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竹林軒出張所

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『天地明察 (上)(下)』(本)

b0189364_17062389.jpg天地明察 上
冲方丁著
角川文庫

抜群に面白い! お奨め

 昨今あまりフィクションは読まないが、ましてや最近書かれた(古典ではない)小説など滅多に読まないんだが、この小説は、碁打ちでありながら日本に新しい暦を導入した安井算哲こと渋川春海(しぶかわはるみ)が題材ということで興味が沸いたため読んでみた。そして久しぶりに感心した。非常に面白い!
 まずキャラクターが非常にうまく描かれている。本因坊道策が晴海に対局を迫り、それに晴海が応じないとムスッとするなど、キャラクター同士の関係性の表現も実に見事。また、晴海の上司に当たる建部昌明、伊藤重孝が子どものように喜ぶ姿も新鮮で微笑ましく感じる。保科正之や水戸光国、酒井忠清、それから関孝和などの有名人についても、描写がうまいため、眼前に活き活きと現れてくるように感じる。場面場面も映像が目に浮かぶように描写されており、そのまま映画化できるのではないかと思うほどである。
 渋川春海は、江戸時代前期、貞享暦を作成したというぐらいしか学校では教わらない(もっともほとんどの学校では時間の都合および教師の好みのために文化史にはほとんど触れないため、学校で教わることはないに等しい)が、この小説では、暦の改訂がどのような意味を持つか、また当時の日本でどれくらいの難題であったか、それを実現したことがどれほどの偉業であったかというのがよくわかるようになっている。内容が内容だけに、随所に細かい説明が出てきて、話の流れが中断するように感じられる部分もあるが、しかしこれがなければ登場人物の行動自体の意味がわからないので、致し方ない。説明の分量は必要十分であると思う。ただし僕個人、暦の問題については石川英輔の本でこれまで何度か読んでいたため、ある程度の知識があった。まったく知識がないと難解さが少し増すかも知れない。
 巻末に参考文献が取り上げられているのも、小説らしくはないが非常に良いと思う。特に和算と暦についてはかなりの知識がなければこれだけの小説をものすことはできないだろう。著者がどこからこの知識を仕入れたかは興味深いところで、僕自身も今後何冊か当たってみたいと思う。著者、冲方丁(「うぶかたとう」と読むらしい。読めないよ)は、SFやファンタジーをもっぱら書いていたそうで、本作あたりが時代小説の最初だったらしい。この後、この小説のスピンオフなんだかどうだかわからないが『光圀伝』という水戸光国(光圀)を題材にした小説を書いていて、こちらも人気が高いようである。『光圀伝』については少し興味が湧くところだ。また本作は映画化もされているが、内容から考えると、メディアとしては小説の方が合っていると思う。映画版は滝田洋二郎が監督し、渋川春海を岡田准一、延(えん、春海の相手役の女性)を宮崎あおいが演じているらしい。僕が小説で抱いていたイメージとは大分違うが、もちろんそういった感想は映画化につきものではある。問題なのは、原作というか史実を一部改変している(垂加神道の山崎闇斎が暗殺されるなど)点で、こういう改変が必要だったのかははなはだ疑問である。
第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『光圀伝 (上)(下)(本)』
竹林軒出張所『ニッポンのサイズ 身体ではかる尺貫法(本)』
竹林軒出張所『石川英輔の本、5冊』
竹林軒出張所『ヒカルの碁 (1)〜(23)(本)』
竹林軒出張所『天地明察(映画)』

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 以下、以前のブログで紹介した本、『囲碁の世界』に関する記事。江戸時代の囲碁界の状況が紹介されている。

(2006年10月14日の記事より)
b0189364_17062784.jpg囲碁の世界
中山典之著
岩波新書

 ずいぶん前に買った本だが、最近TVアニメの『ヒカルの碁』を見たこともあって再読してみた。前に読んだときは、囲碁のルールも知らず、囲碁界の状況も知らずという状態だったこともあるのか、それほどの感激はなかった。たしかに読みやすく、囲碁にも興味を持ったが(この本を読んでから囲碁のルールを憶えたのだ)。だが、今回読んでみてなんて面白い本なんだと思った。
 おそらく『ヒカルの碁』で扱われている囲碁界の事情は、『ヒカルの碁』を見なくてもこの本を読めば一通り知ることができる。しかも、当時の海外囲碁事情や、江戸の囲碁史、囲碁よもやま話なども満載で、内容も非常に面白い。囲碁の世界を俯瞰できる優れ本である。
 ただし現在絶版のようで、古本を入手するか図書館で借りるかしか読む方法はない。
★★★★

by chikurinken | 2017-10-13 07:05 |
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