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竹林軒出張所

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『大往生したけりゃ医療とかかわるな』(本)

大往生したけりゃ医療とかかわるな 「自然死」のすすめ
中村仁一著
幻冬舎新書

死を想うことは生を見直すことだ

b0189364_741515.jpg 現代医療の問題点を指摘した本は、近藤誠の本をはじめとして今では数々あるが、この本はきわめて異色である。
 著者は、老人福祉施設付きの医者で、多くの老人を看取ってきた経験を持つ。その経験から、がん死について、人間の死に際を苦しめているのは医療であり、医療にかからずすべてを放っておけば、ほとんどの場合安楽に死を迎えられると主張する。また、人が死に際に食べたり飲んだりしなくなってやがて死んでいくのは自然なことであり、飲食をしないから死ぬのではなく、死ぬための過程として飲食をしなくなるのだと説く。他方現代医療では、食べられなくなったり飲めなくなったりすると、食べ物や飲み物を無理やり体内に入れることで、死の瞬間を延ばしている。だがこのような処置は患者に苦痛を強いるだけのもので、結果的に安楽に死ぬことを阻害しているのだという。何の処置もしなければ、たとえがんであっても、穏やかな表情で自然死していくというのが著者の主張である。死ぬ間際には脳内でエンドルフィンが分泌されるので気持ち良く死ねるのではないかとまで言っている。
 ではどうしてこういう「自然死」を迎える人が少なくなったかというと、患者の側が医療に対して万能だと勘違いしていること、医療側もそれを利用して利益を上げようとしていることなどが理由として挙げられるという。無駄な医療を受ける/行うことでどんな病でも直せると双方とも勘違いしているというわけだ。死は誰にでも来るという前提に立ち、生殖が終わったのであれば生物としての役割を果たしたのだから、運命を受け入れて死に行くことが望ましいのだというのが著者の主張で、そうすることが無駄な医療を断ち切ることに繋がるという。
 そして死を受け入れることは、死をタブー視せず常に死を前提として生きることから、生の充実にも繋がる。1カ月後に死ぬことが分かっていれば、何を優先的にやるべきか自分で考えて、自分なりに最重要なことに集中するようになる。結果として人生が充実するというのである。
 記述は非常に平易で、しかも随所に著者独特のおかしみがあふれているため、非常に読みやすい。中には悪ノリみたいな箇所もあるが、当人がきわめて真面目に取り組んでいることが分かるため、決して不快ではなく、むしろ笑いを誘う。
 著者は「自分の死を考える集い」などという集会を15年以上続けているらしく、その集会で、健常な人々の模擬葬儀を行い当事者が棺桶に入るという企画まで執り行っている。著者自身も自ら棺桶を体験しており(写真が掲載されている)、こういう体験こそが「生き直す」ことや「人生を軌道修正」することに繋がると主張する。本書の内容もユニークだが、著者もきわめてユニーク。医療や生命について考え直す良いきっかけになる本と言える。目ウロコ本である。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『どうせ死ぬなら「がん」がいい(本)』
竹林軒出張所『成人病の真実(本)』
竹林軒出張所『健康診断は受けてはいけない(本)』
竹林軒『書籍レビュー:この本をすすめる本当の理由』
竹林軒出張所『がん放置療法のすすめ(本)』
by chikurinken | 2016-07-03 07:42 |
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