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竹林軒出張所

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『兵隊やくざ』(映画)

兵隊やくざ(1965年・大映)
監督:増村保造
原作:有馬頼義
脚本:菊島隆三
撮影:小林節雄
出演:田村高廣、勝新太郎、淡路恵子、北城寿太郎、早川雄三

人間的な魅力に富む二人の超人の話

『兵隊やくざ』(映画)_b0189364_06581856.jpg 『兵隊やくざ』はシリーズになっていて、途中の作品はたびたび見る機会があったものの、シリーズ第1作目、つまり本作についてはなかなか見る機会がなく、今回とうとう見ることができたということになる。シリーズの途中から見るというのははなはだ不本意で、だから実際には見てはいない。そもそもシリーズ化した作品というのは第1作が当たったためにシリーズになったというのが普通である。ならばとりあえず第1作を見れば良いではないかというのが僕の考え方である。まあ普通の人はそうだろうが。
 もっともこの『兵隊やくざ』、シリーズ化されているといっても、比較的地味な作品群で、映画ファンでなければ知らないようなシリーズである。カツシンのシリーズ作品と言えば『座頭市』の方がはるかに有名だし。もっとも僕は『座頭市』もカツシンもあまり好きではない。したがって『兵隊やくざ』にしても、とりあえず第1作目を見れば良いかなという程度の考えしかなかった。
 で、今回まあ見たわけだが、予想に反して、これが非常に良くできた面白い映画に仕上がっていたのだった。型破りの元やくざ、大宮(勝新太郎)が、関東軍に二等兵として入隊してくるが、関東軍といえば苛烈な初年兵いじめで有名。でもって、当然この初年兵、目を付けられて散々な目に遭わされる。しかしこの大宮、そんじょそこいらのやわな人間と違って、腕力と破天荒さにかけては天下一品。徐々に自分の居場所を作っていく。この大宮の目付役が三年兵の有田(田村高廣)だが、大宮に共感を覚えたか、窮地を救ったり上官に対してかばったりする。大宮の方も有田をボスと認め、この恩義をいつか返すと誓うというそういった流れになる。
 軍隊内、特に大日本帝国陸軍のいじめや暴力というのはいろいろな映画で描かれていて、見ていていつも辟易する。『真空地帯』しかり、『人間の條件』しかりであるが、『真空地帯』ではそんな中で実力でのし上がる男、『人間の條件』ではあくまでも正義を貫こうとする男が出てきて、それがドラマの中心になる。この映画も同様で、(身分)秩序がしっかりあってしかも暴力によってその秩序が維持されている集団内に、破天荒な人間が入ってきて一悶着起こすというドラマになる。ただその入ってくるよそ者が、「人物」でありながら腕力も持っている魅力的な存在というのがこの映画のミソである。この人物、どこか無法松を思わせるが、無法松→阪妻→田村高廣というふうにこの映画にも繋がっているのはたまたまか。この魅力的な男が異常な集団の中で、人間性を見失わずに自分を貫いていく。またもう一人の主人公、有田の正義感も気持ち良い要素である。彼も異常な集団の中で、まともな思考とまともな感情を見失わない。そういう意味では、二人ともややスーパーマン的ではあるが、基本的に娯楽映画だからそれで良い。
 駐屯地のセットは野っ原の中にしっかりと作られていて、舞台が満州と言われてもまったく違和感はない(実際の撮影地は北海道あたりか)。大映映画らしい豪華さである。
 先ほども言ったが、この映画かなり当たったようで、その後シリーズ化され、結局第9作まで作られた。ただし増村保造が監督したのはこの一作のみで、後はプログラムピクチャーの監督が担当している。見ていないし見る予定もないのでどの程度の作品になったかはわからない。やはりこの一作だけで終わらせても良かったんじゃないかというのが実感である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『真空地帯(映画)』
竹林軒出張所『拝啓天皇陛下様(映画)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』
竹林軒出張所『無法松の一生(映画)』
竹林軒出張所『陸軍中野学校(映画)』
竹林軒出張所『巨人と玩具(映画)』
竹林軒出張所『妻は告白する(映画)』
竹林軒出張所『悪名(映画)』

by chikurinken | 2017-08-12 06:59 | 映画
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