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竹林軒出張所

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『島の命を見つめて 豊島の看護師・うたさん』(ドキュメンタリー)

島の命を見つめて 〜豊島の看護師・うたさん〜
(2015年・RSK)
メッセージ RSK地域スペシャル

日本全国の未来予想図

『島の命を見つめて 豊島の看護師・うたさん』(ドキュメンタリー)_b0189364_20263799.jpg かつて産廃の不法投棄で揺れに揺れた瀬戸内海の豊島。その後、産廃問題は一応の決着を見て、現在では芸術の島として観光客を集めているらしいが、一方で急速に進行しているのが過疎の問題である。島の人口はいまや900人、その多くは高齢者で、日本の高齢問題の縮図のような様相を呈している。
 学生時代そんな豊島に産廃問題の調査で訪れた小澤詠子さん(通称うたさん)という女性が、豊島をいたく気に入り、その後住み続けるようになった。同時に、お世話になった老人たちの役に立ちたいと考え、その後看護師の資格まで取った。現在では豊島に居住しながら、島のお年寄りたちの医療ケアを担当している。
 島では週5日、小豆島の病院から医師が通い、診療所が開いている。診療所が開いている間、うたさんは医療行為に当たっているが、診療時間が終わった後は、島のあちこちを巡って一人暮らしの老人たちの家を訪問する。老人たちに変わった様子がないか確かめるためである。それでも、高齢化が進んでいるこの島では、老人が死んでいきいなくなるという現状がある。そのため、島の住民にとって死は非常に身近である。そういうこともあってか、超高齢の老人たちの中には、早く死にたいなどと真顔で口にする人もいる。うたさんは「この島は生きあい死にあう場所」と語る。
 現在、出張医療は週5日行われているが、これも病院側の経費の問題もあって、週2〜3回に減らされる可能性があるらしい。いつも出張で豊島に来ている医師は、このような現状を「医療崩壊の縮図」と言う。地方の医療が切り捨てられる現状がここにあり、全国の医療問題をこの地が先取りしているということなのだ。
 過疎、医療、介護などのさまざまな問題が凝縮したこの地域で、今も医療に関わるうたさんらの医療関係者は実に見上げたものだが、やがて日本全土でこういった状況が出てくると思うと、無力感ばかりが漂う。実際これはかなり由々しき事態なのではないだろうか。少子高齢化のなれの果てということになるのか。
 声高に叫びはしないが、強烈なメッセージを発するドキュメンタリーで、その価値を物語るように数々の賞を受賞している。僕自身も受賞作品ということで注目したのであるが、そういった賞に値するだけの素晴らしい秀作ドキュメンタリーであると感じた。
「地方の時代」映像祭2016グランプリ
ギャラクシー賞報道活動部門大賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『Dr.コトー診療所 (1)、(2)(ドラマ)』
竹林軒出張所『秩父山中 花のあとさき ムツばあさんの秋(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『地方発ドキュメンタリー(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『在宅死 死に際の医療(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『おひとりさま 笑って生きて、笑って死にたい(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-12-05 07:26 | ドキュメンタリー
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