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竹林軒出張所

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『長良川ド根性』(ドキュメンタリー)

長良川ド根性(2012年・東海テレビ)
監督:阿武野勝彦/片本武志
撮影:田中聖介
ナレーション:宮本信子

死にかけた川と土着の民の物語

『長良川ド根性』(ドキュメンタリー)_b0189364_20102559.jpg 「その手は桑名の焼きハマグリ」で有名な三重県桑名市の、ハマグリ・シジミ漁師の戦いの物語。
 この地は、長良川、揖斐川、木曽川の三川が流れる地域で、特に長良川、揖斐川ではハマグリ、シジミ漁が盛んに行われていた。あの河口堰ができるまでは。
 長良川の河口堰は、すでに必要性もなくなっているにもかかわらず官僚のゴリ押しで無理矢理に作られたという施設で、当時相当な反対運動があったにもかかわらず、建設を強行し、1995年に強制的に運用を始めたといういわく付きのものである。当時から環境に対して深刻な影響を与えるのではないかと危惧されていたが、案の定、河口堰周辺はヘドロが溜まって生物が住めなくなってしまった。かつてはハマグリの漁場だったにもかかわらずである。この河口堰の運用に最後まで反対したのが赤須賀漁協で、折れてしまった他の漁協からもしきりに叩かれたりして、結局は河口堰の運用を認めることになるのだが、その際、その見返りとして、建設省に対して近隣地域に干潟を作らせることに同意させるなど、生き残りをかけた現実策を選択した団体である。現在では、河口堰周辺は漁ができなくなってしまったが、このときに作った干潟は良質な漁場になっているというのだから、彼らの先見性は注目に値する。
 このようにおろかな行政に翻弄されながらも、自らの生活を守っていく漁師の戦いを描くのがこのドキュメンタリーである。その後、河口堰は愛知県知事の意向で、実験的に堰を開放することになるが、その際も漁師の意向はほとんど反映されず、勝手に行政が話を進めていく。その構図は、無用の長物を作った当時とまったく変わっていない。川にもっとも近い人々がないがしろにされて、勝手な都合で推し進められていく日本の行政の姿が浮き彫りにされていくというのがこのドキュメンタリーで、同時にこのドキュメンタリーの魅力でもある。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ダム建設中止問題の実在に関する考察』
竹林軒出張所『ダムはいらない! 新・日本の川を旅する(本)』
竹林軒出張所『東京干潟(映画)』
竹林軒出張所『蟹の惑星(映画)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『死刑弁護人(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ふたりの死刑囚(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『人生フルーツ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『チョコレートな人々(映画)』
竹林軒出張所『さよならテレビ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『さよならテレビ(本)』

by chikurinken | 2017-02-06 07:09 | ドキュメンタリー
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