ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『幕末単身赴任 下級武士の食日記』(本)

b0189364_8475533.jpg幕末単身赴任 下級武士の食日記
青木直己著
NHK出版生活人新書

下級武士の生活を覗き見

 万延元年(1960)に江戸詰めになった、酒井伴四郎という紀州藩士は、かなりのメモ魔で、どこに行って何を見て何を食べたかをかなりマメに記録として残していて、その記録が江戸の下級武士の生活を今に伝える一級資料になっている。その彼の日記を覗きみて、当時下級武士がどのような生活をしていたか、何を食べていたか、何を楽しんでいたかを垣間見ようというのがこの本。
 この本は、元々2000年から2003年までNHK出版の『男の食彩』という雑誌に連載していたものをまとめたもので、前に紹介した酒井伴四郎が登場するドキュメンタリー竹林軒出張所『江戸古地図の旅 〜江戸東京 迷宮の道しるべ〜』もここからヒントを得られているのは間違いない。僕自身もあのドキュメンタリーを見て酒井伴四郎に興味を持ち、この本を手に取ったわけで、ドキュメンタリーと本とで相乗効果をもたらしていると言うことができる。
 酒井伴四郎は、叔父である宇治田平三の補佐役みたいな形で、彼らを含む計5名、従者1名という構成で江戸詰になった。江戸には、紀州から中山道を通って下っており、伴四郎の日記はそのあたりから始まる。大雨で足止めを喰らったり、名物を買って食べたりしている様子が詳らかに書かれているため、当時の江戸の旅の様子がよく分かる。この本では、この伴四郎の日記と平行して当時のさまざまな食べ物やその食べ物にまつわる蘊蓄が著者によって語られていくんだが、こちらも非常に面白い。ちなみに著者は、和菓子の研究をしている人で、執筆当時、虎屋文庫研究主幹を勤めていたらしい。
 本では、伴四郎が江戸に入ってからもこのような進行で語りが進められていき、伴四郎の生活や当時の食べ物が面白く紹介されていく。鰹を自分で調理して皆がひどい下痢をしたとか、自分が食べようと残していた鰺を「叔父様」(宇治田)が勝手に食べていて立腹したとか、内容が詳細であるため、さながら野次馬的に伴四郎の生活を覗き見しているような印象さえ受ける。同時に江戸の街の活気が伝わってきて、非常に魅力的に映る。
 江戸に蕎麦屋が3000以上あったとか、幕府から諸大名に菓子を賜る儀式(6月16日の嘉定の日)があったとか(僕にとって)目新しい情報もいろいろと出てきて、読んでいて楽しさを感じるような良書である。江戸関連の本も永らく読んでいなかったが、また久しぶりに石川英輔の本を読んでみようかなと感じた(石川英輔も、さながら江戸を見てきたように紹介するから、この本同様読んでいて楽しさを感じる)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『江戸古地図の旅 〜江戸東京 迷宮の道しるべ〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『幕末グルメ ブシメシ!(1)〜(6)(ドラマ)』
竹林軒出張所『元禄御畳奉行の日記 ― 尾張藩士の見た浮世(本)』
竹林軒出張所『石川英輔の本、5冊』
竹林軒出張所『ニッポンの旅 江戸達人と歩く東海道(本)』
竹林軒出張所『大江戸庶民いろいろ事情(本)』
竹林軒出張所『江戸時代はエコ時代(本)』
by chikurinken | 2016-05-18 08:48 |
<< 『元禄御畳奉行の日記 (上)(... 『ハイビジョン日本大百科 大江... >>