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竹林軒出張所

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『ミセス・バッハ』(ドキュメンタリー)

ミセス・バッハ 〜バロックの名曲は夫人によって書かれた〜
(2014年・英glasGOw films/LOOKS)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

b0189364_17164960.jpg事実は意外にありきたり

 ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲とされる多くの楽曲が、彼の2番目の妻、アンナ・マグダレーナ・バッハによって書かれたのではないかという疑惑を追求するドキュメンタリー。
 この説、これまでもたびたび世間に出て物議を醸してきたらしいが、まったく荒唐無稽というような話でもないという。実際、アンナ・マグダレーナには音楽の素養があり、彼女との結婚後にバッハの作品に傑作が多く現れるなど、それを疑わせるような事情もある。またバッハの作とされてきた楽曲が別の作曲家の作品だと判明したなどということも実際に起こっている。
 何よりも残されているバッハの楽曲の多くが、アンナ・マグダレーナの手で筆写されたものだという事実がある(この番組ではこのあたりを中心に検証を試みている)。つまり多くの作品は、アンナの手による楽譜が「オリジナル」なわけである。これについてはこれまで、バッハが口頭で言ったものをアンナが書き取ったとされてきたのだが、そもそも作曲家が口頭に出したものを筆写するなどということが果たして可能なのか、たとえ可能だとしても、そうであれば筆写する方にも相当な音楽的素養がなければいけないんじゃないかという点が根拠として提示されている。またバッハが書いたとされる楽譜にも、あちこちにアンナの筆跡が残されていたりしている。つまり早い話が、当時の慣習として、バッハ家の人々が共同で作業したものをバッハ名義、つまり「バッハ工房」の作品として発表していたのではないかというのがこの番組で出されていた結論である。
b0189364_1717996.jpg もっとも現状ではやはり試論の域を出ないレベルで、一つの問題提起というレベルにとどまっているのは少々残念な部分である。だが当時の作曲スタイルが工房システムだったという考え方は説得力があるし(美術の世界でも似たようなものだし)、要は、歴史の一断片を現代的な固定観念で捉えたらいけないということだ。作曲家と言えば、フリーのプロの作曲家をイメージするが、それがモーツァルトやベートーヴェン以降の話であることは音楽の専門家であれば皆ご存知のはず。そうだとすれば、バッハがその発表作品をすべて1人で仕上げたと考えることに必然性はないのだ。この番組をきっかけにバッハ研究が一層進展することを望みたいところである。
ニューヨーク・フェスティバル芸術部門金賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記(映画)』
竹林軒出張所『「英雄」〜ベートーベンの革命〜(ドラマ)』
竹林軒出張所『ベートーベン・ファイル(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ピアノの詩人ショパンのミステリー(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-04-15 07:16 | ドキュメンタリー
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