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竹林軒出張所

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『土と内臓 微生物がつくる世界』(本)

土と内臓 微生物がつくる世界
デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー著、片岡夏実訳
築地書館

植物の根と人間の内臓の中は同じらしい

『土と内臓 微生物がつくる世界』(本)_b0189364_8125331.jpg 土壌の細菌が自然の中で果たす役割は非常に大きく、植物や菌類はこういった細菌を根の部分で利用しながら生長する。中には植物を攻撃する細菌もあるが、それはむしろ少数派で、植物は他の細菌を利用しながらこういったいわゆる「悪玉菌」を撃退しているという。一方で、我々の内臓(特に小腸と大腸)の中にも非常に多くの微生物が棲息しており、人間や動物の身体はこういった微生物を利用しながら(あるいは助けられながら)生きている。その関係は植物の根と同じであり、人間の内臓はいわば植物の根をひっくり返したような構造になっているというのが著者の主張。農薬が大地に棲む微生物を十把一絡げに殺してしまい大地を不毛の地にするように、人間の体内では抗生物質が有用な微生物まで虐殺し腸内を不毛にしてしまう。結果的に、免疫関連の(現在原因不明の)病気が発生するという。その過程もミクロ的に詳細に描かれていて、わかりやすい。ただし著者のデイビッド・モントゴメリー(前も書いたが本来であれば「モンゴメリー」だろうと思う)は土壌の専門家で、大地の微生物についてはともかく、体内の微生物については門外漢であり、説得力はあるがどこまで信用して良いものかちょっとわからない。
 共著者はデイビッドの妻のアンであり、こちらは生物学者。おそらく第6章、第7章あたりを書いたのではないかと思うが、ここらあたりは学術というよりむしろ体験記みたいなもので、学術書みたいな本を期待している向きは失望するかも知れない(わかりやすくはなっているが)。
 このように本書は学術書ではないが、人間と微生物との関わりの歴史や、大地での微生物の働き、腸内での微生物の働きや免疫システムの機能など、非常に網羅的に紹介しており、微生物のあれやこれやについて知るには恰好の書物になっている。また、人間にとって食生活がいかに大切か、何を摂取すべきかについても、説得力のある見解が披露される。これについては僕自身少し感じるところがあり、現在少し乱れている食生活を変えてみようかと考えたりするきっかけになった。
 難点は、同じ著者の『土の文明史』にも当てはまるが、翻訳がものすごく読みにくい点で、『土の文明史』のときと同様もう少しこなれた日本語にできなかったのかと思う。そもそも「モントゴメリー」から直せよと思う。ちなみにこの著者、デイビッド・モントゴメリー名義の訳書については『土の文明史』と本書の2冊が刊行されているが、実は「デイヴィッド・R. モンゴメリー」名義の訳書もある(『岩は嘘をつかない 地質学が読み解くノアの洪水と地球の歴史』)。同一人物である。Amazonで検索すると別人扱いになり紛らわしいったらない。この著者の本については洞察力が鋭く、僕自身大変興味があるんで、次からはもう少ししっかりした翻訳で読めたら良いなと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『土の文明史(本)』
竹林軒出張所『あなたの体は9割が細菌(本)』
竹林軒出張所『失われてゆく、我々の内なる細菌(本)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (1)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (2)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『腸内フローラ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『腸内フローラ 医者いらずの驚異の力(本)』
竹林軒出張所『食について思いを馳せる本』
by chikurinken | 2017-02-24 08:13 |
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