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竹林軒出張所

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『日本のいちばん長い日』(映画)

b0189364_9433949.jpg日本のいちばん長い日(1967年・東宝)
監督:岡本喜八
原作:大宅壮一(半藤一利)
脚本:橋本忍
音楽:佐藤勝
出演:三船敏郎、笠智衆、山村聡、黒沢年男、高橋悦史、加東大介、天本英世、小林桂樹、松本幸四郎

終戦の裏歴史

 1945年8月、大日本帝国は連合国によるポツダム宣言を受諾し、連合軍に無条件降伏した。同年8月15日正午に昭和天皇による終戦の詔勅がラジオを通じて放送され(玉音放送)、日本国民にその旨が通知された。こうして第二次世界大戦は終結したのだった。
 しかしこの玉音放送には実は驚くべき裏話があったというのがこの映画。8月14日から陸軍の一部の青年将校が、戦争継続を訴えて決起しクーデターを試みていた。そしてその際に玉音放送の音源(レコード)を奪取して、終戦の詔勅が出るのを阻止しようとしていたという、いわゆる「宮城事件」を扱ったのがこの映画である。
 映画の冒頭、太平洋戦争の開始から1945年8月9日に至るまでの過程が仲代達矢のナレーションで語られ、ドラマは8月9日から始まる。ときの内閣(鈴木貫太郎首相)は、ポツダム宣言を受諾するかどうかで揉めに揉め、陸軍の反対によりいったんは受諾しないことになったものの、その後、天皇の鶴の一声により無条件降伏が決まった。陸軍大臣、阿南惟幾は、軍内部の突き上げへの対応に苦慮するものの、これも天皇の要請があり、軍内部への対応を無事に行うことを誓う。しかし無条件降伏に異議を唱える青年将校たちは、二・二六事件ばりにクーデターを起こし、閣僚をすげ替えた上で戦争を継続し、本土決戦で決着を付けようと考える。こうして、これら青年将校たちは8月14日未明に近衛師団を配下に置き、この部隊を使って、玉音放送を奪取すべく宮内庁に殴り込みをかけたのであった。結局このクーデターは鎮圧され、すべては未遂で終わる。8月15日正午には予定通り玉音放送が放送され、大日本帝国は無条件降伏したのだった。
 この事件は学校の歴史では教わらない事件で、この映画と原作を除けば今に伝えられることもあまりない。しかし二・二六事件に匹敵する事件と言えなくもない。戦前の近視眼的で独善的な将校たちの有り様というものがよくわかり、愚か者に凶器を持たせたら何をするかわからないことが思い知らされる。それに阿南惟幾の切腹という時代錯誤的な行動についてもまったくあきれ果ててしまう。また、戦争は始めるのは簡単でも終わらせるのはそう簡単に行かないということもよくわかる。あちこちの利害が絡むと、ことは簡単に行かないわけだ。
 原作は大宅壮一編の『日本のいちばん長い日』。ただし実際にこの本を執筆したのは半藤一利で、最近出た文春文庫の半藤一利版『日本のいちばん長い日』でそのあたりの事情が明かされているらしい。ただし原作は読んでいないので正確なことはわからない(興味が湧くところではあるが)。
 映画は、原作を忠実に踏襲していることが窺われ、全体的に非常にオーソドックスな作りになっている。モノクロ画像が実に美しいが、汗ばんだ顔の接写が多く登場するのは、岡本喜八らしいがちょっと辟易する。この映画には岡本喜八風の破天荒さはないが、それがかえって重厚さをもたらすことになっていて、落ち着きのある良い映画に仕上がっている。
 俳優陣はオールスター・キャストで、名優、名脇役などさまざまな分野の役者が(登場人物が多いことから)少しずつ登場する。中でも黒沢年男が演じる青年将校が、柳沢慎吾みたいにこざかしく非常に鬱陶しい存在で、特に目を引いた。他に山村聡の米内光政、三船敏郎の阿南惟幾も好演、天本英世は狂気の将校で、ストーリーの流れからは少々浮いていた(それに最終的にどうなったかがよくわからなかった)が、存在感は抜群である。キャスティングについてはどれを取ってもまったく申し分ない。
 2時間半を超える長い映画ではあるが、見応えがあって飽きることはない。歴史の暗部を照らし出しているという意味でも興味深い話である。ちなみに、おそらく多くの人がご存知だと思うが、この映画、昨年リメイクされている。リメイク版は見ていないが(あまり見る気もないんだが)、この映画と比較すればまたいろいろと感じるところがあるかも知れない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『昭和史 1926-1945(本)』
竹林軒出張所『昭和史 戦後篇(本)』
竹林軒出張所『肉弾(映画)』
竹林軒出張所『青葉繁れる(映画)』
竹林軒出張所『姿三四郎(映画)』
竹林軒出張所『ダイナマイトどんどん(映画)』
竹林軒出張所『殺人狂時代(映画)』
竹林軒出張所『カラーでみる太平洋戦争(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-10-05 09:43 | 映画
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