・フリム演出

b0189364_7413961.jpg 『フィデリオ』はベートーヴェン唯一のオペラ。25年くらい前に大阪のフェスティバル・ホールで『フィデリオ』のオペラ映画を見たことがあるが、見たという事実以外あまりはっきりした記憶はない。無実の罪で捉えられている男を彼の妻が男装して助けるという話だったよなあという程度で、この妻が悪役の男に体を求められたりしたような記憶もある。ただし体を求められるのはよくよく考えるとプッチーニの『トスカ』のストーリーで、あちこちごっちゃになっていてやはり記憶は曖昧である。
 以前も書いたが(竹林軒出張所『モーツァルト 歌劇ドン・ジョヴァンニ(DVD)』参照)、オペラ映画(ドラマ形式のオペラ)という代物にはどうにも違和感があり、フェスティバルホールで見たときはそれが大層気になっていた上、長い上演時間に退屈した記憶がある。今回は舞台のライブということもあって前ほど違和感はないが、やはり2時間延々と歌が繰り返されるので(オペラなんで当たり前だが)退屈さは感じる。とは言え、ベートーヴェンの音楽はやはりなかなかのもので、感じるところもあった。演技はどの歌手もこなれており、性格付けもしっかり行われていてよくできていたように思う。大道具は簡潔で少しもの足りない印象があり、また衣装も現代的な感じで多少違和感があった。とは言っても、他の『フィデリオ』をたくさん聴いたり見たりしているわけではないので、正直なところこの演奏がどの程度のレベルかはよくわからない。ただレオノーレ役のカミラ・ニルンドは端正で、なかなか素敵な「男装の麗人」だった。このあたりちょっと宝塚を彷彿させるモチーフである。
b0189364_7424053.jpg ちなみにこの『フィデリオ』、発表当初は『レオノーレ』というタイトルで発表されており、ベートーヴェンはその後2回改訂している。そうして最終版の『レオノーレ』バージョン3のタイトルが『フィデリオ』に変えられたんだそうだ。だから当然のことながら『レオノーレ』と『フィデリオ』には共通する部分も多い。『レオノーレ』の上演はあまり行われる機会はないようだが、『レオノーレ』と『フィデリオ』をカップリングしたCDというのもあって聴き比べできる(『ベートーヴェン:歌劇「フィデリオ」、レオノーレ全曲』、このCDが先述のベートーヴェン全集に収録されている)。今回『フィデリオ』を見たのもこのCDを入手したのがきっかけである。僕も少し聴き比べてみたが、構成は違っているが多くが共通しているという印象だ。ま、そりゃそうだわな、改訂版なんだから。バージョン2からバージョン3になっただけだし。そうすると『レオノーレ』の方を上演したりCDを発売したりする意味はあるのかしらんなどとも思うわけだ。ともあれ、外国語のオペラは目で見ないことには音楽を聴いただけではさっぱり意味がわからないので、この『フィデリオ』を見たことで、CD版の『フィデリオ』も『レオノーレ』もある程度堪能できるようになった気がする。少なくとも頭の片隅に各シーンが残っている……今のところは。いずれ忘却のかなたに消えてしまうかも知れないが。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ベートーヴェンの使い回し』
竹林軒出張所『モーツァルト 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」(DVD)』
竹林軒出張所『レハール 喜歌劇「メリー・ウィドウ」(放送)』
竹林軒出張所『ベートーヴェン 歌劇「フィデリオ」(DVD)』
竹林軒出張所『ヴェルディ 歌劇「椿姫」(DVD)』
by chikurinken | 2012-06-29 07:43 | 映像

このところ高峰秀子映画が多いことについての弁明、または安物指向の放送に対する苦言

b0189364_9482043.jpg ここのところ高峰秀子の映画をたてつづけに紹介しているが、これは前にも書いたが日本映画専門チャンネルというCS(スカパー)チャンネルで、半年間にわたり高峰秀子特集をやっているためである(日本映画専門チャンネル『総力特集 映画女優 高峰秀子』)。DVDが出ていないものやなかなかお目にかかれない作品も数多く、なかなかやるじゃんというラインアップである。かつては成瀬己喜男特集というのもやっていて、そのときに録画しておいた映画も今まとめてみているため、そのせいで最近高峰秀子作品を多く見ているということになる。このチャンネルは相変わらず力の入ったプログラムを組んでおり、映画ファンにとっては魅力的な存在であり続けている。しかも1カ月525円である。スカパーの基本料金が400円程度なので、このチャンネルだけ見れば900円程度で収まる。以前は30チャンネル以上見れるよくばりパックというプログラムを利用していたが、まったく見ないチャンネルが多くなったこともあって辞めた。
 以前はTBSチャンネルやホームドラマチャンネル(竹林軒『遙かなり 木下恵介アワー』参照)でレアな懐かしドラマが頻繁に放送されていたので、こういうチャンネルを組み合わせて見るには「パック」プログラムでも損はなかった。だがここのところ、こういったチャンネルが韓国の(低レベルの)ドラマばかり放送しているんで、日本映画専門チャンネルとシネフィル・イマジカ(洋画チャンネル)以外全部辞めてしまった。
 韓国ドラマは、「放映権料が安くしかも確実に視聴率が稼げる」ということで放送局側にとって旨みがあるようだが、CSチャンネルで放送する意味が本当にあるんだろうかと思う。地上波だけでなく、民放のBS局でも腐るほど放送しているし、こういうチャンネルは基本的に無料なんで、韓国ドラマのファンであればこういう無料のチャンネルを優先して見るんじゃないだろうか。わざわざCSを導入しようという人々はどちらかと言えばコアなマニアに近く、本当に見たいもの以外はあまり見ない視聴者が多いような気がする。毒にも薬にもならないようなドラマは、少なくともCSのチャンネルにはそぐわないと思うがいかがだろう。TBSはかつて「ドラマのTBS」と言われていて相当なアーカイブを保有していると思うが、あらためて外国のドラマを放送する必要があるのだろうか。そのあたりはまったく理解できないところだ。TBSチャンネルを見る人は、アーカイブ作品を期待しているんじゃないかと思うんだが。そういうわけで僕はTBSチャンネルもホームドラマチャンネルもとうに辞めて、今はまったく見ていない。そんな状況にありながら、日本映画専門チャンネルでは毎月なにかしらのレアな作品が放送されていて意欲的で、とても好感が持てる。これにときどきシネフィル・イマジカを組み合わせるというのが目下のCSの利用の仕方である。
 価格も質も低い「安物指向」をそろそろ見直すべき時期に来ているんじゃないかと思っている。少なくとも僕は、安物は要りません。

本ブログで紹介している高峰秀子関連作品(まとめ)
映画
『浮雲』(映画)
『流れる』(映画)
『放浪記』(映画)
『女性操縦法 “グッドバイ”より』(映画)
『雁』(映画)
『乱れる』(映画)
『カルメン故郷に帰る』(映画)
『銀座カンカン娘』(映画)
『名もなく貧しく美しく』(映画)
『無法松の一生』(映画)
『煙突の見える場所』(映画)
『稲妻』(映画)
『女の園』(映画)


『わたしの渡世日記 (上)』(本)
『わたしの渡世日記 (下)』(本)

高峰秀子が出ていない成瀬己喜男作品
『めし』(映画)
by chikurinken | 2011-11-27 09:50 | 映像

リメイクもういらん党宣言

 映画『切腹』がリメイクされる(三池崇史監督『一命』)という話を聞いて、ついにリメイクの風潮もここまで来たかと思う。
 『切腹』と言えば、小林正樹監督、橋本忍脚本、武満徹音楽という超豪華スタッフによる1962年の松竹映画で、キャストも仲代達矢、岩下志麻、丹波哲郎、石浜朗と一流揃い。カンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞するなど評価も高かった。
 中でも橋本忍の脚本は特筆もので、橋本忍と言えば戦後日本映画界のトップに君臨すると言ってもよいほどの優れた脚本家だが、その彼の作品群の中でも最上位にランクされるのではないかという、素晴らしい脚本であった。通常、映画脚本でむやみに回想形式を使うのは御法度なのだが、この映画の回想シーンは、そんじょそこいらの回想形式ではなく、「回想」を再定義するくらいの巧みな技で、シナリオの教科書・見本と言っても差し支えないほどである。しかもそれを100%活かしきった、地味だが骨のある演出と、緊迫感を盛り上げる音楽で、この映画は日本映画界の至宝と言っていいほどの傑作になった。
b0189364_8244088.jpg だからそれを思うと、何もあらためて作り直す必要はないんじゃないかと思うのだ。どうあがいてもこれ以上のものは作れないよと思う。原作がよくて映画がダメな作品を持ち出すとかするんならまだしも、よりによってこんなのをリメイクするなんてその意図がわからない。なんでも製作サイドが三池監督に持ち込んだ企画らしく、三池監督は、持ち込まれた企画はすべて受けるという、職人に徹したなかなか見上げた監督ではあるが、持ち込まれる企画がことごとくろくでもない。『ヤッターマン』、『十三人の刺客』、『忍たま乱太郎』、『愛と誠』……いくら何でもこんなもん受けるなよと思う。そういったわけで映画のデキ云々より、こういったくだらない企画に憤りを覚えるのだな。
 そういや黒澤明の『椿三十郎』や『隠し砦』までリメイクが作られたんだったな。果たして織田裕二や阿部寛が(あの全盛期の)三船敏郎に近づけたのか、見るまでもないような気もするが、リメイクする意味がまったく見いだせない映画群の代表と言える。
b0189364_819486.jpg リメイクばやりはなにも日本映画界だけではなく、ハリウッドでもそうだし、日本のテレビ・ドラマにも当てはまる。特に最近の日本テレビのドラマは何なんだと思う。『怪物くん』に『妖怪人間ベム』と来る。アニメを実写化したという話だが、これなんか意味がわからないどころか、わけがわからない。何を狙っているのかすら見えてこず、何でもかんでもリメイクしたら良いってもんじゃね-ぞと悪態の一つもつきたくなる。貧困な企画力の日本代表、それが日本テレビである。こんなくだらないドラマを作るくらいだったら、過去のドラマを再放送したら良いのだ。こんなドラマ作ってもゴミを増やしているだけのような気さえする。
b0189364_8201287.jpg そうそう、最後に付け加えておくが、ここに取り上げたリメイク作品、僕はどれも見ていないので、実はものすごくデキが良かったりするのかも知れない。おそらくそんなことはないとは思うが、だから今回の批判は「何でもリメイク」の風潮に対してのもので、個々の作品に対してのものではないということをお断りしておく。これはけっして言い訳ではない。

参考:
竹林軒『放送時評:新『赤い運命』の島崎直子役の女優』
5年前の記述だが、ここでもリバイバル(リメイク)の風潮を嘆いていた……。5年経っても進歩がないとも言えるが、ま、それは放送界も同じということ……
by chikurinken | 2011-10-26 08:26 | 映像

色づくQ

b0189364_116023.jpg 日本で最初の空想特撮テレビ番組『ウルトラQ』。知ってる人は知ってるが知らない人はまったく知らない。当たり前だが。特に世代的なものが大きいようだ。
 僕が学生の頃『ウルトラQ』が深夜に再放送されることが決まって、先輩のウチに出向いて「ウルトラQを見る会」みたいなものを開いていたが、そういう話をいつものたまり場の学食でしていたところ、特に同年代の女性にとって「?」だったらしく、ましてや下の世代は関心を示さずという状態だった。あちらにとっては何を言ってんだか−−だろうが、こちらにとっても、近い世代で『ウルトラQ』を知らない人がいるということが逆に驚きだったりする。そのくらい、僕の心の中には『ウルトラQ』がくっきりと刷り込まれていたのだ!
 まあ思い入れはこれくらいにして、その『ウルトラQ』がカラー化されるという話を最近聞いたのだな。実際には前半の14話がすでに発売済み(『総天然色ウルトラQ』DVD-BOX I)で、残りも来年早々に発売されるという話(『総天然色ウルトラQ』 DVD-BOX II<最終巻>)。言ってみれば、今流行りのデジタル・リマスターの延長みたいなもので、元々のモノクロ画像に丁寧に色を付けていく作業を行うことになる。まさにウルトラCの技!(ちょっとベタですか……)
b0189364_1165442.jpg 今回の企画を担当した円谷プロの「ウルトラQ着色委員会」(以下、委員会)は、アメリカのLegend Films社(以下、Legend社)というところにこの作業を依頼したらしいが、このLegend社、すでにこれまで何十本ものアメリカ映画の着色を手がけており実績は十分である。しかも今回、Legend社側は最後のカラー化プロジェクトと位置付けているらしく(Legend社で中心になっている3D化作業に専念するようで)「それまでの技術の集大成として臨んで」いるという(『キャラクター大全 総天然色ウルトラQ 上巻』より)。うれしい限りではないか。
 モノクロ映画の着色化については、当然のことながらいつの時代も賛否両論あり、特に元になるモノクロ作品の映像がモノトーンならでは素晴らしいものである場合は反対意見が多いだろう。それも十分に頷けることだが、こと『ウルトラQ』については、個人的にはカラー化はかなり楽しみなのである。『ウルトラマン』以降の円谷作品がカラー版で作成されていることを考えると、当然その前の『ウルトラQ』にしても、製作者側は「カラーが可能ならカラーで」と考えていたのではないかと思う。だが『ウルトラマン』の時代、テレビもモノクロが普通で、『ウルトラQ』の時代はカラー放送自体が現実的ではなかったはずだ。『ウルトラマン』が放送された頃、画面の右下に「カラー」という文字が表示されていた(ちょっと前の「アナログ」みたいな感じで)くらいで、それくらいカラーで放送すること、カラーで見ることは珍しかったということだ。だから個人的には、きれいにカラー化できるんならカラー化したものもぜひ見てみたいと思う……切に。今回、委員会とLegend社の間で何度もやりとりを行い、テスト版の色合いなどについても繰り返し修正したという話(前出の『キャラクター大全』より)で、かなり期待が持てるんじゃないかと思うのだ。
b0189364_1172278.jpg で、昨日、何気なくBSで怪獣関連の(ちょっとおバカな)番組を見ていたら、出てきたんである、この『ウルトラQ』の着色版の映像が。何でもこの着色版は公共電波で放送されるのが初めてということらしい。「ガラタマ」の回が紹介されており、色付きのガラモンがガラタマから現れてダムを破壊するというシーンだが、色が付いていることにまったく違和感がないのがちょっと驚きであった。色合いは『ウルトラマン』の色合いに似ている気がしたが、おそらくLegend社にサンプル資料として『ウルトラマン』を含む映像が渡されたんだろうと思う。ちなみにガラモンは『ウルトラマン』にもピグモンとして出てくるし、色はそこから再現できたんじゃないかと思う。前出の本によると、やはりすでに存在しない怪獣(の着ぐるみ)も多く、元々どういう色だったかすらわからなくなっているものもあるという(モノクロの記録しか残っていないため)。そのため資料収集の段階から相当な労力が必要だったようで、そういう点でもかなりの労作と言えるんじゃないだろうか。まだ「ガラタマ」の回のごく一部しか見ていないので何とも言えないが、他の回もいずれは見てみたいと思う。前出の本には、カラー化した映像の写真がふんだんに載っていてある程度予想できるが、色自体の違和感はないにしても特撮独特の違和感(カラー、モノクロ関係なく)が少し顕在化しているような、そんな印象はある。このあたりは実際に動いている映像を見てみないと本当のところはわからない。また本に掲載されている写真では、一の谷博士(江川宇礼雄)の血色がやけに良いのも注目に値する。

 なんてことを書きながら、そう言えばYouTubeがあったじゃないかと思い立ち、調べてみるとやはりいくつかあった。『「総天然色ウルトラQ カラー怪獣図鑑」特別公開!』『総天然色ウルトラQの魅力!』あたりが充実しているようだが、特に後者は、いくつかのエピソードの開始部分が収録されているため、実際の映像の一部を目の当たりにすることができる。
 印象としては、怪獣や風景の描写はともかく、人の顔が少しのっぺりしているのが気にかかる。ドーラン塗りすぎという印象である。それからペギラの回で血が黒かったのも気になる。モノクロでは黒になっているため、新たに(透明色の)赤を重ねるのが難しかったのかも知れない。とは言え、全体としてよくできているという印象で、本物の映像を見てみたいという思いは余計強くなったのだった。

参考:Wikipedia「映画の着色化」
by chikurinken | 2011-10-14 11:09 | 映像

YouTube散策 & メルト・ダウン & アイソトープ

b0189364_9552391.jpg YouTubeをいろいろ見てみると、こういうご時世だからか、タイマーズのライブ映像がたくさん出ていた。しかも映像が結構きれい。あの「原発賛成音頭」もありました(YouTube「原発音頭 タイマーズ」)。ノリノリでした。
 同じライブで歌われた「メルト・ダウン」という曲も出ていた。前に歌詞を紹介しようと思ったんだが、ちょっと洒落にならないのでやめた。興味のある方はご覧ください(YouTube「メルトダウン タイマーズ」)。

メルト・ダウン
……
取り返しのつかない事が 起こってしまった
もう だめだ 助かりゃしない もう遅い
神様
仏様
阿弥陀様
……
というような歌。歌詞もあちこちのサイトで紹介されている。

 それから、ちょっと珍しいところで「アイソトープ」という歌もあった。

アイソトープ

歌:フォークジャンボリーズ(中津川渡、嬬恋信康)
オリジナル詩:衣巻省三
替え歌詞: なぎら健壱(おそらく)

アイソトープ アイソトープ
アイソトープ あたしの放射能
あんまりながく ほうっておくと
お行儀が悪くなる

b0189364_955505.jpg 高田渡が亡くなった直後に開催された高田渡追悼コンサート(2005年4月、小金井公会堂)で、なぎら健壱と坂崎幸之助のフォークジャンボリーズが披露した替え歌。
 ちなみに「アイソトープ」とは一般的には放射性同位体元素を表し、「放射線を出すアイソトープを含んだ物質を放射性物質、放射線を出す能力を、放射能と」(日本アイソトープ協会のホームページより)いうらしい。
 元歌は、高田渡の「アイスクリーム」で、こちらは小説家で詩人の衣巻省三という人の詩に曲をつけたもの。

アイスクリーム
(アルバム『ごあいさつ』に収録)

歌:高田渡
詩:衣巻省三
作曲:高田渡

アイスクリーム アイスクリーム
アイスクリーム あたしの恋人よ
あんまりながく ほうっておくと
お行儀が悪くなる

 この詩も面白い。
 どちらもYouTubeに画像がある。
YouTube「アイスクリームー高田渡」 ←元歌
YouTube「高田渡追悼コンサート3」 ←替え歌

 なお、リンクはすべて2011年5月28日時点のもの。リンク先はいずれ消える可能性が高い。今のうちにどうぞ。
by chikurinken | 2011-05-28 09:58 | 映像

買った、見た、ふるえた……キックの鬼 最終章

 先日からキックボクシング付いている私でありますが、ついに異常な関心が高じて、DVDを買ってしまいました。で、その日のうちに見ました。

前回までの経緯
1.『キックの鬼』
2.『真空飛び膝蹴りの真実 “キックの鬼”沢村忠伝説(本)』

b0189364_20341542.jpg沢村のDVD
 今回買ったのは『“キックの鬼” 沢村忠/真空飛びヒザ蹴り伝説』というDVDで、定価は5,000円。5,000円という価格については、一般的なDVDの価格帯であり、さして高価というわけではない。しかしDVDを買うという習慣があまりないので(DVDは借りるものという勝手な思い込みがある)購入を決めるまで多少逡巡したが、ここは一発、清水の舞台から……もとい、動きの中から真空飛びヒザを狙うような心境で(「思い切って」と言う意味合いです)購入に踏み切ったというわけだ。というのも、あちこちのレンタル・ショップを探してもどこにも見当たらなかったためで、それにこのDVDの性格上、近所のショップに入荷する可能性というのもきわめて低いだろう。また、発売が2003年であることを考え合わせると、ヘタをすると絶版になって今後見る機会が途絶えてしまう可能性すら頭の中でちらついたのである。今の僕にとって5,000円は小さくないが、こういうところは意外に思い切りが良い。

沢村忠登場!
 さて、届いたDVDを再生すると、なんといきなり現在(2003年時)の沢村忠が登場する。今でも「健在」とは聞いていたが、映像とは言え普通に動きしゃべっているところを目にすると何とも感無量である。その沢村氏が、これから自分が選出した8戦を紹介していくとおっしゃる。どれも本人にとって思い出深い対戦だったとのことだ。そのラインアップは次の8試合。

1 対サマン・ソー・アディソン(66年6月、渋谷リキパレス)
2 対ポンチャイ・キャッスリア(68年9月、タイ・ルンピニー・スタジアム)
3 対モンコントン・スィートクン(69年6月、日本武道館)
4 対サネガン・ソーパッシン(72年10月、後楽園ホール)
5 対梅木清光(73年8月、後楽園ホール)
6 対ナムカブアン・クロンパチョン(73年10月、富山市体育館)
7 対コングパタピー・スワンミサカワン(75年1月、後楽園ホール)
8 対チューチャイ・ルークパンチャマ(75年7月、後楽園ホール)

 沢村がのびてしまったあのチューチャイ戦(竹林軒出張所:『キックの鬼』を参照)も含まれている。しかしなんと言ってもすごいのがサマン・ソー・アディソン戦である。これは空手家時代の沢村が、ムエタイ選手と異種格闘技戦を行った試合で、1戦目は何とか勝ったが、2戦目(つまりこの試合)で強敵と当たってボコボコにやられたという試合である。よく映像が残っていたなという類の伝説の一戦なのである(そういうわけで他の試合と異なりダイジェスト版)。
 この試合で沢村は16回ダウンを喫しており、試合後は、全身を37箇所打撲し、後頭部も陥没していたらしい。入院してから高熱が一週間続いたらしく、プロモーターの野口修は沢村の再起不能を悟ったという(『真空飛び膝蹴りの真実』より)。そういうエピソードは別にして、純粋に異種格闘技戦としてこの試合を見ると、空手着姿の沢村が、勝手の違うルール、対戦相手によく健闘しているのがわかる。いかにも空手家らしい一発狙いの戦い方で、柔軟なムエタイ式の戦い方に手こずってはいるが、それでも序盤は対等に闘っている。だがやはり1ラウンド3分×複数ラウンドという試合形式が堪えたようで、回を追うごとにスタミナが落ちてくるのがよくわかる。ボクシング式のスタミナさえしっかり付けられれば、この状態でも十分ムエタイと戦えるのではないかと思わせるようなポテンシャルの高さをうかがわせる。そういう試合であった。
 DVD第2戦目のポンチャイ・キャッスリア戦も、伝説の闘いと言って良い試合である。この試合は、アニメ『キックの鬼』で劇的に紹介されているカードで、アニメでは、熱戦のために最後はヘトヘトになった両者が、立て膝を付いた状態で殴り合い、タイムアップ後は涙を流しながら健闘をたたえ合うという感動的なシーンだった(ような記憶がある)が、その実写版というかオリジナルの映像がこれである(これもダイジェスト)。これも今回初めて目にした。ただ、アニメのような劇的な感動シーンはもちろんなく(梶原一騎作りすぎ!)、もつれる場面が非常に多く、いかにもムエタイという試合であった。沢村はアグレッシブで気持ちの良い戦い方ではあるが、テクニック的にはもう一つという印象を受ける(この試合は引き分け)。

沢村選手の印象
 実はこのDVDを見る前は、現役のK-1選手なんか目じゃないくらいおそろしく強い沢村忠を想像していたのだが(『真空飛び膝蹴りの真実』の影響、記述がオーバーなんだ!)、映像を見て大分印象が変わった。まず、特にキャリア前半だが、パンチがいわゆる猫パンチ風で、あまりさまになっていない。キックはしなやかかつ強力で、キック系の選手というイメージである(キャリア後半では非常に良いパンチをはなっている)。また、ガードがかなり甘く、パンチをかなりもらうタイプの選手であると思った。それを示すように、サネガン戦、コングパタピー戦は殴られてフラフラになりながらの闘いで、とにかくパンチをもらいすぎという印象である。一方で、攻め味が強く、打たれても打たれても前に出るというファイターでもあり、そのためもあって壮絶なノーガードの殴り合いというパターンが多く、見ていて非常に面白い。今はいないタイプの選手である。人気の秘密はこのあたりにもあったのではないかと思う。
 また、必殺技の真空飛び膝蹴りであるが、アニメの「一点をめがけて飛ぶ」というイメージではなく、ジャンプして膝を当てるというイメージである。確かに膝が顔に当たるだけで強烈なダメージがあるはずで、それを考えるとこれだけで必要十分と言える。DVDには、真空飛び膝蹴りのフィニッシュ・シーンを集めたダイジェスト映像もあって、その迫力を堪能できる。キックボクシングでは、ヒジ打ちも認められており、ヒジ打ち、飛び蹴り、飛び膝など、今の打撃系格闘技よりも、凄惨なシーンが多いように感じた。沢村からハイキックを受けたタイ人選手が目を向いている映像なんかもあった。

 ともかく、沢村という選手は非常に絵になるファイターであるということが、今回あらためてよくわかった。それぞれの試合は、石川顕アナウンサーの実況と寺内大吉の解説が入るが、副音声では沢村自身が解説していてこれも興味深い(聞き手の舟木昭太郎が少し鬱陶しいが)。また「寺内さんの採点」が全然なっていないのも今回のDVDで確認できた。このように隅から隅まで非常に楽しめるDVDで、十分堪能することができたのであった。満足いたしました。

「キックの鬼」シリーズ 完


参考:
竹林軒出張所『キックの鬼』
竹林軒出張所『真空飛び膝蹴りの真実 “キックの鬼”沢村忠伝説(本)』
竹林軒出張所『四角いジャングル 激突!格闘技(映画)』
by chikurinken | 2011-02-05 20:37 | 映像

モーツァルト 歌劇『ドン・ジョヴァンニ』(DVD)

モーツァルト 歌劇『ドン・ジョヴァンニ』(2001年・チューリヒ歌劇場ライブ)
出演:ロドニー・ギルフリー(ドン・ジョヴァンニ)、ラースロー・ポルガール(レポレロ)、イザベル・レイ(ドンナ・アンナ)、チェチーリア・バルトリ(ドンナ・エルヴィラ)、リリアナ・ニキテアヌ(ツェルリーナ)他
ニコラス・アーノンクール指揮
チューリヒ歌劇場合唱団&管弦楽団
エルンスト・ラフェルスベルガー合唱指揮
ユルゲン・フリム演出

b0189364_9471567.jpg モーツァルト作曲、ダ・ポンテ脚本のオペラ『ドン・ジョヴァンニ』をDVDで見た。3時間に及ぶ大作で、見る方も大変だが、演じている方はもっと大変。僕としても、意を決して『ドン・ジョヴァンニ』に挑むという感じであった。昨日紹介した『モーツァルトの台本作者 ロレンツォ・ダ・ポンテの生涯』に触発されたことも大きい。『ドン・ジョヴァンニ』を見るのは初めてで、他の上演作と比較できないため、このアーノンクール版がどの程度のできなのかはよくわからない。そういうわけで、『ドン・ジョヴァンニ』というオペラを含めての、見た感想である。なおこのDVDに収録されているのは舞台のライブだが、オペラは(録画ものを含めて)ライブでなければならないというのは僕の持論である。オペラをドラマ化した「オペラ映画」というものもいろいろと出ているが、これはちょっといただけない。舞台でやるからこそ、歌いながらの会話も許容できるんであって(映像にリアリティを追求した)ドラマにしてしまうと不自然でしようがない。歌いながらの会話なんてのはリアリティからもっともかけ離れたところにある。そこにリアルな要素と組み合わせるのは悪い冗談でしかない……と僕は思う。そういうわけでライブ版というのは必須条件である。
 ストーリーは、ドン・ジョヴァンニという好色なプレイボーイ貴族(1800人の女性と関係を持っているという)が、ある女性を暴行しようとして、父親に見つかり、その父親を刺し殺してしまうところから始まる。このあたり、『四谷怪談』や『忠臣蔵』などの歌舞伎を彷彿とさせる。古今東西、同じような発想をするのだろうか。それでも懲りないドン・ジョヴァンニは、次々に手当たり次第女に迫り、いろいろな人間の恨みを買いながら、遍歴を続けていく。とにかく他人がどう思おうとかまやしない。自分の性欲を満たすためには何にでも手を染めるという感じで、そのせいもあって命を狙われたりもするが、最終的には、最初に刺し殺した父親の亡霊に地獄に突き落とされることになる。プレイボーイ伝説のドン・ジョヴァンニ(イタリア語、フランスではドン・ジュアン、スペインではドン・ファン)を題材にしたオペラで、当時このドン・ジョヴァンニ伝説の劇化がよく行われていたらしく、その中の1編ということになる。
 DVD2枚で提供されたこの『ドン・ジョヴァンニ』であるが、印象的だったのがギルフリー演じるドン・ジョヴァンニとポルガール演じる従者のレポレロである。ギルフリーのジョヴァンニは、いかにも利己主義の好色漢という感じで、従者のレポレロもジョヴァンニに振り回される気の良い男を好演している。バルトリが演じるドンナ・エルヴィラは、やり過ぎな感じがあり、僕にはちょっと受け付けられない。DVDのパッケージによると「バルトリは強烈な存在感を放ち、激情とすばらしい歌を披露」しているということになっていて、これがこのDVDのウリになっているようではあるが。舞台では半裸の美女が出たり、楽器演奏者(楽団のメンバー?)が舞台上で演奏したりでなかなか演出に凝っていた。回り舞台を多用し、現代風の書き割りを使っていたのも新鮮であった。
 音楽面では、序曲といくつかのアリアを知っている程度だったため、音楽的にあまり感じるところはなかった(アーノンクールの演奏は良かったと思うが)。もちろんモーツァルトの歌曲はいろいろな楽器が絡んで楽しいのだが、それでも3時間続くと食傷気味である。やはり僕にとって、イタリア・オペラは教養でしかなく、心底楽しむというようなものではないのだな……と感じた3時間であった。

参考:
竹林軒出張所『モーツァルトの台本作者 ロレンツォ・ダ・ポンテの生涯(本)』
竹林軒出張所『ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い(映画)』
竹林軒出張所『レハール 喜歌劇「メリー・ウィドウ」(放送)』
竹林軒出張所『ベートーヴェン 歌劇「フィデリオ」(DVD)』
竹林軒出張所『ヴェルディ 歌劇「椿姫」(DVD)』
by chikurinken | 2010-11-24 09:49 | 映像

ウェーバーとバレエ

b0189364_22291216.jpg 手元に1枚のCDがある。カラヤン指揮、ベルリン・フィルの『ウェーバー序曲集』である。
 今から25年ほど前、CDが普及し始めた頃に買った輸入盤のCDである。当時ついにCDプレイヤーを買った僕は、安い輸入盤を中心にクラシックのCDを買い集めていた。当時の国内盤のクラシックのCDは2800円〜3200円が中心的な価格で、中には1枚3500円もするものもあった。今だったら5枚組で3500円なんていうのもあるくらいで、レコード会社のアコギさがよくわかるというものだ。そんなわけで、国内盤とは少しばかり距離を置いて、輸入盤ばかりを買っていた。まあしかし、輸入盤ということで品揃えは期待できず、一種の安売りバーゲン・セールみたいなものであった。そういう時期にこの『ウェーバー序曲集』を買った。ウェーバーの序曲集なんてのは、僕にとっては優先度がそんなに高くなかったと思うんだが、なぜか買ったのだ。このCDの中で知っている曲と言えば「舞踏への勧誘」と「魔弾の射手序曲」くらいのもので、オイリアンテ序曲やオベロン序曲などに至ってはタイトルすら知らなかった。でも買ったのである。
 ところが、ウェーバーは僕となかなか相性が良かったらしく、その後、すり切れるほどこのCDを聴くことになったんだな(CDだからすり切れたりしないけどね)。買ってもほとんど聴かないCDというのも結構あるんで、こういうCDは大当たりの部類に入る。
 今日はなぜか「魔弾の射手」を聴きたくなったんで、久しぶりにこのCDの曲を聴いていた。CDプレイヤーは使わずにiPodでだが。あれから時代は変わったのだ。

b0189364_22313283.jpg 話は変わるが、この間珍しく、NHK教育TVでバレエを見た。ちなみに僕にはバレエを見る趣味はまったくない。クラシックにバレエ音楽というのが割に多いのでまったく興味がないわけではないんだが、あまり見たことはない。このとき放送されたのは『バレエ・リュス・プログラム』というもので、「バレエ・リュス」と言えば、知る人ぞ知る(知らない人はまったく知らない)ディアギレフ主宰の歴史的バレエ興行である。僕もそんなに詳しく知っていたわけではないが、ストラヴィンスキーとかドビュッシーとかピカソとかニジンスキーとか文化史に名を残している人々が関わっていたという話は聞いたことがあった。そういうわけでピカソがやったとかいう書き割りなんかもちょっと覗いてみようかなと思って見ていたんだが、いやいや、バレエ侮るべからずである。このバレエ・リュス・プログラムには完全にはまってしまった。人間の動きがこんなに美しく表現される見せ物だとはつゆ知らなかった。あんまり気に入ったんで、録画し変換してiPodに入れたほどである。
 この『バレエ・リュス・プログラム』の1本目が「ばらの精」という演目で、それにウェーバーの「舞踏への勧誘」が使われていた。
 「舞踏への勧誘」では、最初に男が女を踊りに誘い、女が躊躇する情景を表した、チェロとフルートの掛け合いから始まる。しばしやりとりがあって、やがて華やかな踊りが始まる。したがって「舞踏への勧誘」という堅いタイトルよりも「ダンスのお誘い」くらいの表現が近いような気がする。非常にわかりやすい曲で、舞踏の部分もゴージャズである。非常に好きな曲なんだが、「バレエ・リュス」では、これに乗せて豪華絢爛な振り付けが展開されるのだ(ニジンスキーがつけた振りらしい)。「ばらの精」のストーリーは「舞踏への勧誘」とは少し違うが、それでも「舞踏への勧誘」の精神を十分体現していた。「バレエ・リュス」は僕にとって新たな発見である。時代は変わっても良いものは変わらないという教訓であった。

参考:NHK教育『芸術劇場』過去の放送
「バレエ・リュス」(Wikipedia)
by chikurinken | 2010-03-12 22:35 | 映像