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竹林軒出張所

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『被曝の森 〜原発事故 5年目の記録〜』(ドキュメンタリー)

被曝の森 〜原発事故 5年目の記録〜(2016年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

『被曝の森は今』の福島版
だが内容には少々疑問符が付く


b0189364_17571573.jpg 2011年の福島原発の事故のため、放射能が高くなり人が住めなくなった地域が原発跡地周辺に広がった。帰還困難区域に指定された地域ではいまだに人が帰れず、家は荒れ、草ぼうぼうになってしまっている。しかし「家が荒れた」というのはあくまで人間側の感覚であり、野生動物にとっては、天敵がいなくなった上食べ物が豊富にある楽園が目の前に現れたという感覚に近いのかも知れない。それを裏付けるように、こういった地域には野生動物が我が物顔で闊歩しているという状況が生まれている。
 この番組に出てきた動物たちは、イノシシ、アライグマ、ハクビシン、猿など。イノシシなどは群れを作って路上や人家を歩きまわっている。一時帰還した人々が脅しても一向に逃げる気配がない。むしろ縄張りを主張するかのように威嚇するものまでいる。こうして帰還困難区域に野生の楽園が誕生したのだった。
 こういった状況はチェルノブイリ周辺でも起こっていて、このあたりは『被曝の森は今』というドキュメンタリーで紹介されていた。放射能がいまだに残っているのは福島でも共通で、野生動物にも放射線の影響が出ていることが容易に推測できる。そのため、研究者たちは野生動物を捉えては放射線の影響を調査しているのである。そして多くの動物が放射性物質を体内に取り込んでいることが判明している。ただし放射線が生体にどのような影響を与えるかはいまだはっきりとは分かっておらず、現在も調査が続けられている(ツバメの尾羽には奇形が現れていたりしている)。言ってみれば帰還困難区域が「壮大な実験場になっている」わけだ。
 こういう状況を報告しているのがこのドキュメンタリーだが、このドキュメンタリーでは、野生動物が棲み始めたため今後帰還する予定の地元民にとっては大変だという視点が貫かれていた。そりゃ確かに大変なのはわかるが、そういう部分に落とし込んでしまうと実につまらない話になってしまう。動物の側の視点からすると、原発を作って放射能をまき散らしたのも人間の勝手、いなくなったのも人間の勝手というふうに考えられやしないか。被害者に過剰に同情するよりも、起こった問題から、従来の間違った人間中心の生活スタイルについて反省するというアプローチがあっても良いんじゃないかと考えたりする。
 野生動物が人間の生活にとって邪魔なら捕獲するなり虐殺するなりしたら良い。それは放射能をまき散らした当事者が責任を持ってやれば良いことだ(人災によって地域に人が住めないようにしたのだから、人が住めるよう元に戻すのは彼らの当然の責任である)。要は、ポイントをこういった卑近な話に落とし込んでそれを結論にしてしまうのが正解なのかということである。そういう結論で良しとするドキュメンタリーは安易に過ぎると思うし、その番組製作者については問題意識が足りないんじゃないかと感じてしまうのだ。要するに、作り手との間で感覚に少しズレを感じるというわけだ。
★★★

参考:
竹林軒出張所『被曝の森は今(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『メルトダウン 連鎖の真相(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『原発事故 100時間の記録(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-05-27 06:56 | ドキュメンタリー
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