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竹林軒出張所

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『典子は、今』(映画)

典子は、今(1981年・キネマ東京、シバタFC)
監督:松山善三
脚本:松山善三
出演:辻典子、渡辺美佐子、樫山文枝、河原崎長一郎、長門裕之、三上寛

b0189364_8433470.jpg驚異のハイパー典子

 サリドマイド被害者の辻典子をモデルにした劇映画。主演の「典子」役も辻典子が演じる。
 話のモチーフになっているのは辻典子の半生で、それを『名もなく貧しく美しく』の松山善三が脚本化し自ら監督した。
 ただし劇映画として見ると、ありきたりな演出にありきたりなセリフで、しかもやたら大ぶりな演技が多く、見ていてちょっと恥ずかしくなるような作品である。だがこの映画の見所は、なんと言っても辻典子の生活風景である。辻典子はサリドマイド被害者で、しかも生まれたときに短い手を切断したため手がなく、一般的な感覚から言うと相当不自由な生活を送っているのではないかと思うんだが、しかしこの人のすごいところは、一般人が手でやるところを足でこなすというところなんである。
 前にも書いたように(竹林軒出張所『『薬禍の歳月 サリドマイド事件・50年(ドキュメンタリー)』参照)、足を使って口紅をひいているシーンだけ記憶していたんだが、今回もう一度見たら、口紅どころじゃないということを思い知らされたのだった。基本的には大抵のものを足で操作できるんだが、箸だって使えるし、筆記用具だって消しゴムだって使える。小さい字で方程式を(しかも非常にきれいな字で)書いていたのは、彼女にとっては当たり前と言えば当たり前なのかも知れないが、かなりの驚きである。その上、マンドリンは弾くわあげくに水泳までやってのけるわで、衝撃にもほどがある。この人を見ていると、ちょっとぐらい足りない機能があってもなんとかなると思えてくる。自分が泣き言ばかり言っているのが恥ずかしくなってきて、あの娘がああやってハンデを乗り越えているのに、俺がこんなに後ろ向きで生きていて良いのかと反省することになる。そして、そういうところがこの映画の魅力なのである。「君もハイパー典子を見て何かを感じよ」というわけなのだ。
 このようにこの映画は素材だけで持っている映画で、もう少し他の部分がしっかりしていたらグレードが一段と上がっただろうにと思うことしきりのもったいない映画になってしまったのだった。すべては監督の善ちゃんが悪いってことになる。
 なお、辻典子の演技指導は、善ちゃんのカミさんの高峰秀子が担当している(映画には出ていない)。また、70年代のアバンギャルドな歌手、三上寛も役者として登場し、劇中で典子とテーマ曲をセッションしている。もっともこの三上寛のシーン、あまり意味のあるシーンには思えなかったが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『典子50歳いま、伝えたい(本)』
竹林軒出張所『『薬禍の歳月 サリドマイド事件・50年(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『手足をなくしても 〜ある登山家の挑戦〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『名もなく貧しく美しく(映画)』
竹林軒出張所『わたしの渡世日記 (下)(本)』
by chikurinken | 2016-07-12 07:53 | 映画
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