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竹林軒出張所

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『ヤクザと憲法』(ドキュメンタリー)

ヤクザと憲法(2016年・東海テレビ)
監督:土方宏史
撮影:中根芳樹

ヤクザに人権はないのか

b0189364_7554324.jpg 大阪のヤクザ組織、清勇会の事務所に入り込み、長期に渡って密着取材を続けるという前代未聞のドキュメンタリー。『死刑弁護人』でお馴染みの東海テレビ製作である。
 内側から見てみると、ヤクザ組織ではあるが、そこらあたりにある普通の組織とあまり大きな違いがあるように見えない。拳銃や日本刀がそこかしこにあるというわけではなく、事務所があり、若い見習いが共同生活する大部屋がありという、ちょっと見たところ相撲部屋を思わせるようなたたずまいである。組員たちも、実のところはわからないが割合、普通の関西のオッサンという感じで、感じが良い人もいれば怒鳴り散らす人もいるという印象である。
 こういったヤクザ組織は、暴力団対策法が施行されて以来、一定の条件に当てはまれば指定暴力団に指定され、警察や検察にさまざまな圧力をかけられ続けている。結果として、組員はあちらこちらで「不当」と言えるような扱いを受けている。このドキュメンタリーでも、車の傷を保険会社に請求しただけで、保険会社を脅迫したという罪状で家宅捜査を受けるという場面が紹介されていた。その際、捜査関係者(おそらく刑事)が、この映画の撮影者を恫喝ならびに脅迫するなどという行為もあり、どちらがヤクザ者かわからないような場面もある。
 また、指定暴力団の組員であればそれだけで銀行に口座を作れないことから、組員であるという事実を隠して口座を作ったところ詐欺容疑で逮捕されるという事例も紹介されていた。とにかく組員に対する締め付けは異常で、反社会的な行為をしていようがしていまいが、一律に排除するという構図が見て取れる。さらに組員の子どもの幼稚園への入園が拒否されるとか、ヤクザ組織の顧問弁護士が不当逮捕されるとか、彼らを取り巻く世界は異常以外のなにものでもない。こういった状況は明らかに行きすぎで、実際そのためか組員の数は減少しているが、しかしそれで元組員たちが反社会的な行為をしなくなるかというとそれはまた別の話なのである。なんせ彼らを受け入れる余地が堅気の社会にはないため、結局は表に出ないように形を変えて不法な活動を続けるというケースも多いらしい。それを考えると、暴力団対策法や暴力団排除条例が本当に有効なのかもよくわからなくなる。少なくとも今のように、組員というだけで、必要以上に彼らの生活に制限を加えることが正しいのかは疑問である。とにかく排除しさえすればよいとする考え方は、オウム真理教の事例などと同様、一種のヒステリーみたいなもので、実は共存する道を模索するという考え方もあるのではないか……そういうことを考えさせるドキュメンタリーである。結論はなかなか難しい部分があるが、いずれにしてもテーマといい方法論といい非常に画期的な作品である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『死刑弁護人(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ふたりの死刑囚(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『長良川ド根性(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『A(映画)』
竹林軒出張所『A2(映画)』
竹林軒出張所『「A」 マスコミが報道しなかったオウムの素顔(本)』
by chikurinken | 2017-01-30 07:57 | ドキュメンタリー
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