ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

カテゴリ:ベスト( 13 )

2016年ベスト

 今年も恒例のベストです。例年どおり「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんで、ひとつヨロシク。
(リンクはすべて過去の記事)

b0189364_22315356.jpg今年見た映画ベスト3(43本)
1. 『素晴らしき哉、人生!』
2. 『ガス燈』
3. 『ハムレット』

 今年は個人的にいろいろあったため、映画もドラマも少なめで選択肢自体が少ない。映画のベストは古い名画ばかりで、「ベスト」とするには面白味がないかも知れない。ただ映画については特にここ数年個人的に古典指向であるため、こういうラインナップになったのも当然と言えば当然なのかも知れない。
 『素晴らしき哉、人生!』は、アメリカ的な非常に理想主義的というか楽天的というか脳天気というか、そういう映画であるが、善意や正義感に溢れていて気持ちの良い映画である。SF的な要素もあり、スリリングな展開もありで、なおかつ心温まる映画である。
 『ガス燈』は、打って変わって人の悪意に溢れたサスペンス映画で、全編非常にスリリング。イングリッド・バーグマン、シャルル・ボワイエ、ジョセフ・コットンらの演技も光る。
 『ハムレット』は、シェークスピアの有名な戯曲を映画化したものだが、シェークスピア劇の魅力を存分に伝える見事な映画化が光る。さすがに舞台人のローレンス・オリヴィエが手がけた映画と感じる。

今年見たドラマ・ベスト3(23本)
1. 『日曜劇場 ああ!新世界』
2. 『日曜劇場 ひとり』
3. 『星ひとつの夜』

b0189364_9384248.jpg 今年は倉本聰の日曜劇場がCS(日本映画専門チャンネル)で大量に放送されたため、今年見たドラマの半分が倉本版日曜劇場になった。新作ドラマは一部話題作もあったが、どれもパッとせず、ドラマとしてはグレードが低い。『漱石悶々』はデキは良かったが、それでも全盛期の倉本ドラマには及ばない。倉本作品の中でも『ああ!新世界』と『ひとり』は、どちらも同じような回想形式のドラマだが、主人公の心情があふれ出ていて、小品ではあるが非常にレベルが高い。埋もれさせておくのがもったいない作品で、どうしてこれまであまり再放送されていなかったのか不思議なくらいである(僕の知る限りでは再放送は皆無である)。今回それを発掘してまとめて放送した日本映画専門チャンネルの見識の高さには頭が下がる。(電波を独占している)他の大放送局にも見習ってほしいものである。
 『星ひとつの夜』も同じチャンネルで放送された山田太一作品で、完成度が非常に高く、山田作品らしいセリフの面白さ、キャストの面白さが随所にあふれる名品である。新しいドラマもこういうドラマの水準に少しでも近づいてほしいと思うが、残念ながら年々レベルが落ちているような気がしている。

今年読んだ本ベスト5(64冊)
1. 『成人病の真実』
2. 『大往生したけりゃ医療とかかわるな』
3. 『ニッポンのサイズ 身体ではかる尺貫法』
4. 『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年』
5. 『「A」 マスコミが報道しなかったオウムの素顔』
番外. 『三国志』

b0189364_21275820.jpg 今年は個人的な事情から医療関係の本を多く読むことになった。中でも近藤誠の本はどれも素晴らしいものだった。視点が新しい上、どれも説得力があり、しかも読みやすい。ほとんどハズレがないと言って良い。中でも『成人病の真実』は、目からウロコの事実が目白押しで、近藤誠の著書の中でもピカイチと言って良いんじゃないかと思う。この本で紹介されている事実は、少なくとも成人病検診を受けるすべての日本人が知っておくべきことである。残念ながら、ほとんどの日本人はまったく知らないまま、無駄で有害な検診を受け続けている。そこのあなた、是非、この本をお読みください! 同じ著者の『日本は世界一の「医療被曝」大国』も非常に面白かった。
 『大往生したけりゃ医療とかかわるな』もなかなか痛烈な医療本。著者の中村仁一も近藤誠と非常に近い考え方をする人で、医学界では異端である。しかし彼の主張もきわめて明解ではなはだユニーク。死について考えることで生を見つめ直すという態度に大きな共感を覚える。
 『ニッポンのサイズ 身体ではかる尺貫法』は、石川英輔の大江戸シリーズの1冊。石川英輔の大江戸シリーズはその初期から読み続けており、もはや僕にとっては珍しくないかと思っていたが、まだまだ江戸ネタは出てくる。江戸の伝統が測定単位という形で現代にも生きていて、伝統的な測定単位に意外な合理性があるということもよくわかる。江戸時代はまったく侮りがたいということが身にしみる。ここでは取り上げなかったが、同じ著者の『実見 江戸の暮らし』も非常に面白い本で、特に江戸の時刻と貨幣について非常に勉強になった。
b0189364_8122249.jpg 『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年』は山田太一のエッセイだが、著者の自作に関する見方が、種明かし的で面白いだけでなく、テレビ創生期の有り様というものも伝わってくる。この時代を経験した人間にしか書けないことが多数紹介されて非常に新鮮である。
 『「A」 マスコミが報道しなかったオウムの素顔』は、映画『A』の撮影過程を書いた本で、映画と重なる部分も多いが、撮影側の心の葛藤まで描かれていて、映画以上にいろいろ考えさせられる。ただし映画を見てから読んだ方が一層面白かったのではないかとは思う。映画『A』を当面見ることができないのではないかと思って(実際『A』はなかなか出回っていない)本を先に読んだんだが、あに図らんや意外にも身近な図書館にあって見ることができたのは今考えると良かったのか悪かったのかよくわからない(良かったんだろうけど)。
 番外は、今年全編読み切った横山光輝のマンガ版『三国志』。今さら評価するようなものでもないし、大変な労作であることは疑いない。前にも書いたが「日本遺産」と呼んでも良いほどの作品である。

今年見たドキュメンタリー・ベスト5(88本)
1. 『ワイルドジャパン 魔法にかけられた島々』
2. 『日本人は何をめざしてきたのか (6)』
3. 『武器ではなく命の水を』
4. 『新・映像の世紀 第4集』
5. 『パナマ文書 “史上最大のリーク” 追跡の記録』

b0189364_738498.jpg 今年も、見たドキュメンタリーは比較的多かった。何を選ぶかいろいろ悩むくらいだが、なかなか良いラインナップではないかと自負している。
 『ワイルドジャパン 魔法にかけられた島々』は、BBCが製作した自然ドキュメンタリーで、日本の自然が題材になっている。そのため割とよく見かける映像が多いが、少し引いた位置からあらためて見てみると、日本の自然はかなり面白い。人間と動物との関係もユニークである。そういう部分には普段はなかなか気が付かないが、日本の自然美も含めて、こういう風にあらためて提示されると、意外な発見があって面白い。見せ方も非常にうまく、これが見られたのは収穫だったと思わせる1本。
 『日本人は何をめざしてきたのか (6)』は、日本の障害者福祉の戦後史を紹介するETV特集である。このシリーズは、さまざまな視点から戦後史を切り取るもので、女性環境の視点で作られたものも非常に面白かったが、この障害者福祉史は特に考えさせられる部分が多かった。高度成長期の、一般人の障害者に対する差別的な姿勢にも驚かされたほどで、それを考えると日本での社会的弱者に対する感覚も少しずつではあるが改善しているのかと感じたのだった。
b0189364_8401646.jpg 『武器ではなく命の水を』は、アフガニスタンで活動する医師、中村哲の来し方を紹介するETV特集。ちょっとした劇映画みたいな話で非常に感動的である。
 『新・映像の世紀 第4集』は、昨年から今年にかけて放送された『新・映像の世紀』シリーズの1本で、戦後冷戦期に米ソ政府が何をしてきたかが明らかにされていて、このシリーズの中では出色であった。同じシリーズの第6集もよくできた1本で、タイトルの「新・映像の世紀」が何を意味するかがよくわかる、1本主張が通ったドキュメンタリーだった。
 『パナマ文書 “史上最大のリーク” 追跡の記録』は、タックスヘイブンの現状を赤裸々に伝える告発ドキュメンタリー。ペーパーカンパニーの簡単な作り方まで紹介されていて、タックスヘイブンを取り巻く状況がよくわかる、実に明解なドキュメンタリーである。
 他にも、『人種隔離バスへの抵抗』『暴かれる王国 サウジアラビア』などが秀作で大変勉強になった。また『もうひとつのショパンコンクール』も非常にユニークなドキュメンタリーで、もしかしたらNHK、これからシリーズ化するのかという予感がある。いずれにしても今年のドキュメンタリーは非常に豊作であった。

 というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。また来年もときどき立ち寄ってやってください。
 ではよいお年をお迎えください。

参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』
竹林軒出張所『2010年ベスト』
竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』
竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』
竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』
竹林軒出張所『2012年ベスト』
竹林軒出張所『2013年ベスト』
竹林軒出張所『2014年ベスト』
竹林軒出張所『2015年ベスト』
by chikurinken | 2016-12-31 09:02 | ベスト

2015年ベスト

 今年も恒例のベストです。例年どおり「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんで、ひとつヨロシク。
(リンクはすべて過去の記事)

b0189364_8301514.jpg今年見た映画ベスト5(53本)
1. 『野火』
2. 『砂の女』
3. 『彼岸花』
4. 『ゆきゆきて、神軍』
5. 『愛の新世界』

 今年は映画もドラマも本も少なめで選択肢自体が少ないため、なかなかショボいラインナップになっているが、ご了承いただきたい。
 選んだ映画は全部邦画で、しかも再見映画ばかり。昨年、一昨年同様、過去見て感心した映画を生きている間にもう一度見ておこうという意識が働いているわけ。
 『野火』は、以前見たときはあまり印象に残っていなかったが、今回は随分感心した。短い映画の中に戦場が凝縮されていて一瞬たりとも目が離せない。しかもユーモアの要素も適度に盛り込まれていて、市川崑作品の良さが詰まっている映画と言える。
 安部公房・勅使河原宏コンビの作品は、『他人の顔』、『おとし穴』など秀作揃いであるが、『砂の女』はその中でも代表的な作品である。不条理な世界に展開される不思議な世界。こちらもどことなく乾いたおかしみが漂う。安部公房と勅使河原宏の天才的な共同作業であり、日本文学と日本映画の到達点と言って良い映画である。
 『彼岸花』は小津安二郎の作だが、リマスターされて画像が非常に美しくなった。シナリオや演出のおかしみに加え、画面作りで表現されているユーモアまで感じられる。あらためて小津作品の深さを感じることができる。
 『ゆきゆきて、神軍』も『愛の新世界』も、内容の衝撃性から公開当時かなり話題になった映画だが、見始めるとやめられなくなるような面白さがある。内容はかなりシリアスなんだが、この映画にも乾いたおかしみが漂っている。今回そういう映画ばかりで、乾いたおかしみこそが日本映画の特徴なのかなどと考えてしまう。
 見たことのある映画ばかり見るのもまあ結構ではあるが、来年はもう少し未見の新しめの映画も見ておきたいと考えてしまうようなラインナップであった、あらためて見ると。

b0189364_7563062.jpg今年見たドラマ・ベスト3(19本)
1. 『洞窟おじさん』
2. 『一番電車が走った』
3. 『ちゃんぽん食べたか』

 今年はドラマ自体あまり見ていないし、それにあまり面白い新作ドラマも実際のところないんで仕方がないんだが、とは言え今年は新作3本、しかもすべてNHKというラインナップである。
 『洞窟おじさん』は内容が奇想天外だったのと、リリー・フランキーのホームレスぶりがあまりに板に付いていたのが記憶に新しいところ。尾野真千子や生瀬勝久との掛け合いも楽しい。元々2時間で放送されたものだが、その後1時間×4回(計4時間)に分割された。個人的には2時間ものの方がよくまとまっていて良かったと思う。
 『一番電車が走った』は広島に原爆が落とされた日とその前後が描かれる実話をベースにしたドラマだが、主演の黒島結菜の好演が光る。また実体験者でなければ表せない表現が随所にあり、広島ならではのリアリティが目を引いた。
 『ちゃんぽん食べたか』は、さだまさしの自伝的小説をベースにしたドラマで、以前NHKで放送されたドラマ『精霊流し』のモチーフも出てくる(どちらも自伝的な話なんで重なるのは当然)。リアルな青春ストーリーが心地良い。
 3本とも、実話ベースのドラマで、しかもNHKがていねいに仕上げたという作品であるが、小粒な印象は否めない。民放のゴールデン枠のドラマは相変わらず迷走していて、内容も悲惨である。物語を作る能力に欠けている人々が作っているのかと感じるものも多い。そういう人たちが作るフィクションが見るに堪えないのは当然と言えば当然ではある。民放もとりあえず実話原作ものに取り組んだらどうだろう。

b0189364_848196.jpg今年読んだ本ベスト5(39冊)
1. 『日本人のための日本語文法入門』
2. 『ネイティブスピーカーの英文法』
3. 『イスラーム国の衝撃』

 本もショボいラインナップである。『日本人のための日本語文法入門』が日本語文法、『ネイティブスピーカーの英文法』が英文法を新しい視点で捉えた本である。どちらも目からウロコではあるが、万人にお奨めという類の本ではないかも知れない。
 『イスラーム国の衝撃』は、当時「イスラム国」に対してセンセーショナルで感情的な報道が多かったにもかかわらず、冷静にその特徴を捉えて分析していた点を評価したい。

今年見たドキュメンタリー・ベスト5(104本)
1. 『映像の世紀 第1集〜第8集』
2. 『あなたの中のミクロの世界 (1), (2)』
3. 『京都人の密かな愉しみ 夏』
4. 『過激派組織ISの闇』
5. 『戦後70年 ニッポンの肖像 政治の模索 (1)』

 ドキュメンタリーについては、例年になくかなり見ていて、5本選ぶのに苦労した。どれも秀逸な作品である。
 『映像の世紀』については今さら言うまでもないんだろうが、あらためて見ると非常に質が高い。特に第4集と第8集は出色で、続編シリーズの『新・映像の世紀』と比べて見ると、逆にその良さがよくわかる。テーマ(つまり「映像による世界史」)を1つに絞って見せていくという手法が、単純そうでありながら意外に工夫されている。
b0189364_8135928.jpg 『あなたの中のミクロの世界』も内容充実のドキュメンタリーである。人体をさまざまな微生物が住んでいる小宇宙であるとする定義も斬新で、その視点から、微生物たちと人体との関わりをさまざまに論じていく。寄生虫や細菌類が人体にいかに寄与しているかについてこれでもかと事例を出してくるんで、見る方がついていけないほどである。非常に示唆に富む新しい視点が良かった。
 『京都人の密かな愉しみ』はシリーズ化しそうな勢いだが、作り手が楽しみながら作っているようなそんなドキュメンタリーである。ドキュメンタリーといっても多くの部分がミニドラマで占められている上、バラエティ番組みたいな要素も入っている。紹介されるのはコアな京都で、普通に京都に住んでいても経験できないようなことが多い。あくまでも「フィクション、伝説としての京都」という見方をすると良いんではないかと思う。京都を扱った番組で、同じような構成のものが他にもあるので(たとえば『丸竹夷にない小路』)、同じスタッフが同じような企画、構成で何本か作っている(そして今後も作る)可能性がある。したがってこれからも似たような京都穴場番組が次々に出てくるんじゃないかという予感がする。
 『過激派組織ISの闇』は、世間でいろいろ取りざたされながらも内実が見えてこない「イスラム国」の実像を、映像を駆使しながら探っていくというもので、濃密でありながらわかりやすい優れた報道ドキュメンタリーであった。
 『戦後70年 ニッポンの肖像 政治の模索』は、今の政治状況が戦争当時の政治状況をそのまま引きずっているという視点が新しい(もしかしたら、僕が知らなかっただけかも知れないが)。今の日本の政治を歴史の中でマクロ的に捉えた点を評価したいと思う。

 というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。また来年もときどき立ち寄ってやってください。
 ではよいお年をお迎えください。

参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』
竹林軒出張所『2010年ベスト』
竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』
竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』
竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』
竹林軒出張所『2012年ベスト』
竹林軒出張所『2013年ベスト』
竹林軒出張所『2014年ベスト』
by chikurinken | 2015-12-30 09:16 | ベスト

2014年ベスト

 今年も恒例のベストです。例年どおり「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんで、ひとつヨロシク。
(リンクはすべて過去の記事)

b0189364_7225434.jpg今年見た映画ベスト5(67本)
1. 『炎628』
2. 『細雪』
3. 『山椒大夫』
4. 『プライベート・ライアン』
5. 『もうひとりのシェイクスピア』

 今年も再見の映画が2本。昨年同様、過去見て感心した映画を生きている間にもう一度見ておこうという意識が働いているわけ。
 『炎628』は絶版だったDVDが今年再版されたため20年ぶりに見ることができた。ソビエト映画らしく無骨な映画ではあるが、虐殺にあう側から撮られたシーンがどれも強烈で、戦争を膚で感じさせてくれる傑作である。
 戦争を膚で感じられるといえば『プライベート・ライアン』も同様で、臨場感のあるシーンが次々に繰り出されるが、結局は予定調和なヒューマニズムに落ちついてしまう。そのあたりはハリウッド映画の限界か。
 『細雪』も見るのは二度目で、映像の美しさも相まって空気感が大変心地良い。何度も目にしたくなる、と言うか体感したくなる映画である。
 『山椒大夫』は元祖『グラディエーター』と言えるようなストーリーで、細部までしっかり作られていて往年の大映映画のパワーを感じられた。
 『もうひとりのシェイクスピア』も細部までしっかり作り込まれているという印象が強く、当時の風俗の再現がすばらしい。しかも「シェークスピア別人説」を実にさりげなくドラマに盛り込むなど見所が非常に多い作品だった。

b0189364_824789.jpg今年見たドラマ・ベスト5(33本)
1. 『王様のレストラン』
2. 『アオイホノオ』
3. 『夏子の酒』
4. 『再会』
5. 『俺のダンディズム』

 こちらも再見のドラマが多い。『王様のレストラン』と『夏子の酒』は90年代屈指のドラマなんで、僕としては今さらなんだが、特に『王様のレストラン』は何度見ても飽きないんで、やはりトップに据えるべきかなと思う。
 『再会』は、10年以上前に放送された山田太一のドラマで、これも今回で見るのは三度目だが、登場人物の心理が非常にうまく描かれているだけでなく、セリフのおかしみが秀逸で、傑作ドラマの1本である。
 今年放送されたドラマの中では『アオイホノオ』が最高で、これは島本和彦のマンガが原作のドラマだが、マンガ的な面白さをそのまま映像化し、そこにさらにドラマ的な面白さもこれでもかと盛り込んだ福田雄一の演出が光る。遊びの要素も非常に多いが、それでいて青春のほろ苦さや他人の才能に対する驚きや嫉妬まで描かれていて、アメリカ映画の『ラストショー』や『アマデウス』の要素までが盛り込まれている。そういう点でも、原作をはるかに超えているという印象である。
 同じくテレビ東京の深夜枠で放送された『俺のダンディズム』もよくできていて、基本的にはカタログ的な番組でありながら、十分楽しめるドラマに仕上げたスタッフの腕力に感心する。いずれにしてもテレビ東京の深夜枠からは目が離せない。

b0189364_7563258.jpg今年読んだ本ベスト5(80冊)
1. 『悪童日記』
2. 『英国一家、日本を食べる』
3. 『白文攻略 漢文法ひとり学び』
4. 『漫画・日本霊異記』
5. 『全国アホ・バカ分布考』
番外. 『ミツバチの会議』

 『悪童日記』は無類の面白さで、小説の面白さが凝縮されている。文体自体も凝縮されたようなシンプルなもので、大変魅力的である。
 『英国一家、日本を食べる』は、英国人ジャーナリストの日本食見聞記であるが、潜入している先が相撲部屋であったり「ビストロスマップ」の収録現場であったり、日本人でもなかなか入り込めないような場にしなやかに赴いて日本人の食を探るという試みが非常に興味深い。英国人らしいユーモアあふれる記述も魅力的で、電車の中で読んでいて思わず笑ったという箇所もある。続編『英国一家、ますます日本を食べる』(といっても元は1冊の本だが)もお奨め。
 『白文攻略 漢文法ひとり学び』は、前にも書いたが、受験生時代にこういう本があったらよかったのにと思うような本で、漢文入門書の定番となるべき本である。もう一度漢文を勉強し直したいという人に最適の一冊である。
 『漫画・日本霊異記』は、日本最古の説話文学『日本霊異記』をマンガ化したものだが、原作のどぎつさをとぼけた味の絵が中和して、独特の世界を作っている。『日本霊異記』を原作で読んだだけではなかなか気が付きにくい要素を巧みに翻案しているという点でポイントが高い。原作に内在するような日本人の性に対するおおらかさも感じられる。
 『全国アホ・バカ分布考』は、テレビ番組『探偵!ナイトスクープ』のネタが元になっているが、同番組のプロデューサーがこれをさらに進めて「アホ・バカ」などの罵り言葉に方言周圏論が適用できることを示した快著である。同時に方言学の素人である著者から見た方言学の現状までがわかるようになっており、そういう点でも大変興味深い。しかも「アホ」や「バカ」の語源にまで追究するという姿勢は、到底「素人の書いた方言学の本」と言えない凄みがある。
 『ミツバチの会議』は、内容的には非常に興味深いものだったが、翻訳がひどく、大変読みづらかったために「番外」とした。地道な観察と実験によって、ミツバチの分蜂が民主的な手順で行われていることを示した研究は学術的に見ても画期的で、いずれそれなりの地位を占めるだろうと思うが、それほどの本なのにこの翻訳はないだろうと思う。出版社にも配慮がほしいところである。

今年見たドキュメンタリー・ベスト5(53本)
1. 『精進料理大全 〜大徳寺 禅と茶 もてなしの心〜』
2. 『若きビジネスマンが挑んだ農業再生550日』
3. 『辞書を編む人たち』
4. 『カラーでよみがえる東京』
5. 『ヒトラー 権力掌握への道 前後編』

b0189364_8454577.jpg どれもNHKで放送されたもので、『若きビジネスマンが挑んだ農業再生550日』、『辞書を編む人たち』がETV特集、『カラーでよみがえる東京』がNHKスペシャル、『ヒトラー 権力掌握への道 前後編』がBSドキュメンタリーである。といっても『カラーでよみがえる東京』、『ヒトラー 権力掌握への道』はどちらも古い映像に着色してカラー化するという企画から生まれたドキュメンタリーで、他にも『カラーでよみがえる第一次世界大戦』も同じコンセプトの番組である(これも見応えがあった)。『若きビジネスマン』は、前にたまたま読んでいた『マイファーム 荒地からの挑戦』で、『辞書を編む人たち』の方はドキュメンタリー『ケンボー先生と山田先生』や映画『舟を編む』でそれぞれ触れていた世界だったため、見る前から関心があった分野である。ただそれぞれのドキュメンタリーは、そういった既知の素材をさらにいっそう面白くしていて、やはり現実というのは一筋縄でいかない、百聞は一見にしかずだなとあらためて感じさせる番組になっていた。製作者の力量を感じた2本だった。
 『精進料理大全』は、これはもうアーカイブとして絶対に残しておきたいドキュメンタリーで、DVD化してほしい素材である。短いドキュメンタリーではあるが、精進料理の精神に触れることができる貴重な番組である。

 というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。また来年もときどき立ち寄ってやってください。
 ではよいお年をお迎えください。

参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』
竹林軒出張所『2010年ベスト』
竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』
竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』
竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』
竹林軒出張所『2012年ベスト』
竹林軒出張所『2013年ベスト』
by chikurinken | 2014-12-30 09:12 | ベスト

2013年ベスト

 今年も恒例のベストです。当然「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんで、ひとつヨロシク。
(リンクはすべて過去の記事)

b0189364_9172767.jpg今年見た映画ベスト5
1. 『アギーレ・神の怒り』
2. 『アメリ』
3. 『仕立て屋の恋』
4. 『トキワ荘の青春』
5. 『シベールの日曜日』

 なんと全部再見の映画になった。まあ老い先も短くなってきたんで、今後は新しい映画よりもこれまで見て気に入った映画を中心に見ていくようなことになるかも知れない。今年はその先駆けということになるかな。ただ、それぞれの映画に感化されて……というか似たような傾向の映画や本にまとめて触れたりしたのも事実。たとえば『アギーレ・神の怒り』については、監督のヴェルナー・ヘルツォークの作品を他にも数本見ているし、『トキワ荘の青春』についても、その手のマンガや本を読みあさっている。多角的にアプローチしようというスタンスの現れととっていただいて結構。

b0189364_917521.jpg今年見たドラマ・ベスト5
1. 『沿線地図』
2. 『今朝の秋』
3. 『冬構え』
4. 『かすていら』
5. 『終電バイバイ』

 こちらも再見のドラマが多い。そもそも今年は山田太一脚本のドラマを(意図的に)たくさん見たので再見作品が多くなるんだが、当然のごとく昨今のドラマと比べると段違いに質が高いんで、ランキングを作れば当然こちらが上位に来る。ホントは全部山田作品にしたかったぐらいだが、それでも『かすていら』は割によくできていたドラマだし、『終電バイバイ』も、斬新でありながら非常に感性的な側面も併せ持つというちょっとこれまでにない作品で、この脚本家(岩井秀人)、ただものではないと感じた。そういうわけでここに2作品取り上げたわけ。
 とは言っても『沿線地図』と『今朝の秋』は(あらためて見たものだが)圧巻だった。これは絶対外せないところ。

b0189364_9182812.jpg今年読んだ本ベスト5
1. 『奥の細道 マンガ日本の古典25』
2. 『BORN TO RUN 走るために生まれた』
3. 『山椒魚戦争』
4. 『日本語の文法を考える』
5. 『チャップリン自伝 ― 若き日々』

 『マンガ版奥の細道』は、『奥の細道』に対する見方を180度覆してくれた快作で、完成度と言い、原著に対する著者の理解と言いまったく申し分ない。中央公論社の『マンガ日本の古典』シリーズはなかなかの秀作が揃っているが、『奥の細道』はその中でも屈指である。何度も読みたい作品であり、できれば著者には『奥の細道』全体をカバーしたものにひきつづきトライしてほしいものである(この『マンガ版奥の細道』はほぼ出羽路のみ)。
 『BORN TO RUN 走るために生まれた』は、メキシコ奥地に住むという、謎の走る民族を追ったノンフィクションだが、内容がスリリングで読み応えがあった。ただ、まったく未知の世界の話なんで文章だけではなかなか想像しにくい面もあったことは確か。だがこの作品にちなんだドキュメンタリーも出ていて、そちらを見れば現実の世界にかなり近づけるんではないかと思う。もちろんそれなしに、読みものとして楽しむのも良いものではある。
 『山椒魚戦争』は、永らく読みたいと思っていて二の足を踏んでいた著作だが、期待どおりの作品だった。題材自体は実にバカバカしいんだが、ここまで徹底して描かれると(しかも風刺を込めて)脱帽である。語り口も非常にうまいので、読み始めたら止められない。小説としても一流である。
 『日本語の文法を考える』と『チャップリン自伝 ― 若き日々』は再読。『日本語の文法を考える』に至っては今回3回目だし、類書の『古典文法質問箱』も今2回目を読んでいるところ。国語学の面白さを堪能できる大野晋の快作である。『チャップリン自伝 ― 若き日々』もサクセス・ストーリーであり、当時の英国の下層階級の事情を報告するルポにもなっていて、密度が濃い。

b0189364_9203646.jpg今年見たドキュメンタリー・ベスト5
1. 『大海原の決闘! クジラ対シャチ』
2. 『映像記録 市民が見つめたシリアの1年』
3. 『100年インタビュー 脚本家 山田太一』
4. 『外国人が見た禁断の京都 -芸妓誕生-』
5. 『風に吹かれてカヌー旅』

 『大海原の決闘! クジラ対シャチ』は、生き物ドキュメンタリーで、クジラとシャチの生をめぐる攻防を描く意欲作。なによりこれだけの映像が撮れたということがスゴイ。それに映像を駆使した解説も必要十分で、野生生物ドキュメンタリーの傑作と言ってよい。巷で話題になっている『ダイオウイカ』よりずっとグレードが高いと思う(『ダイオウイカ』同様、『クジラ対シャチ』もDVD化されたようです)。
 『市民が見つめたシリアの1年』はドキュメンタリーWAVEの1本だが、ドキュメンタリーの鑑というべき作品。報道機関が伝えるべき現実というのはこういうものを言う。当局の統制のために外に伝わってこない現状が報告されるんだが、その現実感、切迫感は他に類を見ない。何度も再放送して、日本国の住民に現状を知らしめる役割を果たしてほしいと思う。それこそがジャーナリズムというものである。
 『100年インタビュー 脚本家 山田太一』は山田太一のインタビューだが、当事者しか知りえない当時の放送界の裏話が語られていてなかなか興味深かった。脚本家の名前を冠した最初のドラマが『男たちの旅路』だというのも初めて知った事実だった。
 『外国人が見た禁断の京都 -芸妓誕生-』は、普通なら目にすることができない情景を美しい映像で描くという画期的な企画で、グレードが非常に高い。外国向けの番組というのがもったいないほどで、これも何度も再放送していただきたい作品である。
 最後の『風に吹かれてカヌー旅』は、カヌー家、野田知佑の旅を追ったドキュメンタリーで、野田氏と一緒に旅をしているかのように感じられる快作である。しかも舞台はモンゴルと来ている。まさに『世界の川を旅する』の映像版で、こちらもずっと後世に残していただきたい作品であった。

 というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。また来年もときどき立ち寄ってやってください。
 ではよいお年をお迎えください。

参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』
竹林軒出張所『2010年ベスト』
竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』
竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』
竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』
竹林軒出張所『2012年ベスト』
by chikurinken | 2013-12-30 09:23 | ベスト

2012年ベスト

 今年も恒例のベストです。当然「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんで、ひとつヨロシク。
(リンクはすべて過去の記事)

b0189364_1013859.jpg今年見た映画ベスト5
1. 『野いちご』
2. 『おとし穴』
3. 『愛されるために、ここにいる』
4. 『祇園囃子』
5. 『招かれざる客』
番外:『ある機関助士』

 古い映画ばかりで恐縮です。最新映画を劇場ロードショーで見るなんてことは1年以上ないので致し方ない。それに話題作を見るより、古典的な映画を見る方が外れが少ないし、どうしても古典志向になってしまう。
 『野いちご』はベルイマン、『おとし穴』は勅使河原宏、『祇園囃子』は溝口健二という具合で、ここであらためて取り上げるほどのこともないくらい名声のある監督ばかりである。詳しくは、それぞれのレビュー・ページをみてください。
 そんな中で『愛されるために、ここにいる』は比較的新しい作品だが、流れが自然で完成度が高く、上質な大人のロマンスになっている。恋愛が話の中心になるが、どこぞのくだらない恋愛ドラマと違って、登場人物にそれぞれ抱えるものがあるなどリアリティがあり、作り手側のご都合主義もまったく見受けられない。とってつけたような設定や登場人物がないのも良い。
 『招かれざる客』も古い映画だが、会話劇で、元々舞台劇だったのかよくわからないが、非常に良くできたプロットの映画である。公開当時おそらくセンセーショナルであっただろうテーマを、ズバリと見る側に突きつけながらも、高い理想主義が掲げられていて大変心地良い。
 番外に入れた『ある機関助士』は、蒸気機関車の機関士を扱った古いドキュメンタリー作品だが、こういった身近なテーマが、これだけの重厚な映像作品になるということにとても感心したことから、ここに加えることにした。

今年読んだ本ベスト5
1. 『画材の博物誌』
2. 『だまされて。 涙のメイド・イン・チャイナ』
3. 『FBI美術捜査官 奪われた名画を追え』
4. 『風のジャクリーヌ 〜ある真実の物語〜』
5. 『田宮模型の仕事』
番外:『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと』

 どんなものにも歴史があって、それについて正しく認識しなければならない……というのがこのベスト5の共通のテーマである。
 画材というものが長い歴史の中で培われて今に至っているというのは、本来であれば至極当たり前なんだが、今みたいにいろいろな画材がいくらでもあふれている状況だとなかなかそれに気がつかない。画材が歴史の中でどのように発展してきたか、それはもちろんそれぞれの社会史や政治史とも関わってくるわけで、ものに投影されているその時代背景というものが実は存在するわけだ。こういうことがまとまった形で提示されることで、モノの歴史に思いを馳せることができるという点で、なかなか面白い本であった。ただし美術に興味のない人は読んでも面白く感じないかもしれない。
 『だまされて。』は、中国のモノ作りの現状を内側の目から報告する本で、中国人のありようがわかって興味深い。こういうもの作りをしているようであれば、たとえ今「世界の工場」などと言われていても、いずれ産業が荒廃していくのは火を見るより明らか。中国の関係者には、ちゃんとしたものを作るべく努力してほしいと思うし、日本のもの作りの関係者には、あまり中国と関わり合いにならない方が良いよと警告したくなるような、内容充実の本であった。
 『FBI美術捜査官』は、盗難美術品の奪回にもっぱら取り組んでいたFBI捜査官の告白で、なかなか知り得ない世界が展開されている上、ハードボイルド的な面白さもある。そこいらのハリウッド映画よりはるかに面白い。もしかしたらそのうち映画化されるかも知れないが。
 『風のジャクリーヌ』は、悲劇のチェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレの生涯を家族の目から追ったノンフィクションで、映画『ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ』で見られた、かなり偏ったイメージと違う「本当のジャクリーヌ・デュ・プレ」を垣間見ることができる。
 『田宮模型の仕事』は、日本のプラモデルを進化させた田宮模型社長の田宮俊作氏が自伝的に半生を語る本。これぞ「日本のもの作り」という職人魂が心地良い。子どもの頃何気なく接していたプラモデルにも、職人魂と作り手のプライドが反映されていたことにあらためて驚く。何にでも大いなる歴史があるのであって、それを正しく認識することが必要なんである。
 なお番外の『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと』は、今回再読だったが、前回同様、非常に感心することの多い教育論だったので、ここに入れることにした。

今年見たドキュメンタリー・ベスト3
1. 『電球をめぐる陰謀』
2. 『ガスランド』
3. 『ホットコーヒー裁判の真相』
4. 『パーク・アベニュー 格差社会アメリカ』
5. 『夏の北アルプス 雲上のアドベンチャー』
番外:『調査報告 原発マネー』

 今年のドキュメンタリーは僕にとって大豊作で、ここに入っていないものにも秀作が多かった。1〜4まではどれもセンセーショナルな内容で、目から鱗が落ちるようなものばかりであった。
 『電球をめぐる陰謀』は、今流通しているモノが実は一定の期限で壊れるように作られているという事実を伝えるもので、これがどの程度今の我々の生活に当てはまるかはわからないが、確かに無意味に壊れやすいモノが多いような気はしている。またこういう話は以前も聞いたことがあって、それについて詳しく知りたいと思っていたところだったので、僕にとって非常に有益だった。
b0189364_1032116.jpg 『ガスランド』はシェール・ガス採掘の問題点を市民の目から告発するドキュメンタリー。水道水に火が付くという映像もインパクトがあり、シェール・ガス、シェール・オイルは手放しで賞賛できるものではないよということを知らせてくれる優れた作品であった。
 『ホットコーヒー裁判の真相』は、大企業とマスコミが巧妙に仕掛ける情報操作を告発するドキュメンタリーで、有名なマクドナルドの「ホットコーヒー裁判」に秘められた大変な事実を紹介する。これも目からウロコだった。
 『パーク・アベニュー』は、アメリカの格差社会を告発するドキュメンタリー。アメリカの格差社会が、富裕層の政治活動によって進んでいることが紹介される。『ガスランド』、『ホットコーヒー裁判の真相』、『パーク・アベニュー』を見ると、アメリカで不正義がはびこっている状況がよくわかり、末期的な印象すら持ってしまう。大丈夫か、アメリカ?
 『夏の北アルプス』はがらりと変わって紀行ドキュメンタリーだが、登山の楽しみがこれ以上ないほど伝わってくる稀有な番組であった。
 番外の『調査報告 原発マネー』は、NHKが原発マネーにまで切り込んだという点を高く評価したいということでここに加えた。

b0189364_1035953.jpg今年見たドラマ・ベスト3
1. 『ゴーイング マイ ホーム』
2. 『それぞれの秋』
3. 『とんび』
番外:『極楽家族』

 今年は見たドラマの数が少なかったので、選択肢自体が少なくしょっぱいランキングになった。今のテレビ・ドラマのレベルは相変わらず低く、見るに値するものも非常に少なくなったが、 『ゴーイング マイ ホーム』は数少ない優良作品の1つ。地味だが完成度が高く、優れた映画人がドラマに関わるとこれだけのものができるというのがよくわかる好例である。要するに今のドラマ界は、優れた人材が圧倒的に少ないということなんだろう。今のドラマにはあまり期待できないというのが、このランキングにも反映されていて、『それぞれの秋』は40年前のドラマだし、番外の『極楽家族』も35年前のドラマ。『極楽家族』は内容的には圧倒的に1位なんだが、これまで何度も見ているドラマで、ここで取り上げるのも心苦しいほどなんで、番外ということにした。『とんび』は泣かせるドラマだが、わざとらしさが鼻に付く部分がなきにしもあらず。2013年には同じ原作をTBSが連続ドラマにするらしいが、こういうところにも放送業界の企画の貧困さが見受けられるんだな。

 というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。また来年もときどき立ち寄ってやってください。
 ではよいお年をお迎えください。

参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』
竹林軒出張所『2010年ベスト』
竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』
竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』
竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』
by chikurinken | 2012-12-31 09:01 | ベスト

山田太一のドラマ、5本

b0189364_11274749.jpg山田太一のドラマ・ベスト5
1. 高原へいらっしゃい(1976年、TBS)
2. 日本の面影(1984年、NHK)
3. 二人の世界(1970年、TBS)
4. 沿線地図(1979年、TBS)
5. 岸辺のアルバム(1977年、TBS)

 少し前の『ありふれた奇跡』とか、この間の『キルトの家』とかを見てしまうと残念な気持ちがふつふつと湧くが、しかしドラマ作家としての山田太一はやはり偉大である。これだけオリジナル脚本の名作を立て続けに出し続けた人はもう現れないんじゃないかと思う。僕の中では、ドラマの深遠さやストーリーのレベルといった点において、脚本の神様、パディ・チャイエフスキーをもしのぐのである。
 実際、山田太一のドラマは、80年代後半以降、見る機会があれば必ず見るようにしていたし、今でもCSやBSで再放送があれば極力録画するというほど見ている。おそらくすべての山田ドラマ(150本くらい?)のうち、半分以上は見ているんじゃないかと思う。そういうわけで、山田太一の代表作は5本と言わず、ベスト10でもベスト15でも選ぶことができるんだが、とりあえずの5本。『午後の旅立ち』や『チロルの挽歌』など、見たいと思っていながらいまだ見ていない代表作もあるので、ベスト6以降は、またいずれ機会があれば、付け加えてまとめたいと思う。

b0189364_11202539.jpg 『高原へいらっしゃい』は、高原ホテル建て直しのドラマで、2003年にTBSでリメイクされた。リメイク版は、脚本に山田太一が加わっていなかったこともあって(「山田太一原作」ということになっていた)、どうしようもないものになっていて、リメイクの意味というものを考えさせられる結果になった。だがオリジナルの方は、スリリングな展開といい人間関係の絶妙さといい、まさにテレビ・ドラマ脚本の金字塔と言ってもよい出来映えであった。初めて見たのは中学生くらいのとき(リアルタイムの放送)で、その後再放送を見たくて見たくてしようがなかったが、なかなか見る機会に恵まれなかった。結局数年前にCSのTBSチャンネルで再放送されたものを30年ぶりに全部見ることができたんだが、その感動は子ども時代に見たときと何ら変わっていなかった。昨今も、落ちぶれたレストランの再建ものドラマは頻繁に作られているが、その原点ともいうべき傑作である。また予想外の意外な結末も特筆に値する。出演は田宮二郎、由美かおる、前田吟、北林谷栄、益田喜頓ら。北林谷栄と益田喜頓のオムレツのシーンはあまりに強烈で、はじめに見たときからずっと記憶に残っていたほどである。
b0189364_11184698.jpg 『日本の面影』は、ラフカディオ・ハーンをモデルにした全4回のドラマ。出演は『ウエストサイド物語』のジョージ・チャキリス、壇ふみ、津川雅彦など。先日から何度もこのブログで触れている「江戸期の日本の面影」がドラマ全編を通じて登場し、ハーンが目にしたであろう「古き良き日本」が再現されている。もちろんドラマとしても質が高いのは言うまでもない。
 『二人の世界』は、初期の山田太一の代表作で、「木下恵介アワー」の1本。その少し前に同じ枠で放送された山田ドラマ『三人家族』の続編みたいな話で、キャストも栗原小巻、竹脇無我、あおい輝彦、三島雅夫と共通する。当初は『三人家族』の恋愛ドラマの部分を抜き出したメロドラマと思っていたんだが、その後急展開してスナック経営話になる。あおい輝彦が歌うテーマ曲もメロウで、子どもの頃から主題歌だけが記憶に残っていた。
b0189364_11235632.jpg 『沿線地図』は、個人的にドラマ全体の雰囲気が非常に好きで、特にフランソワーズ・アルディのテーマ曲(「もう森へなんか行かない」)が何とも言えない。ドラマにもアンニュイな雰囲気が漂っていた。主人公は高校生(真行寺君枝と広岡瞬)だが、思春期独特の閉塞感や焦燥感がよく伝わってくるドラマで、当時同年代だった僕も、共感はしないにしても感ずるところがあったように思う。登場する周囲の大人たち(岸恵子、河原崎長一郎、児玉清、河内桃子)にもそういった閉塞感、焦燥感が伝染していくのも新鮮である。再放送を見たいドラマの筆頭だが、いまだに見れないでいる。
 『岸辺のアルバム』も『沿線地図』と同じTBSの金曜ドラマ枠で放送されたもので、台風による増水で流されるマイホームのシーンが有名なドラマである。家族内にいろいろなゴタゴタが出てきてはこんがらがりながらも、それでも家族はなんとかやっていくという話で、『それぞれの秋』以来、山田太一が何度か取り上げているテーマである。展開に不自然さがなく、また視聴者の目を釘付けにするプロットも見事である。山田太一の名を一挙に高めた作品でもある。出演は、八千草薫、杉浦直樹、竹脇無我、中田喜子、国広富之など。
b0189364_1120554.jpg
 と、こうやって紹介したところで、実際見る機会はあまりないのが現実なのである。どれもDVDは出ていないようで、必然的に再放送に期待するしかないのだが、それもあまり望めないと来ている。僕自身、CSのTBSチャンネルにリクエストしたりしているがいまだにかなわないものが多い。ただ山田太一の作品は脚本が書籍として出版されているものも多く(大和書房など)、こちらも絶版になったものが多いが、図書館には割合置かれているようだ。興味のある方は、そちらから当たられたら良いかも知れない。僕も以前、ブックオフで見つけて、まとめて10冊以上購入したことがある。なお、『日本の面影』については、今でも入手可能である。

参考:
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年(本)』
by chikurinken | 2012-02-18 11:28 | ベスト

石川英輔の本、5冊

石川英輔の本
b0189364_917188.jpg1. 『大江戸えねるぎー事情』
2. 『大江戸テクノロジー事情』
3. 『大江戸リサイクル事情』
4. 『大江戸生活事情』
5. 『大江戸生活体験事情』(田中優子との共著)

 石川英輔の『大江戸事情』シリーズはどれも外れがない。
 初めて石川英輔の『大江戸えねるぎー事情』を読んだとき、あまりのことに目からウロコがバリバリと落ちた。それまで僕の中にもひそかに息付いていた「江戸=暗黒時代」という歴史観がガラガラと音を立てて崩れていくような感じがした。そして、江戸という時代をいかに知らなかったか思い知らされた(ま、それまであまり関心が無かったということもあるんだが)。おそらく当時、一部の専門家とマニアを除いて、「江戸=暗黒時代」という歴史観が普通だったのではないかと思う。今でこそ、江戸の循環型エコロジー社会や、スーパー・リサイクル・システムが見直されているが、その先鞭をつけたのが石川英輔の著書だったのではないかと思う。少なくとも僕は、彼の著書で江戸に対するまっとうな見方を得ることができたと思っている。
b0189364_919776.jpg 著者の基本的な考え方は、江戸時代は独自の文化、テクノロジーが花開き、長い間平和が保たれ、学術文化も大きな進歩が見られた特異な時代という見方である。もちろん江戸がユートピアだというのではないが、しかし少なくとも、一般的に考えられているような「武士階級に虐げられ重税に苦しめられる庶民」という見方は間違いであると主張する。それを立証するため、文献(特に江戸時代は多数の文献が残されている)に当たり、詳細に検討していくのである。基本的にはエッセイのような論調であるが、学術的にも立派に通用するような論の展開で、まったく申し分ない。しかも著者は小説家でもあるため、文章は平易で非常に読みやすい。

 『大江戸えねるぎー事情』は、『大江戸事情』シリーズの第1作目で、江戸時代の有様を衣・食・住・文化全般について紹介しながら、エネルギー消費の観点から論述する。内容は(当時としてみれば)きわめて画期的で、江戸時代にタイムスリップしたような感覚さえ覚える。元々は、原子力文化財団のPR誌に連載したものらしいが、(いびつな形で育った)原子力を含む多くの現代テクノロジー、現代文明に対する鋭い批判になっているのは面白い。
 『大江戸テクノロジー事情』は、『大江戸えねるぎー事情』の続編と言っても良い本で、江戸時代のさまざまなテクノロジーについて紹介していく。和算、からくり、印刷技術、学問、植物など、こちらも内容は非常に多岐に渡る。根本的に、江戸のテクノロジーに対する考え方は、西洋のアプローチと異なり、応用第一でないことが良く分かる。テクノロジーのためのテクノロジーみたいな要素があり(特に学問)、相当発展しているにもかかわらず、それを現実社会に応用しないという、いかにも泰平の時代の学術であるという印象を受ける。実にユニークである。
b0189364_9174046.jpg 『大江戸リサイクル事情』は、江戸のリサイクル・システムに焦点を当てた本。その年とその前年(せいぜい数年前)の太陽エネルギーだけですべてをまかなっていた江戸の都市機能を「リサイクル」という観点から紹介していく。この3冊で初期の『大江戸事情』三部作となる。どの本も論旨が明快で一貫しており、しかも江戸の持つ魅力がちりばめられた本である。江戸の街にタイムスリップしたような錯覚を受けるのも、石川英輔の本の魅力と言って良い。
 『大江戸生活事情』では、特に江戸の社会面に焦点を当てる。幕府の支配体制、町人の自治組織、江戸人の生活、職業、学術など、こちらも実に多岐に渡る。「意外に少なかった一騎と飢饉」という節は、これまでの江戸暗黒史観に一石を投じるような論である。
 最後の『大江戸生活体験事情』は、江戸研究家、田中優子との共著であるが、なんと江戸の生活のあれこれを実際に(現代の生活の中で)再現してみたという本。江戸時代の不定時法(日の出、日の入りを基準に時刻を設定する方法)や江戸時代の太陽太陰暦に従って生活してみたり、火打ち石や自作行灯の生活、江戸時代の生活雑貨の利用など、実際に体験してそこから何がわかるか調べてみようという試みである。もちろん、体験するというだけの話ではなく、そこにどういう合理性や不合理性があるかなど、自分の身体で体感していこうという面白い本である。読んでいるこちら側も、江戸の生活をミクロ的に追体験できるので、江戸の臨場感もひとしおといったところで、これも快著である。
b0189364_9181678.jpg 他にも、『雑学「大江戸庶民事情」』『大江戸ボランティア事情』(田中優子との共著)もお奨めで、特に『雑学「大江戸庶民事情」』では江戸の旅について触れられているが、これがもうホントに目からウロコで、旅の事情から江戸がいかに平和だったかがよくわかる。また、江戸の旅を野田泉光院という人の日記(『九峰修行日記』)を現代語で再現した『大江戸泉光院旅日記』という本もある。こちらは少し退屈な本ではあるが、江戸の旅の追体験という意味では最高レベルの本ではないかと思う。その他、石川英輔が江戸のことを調べるきっかけになったというSF小説も数点あるが(『大江戸神仙伝』など)、こちらは個人的にはあまり面白いと思わなかった。石川英輔は、なんと言っても「大江戸事情」シリーズである。

参考:
竹林軒出張所『大江戸庶民いろいろ事情(本)』
竹林軒『書籍レビュー:江戸の新発想 「大江戸開府四百年事情」』
竹林軒出張所『実見 江戸の暮らし(本)』
竹林軒出張所『ニッポンのサイズ 身体ではかる尺貫法(本)』
竹林軒出張所『江戸時代はエコ時代(本)』
竹林軒出張所『ニッポンの旅 江戸達人と歩く東海道(本)』
by chikurinken | 2012-02-14 09:20 | ベスト

原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版

 原発事故が実際に日本で起こったのが2011年。原発が54基もある日本で重大事故が起こるのは十分考えられていたとは言え、実際に起こってしまうと自分にとっても衝撃は計り知れない。同時にこれが原発の一掃につながるんじゃないかという期待はある。あらためて振り返ってみると、僕自身知らないことが意外に多く、今年原発関連の本を読みあさることになった。今年出版された本は良いものもあったが、便乗本も結構あって、ゴミと化すべき運命の本も多かったと思う。だが、どうせ読むなら良いものを選びたいもの。というわけで「原発を知るための本2011年版」である。ちなみに旧版の「原発を知るための本 5冊+1冊」はこちら
 原発関連のドキュメンタリーも今年多く放送され、こちらも質の高いものが非常に多かった。そのためこちらも「2011年ドキュメンタリーのベスト」として別枠で紹介しようと思う。

原発を知るための本 2011年版
1. 『原発ジプシー』
2. 『原発を終わらせる』
3. 『原発と日本の未来 原子力は温暖化対策の切り札か』
4. 『東海村臨界事故 被曝治療83日間の記録』
5. 『福島原発の真実』
番外:『大地動乱の時代 地震学者は警告する』

b0189364_10545932.jpg 『原発ジプシー』は、昨日も紹介したが今年ベストの一冊である。
 『原発を終わらせる』は、事故後出た本ではもっとも内容が充実していた本で、原発関連の専門家がそれぞれの専門分野からの視点で原発の問題点を書き綴っている。内容は若干読みにくい部分もあるが、福島第一原発事故、科学・技術的側面、社会的側面など原発を多角的に分析しており、福島原発事故後の原発学習教材のスタンダードとなるような書と言える。
 『原発と日本の未来 原子力は温暖化対策の切り札か』は、日本の原子力行政の特色を明快に示した本である。この著者も先の『原発を終わらせる』に参加していて内容的には少し重複しているが、原子力行政にも関わった人であるだけに内部からの告発として非常に説得力がある。
 『東海村臨界事故 被曝治療83日間の記録』は古い本で、1999年に茨城県の東海村で起こったJCO臨界事故を扱ったものである。この事故では放射線により2人が死亡、1人が重症を負ったが、放射線障害のすさまじさがよくわかるのでここに取り上げた。NHKのドキュメンタリーで放送された内容をまとめた本であるが、そのインパクトはテレビ放送に劣らない。
 『福島原発の真実』は、福島県の原発行政がきっかけとなって失脚した元福島県知事、佐藤栄佐久氏による著で、原発行政がどのように執り行われ、国策が地方行政にどのように押しつけられるかその過程がよくわかる。原発行政に不満を持って対立したために職を追われた元県知事の言葉だけにどれも説得力がある。原発事故前に書かれた『知事抹殺』という本もあり、こちらでは失脚の過程がより具体的に記述されている。
 番外の『大地動乱の時代 地震学者は警告する』は、原発本ではなく地震に関連する本だが、日本でどれほど地震が起こりやすいか、その構造をわかりやすく説明する。また近い将来に大地震が起こることが予測されていて、その根拠も紹介されている。ちなみにこの著者も『原発を終わらせる』に参加している……というより編者である。

原発を知るためのドキュメンタリー 2011年版
1. 『終わらない悪夢』(仏)
2. 『被曝の森は今』(仏)
3. 『チェルノブイリの真相 ある科学者の告白』(英米独)
4. 『アメリカから見た福島原発事故』(NHK教育ETV特集)
5. 『原発事故への道程 前編』(NHK教育ETV特集)

b0189364_10553072.jpg 『終わらない悪夢』は、前編、後編に分かれた90分間のフランス製ドキュメンタリーであるが、世界中の放射能垂れ流しの事例を次から次へと紹介する。特にフランスのラ・アーグ核燃料再処理工場に力を入れているが、日本でも推進されている核サイクル・システムがどういう問題をかかえているかがよくわかる。こういう現状を知るだけでも原子力に賛成するのは不可能になるんじゃないかと思うが。
 『被曝の森は今』は、旧チェルノブイリ原発周辺の現在の状況を紹介するドキュメンタリー。放射線のために生物が一切生息できなくなっているのではないかという危惧とは裏腹に、実は人がいなくなることで野生の楽園がもたらされていたという報告である。この地で実験、研究を繰り返している学者の研究結果もあわせて紹介されるが、その内容はまさに驚嘆に値する。
 『チェルノブイリの真相 ある科学者の告白』は、チェルノブイリ事故を再現ドラマにしたもの。チェルノブイリ事故の過程がよくわかる上、放射線障害の恐ろしさもよくわかる。
 『アメリカから見た福島原発事故』は、福島第一原発で使われていたMark I型原子炉の問題性が20年以上前から指摘されてきたことを示すドキュメンタリー。原子炉導入以降の日本の原子力行政のいい加減さがよくわかる。最後の20分間に収録されていた、科学ジャーナリストと元原発技術者との対談も、原子力行政の特質を物語っていて非常に面白かった。
 最後の『原発事故への道程 前編』は、日本の原子力行政の歴史を追うドキュメンタリーで、「核アレルギー」を持つ日本人の間に、「夢の技術」原子力がどのようにして浸透していったかが示される。もちろんこの番組には後編もあって、反原発勢力を中心に描かれるが、目新しさという点で前編をお奨めしたいと思う。
 NHKのドキュメンタリーは再放送されることが多いため、おそらくここで紹介したドキュメンタリー番組も今後何度も地上波かBSで放送されることと思われる。興味を持たれた方は、定期的に番組表などをチェックされると良いでしょう。

 ということで、2011年の竹林軒出張所はこれで終わりです。今年は世間ではいろいろあって大変でしたが、来年は世界にとっても皆様にとっても、平和な日々が来ることを願ってやみません。
 では良いお年をお迎えくださいますよう。
by chikurinken | 2011-12-31 10:56 | ベスト

2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)

 分量が多くなってしまったので、本、ドキュメンタリーは別枠にしました。また、今年は、福島第一原発の事故もあり、原発関連の本、ドキュメンタリーに多く接していますので、それについてもさらに別枠にしました(明日、掲載予定)。
(リンクはすべて過去の記事)

今年読んだ本ベスト5
b0189364_9154115.jpg1. 『原発ジプシー』
2. 『予想どおりに不合理 増補版』
3. 『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』
4. 『土の文明史』
5. 『一刀一絵 江戸の色彩を現代に甦らせた男』
番外:『地を這う魚 ひでおの青春日記』

 今年は原発関連の本をよく読んだが、そんな中でも特に出色だったのが『原発ジプシー』で、原発という表に出にくい領域に入ったというだけでなく、ルポとして最上級のものになっている。今年新装版が再発されたこともあり入手しやすくなった。どこの図書館にも入っているのではないかと思う。機会があれば是非読んでいただきたい。社会の暗部がこれだけはっきりと照らし出されている本はめったにないと断言できる。言うまでもなく、原発を知るための本としても恰好である。
 『予想どおりに不合理』は、今までまったく知らなかった行動経済学の事実が提示されて、大変新鮮な「目からウロコ」の本であった。内容は高度だが、読みやすくなおかつ非常にわかりやすい。しかも説得力がある。何度でも読み直したい本である。
 『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』は、日本格闘技史の大著。著者の怨嗟が全編を貫きながらも、上級のエンタテイメントになっている。こちらも(僕にとっての)新事実が続出で、「読んで良かった」と思わせてくれる快著であった。
 『土の文明史』も(僕にとっての)新事実が続出の本で、土壌から歴史を解釈するという斬新さが目を引く。しかもそれが大きな説得力を持つ。人為は決して自然から離れることができないということを思い知らされると同時に、土壌が環境問題の基本中の基本であることがよくわかる。現代人が知っておくべき事実だという思いを新たにした。いずれ世界中のドキュメンタリーやテレビ番組などで頻繁に取り上げられるようになるテーマだと思う。
 『一刀一絵 江戸の色彩を現代に甦らせた男』は、版画家である著者、立原位貫の半生と美術作品について書いた自伝的な著だが、(こともなげに達成している)その業績がすごい上、芸術に対する彼の真摯なアプローチが文章から伝わってくる。人間性があふれ出た著書で、読んでいて気分が高揚するようであった。
 番外の『地を這う魚 ひでおの青春日記』は、マンガ家、吾妻ひでおの自伝的なマンガだが、表現方法が特異で、しかも完成度も非常に高い。マンガ家の青春記は面白いものが多いが、単にノスタルジーに終わらず、未来への情熱や青春のほろ苦さも伝わってくる高い水準のマンガである。著者の名著『失踪日記』にひけをとらない秀作であった。

今年見たドキュメンタリー・ベスト5
1. 『秩父山中 花のあとさき ムツばあさんの秋』
2. 『家族と側近が語る周恩来』(1)(4)
3. 『100マイルチャレンジ 地元の食材で暮らす』
4. 『独立時計師たちの小宇宙』
5. 『バイオリンの聖地クレモナへ』
番外:『クジラと生きる』

b0189364_916644.jpg 『秩父山中 花のあとさき ムツばあさんの秋』も、映画『エンディングノート』同様、一人の市井の人間の人生を照らし出すドキュメンタリーである。過疎化が進む秩父山中に住み続け、昔ながらの生活を頑なに守っている女性、小林ムツさんを追いかける。日本の農村に古くから伝わる生活様式や市民のメンタリティといったものが、ムツさんを通じて巧みに表現されていて、優れたドキュメンタリーになっている。
 『家族と側近が語る周恩来』も一人の人間の人生を照らし出すドキュメンタリーではあるが、こちらは近代史に名を残す中国の政治家である。共産党革命や文化大革命を経験し、米国や日本との国交樹立に奔走した周恩来について、周辺の人物の証言によりその人物像を描き出す。激動の近代中国の渦中にいて、命の危険にも何度もさらされた政治家の意外な人物像まで見えてくる。また一人の人間の歴史から激動の近代史を照らし出すという手法も効果を上げていた。4回シリーズだったが、どの回も密度が濃かった。
 『100マイルチャレンジ 地元の食材で暮らす』は、食のあり方を問い直すドキュメンタリー。身辺100マイルで生産された食品だけで100日間生活してみようという試み(100マイルチャレンジ)に挑戦する数家族に密着する。現代のわれわれの食生活はきわめてグローバル化している。この番組で取り上げられる「100マイルチャレンジ」は、食をローカルなものに戻そうとする試みなんだが、実際にやってみようとすると、結果的に食べる物がほとんどなくなってしまうのだ。どれほど食品を海外に依存しているかがわかる(ちなみにこれはカナダの事例)。現代の生活で、食を身近にするというただそれだけのことがどれほど困難であるかがよくわかる。同時に、食を身近にするという試みがどれほど人々の健康にも生活にも良いか、そして人間性の回復にもつながるかが表現される。
 『独立時計師たちの小宇宙』は、スイスのフリーランスの時計職人を追うドキュメンタリー。小さな腕時計の中に複雑な小宇宙を詰め込む人々の技術がカメラで見事に捉えられる。ある意味正攻法のドキュメンタリーで、密度が非常に濃く、職人技の崇高さまで垣間見られる。アナログ腕時計の周辺についてまったく知らなかったこともあって、こういう世界が存在するということを初めて知った。
 『バイオリンの聖地クレモナへ』は、一人のヴァイオリニストが、イタリア・クレモナのヴァイオリン製作職人を訪ねるという紀行番組。こちらもまったく知らない世界が扱われており、しかもイタリアで修行しているヴァイオリン製作家に若い日本人がいるということも知らなかったし、その中の一人がチャイコフスキーコンクールのヴァイオリン製作部門で一位を受賞していたということも知らなかった。そもそもチャイコフスキーコンクールに楽器製作部門があることすら知らなかった。番組も結構ドラマチックな展開になっていて、構成が非常にうまかった。案内役のヴァイオリニスト、川久保賜紀の驚きや喜びまでが画面を通じて伝わってきた。
 番外の『クジラと生きる』はNHKスペシャルだが、映画『ザ・コーヴ』に対するNHK側の反論である。主張が非常に明確で、感情的なクジラ保護論に一石を投じるドキュメンタリーである。『ザ・コーヴ』撮影の裏側も見せていて、世論をミスリードする方法が暴かれる。そういう面もわかって面白かった。NHKがこういった意欲的な番組を作ったことも評価したいと思う。
by chikurinken | 2011-12-30 09:17 | ベスト

2011年ベスト(映画、ドラマ編)

 今年も恒例のベストです。当然「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れません(というより無意味?)。ま、個人的な総括ですんで、そこんとこヨロシク……です。
(リンクはすべて過去の記事)

今年見た映画ベスト5
b0189364_8352271.jpg1. 『利休』
2. 『エンディングノート』
3. 『死の棘』
4. 『流れる』
5. 『南極料理人』
番外:『地下室のメロディー』

 今年も昨年以上に仕事がヒマだったので、100本近く映画を見ていた。このブログに書くという目的で見たものも結構あるんで、自分の生活にとってこのブログが良いのか悪いのかにわかに判別できない面もある。それぞれの評はリンク先の記事に当たっていただくとして、簡単に補足を。
 まず『利休』であるが、あまりの完成度の高さと芸術性に感嘆したので、古い映画であるにもかかわらず「今年一番」に持ってきた。十分な時間を確保した上で、精神的に余裕を持って堪能したい逸品である。
 『エンディングノート』は先日公開されたばかりのドキュメンタリーだが、笑わせながらホロリとさせる好い映画である。しかも1人の市井の人間の人生をまるごとドキュメンタリーにパッケージするという試みも目新しい。主役の人間に対する愛情まで感じられて心持ちが良いのもこの映画の魅力であった。
 良い映画というのは一般的にがっしり作られた堅牢な印象を受けるが、『死の棘』もまさにそれで、小栗康平作品の中では出色である。内容は結構きついが、それを独特の映像的なユーモアを交えて描いていて、こういうのはなかなかできない技だ。「描ききる」という表現がピッタリ来るような完成度の高さにも惹かれる。
 『流れる』も古い映画で恐縮であるが、今まで少し距離を置いていた成瀬己喜男の魅力に気付かせてくれた作品である。古いタイプの置屋の崩壊を冷徹に描く手法にも感心するが、映像で表現される空間の見事さに当時の日本映画の実力を見た。キャストの豪華さも大きな魅力である。
 『南極料理人』は2年前の映画だが、昨今の日本映画の質の高さを体現するような作品で、乾いた笑いや空気感が心地良い。いつまでも身を置いていたくなるような気持ち良さがあった。
 ということですべて邦画になってしまったので、番外として、洋画の名作『地下室のメロディー』を取り上げようと思う。センスが良くて質が高く、さらに完成度も非常に高い、「いかにも映画的」なフランス映画であった。

今年見たドラマ・ベスト5
b0189364_8375880.jpg1. 『鳥帰る』
2. 『坂の上の雲』
3. 『フリーター、家を買う』
4. 『ハワイアン ウエディング・ソング』
5. 『胡桃の部屋』

 ヒットしたドラマ(『家政婦のミタ』)や一部で話題になったドラマ(『それでも、生きていく』)はそもそも見ていないので、このランキングには当然入っていない。いずれDVDで見るかも知れない。でも食指があまり動かないのも事実。これまでの経験からヒットドラマや話題のドラマは、センセーショナルなだけでつまらないもの、くだらないものがきわめて多い。ま、機会があったらということで。
 『鳥帰る』と『ハワイアン ウエディング・ソング』は、山田太一脚本の古いドラマである。山田太一作品は質が高いのでどうしても外せないところなんだが、かつての山田作品を上回るドラマがなかなか出てこないというのも問題ではある。『胡桃の部屋』にしても向田邦子作品のリメイクだし、いつまで経っても、今の日本のドラマのレベルはたかが知れているという印象しかないのだ。だから『家政婦のミタ』がどれだけ人気を集めたとしても見るまでもないんじゃないかとつい思ってしまう。しかも『妖怪人間ベム』や『怪物くん』までリメイクしてしまうような放送局の作品だし。
 『坂の上の雲』は、NHKが総力を挙げて作ったという意気込みが伝わってくるようなドラマであった。だが何度も繰り返すが、3年間に分けて放送するというのは絶対に賛成できない。これが恒例化しないことを願う。
 『フリーター、家を買う』は、素材(原作)が良かったことと、それをおそらく忠実にドラマ化したであろうことが功を奏したのではないかと思われる。主役の二宮和也があまりにもキャラクターにはまっていたのも特筆ものである。これも去年のドラマだったんだが、第1回を見逃していてそれを今年見たため、今年の「ベスト」に入れた。そういう意味でも全然即時性がないランキングになってしまった。反省しきりである。
by chikurinken | 2011-12-29 08:38 | ベスト