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竹林軒出張所

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『壊れた脳 生存する知』(本)

b0189364_8301586.jpg壊れた脳 生存する知
山田規畝子著
角川ソフィア文庫

脳内出血を経験した医師が伝える
高次脳機能障害の世界


 もやもや病のために脳内出血を患った医師が、自分の障害について率直に綴ったエッセイ。
 著者、山田規畝子は、脳内出血をなんと三回経験しているが、中でも三度目の出血は大量(150グラム)で、そのために「一生植物状態になるかも知れない」(医師談)というひどいものだった。一度は意識がなくなるもその後取り戻し、徐々に身体の機能も回復していった。それでも脳には高次脳機能障害が残り、身体も麻痺している。高次脳機能障害は2回目の出血後もあり、見た目が普通であることから他人にその障害を理解されにくい。なぜこんなことができないのかという目で見られるため、本人の中でどういうことが起こっているかを他人に知らせるために書いたのがこの本だということである。
 また著者自身が、自分の障害自体を興味の対象として観察している様子も印象的で、さまざまな景色がどのように見えるか、健常だったときとどのように違うかについて記述しているのも非常に興味深い。それはまさに普通では経験できない世界で、ワンダーランドとも言える世界である。たとえば階段が線にしか見えない、新聞の記事をどのような順序で読めば良いか分からないなどという状況は、普通に暮らしていれば絶対に分からないし、そういう症状で困っている人がいても、その状況を知らなければ共感することすらできない。そういう意味では、こうやって高次脳機能障害の世界を本で知らせてくれるのはありがたいことである。著者が医者でありなおかつ好奇心旺盛という部分がうまい方に働いている。
 また、著者が入院していたときに、医師や看護師に暴言(「医者のくせに」など)を浴びせられたりひどい扱いを受けたことも綴られている。病院によっては確かにそういう部分が存在すると、大いに共感できる部分である。
 著者は退院後病院に復帰し、患者のサポートを行っていたらしいが、これは著者が恵まれた環境にいたことが大きい。普通の人は、障害を抱えたままではなかなか社会復帰できないものである。病気についても、家庭環境や金がものを言うというのは悲しいことではあるが、それが現実である。もちろんそういった恵まれた立場であるからこそ、こうして外部の人間に内的世界を知らせる伝道師の役割を果たせるわけで、我々にとってはありがたいことではある。医師が書いた脳卒中という点では、『奇跡の脳』とも共通しているが、それぞれ症状が違うためアプローチが異なり、どちらも稀少な世界を描くことに成功した貴重な本である。
 なおこの本だが、マンガ化されている他、ドラマ化もされている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『奇跡の脳(本)』
竹林軒出張所『脳は奇跡を起こす(本)』
竹林軒出張所『再起する脳 脳梗塞が改善した日(本)』
竹林軒出張所『脳がよみがえる 脳卒中・リハビリ革命(本)』
竹林軒出張所『よみがえる脳(本)』
by chikurinken | 2016-04-27 08:31 |
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