ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

カテゴリ:本( 554 )

『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』(本)

英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史
堀田隆一著
研究社

b0189364_07183625.jpg素朴な疑問を手始めに
言語の歴史に足を踏み出す


 英語学の本だが、英語についての素朴な疑問に答えていくというアプローチで英語の本質に迫ろうという一風変わった趣向の本。
 こういう切り口だと、テーマとして立てられている素朴な疑問がどの程度興味深いかで面白さが決まると言えるが、この本についてはなかなか面白いテーマが取り上げられている。たとえば「なぜ"a apple"ではなく"an apple"なのか?」、「なぜ三単現に-sを付けるのか?」、「なぜIf I were a birdとなるのか?」などは興味深いテーマであると言える。一方で「なぜHelp me!と叫ぶのにAid me!とは叫ばないのか?」、「なぜI you loveではなくI love youなのか」は設問としてはあまり面白くないが、実は英語の歴史と深く関わるようなトピックで、内容については読み応えがあった。さらに言えば、「sometimesの-s語尾は何を表すのか?」、「なぜ1つの単語にさまざまな意味があるのか?」などは、設問もつまらない上、内容も面白味がなかった。
 このように内容についてはテーマごとに玉石混淆ではあるが、全体的には興味深い内容が多かった。歴史が言葉にどのように影響するかがよくわかるし、特に英国の歴史が波瀾万丈であったことを考えると、英語は言語学の題材としては面白い存在であると思う。そういう点では、言語学入門としても良い。僕自信は、図書館で借りて読み終えた後、新刊書を買った。実際、繰り返し読みたくなるような類の本である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『英語の歴史 ― 過去から未来への物語(本)』
竹林軒出張所『ネイティブスピーカーの英文法(本)』
竹林軒出張所『語源でわかった! 英単語記憶術(本)』
竹林軒出張所『日本人のための英語学習法(本)』
竹林軒出張所『日本人のための日本語文法入門(本)』
竹林軒出張所『ひらがなでよめばわかる日本語のふしぎ』(本)
竹林軒出張所『古典文法質問箱(本)』

by chikurinken | 2017-08-04 07:19 |

『古典和歌入門』(本)

b0189364_20083258.jpg古典和歌入門
渡部泰明著
岩波ジュニア新書

匂ひ立つ いにしへびとの雅にも
今に連なる愛欲を見る


 奈良時代から鎌倉時代に詠まれた和歌を48首取り上げ、どういう風に詠まれたか、どういう味があるかなどを解説した和歌入門者向けの本。和歌をはさんで話が語られるなど、どこか「歌物語」を思わせるような構成である。取り上げられた1首あたり4ページずつ割り当てられ、それが「四季」、「恋」、「雑(ぞう)」、プラス「祈り」の四部構成でまとめられている。ちなみに前の三部(「四季」、「恋」、「雑」)の分け方は勅撰和歌集で採用されている分け方(だそうだ)。それを考えると、なかなか凝った作りと言える(なお「祈り」は著者の思い入れのたまもの)。
 各項が4ページでまとめられているため、ちょっと暇なときに拾い読みするというような読み方もできる。どの項も、著者の和歌に対する愛情が溢れ出ているようで、読んでいて大変面白い。歌の魅力も十分伝わってきて、和歌というものが決してカビくさいものではないということがわかる。各項では、その話題に関連する歌が他にも何首かずつ取り上げられているため、実質的にはかなりの数(百首程度か)の和歌がこの本一冊で紹介されていることになる。
 しかも巻末に詳細な歌の索引、解説(あとがき:和歌の概論のようになっている)なども完備されていて、本の体裁としても申し分なし。古文学習者にはうってつけの入門書で、なかなかの力作である。真摯に作られた本というのはこういう本を言う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『短歌をよむ(本)』
竹林軒出張所『あさきゆめみし完全版(1)〜(10)(本)』

by chikurinken | 2017-08-03 07:08 |

『東大VS京大 入試文芸頂上決戦』(本)

東大VS京大 入試文芸頂上決戦
永江朗著
原書房

後半は長々と与太話を聞かされた

b0189364_19162006.jpg ときどき大学入試の国語の問題を解いてみたりするんだが、当然ながら良い問題もあればひどい問題もある。どちらかというとひどい問題の方が多いかもしれない。まず問題文の悪さが目に付く。基本的に現代文の大学入試で取り上げられる文章は読みづらい悪文が多いなどという話を聞いたことがあるが、それにしてもあまりにひどいものがある。内容がプアなのも多いが、そもそも人に読ませる日本語が書けていないものがあまりに多い。出題者にこんなひどい文章を高校生に読ませたいのかと訊ねてみたい気持ちに駆られる。
 最悪なのは大学入試センターが作っているいわゆるセンター試験の文章で、年々悪くなっているように思える。そんな中、国立大学の問題は割合良い問題が多い。採点にしっかり時間をかけられているせいか(国語については詳しいことは知らないが)中には読みふけってしまうような面白い問題文まである。この著者も、いわゆる「赤本」に掲載されている国語の問題を、アンソロジーとして読んだりするのが好きらしい。そういう著者であるからこそ、国立大学(この本では東大と京大)の国語の問題に食いついたというわけ。この本は、過去の東大と京大の国語の問題(多くは現代文)を紹介して、そこに時代背景を読み取ったり、あるいは書かれている内容に興味があればそれについてもコメントしたりというコンセプトの本で、企画としては面白いかも知れないが、少しばかり作り手の作為を感じる企画でもある。それに「入試文芸頂上決戦」という、煽るようなタイトルもいただけない。
 紹介する入試問題は、明治期、大正期から、戦後、高度成長期、バブル期を経て2016年までで、都合100年以上に渡っている。戦前の問題は、第一高等学校(東大の一部の前身)と第三高等学校(京大の一部の前身)の問題で、学制改革後は東大と京大の入試問題である。特に(明治期を含む)戦前、戦後すぐの問題はなかなか興味深いもので、学術的に(あるいは博物学的にでも良いが)アプローチしていれば非常に面白い本になっていたと思われるが、本書ではこちらはどうもおまけのような位置付けである。この著者の関心は、ここ20年くらいの問題で、そちらの方に偏っているという印象がある。特に比較的新しい問題については、著者の好みが合うのか、やたらいろいろ取り上げてコメントしている。ただし内容は野次馬的あるいは知識のひけらかしみたいなふうにも感じられ、読者の側からするとまったく読む価値を感じない。僕自身もいろいろとツッコミながら読んでいたぐらいで、後半は「★☆」程度の評価である。本書を半分以上読んだんで無理して最後まで読みましたというのが本音のところである。そもそもこの著者が好んで取り上げる文章がどれも面白くない。中身が伴っていないスカした文章ばかりで、こういう人が入試問題を作っているのだなというのがよくわかったのは収穫である。
 また、この著者の文章がところどころ気持ち悪くて鼻に付く。たとえば「オレが受験生なら、この出題文を読んで泣くね。(253ページ)」などとという文章。しかもご丁寧に5ページ後にも、「オレが受験生だったら、出題文を読んで泣くね。(258ページ)」という具合に同じような表現が繰り返される。オレが著者だったら、ちゃんと校正するね。
 他にも低レベルな表現が多数あるので以下に一部をご紹介。引用文の後のカッコ内は僕のツッコミである。
● (メルロ=ポンティとギブソンの名前が問題文に入っていたことから)「いまの東大受験生はメルロ=ポンティの『知覚の現象学』やギブソンの『生態学的視覚論』を読んでいたりするのだろうか。(240ページ)」(読んでるわけねえだろ)。この著者が単にこういうのを読んだことを自慢したいのかとも思える。その後、242ページにも「メルロ=ポンティなどに親しんだ受験生ならそう難しい問題ではないが、初見ではちょっと戸惑うかも知れない。」などとしつこくメルロ=ポンティを押してくる。
● (幸田文の文章にちょっと外すテクニックがあるなどと指摘した後)「ほとんどの人が見逃していて、それでちょっとかわいげのあるようなコメントをひとこと言うのが、アイドルとして愛される秘訣だというのである。ジャニー喜多川は幸田文を読んだだろうか。(247ページ)」(アホか)
● 「自己の同一性をめぐる素朴な問いである。受験生にとっては、前日の夜、自宅の勉強部屋の机に向かっていた自分と、いま試験会場の机の前にいる自分を対比するだろうか。(250ページ)」、「「意地悪だなあ、こんな文章を試験に出すなんて」と思うだろうか。(252ページ)」(想像力にも創造力にも乏しい安っぽい文章)
● 「ロマンス小説や漫画で、複雑だけども陳腐な人間関係や事件、感情のもつれなどについて知っておくことは、東大受験をする上でもけっしてむだではないのだなあ、と思う。東大入試は下世話な人が意外と有利?(255ページ)」(もはや何も言えない)
 こういう文章が特に後半多くなってきて、かなり不快な気持ちになったことを付記しておく。また誤植が多いのも鼻に付く。ともかくかなりいい加減な本である。
★★☆

参考:
竹林軒『大学受験ラジオ講座回顧』
竹林軒出張所『数学受験術指南(本)』
竹林軒出張所『大学入試担当教員のぶっちゃけ話(本)』
竹林軒出張所『笑うに笑えない大学の惨状(本)』

--------------------------
 折角だから不肖私も、この本を題材に入試問題を作ってみた。大学関係者の方々、入試で使ってもかまいませんよ。

第一問 次の文章は、東大の入試問題について書かれた文章の一節である。これを読んで、後の問いに答えよ。なお、表記は一部改めている。

(本書274ページから)
 文科では4つめに堀江敏幸の「青空の中和のあとで」から出題されている。日経新聞に連載されたエッセイで、日本文藝家協会編纂の『ベスト・エッセイ2015』に収録されている。
 堀江敏幸は1964年生まれで、現在は早稲田大学文学学術院教授。ぼくが5年間、任期付の教授として早大に勤務したとき、堀江のゼミは人気が高く、入るのが難しいことで知られていた。ぼくの演習に出ている学生のなかにも「堀江先生のゼミに入りたかったけど、選考で落とされました」という学生が何人もいた。たしか朝井リョウは堀江ゼミだった。
 堀江は温厚で静かに話す人だ。デビューは白水社の雑誌『ふらんす』に連載した『郊外へ』で、フランス留学時のことを題材にしている。エッセイなのか小説なのか判然としないところが魅力なのだが、『おばらばん』が三島賞を受賞したり『熊の敷石』が芥川賞を受賞したとき、これは小説ではないと文句をいう人もいた。べつにどっちでもいいというか、どうでもいいことなのに。堀江はたくさんの賞を受賞し、たくさんの賞の選考委員もつとめている。大学に勤務しながら、コンスタントに小説を発表している。さすがに翻訳の仕事は少なくなっているけれども。
 出題文は、夏のある日、突然の夕立に遭ったことを、空の青にからませて書いたものである。

<その日、変哲もない住宅地を歩いている途中で、私は青の異変を感じた。空気が冷たくなり、影をつくらない自然の調光がほどこされて、あたりが暗く沈んでいく。大通りに出た途端、鉄砲水のような雨が降り出し、ほぼ同時に稲光をともなった爆裂音が落ちてきた。電流そのものではなく、来た、という感覚が身体の奥の極に流れ込んで、私は十数分の非日常を、まぎれもない日常として生きた。雨が上がり、空は白く膨らんでまた縮み、青はその縮れてできた端の余白から滲み出たのちに、やがて一面、鮮やかな回復に向かった。
 青空の青に不穏のにおいが混じるこの夏の季節を、私は以前よりも楽しみに待つようになった。平らかな空がいかにかりそめの状態であるのか、不意打ちのように示してくれる午後の天候の崩れに、ある種の救いを求めていると言って良いのかもしれない。>

 日常の一瞬を、まるで短いドラマのように切り取るその筆致は、さわやかで気持ちいい。それでいて地名など固有名詞は使わず、「変哲もない住宅地」「大通り」「目の前の歩道橋」とすることで、イメージを固定させない。文藝家協会のアンソロジーで読んだ文章をいままた読み返して、つくづく「うまいなあ」と思う。
 設問は、出題文中に傍線を引いた箇所について問うもの。

 (一)「何かひどく損をした気さえする」とあるが、なぜそういう気がするのか、説明せよ。
 (二)「青は不思議な色である」とあるが、青のどういうところが不思議なのか、説明せよ。
 (三)「そういう裏面のある日常」とはどういうことか、説明せよ。
 (四)「青の明滅に日常の破れ目を待つという自負と願望があっさり消し去られた」とはどういうことか、説明せよ。

 という4問。
 出題文をゆっくりじっくり読めば答えられるが、しかし、説明する、つまり他の言葉に置き換えてしまったら、堀江のエッセイとも小説ともつかない文章の味わいも損なわれてしまう。もっと出題文をより深く楽しむ方向での設問はできないだろうか。
 そうそう、堀江が明大に勤務していたとき、新刊インタビューのあとの雑談で入試の話になった。堀江は明大でフランス語を教えていて、フランス語の入試も担当した。フランス語での受験生は少なく、たいていはフランス語圏からの帰国子女だそうだ。人数は少なくても受験生がいる限り、入試問題を作成した教員は質問や誤植等への対応のために試験会場で待機していなければならない。ところが入試の前に他の志望校に合格した学生は、試験会場に現れないこともある。年によっては誰も来ないことさえ。誰も来ない試験会場で誰も受けない試験問題への質問に備えて待機する空しさについて、堀江は苦笑しながら語っていた。堀江敏幸らしい光景だと思った。

問一 この文章の前半(出題文より前)には、大意には関係ないため削除した方が良いと考えられる段落が一つある。どれか。最初の五文字を抜き出せ。

問二 本書の著者は出題文について「日常の一瞬を、まるで短いドラマのように切り取るその筆致は、さわやかで気持ちいい」と書いているが、読む人によっては気取った過剰な表現に不快さ、滑稽さ、気持ち悪さを感じる。そういう人の立場に立って、このような表現を「気持ち悪い」順に三つ抜き出せ。

問三 この文章の大意としてもっとも適切なものを、次の選択肢の中から選べ。
 1 フランス語の入試は受験生が少ない。
 2 私は早稲田に教授として勤務したことがある。
 3 突然の夕立も素敵なものだ。
 4 私はあの堀江敏幸と知り合いで、親しく口を利く間柄である。

問四 この文章の特徴は次のうちのどれか。もっとも適切なものを選べ。
 1 奇を衒った独特の比喩表現が多く、表現の意図がわかりにくい。
 2 話言葉に近い表現で読みやすくなっているが、内容も会話のように脱線していき、とりとめがない。
 3 無駄がない密度の高い文章で、イメージが次々に喚起される完結な名文である。
 4 随所に皮肉を効かせた表現は、辛辣だが詩的で味わい深い文章である。

--------------------------
解答:
問一 「堀江敏幸は」(第2段落:まったく不要なエピソード)
問二 その縮れてできた端の余白から滲み出た
   影をつくらない自然の調光
   来た、という感覚が身体の奥の極に流れ込んで
   青の異変(の上位から3つ)
問三 4
問四 2
   注:一種のパロディですので、怒らないでくださいね。

by chikurinken | 2017-08-02 07:15 |

『更級日記 平安時代の元祖文系オタク女子の日記』(本)

更級日記 平安時代の元祖文系オタク女子の日記
菅原孝標女原作、清水康代著、川村裕子監修
双葉社

b0189364_19330347.jpg更級日記ダイジェスト

 『更級日記』のマンガ版。『更級日記・蜻蛉日記 ― NHKまんがで読む古典2』でも『日本人なら知っておきたい日本文学』でも『更級日記』をマンガ化していたが、どちらも中途半端で、ほとんど物語オタクだった若い頃の話で終わっていた。一方でこの清水康代版は、菅原孝標女が『更級日記』を書くようになったいきさつまで網羅しており、ほぼ全体をカバーしている。また随時原文も掲載されているため、古文の苦手な人の古文入門書としても適している。先の2冊と比べると後発であるだけにそれなりの特徴がなければ存在意義がないわけだが、この本は原作を網羅しているという強みがある。また『更級日記』のテーマ性も再現していて、味わい深い。世の無常も感じられる。
 作画はそれほどきれいではないが、登場人物の描きわけもちゃんと行われているし、『更級日記』入門、古文入門の素材としては格好の本であると言える。ところどころ『日本人なら知っておきたい日本文学』とかぶる表現があるが、あの本が参考文献リストに載っているので、適宜拝借したのかも知れない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『更級日記・蜻蛉日記 ― NHKまんがで読む古典2(本)』
竹林軒出張所『日本人なら知っておきたい日本文学(本)』

by chikurinken | 2017-08-01 07:32 |

『トッド 自身を語る』(本)

トッド 自身を語る
エマニュエル・トッド著、石崎晴己編・訳
藤原書店

これまでの著書の解説をまとめてみました……という本

b0189364_20455179.jpg エマニュエル・トッドのインタビュー集。それぞれ、トッドの著書『家族システムの起源』、『不均衡という病』、『最後の転落』、『アラブ革命はなぜ起きたか』、『文明の接近』に関連して行われたインタビューで、すべて元々『環』という雑誌に掲載されたものである。著書のテーマについてトッドが語るという形式で、インタビュアーは編者の石崎晴己とフランドラワというフランス人女性が行っている。この本はインタビュー本なので読みやすいかと思っていたが、読んでみると、他のトッドの著作同様、かなりわかりにくい。石崎晴己自体が訊ねている質問の部分(おそらく本書では石崎自らが翻訳しているんだろうが)さえもわかりにくい。当事者が自らの言を日本語で書いて、それでも分かりにくいということになると、トッドの著作の読みにくさは、ひとえにこの人のせいだろうと推測できる。もっともトッドの本は、堀茂樹という人が翻訳しているものも多く、こちらはもっと読みづらくわかりにくいんで、石崎訳の方がまだましかも知れない。
 内容は、石崎の解説によると、非常に画期的なものもあるらしいが、概ね今までの考え方をまとめているという範囲であり、特にこの本で目新しいことが紹介されているわけではない。目新しいことと言えば、共産主義(ソ連型の独裁的なものではなく理想主義的な)が、パリ盆地周辺で、「保護層」(宗教がなくなった後の精神的支柱で、行動の枠組みをなす価値体系)、つまりカトリシズムの代わりとして機能していたという話や、トッドの生い立ちなどの話ぐらいか。トッドが若い頃共産党員で、それが良い想い出だというのは今回初めて聞いた。また、トッドは震災後東北地方を訪れており、それについてのインタビューもあるため、まったく目新しさがないというわけでもない。とは言っても、ほとんどは、これまでの著書の解説レベルで終始しているのは確かである。トッドのことを知りたいとか理解を深めたいとかいう人向けであり、新しい議論の展開を求めることはできない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『帝国以後 - アメリカ・システムの崩壊(本)』
竹林軒出張所『グローバリズム以後 アメリカ帝国の失墜と日本の運命(本)』
竹林軒出張所『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告(本)』
竹林軒出張所『問題は英国ではない、EUなのだ(本)』
竹林軒出張所『シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧(本)』
竹林軒出張所『エマニュエル・トッド 混迷の世界を読み解く(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『E・トッドが語るトランプショック(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-07-31 06:45 |

『グローバリズム以後 アメリカ帝国の失墜と日本の運命』(本)

グローバリズム以後 アメリカ帝国の失墜と日本の運命
エマニュエル・トッド著
朝日新書

b0189364_20293183.jpg恰好のトッド入門書

 エマニュエル・トッドのインタビュー集。
 エマニュエル・トッドの著作はこれまで数冊紹介しているが、内容は非常に興味深いにもかかわらず、どれも翻訳がことごとくひどい。この本は、これまで朝日新聞がトッドに試みたインタビューをまとめただけの割合安直な編集本ではあるが、元が話し言葉であることから、翻訳文は割合平易で、トッドの和訳本の中ではもっともわかりやすいものと言える。しかも1998年から2016年までたびたび行われたインタビューが収録されているため、トッドの思想の概観書としてはこれ以上ないのではないかと思う。
 朝日新聞自体は権威主義的であまり好きではないが、しかし1998年からトッドに注目していたとはさすがの大新聞! それに聞き手(多くは朝日新聞編集委員の大野博人という記者)が積極的にトッドに対して問いかけを行っているため、内容が白熱しており、読んでいて面白い。特に「日本に核武装を勧めたい」(2006年10月30日付の記事)では、内容が刺激的なだけに、(筋は通っているが)多くの日本人が反発を持つであろうと思われる内容で、それを記者が代弁しているかのようにトッドに絡み、トッドもそれに対して堂々と論を展開するという点で非常に白熱した雰囲気が窺われ、記事自体も非常に刺激的になっている。少し引用しよう。

トッド 核兵器は偏在こそが怖い。広島、長崎の悲劇は米国だけが核を持っていたからで、米ソ冷戦期には使われなかった。インドとパキスタンは双方が核を持った時に和平のテーブルについた。中東が不安定なのはイスラエルだけに核があるからで、東アジアも中国だけでは安定しない。日本も持てばいい。
――日本が、ですか。
 イランも日本も脅威に見舞われている地域の大国であり、核武装していない点でも同じだ。一定の条件の下で日本やイランが核を持てば世界はより安定する。
――きわめて刺激的な意見ですね。広島の原爆ドームを世界遺産にしたのは核廃絶への願いからです。核の拒絶は国民的なアイデンティティーで、日本に核武装の選択肢はありません。
 私も日本ではまず広島を訪れた。国民感情は分かるが、世界の現実も直視すべきです。北朝鮮より大きな構造的難題は米国と中国という二つの不安定な巨大システム。著書『帝国以後』でも説明したが、米国は巨額の財政赤字を抱えて衰退しつつあるため、軍事力ですぐ戦争に訴えがちだ。それが日本の唯一の同盟国です。
――確かにイラク戦争は米国の問題を露呈しました。
 一方の中国は賃金の頭打ちや種々の社会的格差といった緊張を抱え、「反日」ナショナリズムで国民の不満を外に向ける。そんな国が日本の貿易パートナーなのですよ。
――だから核を持てとは短絡的でしょう。
 核兵器は安全のための避難所。核を持てば軍事同盟から解放され、戦争に巻き込まれる恐れはなくなる。ドゴール主義的な考えです。

 この箇所の聞き手は若宮啓文という人で、この本に参加している部分はこれが唯一。他はこれほど白熱しておらず、全体的に「お説拝聴」という印象が強い。この項は特殊である。
 なお、インタビューの順序は逆時系列、つまり最新のものが前で古いものが後に来ている。これはこれで意図が感じられて良いが、9・11やイラク戦争、リーマンショックあたりになると、こちらの記憶も怪しくなって、同じ時代に読めたらもっと別の感慨もあったかもと感じる。いずれにしてもこの本、恰好のトッド入門書ということができる。それに他のヤクザ出版社みたいに必要以上に「予言」を強調していないのも良い。「新しい予見に満ちた書」とは書いてあるが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『帝国以後 - アメリカ・システムの崩壊(本)』
竹林軒出張所『問題は英国ではない、EUなのだ(本)』
竹林軒出張所『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告(本)』
竹林軒出張所『シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧(本)』
竹林軒出張所『トッド 自身を語る(本)』
竹林軒出張所『エマニュエル・トッド 混迷の世界を読み解く(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『E・トッドが語るトランプショック(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-07-30 07:28 |

『娘と私の部屋』(本)

b0189364_17592713.jpg娘と私の部屋
佐藤愛子著
集英社文庫

実に軽ーいエッセイ

 『九十歳。何がめでたい』で今話題の佐藤愛子が40年前に書いた実に軽ーいエッセイ。僕が高校生くらいのときに読んだもので、当時結構人気が出ていた作品である。元々、雑誌『ノンノ』に連載していたものらしく、その後マンガ化もされ、ドラマ化もされた。ドラマでは確か河内桃子が佐藤愛子役を演じていた。
 このエッセイに出てくる「ママ」(つまり著者)は大変な豪傑おばさんで、気に食わないことがあったら、かなりはっきりしかも大きな声でその旨を述べるらしい。娘の前では特に……らしい。ただ言っていることは概ね正論で、ごもっともであるため、どちらかと言えば読んでいて痛快ではある。ただしこんな人が近くにいたら疲れるのは目に見えている。
 当初雑誌連載だったこともあり、当時の世相が反映されているが、なにぶんその対象が今となっては古い。『イレブンPM』のテーマミュージックを娘と歌い合うとか殿さまキングスがどうだとか、今読むと若干の懐かしさもあるが、今の若い人が読んだらよくわからないだろうと思う。こういう楽しい本は気軽に読み継がれてほしいところだが、時代性の濃いものは時代を超えていかないんだろうねェ。
 僕が今回読んだのは集英社文庫版だが、解説を書いているのが今公恵という人で、この人、なんと佐藤愛子の秘書で、佐藤家に出入りしていた人だという。したがって著者とも「娘」の方とも非常に親しい間柄であり、第三者的に見た佐藤家の風景が紹介されていたりして、非常に新鮮。解説にこういう人選をした集英社に拍手パチパチである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『わたしの渡世日記 (上)(本)』
竹林軒出張所『子どもはみんな問題児。(本)』
竹林軒出張所『快楽なくして何が人生(本)』
竹林軒出張所『かつをぶしの時代なのだ(本)』
竹林軒出張所『小説より奇なり(本)』
竹林軒出張所『さわの文具店(本)』
竹林軒出張所『山手線内回りのゲリラ(本)』

by chikurinken | 2017-07-02 06:59 |

『なんて素敵にジャパネスク』(本)

b0189364_19284277.jpgなんて素敵にジャパネスク
氷室冴子著
集英社コバルト文庫

平安時代が舞台という
異色の少女小説


 コバルト・ブックスの本、つまり少女向けの(今風に言うなら)ライト・ノベルなんであまり期待していなかったが、予想外に面白かった。
 著者は今は亡き氷室冴子。35年ほど前『本の雑誌』で絶賛されていたことから、当時学生だった僕も『クララ白書』や『アグネス白書』を読んでみたが、やはりオッサンには少々物足りない。面白さはあるが、どうも世界観が違いすぎていてあまり感情移入できなかった。この『なんて素敵にジャパネスク』は、その後に発表された作品で、といっても1984年とかなんでかなり前の話ではあるが、僕は本作についてはタイトル以外まったく知らなかった。タイトルを知っていたのはドラマ化されたためで、僕自身は見てはいないが当時それなりに話題になったのではないかという記憶がある。
 で、この作品、少女向けエンタテイメント小説なんだが、舞台が平安時代、主人公が内大臣の娘という異色な設定。主人公は奔放でちょっとじゃじゃ馬。幼なじみと結婚することが決まるが、平安貴族の習慣などをさりげなく(もないが)紹介しながら、話が進められていく。序盤は、ありきたりで面白いのかどうかわからないような、やはりオジにはきついかと感じるようなストーリーであったが、徐々に話が動いていって、スパイ小説みたいな要素も出てきた。また、仲間のスパイの男が実は……というような展開になって、女子好みと言えるようなストーリー展開になっていく。よくできていると思うが、最後は続編がありそうな展開で終わる。事実続編はある、というか、この作品、シリーズ化されて、その後何冊か出てくる。このことから、著者も割合お気に入りの作品だったことが窺われる。氷室冴子の代表作と言って良いんじゃないかと感じる。平安の風俗がわかるという点で古文の勉強にもなるんで、中高生には特に良いと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日出処の天子 第1巻、第2巻(本)』
竹林軒出張所『あさきゆめみし完全版(1)〜(10)(本)』
竹林軒出張所『日本人なら知っておきたい日本文学(本)』

by chikurinken | 2017-06-30 07:28 |

『まちがったっていいじゃないか』(本)

まちがったっていいじゃないか
森毅著
ちくま文庫

楽して楽しんで生きたっていいじゃないか

b0189364_19161600.jpg 数学者、森毅が中学生向けに語った人生論。初出はわからないが、中学生新聞か中○時代かと推測する。
 「楽して楽しんで生きたらええやん」というのが本書の基調になっていて、森センセイらしく、常識にとらわれず斜に構えて社会を見た感じが心地良い。と言っても僕自身が若い頃、著者のややシニカルな見方に多少影響を受けているわけで、心地良く感じるのも当然と言えば当然。ただおかげで、人生のあちこちで大変な目に遭ってきた。もちろん長い目で見れば、それで良かったと思うが。
 この本にも、他の著書と同様、森哲学のエッセンスが凝縮されているため、中学生向けと言ってもまったく侮れない。常識にとらわれているせいで窮屈な思いをしている多くの人々にとっては座右の書になるのではないかと思う。
 解説は赤木かん子って人が書いているが、文体が気色悪い。たとえば「んでね、別に中学生だって読んでかまわないわけ。」などという文章が出てきて、最初から最後までこんな感じで、少し小馬鹿にされているような気もする。なにが「んでね」じゃ!と思う。この文庫版が1988年刊行だから、時代と言ってしまえば時代なのかも知れないが、この本の巻末に出てくる文章としてまったくそぐわないと感じる。こちらが常識にとらわれてはいけないとは思うが、気分が悪くなる文章なのでここに書いておく。森毅の文章も話し言葉に近いが、こういった気分の悪さを感じさせる部分は…少なくとも僕にとっては…一切ない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『数学受験術指南(本)』
竹林軒出張所『一刀斎、最後の戯言(本)』

by chikurinken | 2017-06-28 07:15 |

『顔ニモマケズ』(本)

顔ニモマケズ
どんな「見た目」でも幸せになれることを証明した9人の物語

水野敬也著
文響社

いろいろ語るのが難しい本だが
要は何かを感じて…ということだと解釈する


b0189364_18372151.jpg 恋愛体育教師・水野愛也こと水野敬也(竹林軒出張所『LOVE理論(ドラマ)』を参照)のインタビュー本。インタビューの対象となる人は、見た目が普通と著しく異なる9人の人たち。先天的な病気のせいで顔が著しく歪んだ男性、片目がない男性、大きなアザが顔にある男性、髪の毛をはじめとする体毛が抜けた女性など。それぞれの方々の写真も掲載している。
 かなり異形の人もいるので、最初見ると少々ギョッとしたりする。まあしかし、何度も見ているうちにだんだんと慣れていった。多少違っていても慣れてしまえばどうということはないものだなと感じた。
 顔にコンプレックスを持つ日本人は多いが、見た目がかなり異質なこの人たちはどのようなコンプレックスを抱えているのだろう、どのような差別を受けてきたのだろう、自分の中でコンプレックスをどのように処理しているのだろうなどという、通常であれば訊きにくいことを直球勝負で訊いていくのが、このインタビュー。話し手の方も率直に回答していて、それによるとどの人も、見た目が人と違うことについて前向きに捉えている。これまで結構嫌な思いもしただろうと傍目には思うが、彼らの話によると実際はそうでもないらしい。この人たち、話を聞くと、結構周りの人にも恵まれている。たとえば眼球内の腫瘍のせいで片目を失った泉川氏の場合、

 高校生のとき、ひげを伸ばしていた時期があったんですけど、電車の中で前に座った男の子がこちらを指さして隣にいる母親に言ったんです。
 「あのおじちゃん、目がないよ」
 そのとき一緒にいた友だちが爆笑しまして。「お前、おじちゃんって言われとるぞ」と。僕としても「目じゃなくてそっちかい」という気持ちになりました。
(本書59ページ)


というような経験があったらしい。
 また話し手のほぼ全員、人生が割合うまいこと行っている人で、だからこそこういう本にも登場したんだろうが、したがって悲壮感はあまりない。見た目が違っているからといっても、悩み自体はそこいらの人々と同じだと言う。
 この本の主眼は、彼らの言葉から勇気をもらって、問題を乗り越える方法を学んでくれというものであり、確かに彼らの話からいろいろ学ぶところはある。つらいことがあったら、それは乗り越えるべき試練だと捉えるなどという人もいて、人間がでかいと感じる。経験が人を大きくするんだなと改めて思った次第。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『LOVE理論(ドラマ)』

by chikurinken | 2017-06-27 07:36 |