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竹林軒出張所

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2015年 12月 16日 ( 1 )

『彼岸花』(映画)

b0189364_88328.jpg彼岸花(1958年・松竹)
監督:小津安二郎
原作:里見弴
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春
美術:浜田辰雄
衣裳:長島勇治
音楽:斎藤高順
出演:佐分利信、田中絹代、有馬稲子、山本富士子、浪花千栄子、久我美子、佐田啓二、高橋貞二、桑野みゆき、笠智衆、中村伸郎、北龍二、高橋とよ、渡辺文雄

名工が作った逸品みたいな映画

 小津安二郎の初カラー作品。この映画、今回で見るのは3回目か4回目だが、今回見たものは新しくリマスターされたもので、それまでと映像の印象が全然違う。ものすごく美しく、これが小津の美学かというのがわかる。今回はNHK-BSの放送で見たんだが、おそらく上記リンクのブルーレイ版と同じではないかと思われる。ただ赤みが少々強く多少人工的な印象も受けるが、これが旧小津組スタッフの意向(小津安二郎の嗜好を汲んだらしい)だという。実際小津安二郎は、この映画のほとんどの画面の中に赤いものを配置しており(タイトルバックのスタッフ名やキャスト名にも赤が入っている)、赤への好みは方々で見受けられる。少々無意味なくらい赤いケトルが出てくるのもなんだかユーモラスに感じる(この赤いケトルはブルーレイ版のジャケットにも描かれている)。
 映像以外にも、今回はシナリオが非常に良くできていることに感心した。所々出てくる会話的な楽しみが別のシーンで布石として使われるのも実に自然で、きちんと意図が伝わってくる。「若松」の女将(高橋とよ)に「みんな息子だろ」などとカマをかけるシーンも、いたずらっ子のような悪乗り具合が心地良い。このシーン、主人公(佐分利信)と元同級生たち(中村伸郎、北龍二)が割烹で馬鹿話をする場面で、『秋刀魚の味』など小津の他の映画でも見受けられるシーンである(役者も概ね同じ)。
 『秋刀魚の味』と言えば、この映画のテーマの娘の嫁入りも『秋刀魚の味』と共通で、ストーリーは半分くらいは同じと言って良い。ただテーマは多少違うし、いろいろな味付けも違うんで、どちらもそれなりに楽しむことができる。
 以前も別の箇所で書いたが(以下のレビュー記事参照)、キャストがどれも秀逸で、特に浪花千栄子と山本富士子の(大阪のおばちゃん風の)京都の親娘は小津映画最高のキャラクターである。高橋貞二のコンちゃんも秀逸。隅々までしっかり作られているのは他の小津映画と共通で、さながら名工が作った工芸の逸品みたいな風格がある映画である。何度も何度も手にとって眺めていたくなるような桐箱入りの名品という趣で、前に見たときより年を取ったせいか(あるいは目が肥えてきたせいか)そういう部分が以前よりわかるようになってきた。
 登場する人々はほとんどがプチブルみたいな人たちで、下々の者に対するリアリズム的な視点は一切ない。そのため、かつて松竹の若手映画監督(いわゆる松竹ヌーベルバーグの監督たち)がこのことを上げ連ねて、小津に噛みついたという話も聞く。それは確かに一理あるが、しかしリアリズムが芸術のすべてではない。小津映画には、高雅な気品、優雅さ、上品さといったものが随所に漂っている(これは松竹ヌーベルバーグの映画には一切見られない)。一種の芸術至高主義とも言えるが、「時代を超えた芸術」というのはそういうものではないかとこの映画を見て思うのである。見ること自体が快感になるようなそんな至高の映画である。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『小津安二郎・没後50年 隠された視線(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『秋日和(映画)』
竹林軒出張所『お早よう(映画)』
竹林軒出張所『秋刀魚の味(映画)』
竹林軒出張所『デジタル・リマスターでよみがえる名作(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『絢爛たる影絵 小津安二郎(本)』
竹林軒出張所『青春放課後(ドラマ)』

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 以下、以前のブログで紹介した『彼岸花』のレビュー記事。

(2005年11月25日の記事より)
b0189364_882432.jpg彼岸花(1958年・松竹)
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春
出演:佐分利信、田中絹代、有馬稲子、久我美子、佐田啓二、浪花千栄子、山本富士子、笠智衆、渡辺文雄、中村伸郎、北竜二、高橋とよ

 小津安二郎初のカラー作品。
 『秋刀魚の味』のモチーフになる素材が詰まっている。たとえば主人公を中心とする悪友3人(佐分利信、中村伸郎、北竜二)が飲み屋の女将(高橋とよ)をからかう場面。佐分利信が笠智衆に変わったら『秋刀魚の味』のシーンになる。座敷での中村伸郎、北竜二の座る場所まで一緒で、もちろん飲み屋のつくりも一緒(飲み屋の名前も一緒だったような(注))。嫁入りのモチーフ自体も似ている(扱い方は多少異なるが)。『秋刀魚の味』は『彼岸花』の焼き直しということなのだろう。
 前に見たときはあまり感じるところがなかったが、今回はかなり楽しめた。調度や演出に凝りまくっているというのがよくわかるし、映像も安定しているため、見ていて心地良い。人同士のつながりも不快さがまったくなく(頑固オヤジの佐分利信にしたってそうだ)、楽しくなる。
 この映画でもっとも目立ったのは、浪花千栄子と山本富士子が演ずる、京都の旅館の女将親子で、浪花千栄子の「大阪のおばはん」ぶり(京都人の設定だが)に大変リアリティがあり、しかも映画をぶちこわしにするほど下品ではなく、絶品である。山本富士子演ずる娘も、いずれはこういう「大阪のおばはん」になるだろうと思わせるキャラクターで、ユーモラスで、魅力的だ。
 小津映画は贅沢だ……とあらためて感じながら見ていた。

注:調べてみたらやはり一緒でした……「若松」。『秋日和』にも出てくるそうです > 「若松」と高橋とよ。ただし『秋日和』では、高橋とよは 「若松」の女将ではありません。
★★★☆
by chikurinken | 2015-12-16 08:08 | 映画