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竹林軒出張所

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2015年 12月 02日 ( 1 )

『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』(映画)

b0189364_8191670.jpgハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人
(2008年・米)
監督:佐々木芽生
撮影:アクセル・ボーマン
出演:ハーバート・ヴォーゲル、ドロシー・ヴォーゲル、リチャード・タトル(ドキュメンタリー)

魅力的な人々だが
少々ビョーキのコレクター


ネタバレ注意! 内容について語っています。

 現代美術の世界ではちょっと有名な(らしい)ヴォーゲル夫妻のドキュメンタリー。
 ハーバート・ヴォーゲルとドロシー・ヴォーゲルは、ニューヨークに住む夫婦である。それぞれ1922年、1935年生まれということで、アメリカの黄金時代、つまり一番良い時代を生きてきた。夫のハーバートは郵便局の仕分け、妻のドロシーは図書館司書として定年まで働いたということで、ここまではごくありふれた夫婦である。だがただ一つ違っていたのは、奥様が魔女……だったわけではなく、ミニマル・アート、コンセプチュアル・アートの有名美術コレクターだったということ。
 ミニマル・アート、コンセプチュアル・アートといってもほとんどの人にはピンと来ないだろうが(僕にもピンと来ない)、作品に何らかの(思想的な)意味を加えてそれを表現するという現代美術である。個人的にはこういったものには一切興味がないし評価もしていないんだが、好きな人にはたまらないんだろう……というのがこのハーブとドロシーのカップルを見るとわかる。彼らは、60年代から70年代、80年代にかけて、当時売れていなかったこういった類の美術作家から作品を買い集めてきた。作品の市場価値は一切気にせず、作家のところを訪問して自分の眼鏡に適ったものだけを購入するのが彼らの流儀。作家の方も当時貧乏暮らしをしているような人々が多かったため、喜んで売るし、しかも「他の作品も見せてほしい」と頼んだ上で、一番気に入ったものを買うというアプローチが作家側からも好意を持って迎えられた。そういうわけで作家たちとも友人関係を築き上げることになって、ごく平凡な市民のこの2人の周りに自然と現代美術のネットワークができていくことになる。
 コレクターの性で、とにかく気に入ったものはどんどん購入するという生活であったため、アパート内は4000点ものガラクタ(美術品)だらけで生活空間がなくなるほどになってしまった。ところが作家たちの名前が上がってくるにつれて、このガラクタ類の価値も上がってきたのだった。ゴミの山だったものが、宝の山に変貌したわけだ(もちろん本人たちは気に入って買っているだけで、ゴミなどとは思っていない)。彼らはそれまでも、作家の間では有名な存在だったんだが(作品を理解した上で買ってくれる一種の「パトロン」として)、作家や作品の価値が世間で認められるようになると、優れた目利きとしてマスコミからも注目されるようになった。有名になっても、彼らは相変わらず職場と家を往復する生活を続けていた。そして週末になると作家の元に作品をあさりに行く。
 このヴォーゲル夫妻を紹介するのがこの映画で、内容については概ね語ってしまったが、映像で見るととても魅力的な2人である。その後、ナショナルギャラリーが関わってきたりするが、さすがにそこまで言ってしまうと内容をすべて語ってしまうことになって大顰蹙なんで、興味のある方は映画の方をご覧ください。監督は、NHKなどとも仕事をしてきた映像作家の日本人女性。ヴォーゲル夫妻とも親しいつきあいをしていたようだ。なおこの映画、2012年に続編が作られている。
ハンプトン国際映画祭最優秀ドキュメンタリー作品賞他受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『スリーパー 眠れる名画を探せ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『フェルメール盗難事件(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『消えたフェルメールを探して(映画)』
by chikurinken | 2015-12-02 08:20 | 映画