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竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

2017年 04月 23日 ( 1 )

『あなたの体は9割が細菌』(本)

あなたの体は9割が細菌
アランナ・コリン著、矢野真千子訳
河出書房新社

主張に1本筋が通っている良書

b0189364_08122145.jpg 人間の体内に棲む微生物(本書では「マイクロバイオータ」と呼ぶ)と人間の共生関係について説いた本。
 20世紀になって抗生物質が乱用されるようになりマイクロバイオータが大量に殺されたことから、この共生関係が壊され、I型糖尿病、アレルギーなどの21世紀病(免疫疾患)が発生したというのが著者の主張。
 著者はマイクロバイオータの重大性から説く。人間の体内には100兆を超えるマイクロバイオータが棲んでおり、消化吸収に関わる多くの重要な仕事はマイクロバイオータが担当している。微生物はライフサイクルが短いため、環境に適用しやすいという特質がある。この特質を利用することで、人間を含む大きな生物は(本来であれば進化のために何百年何千年もかけなければ適用できない)食生活に容易に適用できるようになっているらしい。
 しかしその関係は、抗生物質によって大きく変わった。抗生物質は感染症に対して大きな効果を発揮したことは言うまでもないが、あまりに不必要に乱用されているため、人間の体内のマイクロバイオータが相当量殺され、人によっては、マイクロバイオータの組成が大きく変わった。また肉中心の食生活もその組成を変える助けになっている。これが21世紀病の原因ではないかというのが本書のキモの部分である。しかも肥満や自閉症まで、マイクロバイオータの組成変動が原因ではないかとする(これについては十分な考察がある)。
 また同時に、本来であれば出産時に母から子に伝えられるマイクロバイオータが子に伝わりにくくなっていることも指摘する。帝王切開が増えていることがその原因で、帝王切開の場合、産道を通るときに浴びせられる母親のマイクロバイオータが子に浴びせられる、つまり取り込まれる機会が損なわれる(通常であれば母から子へマイクロバイオータが継承される)。さらに、母乳の代わりに人工乳を使うことも、マイクロバイオータの子への伝搬を阻害するという。こういう話はちょっと聞いただけではにわかに信じがたいが、これについても何度も繰り返し論証している。論証がどのくらいできているかは即断できないが、少なくとも論証しようとしている。そのため全体的にはかなりくどさを感じる記述になっている。もちろんこれは著者の良心とも言えるわけで、必ずしもマイナスポイントではない。
 ともかく治療が難しい21世紀病を克服するには、マイクロバイオータを正常化(抗生物質登場以前の段階まで戻す)することが重要で、そのために抗生物質の使用は極力少なくする、出産、育児についてもマイクロバイオータの観点から見直すべきというのが著者の主張である。また21世紀病に対しては、糞便移植が効果を発揮していることも紹介している(竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (2)(ドキュメンタリー)』を参照)。これも腸内のマイクロバイオータを正常化させるための治療である。
 マイクロバイオータについて非常に詳細に解説し、なおかつ今後の我々のあり方についても示唆する良書で、内容は『失われてゆく、我々の内なる細菌』と重複する部分も多いが、あの本ほどの読みにくさもない。
 『あなたの中のミクロの世界 (1)(2)』もこの本と同じような内容が紹介されていたため、あのドキュメンタリーの補足(あるいは理論的な拠り所)として読むのもありだ。とにかく主張が明解で結論がはっきりしているので、読後感は非常に良い。
 微生物の専門的な名前が多出するのが少々難だが、一方でしっかりした索引が付けられているため、それを十分補っている。値段もまあ手頃だし、この手の本を買うならまずこの本ということになる。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『失われてゆく、我々の内なる細菌(本)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (1)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (2)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『腸内フローラ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『わたしたちの体は寄生虫を欲している(本)』
竹林軒出張所『土と内臓 微生物がつくる世界(本)』

by chikurinken | 2017-04-23 08:13 |