ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『仁義なき宅配 ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』(本)

仁義なき宅配 ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン
横田増生著
小学館

いびつに歪んだ宅配便産業から
アマゾンの非道が照らし出される


b0189364_1943511.jpg 『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』(以下を参照)の著者による宅配便産業(ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便など)の内部事情。
 著者によると、宅配便産業が2000年代になって低収益産業になってしまい、結果的に宅配便産業の労働者にそのしわ寄せが来ているだけでなく、各社による荷物の取り扱いもぞんざいになっているという。その一例が数年前にヤマト運輸で発覚した問題で、クール便がずさんな温度管理で取り扱われていたというあの事件(憶えておられる方がどれくらいいるかわからないが)。しかも今でも、荷物の仕分けセンターでは温度管理がずさんに行われているらしい。
 要するに現状では労働者に対する負担が重すぎるわけで、そのくせ労賃が安いと来ている。これは佐川急便でも同様であり、各社の内部事情がこの本で細かく報告されている。著者はかつて物流業界紙で編集長を勤めていた人であるため、物流関係には強いようで、その強みがこの本でもうまく発揮されていて、結果的に宅配便産業の問題点がうまくあぶり出されている。
 そのような傾向に拍車をかけたのが、ネット通販(特にアマゾン)の「送料無料」キャンペーンであり、これを実現するため各社が料金の値下げを余儀なくされた。結果的に各社の利益率が下がり、しかも再配達などでドライバーの手間も増えた。要するにアマゾンのシェア拡大には、宅配便産業およびその労働者の出血が必要だったということなのだ。佐川急便などは、そのあたりに気付いてアマゾンとの取引を止め、料金を健全な範囲に戻すということを行っている。ヤマトも現在アマゾンとの取引には慎重で、そのため日本郵便がアマゾンの仕事を受けているという。結果的に日本郵便はシェアについては大幅に拡大することができた。ただしシェアが増えても取引のうま味がないため、これがいつまで続くかは分からない。
 著者の主張は「送料無料」などというのは基本的にあり得ないシステムだというもの。「送料無料」と主張してもその送料を通販会社がすべて負担しているわけではなく、相応の負担を輸送会社にも強いているわけである。著者の主張はごもっともで、現在の通販業界の価格設定、特に無料送料システムは、普通に考えたら明らかにおかしく、あまりにいびつである。そのしわ寄せがどこに来ているかが明らかになったという点だけでもこの本に価値があると言える。
 なお、この著者の得意技である潜入ルポはこの本でも行われており、ヤマトと佐川の両方に潜入(といってもバイトだが)して内部事情を暴いている。ただし今回の本は「潜入」だけが目玉でなく、しっかり問題点を浮き彫りにしている点が評価できる(前の本の「アマゾン潜入」はあまりにチープだった)。また、各社のトラックに同乗して実際の宅配の現場の仕事を体験するということもやっているため、宅配便産業を多角的に照射することが可能になっている。
 いずれにしろ、アマゾンを利用する際は、送料無料サービスが宅配ドライバーの犠牲の上に成り立っていることを肝に銘じておかなければならない。アマゾンがアメリカ型の利己主義企業だということが改めてあぶり出されており、この本の価値もそこらあたりにあると言える。
★★★☆

参考:
竹林軒『百円ショップを巡りながらこう考えた』
竹林軒出張所『低価格時代の深層(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『模倣品社会 〜命を脅かすコピー商品〜(ドキュメンタリー)』

--------------------------

 以下、以前のブログで紹介した同じ著者の『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』に関する記事。

(2005年7月31日の記事より)
b0189364_19441520.jpg潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影
横田増生著
情報センター出版局

 Web書籍・CD販売業のアマゾンに、出荷担当(ピッキングという作業)として下働きし、ベールに包まれているアマゾンの秘密を白日の下にさらそうと奮闘したルポ。タイトルでは「潜入」となっているが、どちらかといえば「体験」に近い。
 アマゾンは秘密主義を貫いているようだが、Amazon USAのピッキング現場は、テレビでも取り上げられているし、正直なところそれほど目新しくない。「光と影」というタイトルから想像できるように、アマゾンの暗部を照らし出すのが著者の目的のようだが、「下働きが時給900円でストレスの多い作業をさせられている」というだけでは、あまり(告発としての)説得力はないと思うが。ストレスは多いかも知れないが、比較的楽な仕事のようにも思えるし、時給900円ってそんなにひどいかな? 職場が近くならやっても良いなと思ったぞ。
 最後の方で山田昌弘著の『希望格差社会』を取り上げて、アマゾンの労働システムと日本社会の弱肉強食化(またはグローバリズム)を結びつけようとしているが、これもどうかと思う(そもそも『希望格差社会』の主張自体が眉唾だ)。今から20年ほど前、私もアルバイターをやっていてあちこちの職場を渡り歩いたが、アマゾンのピッキング現場くらいの条件はいくらでもあった(「オレは機械じゃねえや」と思ったことなんかしょっちゅうだ)し、賃金だってもっと安かったよ。
 アマゾンがろくでもない企業で本当にあくどいことをやっているんだったら今後利用するのをやめようと思っていたが、そういう期待には、残念ながらこの本は応えていない。もっとも読み物としてはそこそこ楽しめる。あくまでもアマゾン・バイト体験記としてね。
★★★
by chikurinken | 2016-03-31 07:43 |
<< 『滅びのチター師』(本) 『名前を失くした父』(ドキュメ... >>