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竹林軒出張所

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『T(ERROR) FBIおとり捜査の現実』(ドキュメンタリー)

テラー / T(ERROR) FBIおとり捜査の現実 前後編
(2015年・米Lyric R. Cabral& David Felix Sutcliffe)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

(別の意味で)怖いアメリカ社会

b0189364_852622.jpg テロの恐怖に支配されている現代アメリカ。在米のイスラム教徒にちょっとでも怪しげな動きがあれば、冤罪だろうが何だろうが片っ端から逮捕し収監する。そういったテロリスト容疑者は、FBIが情報提供者(Informant)と呼ばれる人々を使って罠にはめる。たとえば情報提供者がテロリスト・キャンプへの参加を容疑者に呼びかけてそれに乗ってきたら即逮捕。その際、その状況の記録(録音や録画)が証拠になる。
 このドキュメンタリーは、FBIが情報提供者をどのように利用して容疑者を逮捕しているかその実態を明らかにする100分の映像で、『BS世界のドキュメンタリー』では前編・後編に分けて放送された。
 FBIの情報提供者は現在全米に1万5千人を数える。FBIは、かつて何らかの罪で有罪になった人々に持ちかけて、罪の軽減と引き換えに情報提供者になるよう説得する。この番組で密着する情報提供者は、60年代からブラック・パンサー党のメンバーとして活動していたサイードという男で、この男も収監中に情報提供者になることに決めた。普段は一般社会の中で生活しているが、ひとたびFBIからミッションが出れば、容疑者に近づいて友人になり、犯罪の証拠を引き出すことでFBIの逮捕に協力するという、いわゆる「おとり捜査」に関わる。報酬はかなりの額が出るようだが、危険な仕事であることには変わりない。本人は「民間の刑事」だと自称しているが、FBI側にしてみれば使い捨てである。つまり容疑者に面が割れたりして使い物にならなくなれば即解雇だ。
 今回、そのサイードがピッツバーグでの任務を与えられた。そのターゲットが怪しいムスリム、カリファ。サイードはカリファに接近することに成功し、少しずつ関係を強化していくが、FBI側のミスがきっかけになり、カリファがサイードに疑いを持ち始める。
b0189364_854313.jpg そんな折(ここからは後編になるんだが)、取材班は今度はカリファ側にインタビューを申し込む。自分の身辺がFBIに狙われていることに感づき始めたカリファはインタビューに応じ、サイードがあまりにテロのことを煽動するなど、少し妙な部分を感じていることや、FBIが身辺に迫っていること、自分がテロにまったく関与していないことなどを訴える。カリファ自身も、FBIから自分の身を守るため、ムスリムの人権擁護組織や弁護士などに接触しようとする。一方でサイードの方もFBIにカリファはシロだと伝え、自分の正体もばれていることを訴えるが、FBIは接触を継続するよう要求する。
 やがてカリファは自分の身を守るために記者会見を開くことにするが、その記者会見の前にとうとうFBIに拘束され、収監されてしまう。容疑はなんと銃の不法所持! それもSNSの写真が証拠として採用される。
 このドキュメンタリーでは、カリファが逮捕される瞬間もしっかり映像に収められ、非常に臨場感、緊迫感がある。結局カリファには禁固8年の刑が下った。彼が実際にやったことといえば、アメリカ政府に対する不満を語ったことと、軍事関係やイスラム関係の本を大量に所持していたことぐらいのもので、これだけで逮捕されるのに恐怖を感じる(銃の所持は手続きさえしっかりしていれば合法)。現代アメリカで人権(特にムスリムの人権)がいかに軽視されているかが、このドキュメンタリーからあぶり出される。もう「冤罪」などというレベルでなく、危なそうだったら罪をでっち上げて排除するという構造が見えてくる。今のアメリカは、70年代の中南米軍事政権あるいは旧共産圏並みの後進性を露わにしている。アメリカで一番危ないのは、テロリストではなく政府である……ということがよく分かるドキュメンタリーだった。
サンダンス映画祭審査員特別賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『そして、兄はテロリストになった(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『フランスで育った“アラーの兵士”(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『帝国以後 - アメリカ・システムの崩壊(本)』
竹林軒出張所『報道の自由と巨大メディア企業(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ウォール街の“アンタッチャブル”(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-04-19 08:06 | ドキュメンタリー
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