フランスで育った“アラーの兵士”(2016年・仏Takia Prod)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
問題の根源はイスラム教ではなく
社会に対する不満である イスラム系フランス人のあるジャーナリスト(イスラム教徒)が、フランス国内のイスラム原理主義に凝り固まった若者に近づき、彼らがどのようにテロに走って行くかを側面から捉えたドキュメンタリー。
このジャーナリスト(身の危険があるため素顔と名前は明かされていない)は、イスラム原理主義者が集まるというSNSに登録し、さまざまな若者と知り合う。警戒心を持つものもいるが、中には平気で近づいてくるような若者もいて、彼らを経由することでテロ活動家たちとも接するようになる。そうこうしているうちに、フランス国内でのテロの計画が持ち上がってきて、それに参加するよう促される。周りの若者は、大勢の異教徒を殺して自分も死ぬことこそアラーの意志とばかりに、テロへの参加を表明する。実際、彼らにはあまり現実感がないようにも見える。番組によると、彼らの多くは現状の生活に不満を持っているだけで、イスラム教とは本当の意味であまり関係がなく、多くのイスラム教徒はこういった過激思想に反感を持っているらしい。従って彼らはモスクでも宗教指導者と対立しているという。
いずれにしても、大した現実感がないまま、現状の不満を周りにぶつけるというのが彼らの動機であり、テロリストのボスに良いようにコマとして利用されるというのがオチなのである。
実際には、彼らが行動に移す前に、フランス国内で(別件の)ナイトクラブの乱射事件が起こったことから当局の締め付けが厳しくなり、大勢のテロリスト予備軍が逮捕された。そして彼らもその時点ですでにマークされており、一網打尽にされたらしい。この様子を内部から追っていたこの番組の主人公であるジャーナリストは、逮捕を免れたことからボスに正体がばれ、殺害予告をされるようになる。
現状不満型の若者が、極端な考え方に凝り固まり、やがて悪の組織に利用される過程がよく分かるドキュメンタリーで、しかも主人公のジャーナリストも正体がばれる危険性が常に漂っていてかなりスリリングな展開になる。問題の根源はイスラム教ではなく社会に対する不満であるという主張も明確である。同様のドキュメンタリーは他にもあるが、その中でもっとも優れたもののひとつと言えるのではないか。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧(本)』竹林軒出張所『そして、兄はテロリストになった(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『T(ERROR) FBIおとり捜査の現実(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『過激派組織ISの闇(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『追跡「イスラム国」(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『“イスラミック ステート”はなぜ台頭したのか(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『イスラーム国の衝撃(本)』