ふたりの死刑囚(2016年・東海テレビ)
監督:鎌田麗香
撮影:坂井洋紀
ナレーション:仲代達矢
検察の独善が生み出す犠牲者 「名張毒ぶどう酒事件」(1961年に三重県名張市で農薬が入ったワインを飲み5人が死んだ事件)で逮捕され死刑判決が出された死刑囚・奥西勝と「袴田事件」(1966年に静岡県清水市で起こった強盗殺人放火事件)の死刑囚・袴田巌を取り上げたドキュメンタリー。
どちらの事件も、被告人の自白が有力証拠でありながらその後被告が否認し、しかも説得力のない物的証拠しか残されていないという点で共通しており、冤罪の可能性が非常に高い事件である。そのため、弁護士グループから再審請求がたびたび出されており、「袴田事件」の方は、2014年に再審開始が決定し袴田死刑囚は釈放された。一方の「名張毒ぶどう酒事件」の方は、再三の再審請求にもかかわらず、奥西死刑囚は2015年に獄死した。
釈放された袴田氏も、数カ月にわたって拘禁症状が出続け外出ができない状態になっていたが、精神面、体調面は徐々に回復しており、その様子も紹介される。一方検察側はその後も拘置停止に反対して抗告している。
どちらの事件も、普通に考えれば検察のでっち上げであり、何のためにしきりに抗告を繰り返しているのかよくわからない(おそらくはメンツのためだろう)が、物的証拠に説得力がないことは明らかで、しかも検察側は多くの(おそらく不利な)証拠を開示していないとくれば、これは意図的に犯罪者をでっち上げていると言われても仕方がない所作である。犯罪を解明し再犯を防ぐための機関が、冤罪を作って犠牲者を生み出すという犯罪を犯し、しかも真犯人を野放しにしているという失態も演じている。自分たちの利益にこだわったりしないで、弁護側と共同で真実を解明しようというアプローチをとっても良いんじゃないか……とそういうことを考えさせられるドキュメンタリーである。
ナレーションは、同じ東海テレビ製作の
『約束 名張毒ぶどう酒事件』のドラマ部分で奥西勝を演じた仲代達矢であるが、少々仰々しく感じる。ただしあちらの番組を見ていれば、奥西氏の忸怩たる思いみたいなものが反映されていてむしろ良いと感じる。あちらの番組とセットで見たい。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『眠る村(映画)』竹林軒出張所『エルピス (1)〜(10)(ドラマ)』竹林軒出張所『正義の行方(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『時間が止まった私(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『死刑弁護人(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ブレイブ 勇敢なる者(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『長良川ド根性(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『さよならテレビ(本)』竹林軒出張所『騙されてたまるか 調査報道の裏側(本)』竹林軒出張所『裁判所の正体(本)』竹林軒出張所『木嶋被告 100日裁判(ドキュメンタリー)』