日曜劇場 ああ!新世界(1975年・北海道放送)
演出:長沼修
脚本:倉本聰
出演:フランキー堺、南田洋子、藤原釜足、山本麟一、斎藤信和、札幌市民交響楽団
倉本聰の私小説的ドラマ ネタバレ注意! 放送時にたまたまテレビで一部だけ見て、その後、もう一度見たいとずっと思っていたドラマ。当時、倉本聰のことは一切知らず、当然このドラマが倉本作品であることも知らなかったが、今見てみると非常に質が高くかつ意欲的な、倉本作品らしいドラマであると感じる。
かつて「東京音連フィルハーモニー」という有名な管弦楽団で打楽器を担当していたある演奏家(フランキー堺)が、人間関係に嫌気がさし仕事を捨てて北海道の田舎町に、これも元楽団員の妻(南田洋子)とともに移住した。田舎に越したは良いが、田舎には田舎なりの嫌な人間関係があり、音楽家としてのプライドもあって、今の生活も決して満足いくものではない……というあたりが話の背景になる。このあたりは、途中少しずつ明かされるわけで、ドラマ自体は演奏会のシーンで始まる。
ストーリーの続き。先ほどの管弦楽団が札幌で引っ越し公演を行うにあたり、この元演奏家にゲスト出演してくれるよう依頼がある。この演奏家も今の生活に満足していないこともあって、多少の不安はあるが出演を快諾する。何せ演奏される曲はドヴォルザークの新世界で、この演奏家が担当するシンバルは1回しか音を鳴らさない。いくらブランクがあっても大丈夫だろうというハラだ。
ドラマは、新世界の第1楽章から第4楽章まで流れていき、その間に主人公の腹の中が語られ、同時にこれまでのいきさつが回想形式で流れていく。この独白と回想で、現状に対して複雑な感情を抱く主人公の心情、忸怩たる思いなどが痛いほど伝わってくる。倉本聰の面目躍如である。
この頃、倉本聰は大河ドラマの件でNHKと揉めて、落ち延びるように札幌に移住してきていたときで(
竹林軒出張所『100年インタビュー 倉本聰(ドキュメンタリー)』を参照)、ちょっと穿った見方をすれば自分の行く末として投影したのがこの主人公ではないかと考えられる。そのためか、そういう切迫感や悲壮感、屈辱感が主人公によって吐露され、これでもかというぐらいこちらに伝わってくる。私小説に近い感覚で書かれたのか、ともかく主人公の心情には非常なリアリティがある。1時間ドラマとは思えないほどの濃密さで、日曜劇場を代表する傑作であると言って良い。
第12回ギャラクシー賞受賞
★★★★参考:
竹林軒出張所『日曜劇場 ひとり(ドラマ)』竹林軒出張所『日曜劇場 聖夜(ドラマ)』竹林軒出張所『日曜劇場 幻の町(ドラマ)』竹林軒出張所『日曜劇場 りんりんと(ドラマ)』竹林軒出張所『日曜劇場 ばんえい(ドラマ)』竹林軒出張所『日曜劇場 風船のあがる時(ドラマ)』竹林軒出張所『日曜劇場 田園交響楽(ドラマ)』竹林軒出張所『日曜劇場 遠い絵本 第一部、第二部(ドラマ)』竹林軒出張所『日曜劇場 時計(ドラマ)』竹林軒出張所『日曜劇場 うちのホンカン(ドラマ)』竹林軒出張所『日曜劇場 遅れてきたサンタ(ドラマ)』竹林軒出張所『日曜劇場 スパイスの秋(ドラマ)』竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』竹林軒出張所『100年インタビュー 倉本聰(ドキュメンタリー)』