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竹林軒出張所

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『曜変 陶工・魔性の輝きに挑む』(ドキュメンタリー)

曜変 〜陶工・魔性の輝きに挑む〜(2016年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

止まっていた時計が今動き出した

『曜変 陶工・魔性の輝きに挑む』(ドキュメンタリー)_b0189364_2012365.jpg 七色の光彩を放つと言われる曜変天目茶碗。現存する曜変天目茶碗は世界に3個で、そのいずれも日本にあり、国宝に指定されている。その希少性もあって徳川将軍家や足利家、織田信長が所有したものもあるらしい。ちなみに元々は800年前、中国福建省の建窯(けんよう)で焼かれたものである。
 現存するものがこの国宝三点以外なく、国宝ゆえに簡単にアクセスできないことからこれまで研究者をさんざん悩ませてきた曜変天目茶碗であるが、最近中国で曜変天目茶碗の破片が新たに発見され、今まで簡単にアプローチできなかった組成などの解析が進むのではないかと期待が持たれた。何しろすでに壊れているものであるため、化学分析なども比較的容易に行うことができる。
 というわけで日本の曜変天目研究者数名が、現地の所有者に化学分析を申し込んだところ、これが受理された。喜び勇んで中国に乗り込んだ研究者チームだったが、土壇場になって化学分析が拒否されることになる。なんでも中国の関係団体から日本人に化学分析させるなというような横やりが入ったらしいのだ。そのため詳細なデータは結局手に入らないままになってしまった。
 このチームには曜変天目茶碗の再現に挑み続けている陶工、9代目長江惣吉も含まれていた(竹林軒出張所『幻の名碗 曜変天目に挑む(ドキュメンタリー)』を参照)。曜変の再現に挑み続けいまだに実現できていない彼にとって、この機会は曜変の秘密に近づける千載一遇のチャンスだったが、それが失われてしまったことになる。ただし化学分析はできなかったが陶片を見ることによって、元々の茶碗が何度で焼かれたかという疑問に対する解答を得ることができた(最高温度1300〜1350゜Cであることがわかったらしい)。しかもその後、このチームに同行していた藤田美術館のオーナーが所蔵曜変天目茶碗の科学調査に協力してくれることになった(実際には国宝であるためなかなか簡単には行かなかったらしいが)。その結果、曜変を起こしていた物質が何であるか調べるため化学分析が行われて、結果として物質成分が判明し、長江氏は成分についても一定の解答を得ることができた。
 長江氏は、これらのデータを基にして、再び再現を試みる。見せかけだけの技巧を排して、あくまでも800年前の製法を忠実に模倣することで本物の曜変天目茶碗を再現しようというのである。で、実際にあの曜変が部分的に現れる茶碗を焼くことに成功したのである。まだまだ本人にとっては「再現」には至っていないようだが、大きく前進したことは間違いない。
 このドキュメンタリーでは、長江氏中心に話が進められていくが、以前放送された『幻の名碗 曜変天目に挑む』にも当てはまるように、長江氏の生き方がなかなかドラマチックに描かれている。一つのことにとりつかれた芸術家という構図が非常に絵になるため、結果的にそういう演出になったんではないかと推察される。すべてを投げ打って、真実を追究し続ける彼の姿勢は(端で見ている分には)感動的である。今回の放送では、おそらく近いうちに完全再現を果たすのではないかという雰囲気が漂っていたため、いずれこの長江氏にスポットを当てた番組がNHKでまた作られるんではないかと感じている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『幻の名碗 曜変天目に挑む(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『曜変天目を現在に(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2016-06-19 06:46 | ドキュメンタリー
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