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竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

2017年 10月 06日 ( 1 )

『幻の色 よみがえる浮世絵』(ドキュメンタリー)

幻の色 よみがえる浮世絵(2009年・NHK)
NHK-BSプレミアム プレミアムカフェ

浮世絵は決して「渋い」絵ではなかった

b0189364_20373692.jpg 少し前に富山の農家で382枚の版木(浮世絵を刷るときに使用する木版)が見つかった。江戸時代に実際に浮世絵印刷のために使われた版木で、それぞれの版木には、当時使われた絵の具が付いている。見つかった版木の多くは歌川国芳の浮世絵を刷るためのもので、これらの版木で刷られた作品は現存しているものが多いが、現存作品と版木を比べると色が微妙に異なる。つまり刷られた浮世絵では、顔料によっては経年に伴い色落ちしているというわけで、それがこの版木の発見によって明らかになった。
 そこで、元々使われていた顔料を使って、発表当時の色彩でこの浮世絵を復刻してみようというプロジェクトが始まる。この浮世絵復刻プロジェクトで実作業を担当するのが、現代の浮世絵師、立原位貫(竹林軒出張所『一刀一絵 江戸の色彩を現代に甦らせた男(本)』を参照)である。立原氏は、江戸時代の彫りと刷りを(独学で)自ら再現し、しかも当時使われていた紙や道具まで復刻したという猛者で、このプロジェクトにはうってつけの人材と言える。
 作業は、元の版木から刷り用の版木を複製するところから始まるが、番組ではこのあたりにも密着していて、なかなか興味深い部分である。髪の生え際の微妙な表現がミソ、というか彫り師の腕の見せ所だったという事実も紹介される。もちろん立原氏による生え際の彫りについてもたっぷり見ることができる。
 彫りが終わると刷りの過程に移るが、そこで明らかになったのが、一部の顔料(紅)がすでに市場にないという事実で、このあたりは芸術作品の復刻のあるあるネタであるが、そこは立原氏、例によって、復刻できそうな業者に頼み込んで、何とか再現してもらう。こうしてすべての顔料が揃ったところで、いよいよ刷り作業に当たる。実際に刷ってみると、現存する渋い刷りからは想像できないほどのハデハデな絵が現れた。浮世絵があくまで庶民の楽しみであり(そば一杯程度の値段で売られていたらしい)、それに当時隆盛だった歌舞伎などの色合いを考えると、浮世絵がハデハデな絵であっても何ら不思議はなく、むしろこれが浮世絵の真の姿であることが窺われる。考えようによってはケバケバしいということもできるが、しかし色の使い方は割合合理的で、汚さは一切感じない。こうして、版木の新発見から始まった一連のプロジェクトで、浮世絵に対する新しい視点が生み出されることになった……という、そういうドキュメンタリーである。
 なお番組中に、浮世絵が好きという人々が集まってきて、歌川国芳やこの復刻版画についていろいろコメントするコーナーがあるが、毎度ながらこういう部分はいらないと感じる。この時間があったら立原氏の技術をもっと見せてほしいところである。なお、この浮世絵好きの人々の中に『日本語ぽこりぽこり』のアーサー・ビナードも入っていて、鋭い視点を披露していたのは、このコーナーの唯一の救いであった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『一刀一絵 江戸の色彩を現代に甦らせた男(本)』
竹林軒出張所『日本語ぽこりぽこり(本)』

by chikurinken | 2017-10-06 07:37 | ドキュメンタリー