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竹林軒出張所

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2017年 10月 17日 ( 1 )

『天地明察』(映画)

天地明察(2012年・角川、松竹)
監督:滝田洋二郎
原作:冲方丁
脚本:加藤正人、滝田洋二郎
音楽:久石譲
出演:岡田准一、宮崎あおい、佐藤隆太、市川猿之助、横山裕、笹野高史、岸部一徳、中井貴一、松本幸四郎、渡辺大、白井晃、市川染五郎、きたろう

アク抜きしたら風味もなくなった

b0189364_20555141.jpg 映画は原作とは別物であり、それは重々わかっているつもりだが、気に入った原作本の映画化となるとやはりかなり不満が残る。
 原作は冲方丁(「うぶかたとう」と読むらしいが、読めない)の同名歴史小説で、非常に完成度の高い作品であり、特にキャラクターの描き方が非常にうまい。渋川春海の貞享暦をモチーフにした(一種の)青春成長小説で、史実を割合忠実に辿りながらも、劇的な要素をそれなりに盛り込んでいる。渋川春海をはじめとする登場人物が魅力的で、関孝和、保科正之、水戸光圀、本因坊道策らが(どれも奇抜な性格ではあるが)活き活きと目の前に現れる。キャラクターだけでなく、この小説全体について言えるのだが、非常に映像的であり、情景が視覚的に描かれている。それを考えると、そのまま忠実に映像化したらそれなりの傑作になるのではと思うのだが、映画の作り手は、そうは思わなかったようで、随所に改変が行われてしまった。
 もちろん時間の制約や、映像化にまつわる制約があっただろうし、映画的な演出も必要だったことは想像できるが、だがたとえば忍者の集団が測量隊を襲ったりする戦いのシーンが果たして必要と言えるのかはなはだ疑問。まったく必然性を感じない。それにもしこういうエピソードを入れたいのであれば、もう少し後に入れなければ、話のつじつまが合わないような気もする。
 キャスティングについても、春海の妻の「えん」は原作では気丈な人で、だからこそ春海との関わりに面白さが出るんだが、映画の宮崎あおいの「えん」にはそういう要素がなく、「えん」関連の面白い部分はそっくり落としましたという結果になっている。おかげで単なる恋物語で終わってしまって面白さ半減。実にもったいない。他のキャストは概ね原作に合わせて選ばれているようだが、うまくいっているものはあまりない。保科正之がぎりぎりOKという感じである。本因坊道策は横山裕の雰囲気が非常に良かったが、こちらも一部キャラが殺されてしまった。この映画化全般について言えるが、濃い部分(つまり面白い味のある部分)をことごとくそぎ落として、アク抜きしたような作品になってしまっている。
 音楽も付け方があまりにありきたりで、一体誰が今どきこういった陳腐な音楽付けをするのかと思っていたら、久石譲だった。原曲はともかく、音楽監督の資質としては疑問符が付く。あるいは監督の意向かもしれないので何とも言えないが。
 この原作を映像化するのであれば、今流行りのドキュメンタリー・ドラマみたいな形を取るかなんかして随所に解説を入れる必要があると思う。やはり当時の暦や和算の状況、江戸幕府が文治主義に転換した背景、囲碁界の状況などをセリフだけで説明するのは無理がある。それに、そもそもが数十年に渡る物語であるため、これを2時間に凝縮するとなると根本的に足りない。最低6時間くらいは必要ではないかと思う。NHKで1時間×10回シリーズぐらいで作り直したら良いものができるかも知れない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『天地明察 (上)(下)(本)』

by chikurinken | 2017-10-17 07:00 | 映画