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竹林軒出張所

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カテゴリ:未分類( 12 )

『瘋癲老人日記』(映画)

b0189364_8182325.jpg瘋癲老人日記(1962年・大映)
監督:木村恵吾
原作:谷崎潤一郎
脚本:木村恵吾
出演:山村聡、若尾文子、東山千栄子、川崎敬三、村田知栄子、丹阿弥谷津子

谷崎は桁外れの大人物なのか

 ある老人が、息子の嫁に迫りながら邪険に扱われることに喜びを感じるという、マゾヒズム的(プラス・フェティシズム的)嗜好のストーリー。原作はもちろん谷崎潤一郎で、非常にそれらしい話である。主人公の老人が谷崎自身をモデルにしていることは容易に想像がつく。
 原作は読んでいないが、老人の変態的な性を描くという点で『鍵』と共通する。物語として端で見ている分には、少し引きながらも楽しめるが、しかし一方で谷崎自身こういう恥ずかしい性癖を小説とは言えよく公にしたなと思う。同時にこういう作品を芸術として許容した当時の日本の文壇にも感心する。また、いかに文豪が書いたヒット作だからと言って、こう立て続けに変態(的な)小説を映画化した大映にも敬意を表したいと思う。
 主演の老人は知的な風貌の山村聡が演じ、これはかなり意外なキャスティングである。同じく息子の嫁に惹かれる『山の音』で主演したのが影響したのか。相手役のコケティッシュな嫁は、谷崎女優の若尾文子で、これは『刺青』『卍』でも似たような役どころを演じているためまったく違和感はない。むしろ若尾文子については、『痴人の愛』のナオミ役をやっていない方が意外な感じがするほどである。
 監督の木村恵吾という人についてはまったく知らなかったが、演出は非常に正攻法で、安定した絵が多く、小津安二郎を思わせるような映像も多い。ローアングルを多用しているのもその一つで、小津風の谷崎と言えなくもない。もっとも小津作品と谷崎作品といえば対極のイメージではある。
 例によってまったく共感できないストーリーだが、映画として破綻がないため、できは非常に良く、よくまとまっている。谷崎映画の中でも上質の部類に入る。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『鍵(映画)』
竹林軒出張所『細雪(映画)』
竹林軒出張所『刺青(映画)』
竹林軒出張所『卍(映画)』
竹林軒出張所『痴人の愛(映画)』
竹林軒出張所『春琴抄(映画)』
竹林軒出張所『つれなかりせばなかなかに(本)』
竹林軒出張所『蓼喰う虫(本)』
by chikurinken | 2015-12-15 08:21

『まんがで読破 ダンテ・作 神曲』(本)

b0189364_9354485.jpgまんがで読破 ダンテ・作 神曲
ダンテ原作、バラエティ・アートワークス作画
イースト・プレス

『神曲』の内容はよくわかるが
『神曲』自身はいけ好かない


 ダンテの『神曲』のマンガ化作品。内容は原作に沿っているようで、そのあたりは評価できる。また、内容自体、映像化、マンガ化に適した素材で、このシリーズの中ではよくできた方に入る。
 『神曲』は「地獄篇」、「煉獄篇」、「天国篇」の三部構成になっていて、ダンテが、古代ローマの詩人、ウェルギリウスの案内で地獄、煉獄、天国をめぐるという叙事詩で、非常にキリスト教的な内容である。ダンテ自身が敬虔なカトリック信者だったらしく、非キリスト教徒から見るととてもジコチューに感じられ、ちょっと受け入れがたい部分もたくさんある(なんせギリシャの哲人が地獄にいるんだから)。それに、本書に登場する永遠の恋人、ベアトリーチェに対する思いも少々偏執的で、この本による限り、ダンテ自身もちょっと危なそうな人物に見受けられる。だが『神曲』がヨーロッパの古典であり、ルネサンスの先駆的な作品と言われているのだから、その内容についても少しは知っておきたいところである。そういう意味でもこのマンガ化作品は価値が高いと言える。
 先ほども言ったように、個人的には不快に感じる記述が多いので、原著に当たることは今後もないだろうと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『まんがで読破 ルソー・作 エミール(本)』
竹林軒出張所『まんがで読破 カント作・純粋理性批判(本)』
竹林軒出張所『まんがで読破 旧約聖書(本)』
竹林軒出張所『まんがで読破 クラウゼヴィッツ・作 戦争論(本)』
竹林軒出張所『まんがで読破 般若心経(本)』
竹林軒出張所『まんがで読破 施耐庵・作 水滸伝(本)』
竹林軒出張所『まんがで読破 孫子の兵法(本)』
by chikurinken | 2014-01-13 08:22

続・山田太一のドラマ、5本

b0189364_849584.jpg山田太一のドラマ・ベスト10
6. 男たちの旅路 第4部「第三話 車輪の一歩」
 (1979年、NHK)
7. 今朝の秋(1987年、NHK)
8. シャツの店(1986年、NHK)
9. 夏の一族(1995年、NHK)
10. 深夜にようこそ(1986年、TBS)
番外:ふぞろいの林檎たち(1983年、TBS)

 今週は山田太一関連の記事をずらりと並べたので、最後にお奨め山田太一ドラマの続編を(竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』参照)。
 前も書いたが、10本といわず15本でも20本でもベストのランキングを作ることができるが、今回もとりあえずの5本。『午後の旅立ち』や『チロルの挽歌』は相変わらず見ていない。

 『男たちの旅路 第4部「第三話 車輪の一歩」』は、鶴田浩二主演のドラマで初めて「山田太一」という名前が冠についたドラマだったらしい。このドラマができたいきさつなどは『100年インタビュー』に脚本家本人が登場したときに語られていたので、そちらを参照されたい(竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』)。初めてこのドラマを見たとき、僕は高校生だったが、突きつけられるテーマの重さとそれに対する明快な回答に目からウロコの思いがした。
b0189364_8523914.jpg 『今朝の秋』は老いと家族をテーマにした快作。レビューは先日書いたのでそちらをどうぞ(竹林軒出張所『今朝の秋(ドラマ)』)。
 『シャツの店』も鶴田浩二主演のドラマで、鶴田浩二がシャツの仕立て職人になるという珍しい設定の作品。ある夫婦とそれを取り巻く人達の、ときに哀れでときにユーモラスな人間模様が楽しく、セリフが非常に面白かったという記憶がある。
 『夏の一族』は、渡哲也が肩たたきにあう研究員の役を演じるという、こちらも異色の設定である。この渡哲也演じる元研究員と、娘を演じる宮沢りえとが対立するシーンで繰り出されるセリフが素晴らしく、それだけでこのドラマの価値があると言える。もちろんストーリーもよくできていて、藤岡琢也や柳沢慎吾との絡みも面白い。テーマはホームドラマ的だが、当時の世相も反映していて、なかなかの快作である。
 『深夜にようこそ』は、放送時に1回見ただけで記憶は乏しいが、見たときのインパクトが大きく、なんといってもドラマチックな見せ方に魅せられた。深夜のコンビニに新入りバイトとして入ってきた謎の男を千葉真一が演じるが、どう見てもものすごい遣り手企業人にしか見えず、なぜコンビニのバイトなんかしているのか謎……といった展開である。『春の一族』なんかでも同じように主人公の正体を隠したままドラマを展開させているが、こういったパターンのドラマは見る側を惹きつける上で効果的ではある。山田太一もちょくちょくこういった「謎」を利用したドラマを書いているが、確かに面白い作用を生みだしていて、『深夜にようこそ』はその代表と言っても良いかも知れない。
b0189364_853857.jpg 最後は言わずもがなの代表作『ふぞろいの林檎たち』で、その後第4シリーズまで作られたほど人気が高かった。いかにも連続ドラマという展開の群像劇で、この最初のシリーズと第2シリーズが特によくできていた。第3シリーズはほとんど記憶がなく、第4シリーズは、よくできてはいるがちょっと行きすぎだったような印象がある(第4シリーズについては山田太一自身あまり乗り気ではなかったという話を聞いたことがある)。

 で、今回紹介したドラマは、『深夜にようこそ』以外すべてDVD化されているので、興味のある方はごらんいただきたいと思う。最近、山田ドラマのDVD化が結構進んでいて(山田作品以外のドラマもそうだが)、ファンとしてはうれしい限り。といってももちろんDVDを買ったりすることはなかなかできないのでどうしてもレンタル頼みということになるんだが、有名作以外にもDVD化されているせいか、レンタルに入ってないものも多くなってきた。買うかどうするかちょっとしたジレンマもある。もう少し気軽に見れるようテレビの再放送を増やしていただくとかできないものかと思うんだが。

参考:
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年(本)』
by chikurinken | 2013-04-27 09:02

『「最悪」の核施設 六ヶ所再処理工場』(本)

「最悪」の核施設 六ヶ所再処理工場
小出裕章、渡辺満久、明石昇二郎著
集英社新書

名ばかりの危険物処理施設は存在自体が危険

b0189364_841101.jpg 福島第一原発の事故で、さしもの日本の原子力行政も転換するかと思っていたが、いつのまにかまた甦ってきた。まったく懲りない連中がいるもので、人間は失敗から学ぶってことを理解していない愚か者がこの国を牛耳っているのはまったく嘆かわしい限り。日本国が完全に滅びない限り気が付かないんだろう。もっとも滅びてしまったら後の祭りだが。
 そういう昨今の風潮の中、もんじゅも生き返り、そして今また六ヶ所村の再処理工場も何もなかったかのように計画が進んでいる。これが操業を始めた日にゃ、核物質による環境汚染も桁違いだし、それに今度事故が起こったらそれこそ取り返しがつかなくなる。
 この本は昨年の8月に発行された本だが、それ以降、国内の原子力行政の状況が一段と悪化している。こういう状況だからこそ、こういう本の価値も上がるというものである。で、内容であるが、六ヶ所村の再処理工場の問題点を書き連ね(第1章、小出裕章担当)、同時に「地震で爆発事故が発生したら」という想定のシミュレーションが紹介されている(第2章、明石昇二郎担当)。さらにこの再処理工場の下を活断層が通っていることを地震学の専門家が1章を費やして解説している(第3章、渡辺満久担当)。明石昇二郎のシミュレーションは、『原発崩壊 増補版』(竹林軒出張所『隠される原子力・核の真実(本)』参照)同様、被害想定がやや大きすぎるきらいはあるが、ただし再処理工場の場合、よくわからない部分があるので、大きすぎるかどうかはにわかに判断できない。少なくとも、その基となるデータや論拠が示されているため、荒唐無稽なものでないことは確かである。ともかくこの規模の災害が起こったら、日本は沈没間違いなしである。
 もっとも事故が起こらないとしても、環境への核物質排出は桁違いに大きく「原発1年分の放射能を1日で放出する」らしく、それを考えると、存在自体が容認できないのは火を見るより明らか。しかも「核廃棄物の再処理」事態、まったく不要なプルトニウムを取り出すという作業であり、核兵器を作るというのなら別だが、現状ではプルトニウムの使い道さえなく、そう考えると本来まったく不要な作業である。不要な作業のために(本来であれば)不要な不安を抱えたまま、不要な汚染をし続けるという施設で、そもそも必要かどうかという議論をする以前の問題であると思う。この本を読めばそういうことがわかるようになっている。興味のある方は読んでくださいという他ないんだが、一方で、日本人ならこういうものが作られようとしているということぐらい知っておいた方が良いんじゃないかとも思うんだな。そうしたら少なくとも原発を推進するような政治体制が生まれることはなくなるだろうと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『六ヶ所村ラプソディー(映画)』
  (六ヶ所村の今を伝えるドキュメンタリー映画)
竹林軒出張所『核燃料サイクル 半世紀の軌跡(ドキュメンタリー)』
  (日本の核燃料サイクルの現状)
竹林軒出張所『終わらない悪夢 前編、後編(ドキュメンタリー)』
  (フランスの核燃料サイクルの現状)
竹林軒出張所『隠される原子力・核の真実(本)』(小出裕章の著作)
竹林軒出張所『原発崩壊 増補版(本)』(明石昇二郎の著作)
by chikurinken | 2013-02-12 09:03

DVDレコーダー、動作を停止す

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 DVDレコーダーでDVDを見ようとしたら、レコーダーが突然動作を停止した。うちのDVDレコーダーは、7年前に買ったもので、デジタル放送対応機種の初期の型番である。パナソニックのDIGAの(当時の)最下位機種で、最下位機種だけに使い勝手はあまり良くないが、今まで故障もまったくなく「さすがパナ!」と思っていた矢先である。ちなみにこのDVDレコーダーにはアナログテレビをつないでいるので、これがなければテレビ放送が見れなくなる。
 さて状況を説明すると、映画を録画中だったのだな、そのとき。ところが最下位機種だけに、録画中は他の作業ができないと来ている。DVDを見ようと思っても録画を中止しなければ見れないわけね。とりあえずDVDを入れたは良いが、録画中でいかんともしがたいので、録画を中止したのだった。で、しばらく待ってDVDを見ようと思いDVDの再生モードに切り替えたのだが、本体のLEDに「PLAY」と表示されはするが、テレビの画面はブラックアウトのまま。リモコンのスイッチをいろいろ押しても一向に変化がないので、とりあえずレコーダーをオフにした。すると今度はLEDに「PLEASE WAIT」と出て、うんともすんともいわない。もちろんイジェクトスイッチを押してもDVDは吐き出されない。レコーダーの指示に従って10数分待ってみたが、相変わらず「PLEASE WAIT」と表示されている。思いあまって、コンセントを抜いてから再び起動を試みた。それでも相変わらず「PLEASE WAIT」と出るだけである。
b0189364_732364.jpg ハードディスクで7年目といえば、いつ壊れてもおかしくない状態と言える。だからここでハードディスクが壊れても文句をいう気はないんだが、それでもテレビが見れなくなるんだから困る。ましかし、そこはそれ、ここのところいろいろなものがたてつづけに壊れて免疫ができているので(竹林軒出張所『いろんなものが壊れる日々』参照)、使えなくなってしまえばあきらめるしかないという、ちょっとした覚悟はある。ただ一つ気がかりなのが、DVDレコーダーに閉じ込められているDVDが、ちょっとだけいかがわしいものであるという点である。知り合いの電器屋さんに修理に出すのは少しはばかられるんで、結局しばらくはなしで過ごすしかない……自分の中でそういう結論に達したのだった。
 その後、レコーダーのコンセントを外した状態でずっと置いていたんだが、先ほどネットで何気なく調べてみたら(検索ワード「DIGA PLEASE WAIT」)、こういう場合の対処方法がいくつか見つかった。こういう症状は故障の線が強いらしいが、それでも治るケースもあるという。何でも数時間コンセントを外してからもう一度電源を投入するというごく簡単な方法である。あえて言うが、僕でもそのくらいのことは予想できてはいたんだが、しかしすでに壊れた気でいた僕にとって、「直ることがある」という情報は結構重要だったのである。少なくとももう一度トライしてみようというモチベーションにはなった。
 で、やってみたところ、やはり同じ状態が続き、その後「PLAY」という表示になる。このあたりは前と大差ない状態である。モード切替ボタンやいろいろなボタンを押してみるもやはり変わらずで、最後に電源ボタンを10秒以上押し続けるという作業をやってみた(設定のリセット機能が働くという情報あり)。これもネットの書き込みにあった情報が元だが、そうすると「PLEASE WAIT」と出た後、しばらくしてLEDに時刻が表示されたのだった。これは正常動作時のオフの状態である。この状態でイジェクトボタンを押すと、ややあって出て来たんである、ちょっといかがわしいDVDが。なんと、こうしてDVDレコーダーは復旧したのであった。ハードディスクの中身を見てみるとすべて無事で、その後、何事もなかったかのように動作を続けている。
 要はレコーダーが、入れたDVDを読み込めなかったということなのか。ただし読み込めないDVDは通常、その後イジェクトすることができる……はずである。試しにこのDVDをパソコンで読み込んでみたが、問題なく普通に読み込むことができた。DVDが悪かったのか、それとも操作が悪かったのかよくは分からないが、結局はちょっとした騒動で済んだというそういう顛末である。今後は乱暴に扱わずに注意して使おうと肝に銘じた昼下がりだった。同時に、レンタルしたDVDが入ったまま壊れて取り出せなくなったらどうなるんだろうという素朴な疑問が渦巻くのであった。

参考:
竹林軒出張所『プライベート・ビエラ -- ユニークな製品だが使い方を選ぶ』
竹林軒出張所『パソコンからレンタルDVDが出てこなくなった話』
by chikurinken | 2012-05-29 07:34

新解さんと岩波さん

 子どもが今年とある高校に進学することになったが、その高校の新入生向け推奨辞書リストの国語辞典の項に『三省堂新明解国語辞典』と書かれていた。
b0189364_8484317.jpg 『新明解国語辞典』と言えば、赤瀬川源平の『新解さんの謎』でお馴染みのあの「新解さん」ではないか。学校という場で「新解さん」を奨めるというのが僕にとってははなはだ意外だった。『新明解国語辞典』はとかく奇抜な記述が多いという印象で、娯楽として使用するならともかく、教育現場で使うのはどんなものなんだろうと思う。そういうこともあって『新解さんの謎』をもう一度読み直すことにした。
 『新解さんの謎』では、奇抜な記述を紹介するだけでなく、例文についてもさまざまなツッコミを入れて、さながらテレビのバラエティ番組のような面白半分的なおちゃらけで終始していて、かつての『超芸術トマソン』(赤瀬川源平著)のようなキレは残念ながらない。それに、本文の中であれやこれやツッコんでいた例文は、多くが既存の小説(『三四郎』や『高野聖』、『路傍の石』など)から採られたものであり、各項の例文同士に因果関係はない。そのため、さまざまな例文から『新明解』の著者の人格を想像しようとするのもあまり意味があるとは思えず、したがってこの本のように、例文を使ってはしゃいでいるのも、一種のワルノリみたいに思え、正直なところ読んでいてシラけてしまうのだ。むしろ、この辞書でこれだけいろいろな文学作品から例文を集めてきたという、そちらの労力の方が気になったくらいだ、本当のところ。とは言え、例文はともかく、やはり各項目の記述は少し奇妙ではある。たとえば本書で紹介されている「恋愛」の項。

恋愛:特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒に居たい、出来るなら合体したいという気持ちを持ちながら、それが、常にはかなえられないで、ひどく心を苦しめる・(まれにかなえられて歓喜する)状態。

 正直言って(こちらも)ワルノリが過ぎるという印象である。

b0189364_850391.jpg 僕が高校に入ったときに国語の教師から激しく推薦されたのが『岩波国語辞典』であったことを考えると、『新明解』が推奨されている現状はまさに隔世の感がある。ただし僕自身は当時、『岩波』をわざわざ買ったりせず、中学生のときに買った小学館の国語辞典をそのまま使っていた。そのため教師に「君は岩波を使わないんですか?」とたびたび皮肉を言われ、嫌な思いをしたものである。今だったら「家が貧しいので新しいのが買えないんです」くらいのことを言い返すところだが、当時はまだおとなしかったからただ黙っていた。それにその教師のこともあまり好きではなかったし。
 で、ともかく先日、書店の辞書売り場に行ってみたんである。そうするとなんと『新明解国語辞典』が大量に平積みになっており、『岩波』は棚の隅に1冊残されていただけだったのである。そのうえ、『新明解』には「一番売れている国語辞典」というキャッチフレーズが付いていた。子どもに(売れている)「新解さん」を買い与える気はさすがに起こらなかったので、僕は1冊しか残されていなかった『岩波国語辞典』をわざわざ買ったのだった。こういうもの(つまり『新明解』)を奨める教師に対する反発も心の中にはあったのだ。教師に「君は新解さんを使わないんですか?」と皮肉を言われ続けるかも知れないが、良くないと思うものをわざわざ与える親はいないだろう。だからまあ、そういう意味では良い選択だったのではないかと思っている。もちろん子どもには、自分の高校時代の話を伝え、皮肉を言われる可能性は示唆しておいた。一方で、偏屈な人間を親を持つと、しないで良い苦労もしてしまうのだな……と、自分のことは棚に上げてしみじみ思った春の夕暮れなのだった。

追記:現在『新明解国語辞典』は第七版で、『新解さんの謎』で紹介されているのは第四版までである。この新明解辞典であるが、版を追うごとに内容がかなり修正されているため(そのあたりも信頼が置けない理由の1つである)、かつてのようなおちゃらけた記述が残っているかどうかはわからない。興味のある方はご自身の目でご確認ください。
by chikurinken | 2012-03-30 08:51

『殺人狂時代』(映画)

b0189364_14264049.jpg殺人狂時代(1967年・東宝)
監督:岡本喜八
原作:都筑道夫
脚本:小川英、山崎忠昭、岡本喜八
美術:阿久根巌
出演:仲代達矢、団令子、天本英世、砂塚秀夫

 「殺人狂時代」と言っても、『チャップリンの殺人狂時代』ではなく、岡本喜八の『殺人狂時代』。
 一種のハードボイルドなんだろうが、コミカルな要素もちりばめられている。ストーリーはあまりに荒唐無稽で、『キイハンター』や『仮面ライダー』を思わせるもの。悪の秘密結社に狙われる主人公が、超人的な技と頭脳で難局を切り抜けていくという話。思わず「ないない」とツッコミを入れたくなるような、ご都合主義的な要素があふれる展開である。秘密結社の総裁は天本英世! 後に『仮面ライダー』で演じた死神博士の原型とも言えるマッド・サイエンティストを演じる。この天本英世と仲代達矢は好演で存在感を見せつけていたが、後はさして見所もなく、たわいのないエンタテイメントに堕してしまった(しかも大して面白く感じなかった)という印象しか残らなかった。なお、最後の方に登場する「スペイン式決闘」は、スペインびいきの天本氏の発案らしい(彼の著書『日本人への遺言』の情報)。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『日本人への遺言(本)』…天本英世のエッセイ!
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』
竹林軒出張所『殺人狂時代(映画)』
竹林軒出張所『日本のいちばん長い日(映画)』
竹林軒出張所『ダイナマイトどんどん(映画)』
by chikurinken | 2012-02-15 08:50

『モンサントの世界戦略』(ドキュメンタリー)

アグリビジネスの巨人「モンサント」の世界戦略 前編後編
(2008年・仏 ARTE)
NHK-BS1

b0189364_18531595.jpg 除草剤ラウンドアップで有名な多国籍企業、モンサントが、世界中で展開するアグリビジネスの正体を暴くドキュメンタリー。
 元々化学製品メーカーであったモンサントは、現在、農薬や肥料だけでなく、自社の農薬に耐性を持つ遺伝子組み換え種子を販売しており、農薬と抱き合わせて売りさばくことで巨額の収益を上げている。遺伝子組み換え種子の安全性についてはすでにさまざまなところで語られており、ヨーロッパの多くの国や日本では輸入禁止にしている。一方でモンサント側は、安全性が証明されていると訴えているが、まずこの論拠が非常にいい加減であることをこのドキュメンタリーは訴える。要するに遺伝子組み換え種子はまったく安全とは言い難いということである。また、ラウンドアップにしても生分解性であることをモンサントは協調して販売しているが、これもまったくデタラメらしい。
 モンサントと言えば、かつてはPCB生産によって世界中に公害をまき散らし、数多くの被害者を出している。現在ではラウンドアップなどの農薬や遺伝子組み換え種子で同様の被害を世界中にまき散らしているのだ。遺伝子組み換え種子は元々、次の世代を生み出さないということになっていて、そのために生産者はモンサントの種子を毎年買い続けなければならないんだが、実際には、在来種と自然交配して次世代を生み出している。しかも、新しく発芽したハイブリッド種は、異常な花や茎を生み出し、一見してギョッとするような代物になっている。かつて枯れ葉剤でベトナムに生殖異常を多数もたらしたモンサントは、今も遺伝子組み換え種子で同じことを行っているのだ。しかも、このような状況が目に見えない形で進行していて、在来種の生存が脅かされている。
 さらに、モンサントの種子を購入する農業主に対しても、さまざまな手段で圧力をかけ、結果的に小規模農業が立ちゆかなくなる結果を生み出している。このドキュメンタリーの後編では、インドでモンサントの種子を購入した農家の惨状が紹介されている。
 このドキュメンタリーでは、このように、モンサントの悪事がこれでもかという具合に暴き立てられている。モンサント側の反論なども一部紹介されているが、こうした事実を知った上でその反論を聞くと「まったく笑止」という印象を受ける。こういう企業がのさばり、しかもそれをアメリカが輸出の核として世界中に押しつけている状況を見ると、まったく嘆かわしい限り……そういうことを実感できるドキュメンタリーであった。
 このように内容は非常に迫力があって面白かったが、番組の演出ということになると賞賛できない部分もある。たとえば、このドキュメンタリーのネタ元として、ジャーナリストがネット検索(主にGoogle)を使用するという映像が随所に出てきて、その検索結果をドキュメンタリーの中で実際に活用しているが、こういう演出はあまりに安っぽい。ネットでチャチャッと調べて作ったドキュメンタリーであるかのような印象すら与える。いっそのこと、こういう部分を排除して、問題点をオーソドックスに並べていく方がずっと良いのではないかと思った。とは言え、優れた告発ドキュメンタリーであることには違いない。こういうものが作られたのも、遺伝子組み換え食品に反対している農業国、フランスならではと言うこともできる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『遺伝子組み換え戦争』
竹林軒出張所『フード・インク(映画)』
by chikurinken | 2011-12-12 09:54

原発を知るための本 5冊+1冊

1. 『危険な話』広瀬隆著(新潮文庫)
2. 『東京に原発を!』広瀬隆著(集英社文庫)
3. 『決定版 原発大論争!―電力会社vs反原発派』別冊宝島編集部編(宝島社文庫)
4. 『原子力帝国』ロベルト・ユンク著、山口祐弘訳(現代教養文庫)
5. 『プルトニウムの恐怖』高木仁三郎著(岩波新書黄版)
番外 『暗闇の思想を 火電阻止運動の論理』松下竜一著(現代教養文庫)

 今となっては古い本ばかりで、すべて絶版または品切れになっています。スミマセン。でもほとんど古本で入手できます(よく売れた本が多いので)し、図書館にも大体置かれていると思います。また、内容はどれもまったく古くありません。

b0189364_10101059.jpg 『危険な話』は、1987年に出版された本で、非常に平易な言葉で原子力発電の危険性が語られる(字のサイズも大きい)。発売当時かなり売れ、そのとき学生だった僕もこれを読み、周りにもこれを読んで震え上がった人間が大勢いた。広瀬隆はどちらかというと煽情的な記述が多いが、ただ問題が問題だけにこのくらいの衝撃度は必要かなと思う。煽情的ではあっても記述はデタラメではない。
 『東京に原発を!』も同時期に出された広瀬隆の原発本で、「そんなに原発が安全だってんなら東京の中心に建ててみろや」という主張である。これは『危険な話』よりもう少し詳細な記述があって、より深く理解することができる。しかし内容は非常に怖い。ホラーに近い。しかもそれが現実という事実!
 『決定版 原発大論争!―電力会社vs反原発派』は、他の本と比べるとわりに新しい本なんだが、すでに絶版のようである。こういう売り方ってのはどうなんだとは思うが、現在Amazonで本書の古本が1円で売られている(手数料など込みで251円)。原発に関する賛成意見と反対意見を詳細に検討し、原発推進派が繰り返す論理がデタラメであることを示し、それが破綻していることを証明していく。Q&A方式の記述になっていて、これも読みやすい。
b0189364_10104822.jpg 『原子力帝国』は、原子力の特質を、人間との関係から論証し、原子力は人間が制御できないもので、人間を疎外する(民主主義と対峙せざるを得ない)存在だと主張する。読んだ当時、なんて格調が高い本なんだと感じた記憶がある。
 『プルトニウムの恐怖』は、当時原子力資料情報室(NPOみたいなもの?)の代表を務めながら、マスコミを通じて原子力の危険性を訴えていた高木仁三郎の著書で、煽情的な記述は抑えながらも、原子力の危険性を淡々と学術的な側面から訴える好著である。
 番外の『暗闇の思想を』は、(原子力発電の話ではなく)火力発電所の話であるが、発電所建設を推進する側の特徴や方法論、住民の意向をないがしろにし、コミュニティを断絶させる過程がよく描かれている。近隣での火力発電所建設計画が突然持ち上がり、それに違和感を感じる1住民が、それに対峙し、自立した市民へと成長していく過程が自らの口から語られる。「電気が足りなくなるというのなら電気なしで暮らしていこう」という「暗闇の思想」は痛快ささえ感じる。

 原発関連の本は、今でもいろいろ出ているようで、推進側と反対側両方からさまざまな主張があるようだ。個人的には、原子力は存在してはならない技術で、できればわれわれの世代で封じ込めてしまいたいと思っている。特に今みたいに、実像が示されないまま、札束でほっぺたを叩くような方法でなし崩し的に原発建設が推進されている状況は見過ごせない。現に今でも山口県の上関という風光明媚な場所に原発建設計画が持ち上がっており、対岸の祝島住民はそれに反対を続けてきたが、最近になっていよいよ強制着工ということになったと聞く。この祝島の住民は、「そんなに原発に反対するなら電気を使うな」というような暴論に対抗してのことかよくわからないが、電力を100%自然エネルギーで自給しようという計画まで立ち上げている。「暗闇の思想」に近いものがある。今回の事故がきっかけで、この上関原発建設計画の見直しにつながらないかと密かに期待しているのである。

 今回の事故(まだ決着していないが)は、とにかくすべての人が教訓にすべきことだと思っています。で、今まで原発問題に関心がなかった人も少しだけ目を向けて欲しいと思って本を紹介しました。決してないがしろにできない問題であり、個人的には、行政と大企業が結託して市民に詐欺を働いている状況がずっと続いている……というようなそんな気もしています。是非自分の目で見て、心で感じ、頭で判断していただきたいと思っております。
by chikurinken | 2011-03-20 09:04

『日本人への遺言』(本)

b0189364_8523449.jpg日本人への遺言(メメント)
天本英世著
徳間書店

 俳優、天本英世のエッセイ。自身の半生、スペインへの思い、そして日本人に対するメッセージが綴られている。
 天本英世といえば、われわれの世代ではすなわち『仮面ライダー』の「死神博士」で、当時おそろしく怖かった印象がある。晩年、テレビのバラエティなどにも顔を出して、ちょっとお茶目な素顔もさらすようになったが、それまでは「天本英世=恐ろしい」というイメージが僕の中でなかなか払拭できなかった。それくらい死神博士にはインパクトがあったのだ。だが同時に、ああいう役者は他の役ができるのだろうかという思いもあった……はなはだお節介ではあるが。あの特異な風貌に似合う役が他に果たしてあったのだろうか、狂気を孕んだマッド・サイエンティストみたいな役以外こなせるのだろうかなどという思いである。だからデビュー時に「ジャン=ルイ・バロー(『天井桟敷の人々』で主役を務めた俳優)によく似たすごい俳優」と言われていたという話を本書で知ると、あ、なるほどと思ったりする。デビュー時はそういう位置付けだったのかと納得した。どうしても僕の中では死神博士のイメージが強烈だったが、若い頃は知的な二枚目として評価されていたのかとあらためて思ったのである(経歴を見ると東大中退だったりする)。しかも、以前テレビで見たが、アパートみたいな質素な家に一人暮らししていて、そこらへんをブラブラしているような生活を送っていた。なんでも「国民年金(保険料)など払ったことがない。いくら年を取っても国の世話にだけはなりたくない」(Wikipediaより)と言っていたらしく、今どき珍しいなんという骨のある人なんだと思う。そういうわけで、この人の書いたものを一度読んでみたいと思ってこの本を手に取ったのだ。
b0189364_859699.jpg 本書では、その生い立ちから書き綴られ、旧制七校に進学し、太平洋戦争を経験して、その後東大に進み、俳優になったいきさつが紹介される。中でも、個人の自由が侵される戦時体験が非常に強烈だったようで(徴兵もされ随分不快な思いもしたようだ)、自由を侵す勢力に対しては大きな反発を抱くようになった。また、そういった危険な勢力に対して物言わぬことについても危惧を抱いているようで、日本人に対して、自分で思考しはっきりと意見表明すべきだと説く。そしてその理想型として、著者が愛するスペインが掲げられる。正直その辺については賛同できないし、自分の意見ばかり勝手に表明する人間ばかりが周りにあふれてもあまりうれしくないが、ただこういうふうに賛同しないと表明することも、著者にとっては望ましい状態なのだと思う。確かに著者の言うとおり、物言わずに大衆に迎合する日本人が多いのはちょっと危険な感じも受けるのは確かである(現に衆愚政治の傾向が見え隠れする昨今である)。いずれにしても天本英世が体現した骨のある生き方に輝きを感じるのは確かである。

追記:本書の最後の章に、スペイン旅行時のスナップ写真が多数掲載されていたが、「セビーリャ・サンタクルス街の“死神通り”にて」という写真まであった。著者が死神博士を意識していたのかどうかはわからない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『殺人狂時代(映画)』
by chikurinken | 2010-05-06 08:45