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竹林軒出張所

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『人が悪魔に変わる時 史上最悪の心理学実験』(ドキュメンタリー)

人が悪魔に変わる時 史上最悪の心理学実験(2016年・NHK)
NHK-BS1 フランケンシュタインの誘惑

人は周囲に流される……想像以上に

b0189364_23332462.jpg 1971年、カリフォルニア州のスタンフォード大学で、心理学者フィリップ・ジンバルドーの指揮の下、1つの心理学の実験が行われた。21人の被験者を看守役と囚人役の2つのグループに分けた上で2週間地下の模擬監獄に入れ、どのような行動を取るか調べようというものである。目的は人間が置かれた状況によってどのように影響を受けるか調査することで、これがいわゆる「スタンフォード監獄実験」である。
 この実験を指揮したジンバルドーは、ニューヨークのスラム街出身で、悪事を働く人間が周りにあふれた環境で育ってきた。当時、こういった犯罪行為は、人間の性格や性質にその原因があるとする考え方が強く、環境や状況が原因だとするジンバルドーらの考え方は少数派であった。そこで彼は、状況がどのように人の行動に影響を及ぼすか証明したいという願望に駆られてこの実験を思い付いたのである。
 実験結果に説得力を持たせるため、被験者には候補者の中から平均的な性格の者たちのみが選ばれた。その上で、彼らには実験途中に自ら実験から抜けることを申し出る権利も保証された。また看守役には、囚人役の被験者に一切暴力をふるってはいけないことが申し渡された。
 こうして8月14日に実験は始まった。囚人役に対しては、実際の囚人を模すため、パトカーで逮捕されたり囚人服を着せられたりといった演出が行われた。看守役には点呼などいくつかの仕事が課せられた。実験当初は、看守役も囚人役も、ごく普通の学生風の行動(芝居じみたことをすることに対するテレ)を示していたが、2日目以降看守役は徐々に強圧的になり、囚人役に対して精神的暴行を加えるようになってくる。これはジンバルドーが想定していた以上で、時間が経つにつれてそれはエスカレートしていく。当初抵抗していた囚人役も、そのうちその状況を受け入れるようになり、完全に抑圧側と被抑圧側ができあがってきた。囚人役には精神に異常を来す者まで現れてきた(彼らは実験から排除された)が、ジンバルドーは実験をそのまま続けた。だが1週間後、外部の力により実験が中止されることになる。被験者の中にはその後PTSDに悩む者も現れ、この実験自体、「人体実験」や「非人道的な行為」というそしりを受けることになり、その後二度とこの種の実験が行われることはなかったという結末である。
 だが奇しくも環境や状況が人に与える影響がいかに大きいかはこの実験によって証明されることになったわけで、大きな犠牲はあったがある意味画期的な実験にはなった。ところがこれを悪用するような勢力が現れる。それが先頃イラク戦争のときに問題になったアブグレイブ刑務所での虐待である。アブグレイブ刑務所はイラクの国内につくられた刑務所で、米軍により多くのイラク人被疑者が収容されたが、そこでアメリカ人の看守が囚人のイラク人に破廉恥な精神的虐待を加えていることがその後明らかになり、最終的に当事者が処罰されることになった。だが実際のところ、当時の米軍にアメリカの心理学者が多数関わっていたことから、この虐待事件は意図的にスタンフォード監獄実験が再現されたのではないかとするのがこのドキュメンタリーの主張である(アメリカの心理学者の団体も後にそれを認めた)。非人道的などと非難していた人々が、実際にそれを再現してしまうというのも、ある意味「状況の力」かも知れず、心理学者自身が奇しくもそれを証明することになってしまったというオチなのか。
 番組では、この実験の詳細が再現映像を交えて時系列で紹介され、例によって識者がそれに対してコメントするという形式で番組が進められる。心理学者たちのインタビューも出てくるが、ひときわ目を引くのがジンバルドー自身がインタビューに登場していることで、これだけでもこの番組の価値というものがわかる。非常にスリリングかつ面白い題材で、人間の不可解さをあらためて考えるきっかけになった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『汚れた金メダル 国家ドーピング計画(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『(不) 正直な私たち “ウソ”を巡る“本当”の話(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-08-10 07:05 | ドキュメンタリー
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