夏目漱石のこころ(1955年・日活)
監督:市川崑
原作:夏目漱石
脚本:猪俣勝人、長谷部慶治
出演:森雅之、新珠三千代、三橋達也、安井昌二、田村秋子
原作に忠実な「良い」映画化 夏目漱石の
『こころ』の映画化。先生を森雅之、奥さんを新珠三千代、「K」を三橋達也、「私」を安井昌二が演じる。先生、私、Kは、小説では名前が出てこないが、映画では適当な名前がつけられている。名前がないとドラマとして成立しにくいため致し方ないところか。
全編、割合原作に忠実で、もちろんエピソードは前後しているが、登場人物のイメージも原作に近い。ただ原作を読んだ身からすると、面白いかと問われればあまり面白いと答えるわけにもいかない。よくできてはいるが面白味がない。よくよく考えてみれば、原作自体も(僕にとって)あまり面白味がないので、そういう点でも原作に忠実と言えるのかも知れない。
監督の市川崑はこの20年後に再び漱石の
『吾輩は猫である』を映画化しているが、監督が熟達したせいかどうだか知らないが、あちらの方がはるかにデキが良いと感じた。とにかくこちらの作は、ストーリー中心の映画だったせいもあるだろうが、はなはだ退屈に感じた。だが原作の代わりにこの映画を見ようという向きにはお奨めである。原作の雰囲気をうまく残している。
原作を読んだときに感じた「人ははたしてこんな動機で自死するんだろうか」という疑問は相変わらず残るが、ドラマだとストーリーをさらりと流すことでそれなりにリアリティが生じてくるため、あまり気にはならなかった。
★★★参考:
竹林軒出張所『吾輩は猫である(映画)』竹林軒出張所『こころ(本)』竹林軒出張所『三四郎(本)』竹林軒出張所『草枕(本)』竹林軒出張所『原作と映画の間』