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竹林軒出張所

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『平気でうそをつく人たち 虚偽と邪悪の心理学』(本)

b0189364_17391196.jpg平気でうそをつく人たち 虚偽と邪悪の心理学
M・スコット・ペック著、森英明訳
草思社文庫

少々独断的でうんざり
第5章が唯一の救い


 精神科医による、人の中の「邪悪」の分析。
 著者の患者の中にいた、邪悪な性質を持つ人々をサンプルとして俎上に置き、彼らの邪悪性について考察していく。話として聞かされる分には面白いが、中にはこれを邪悪として敵対視して良いものか少々疑問に感じるケースもある。相当鬱陶しい人も出てくるが、彼らが本当に「サイコパス」レベルの邪悪な人なのか、にわかに判断できない。このあたりが同じシリーズの『良心をもたない人たち』と比べて物足りない部分である。
 また方法論も夢診断を使ったりなどいささか古めかしい感じがする。原著が1983年に刊行されたというのもその一因かも知れない。正直言ってあまり信憑性がないというか、読んでいて少々胡散臭さを感じてきた。「悪」に対する研究という視点も途中まで明確に示されないため、一貫性を欠いているような印象すら受ける。途中まで読みながら、何のためのケーススタディなのかも分からなくなっていた。著者のこういった主張は第6章でまとめられていて、確かに納得できる部分はあるが、議論は独断的でしかもあまりはっきりとした結論も出てきていない。結局曖昧なまま終始してしまったという印象である。
 本書で唯一興味深い箇所が第5章で、ベトナム戦争で起こったソンミ虐殺事件を題材にとり上げ、集団がどのように邪悪に転化するか分析している。著者が米軍でベトナム帰還兵の聴き取りを行ったという経歴を持っているせいか、この部分は非常に説得力がある。ベトナムに派遣された歩兵部隊が持つ問題性、当時のベトナムでの条件、集団に見られる過剰な専門性などがその原因であると喝破し、知的怠惰(何が正しいか自分の頭で考えない)とナルシシズム(自分ではなく他者に誤りがあると考える)がその根本に横たわる原因であるとする(これは個人の邪悪についても共通)。
 以上のようなわけで、この本を読むのなら、第5章から、または第5章だけ読むようにすれば時間も無駄にならず、十分元が取れるという結論に最終的に達したのであった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『良心をもたない人たち(本)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第9集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史 (5)〜(7)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー 権力掌握への道 前後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーで見る 独裁者スターリン(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『勇気ある証言者 〜ボスニア〜(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-06-24 06:38 |
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