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竹林軒出張所

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2017年 05月 07日 ( 1 )

『切腹』(映画)

b0189364_11163217.jpg切腹(1962年・松竹)
監督:小林正樹
原作:滝口康彦
脚本:橋本忍
撮影:宮島義勇
美術:大角純一、戸田重昌
音楽:武満徹
出演:仲代達矢、岩下志麻、石浜朗、三國連太郎、三島雅夫、丹波哲郎、中谷一郎、青木義朗、稲葉義男

日本映画の最高峰

 日本映画の最高傑作の1本。演出、脚本、美術、音楽、そして二重構造のストーリーとどれをとっても一級品。これだけの映画を作り上げた60年代の日本映画界に脱帽である。
 職にあぶれた浪人ものが、切腹したいから藩邸の軒先を借りたいと申し出る、藩の方は軒先で切腹されてもかなわないため(事なかれ主義の役人根性もあり)幾ばくかの金を渡して浪人を立ち去らせるという、そういう変な事件が流行っている時代の話。これだけでも、藩の官僚主義や、一般的には美化されがちな武士の実の姿などが描かれていて結構面白い話なんだが、そこに貧困がもたらす不幸や、「エセ武士道の建前主義が押しつぶす個人」という構造が描かれるなど、一見単純そうなストーリーに重層化されるさまざまな問題提起、皮肉は目を瞠るものがある。またそれを、ダイナミックな回想形式で描き出した橋本忍の脚本も見事である。橋本忍作品の中でも最高の仕事に数えて良い。
 小林正樹の演出、仲代達矢の演技も特筆もので、両者にとって最高峰の1本である。仲代演じる津雲半四郎が当初飄々とした姿を見せているのもユーモラスだが、やがて緊迫感が高揚し、憤怒の姿へと変貌していく過程は、演出技術の極みである。三國連太郎のニヒルな家老との掛け合いは、実力者2人ならではで、良質な会話劇を見ているような迫力である。
 決闘シーンも真剣が使われているらしく、真剣が重いため竹光のように素早く刀を振り回せず、スピード感がやや欠如して見える。もちろん迫力はかなりあるんだが、仲代達矢が語った話によると、監督はそれで良いと言ったらしい。本物を見せたいということだったんだそうだ。確かに考えてみると、この映画では竹光と真剣がモチーフに使われているのだから、こんな大事な場面で竹光はちょっとないよなと思う。また、Wikipediaによると演者たちの剣法も本格的なものだったらしい。この殺陣のシーンのすごさというものは僕自身あまり気が付かなかったが、ディテールにも随分こだわっていることがわかる。もっともそれが功を奏したかどうかはわからないが(Amazonのユーザーズレビューでこの映画に低評価を入れていた猛者がいて、その中に決闘シーンが陳腐みたいに書いていた者がいた。こういうわかった風でトンチンカンな人はどこにでもいるものだ)。
 モノクロの映像もずっしりと重みを感じるようなもので、琵琶を使った武満徹の音楽がまた大きなインパクトを残す。先ほども言ったが、これだけの優れた要素が1本の映画に凝縮するということはそう滅多にあることではなく、言ってみれば一種の奇跡である。第16回カンヌ映画祭でも、上映後グランプリ間違いなしという評価を受けたため、主演の仲代達矢は地元の放送局から発表前であるにもかかわらずグランプリ前提のインタビューを受けたという。ところがその後、ヴィスコンティの『山猫』が急遽現れ、そっちがグランプリをかっさらっていった(仲代達矢談)ということらしいのだ。そのため、グランプリに次ぐものということで審査員特別賞が与えられたそうで、もちろん『山猫』も素晴らしい映画であるが、『山猫』と『切腹』がぶつかった映画祭というのも超ハイレベルであることよなあと思う。
 いずれにしても、桐箱に入れておきたいような立派な映画で、また何度か見たいと思わせる素晴らしい作品である。武満徹作曲のこの映画の主題曲はCDでたびたび聞いているが(『オリジナル・サウンドトラックによる 武満徹 映画音楽』のディスク1に収録されている)収録時間が16分と長すぎるのが玉に瑕である。
第16回カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞
★★★★☆

参考:
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』
竹林軒出張所『リメイクもういらん党宣言』
竹林軒出張所『上意討ち 拝領妻始末(映画)』
竹林軒出張所『山猫(映画)』

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 以下、以前のブログで紹介した橋本忍関連の本に関する記事。
(2005年9月28日の記事より)

b0189364_11194232.jpg脚本家・橋本忍の世界
村井淳志著
集英社新書

 脚本家・橋本忍の1ファンである著者が、橋本忍の諸作について追ったルポ。
 本書で紹介されている作品は、『七人の侍』、『羅生門』、『真昼の暗黒』、『私は貝になりたい』、『切腹』、『白い巨塔』、『日本のいちばん長い日』、『八甲田山』、『砂の器』の9作品である。どれを取ってみても日本の映画史に残るような名作揃いで、あらためて橋本忍の偉大さがわかろうというものだ。
 著者は1ファンではあるが、単にファンが書いた礼賛本とはひと味もふた味も違う。橋本忍自身にも果敢にインタビューを挑んでいるし、そのインタビューもなかなか切り込みが鋭い。
 『私は貝になりたい』をビデオで見るたびに、二等兵がBC級戦犯として裁判を受けたことが本当にあったんだろうかと毎回思う。
 また『切腹』を見るたびに、この話のネタ元は何なんだろうかと思う。
 この間『白い巨塔』を見たときは、今でもこういうドロドロしたことが大学の医学部内であるんだろうか、実話が元になっているんだろうかと思った。
 『七人の侍』の脚本担当者として、冒頭のテロップに橋本忍を含む3人が出てくるが、この壮大な話を作り出したのはそのうちの誰だろうかというのは、当初からの疑問だった。
 実は、こういったことすべてについて、あるいは調査あるいはインタビューにより、本書で明らかにされている。問題提示の方法とその解決方法がきわめて適切で、切れ味が鋭い(その鋭さは『切腹』の脚本を彷彿とさせるほどだ)。私が今まで抱えていた素朴な疑問が、この本でことごとく氷解した。
 橋本忍の脚本のすばらしさを知る人すべてにとっては、まちがいなくお奨めの本だ。もちろん日本映画ファンにも……。
★★★☆

by chikurinken | 2017-05-07 11:20 | 映画