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竹林軒出張所

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『逃亡日記』(本)

逃亡日記
吾妻ひでお著
日本文芸社

『失踪日記』の舞台裏

『逃亡日記』(本)_b0189364_18471809.jpg 2005年、マンガ家の吾妻ひでおが『失踪日記』で大ブレイクを果たす。『失踪日記』は、自らの失踪、ホームレスの経験を赤裸々に描いた私小説的なマンガで、戦後マンガ史における1大エポックと言える素晴らしい作品であった。『失踪日記』がブレイクしたことから、それに乗っかった企画がやはりあちこちの出版社から出てくるのは世の常で、概ね想定内ではある。ただし吾妻センセイ自身が、『失踪日記』後、基本的に仕事を断っていた(らしい)ため、便乗本は比較的少なかったような記憶がある。この本は、そういう数少ない便乗本の1冊。吾妻センセイ、この出版社としがらみがあったせいで、この仕事を引き受けざるを得なかったそうだ。そのあたりは冒頭のセンセイのマンガで暴露されている。しかも吾妻センセイのキャラが「皆さん この本買わなくていいです! マンガだけ立ち読みしてください」と宣言しているのは、なかなかセンセイらしい。
 本の構成は、失踪日記関連の場所を撮影した巻頭写真に続いて、巻頭マンガ「受賞する私」、それからセンセイの生い立ちや失踪の事情について語ったインタビュー(これがメイン)、最後にマンガ「あとがきな私」というふうになる。インタビューは元々『別冊漫画ゴラク』に連載していたものらしい。いかにもな便乗本ではあるが、内容は意外に面白い。ほとんどの部分がマンガでないのはもちろん吾妻作品としては容認しがたいかも知れないが、語られる内容が非常に興味深く、やはりセンセイのファンであれば一度は触れておきたいあれやこれやの事情が明らかにされている。『失踪日記』の舞台裏の話も当然出てくる。巻頭と最後のマンガは、吾妻ひでおらしいエッセイ・マンガで、非常に質が高い。またマンガの内容とインタビューコラムの内容がかなりリンクしていて、元の題材をマンガにするとこうなるという、吾妻流の変容のアプローチが垣間見えて、こちらも興味深いところ。そのため「便乗本」だからといって決して侮れない要素がある。
 「便乗本」のような商業主義的な本は基本的に容認できないが、この本は作りが丁寧だったりして、むしろ好感が持てる。内容も読ませるだけのものがあり、便乗本ではあっても決してゴミ本ではないと断言しておく。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『失踪日記2 アル中病棟(本)』
竹林軒出張所『地を這う魚 ひでおの青春日記(本)』
竹林軒出張所『夜の帳の中で(本)』
竹林軒出張所『実録! あるこーる白書(本)』
竹林軒出張所『酔うと化け物になる父がつらい(本)』
竹林軒出張所『刑務所の中(本)』
竹林軒出張所『刑務所の前 (1)〜(3)(本)』

by chikurinken | 2018-06-21 07:47 |
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