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竹林軒出張所

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『みんなのための資本論』(ドキュメンタリー)

みんなのための資本論(2013年・米72 Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

良質な「アメリカ(日本)社会問題概論」

『みんなのための資本論』(ドキュメンタリー)_b0189364_8391911.jpg ロバート・B・ライシュという経済学者によるUCバークレー「白熱教室」。
 ロバート・ライシュはかつてカーター政権に参加した他、クリントン政権でも労働長官を勤めたリベラルな経済学者で、現在カリフォルニア大学バークレー校で教鞭を執っている。この経済学者がUCバークレーで行った講義を柱にして、それを映像やデータで立体的なものにしたのがこのドキュメンタリー。
 この講義では、20世紀〜21世紀のアメリカの状況を示すグラフが再三取り上げる。富の格差や失業者数を示す吊り橋のような形をしたグラフで、富の格差のピークが世界恐慌の前とリーマンショックの前に来ていて、それが失業者数のグラフとも重なる。このグラフの値が高いほど、一部の高所得者だけが利益を被り、中間層や下層階級が痛い目を見るという状況になっている。現在でもこの状況が続いており、なお一層ひどいのは、高所得者層が金の力で政治も牛耳っているということである。そのため、高所得者の利益を中間層の元に取り戻さなければ、米国経済も、ひいては民主主義も破綻するというのが、ライシュ、そしてこのドキュメンタリーの主張である。
 そのためには一人一人が行動することが重要で、あなた方(講義の出席者)にはそれができるとライシュは訴える。これまで社会で不正が栄え続けたことはないということを念頭において、前進してほしいというメッセージで締める。
 現状分析が適確である上、講義が映像、データ、インタビューで肉付けされ、内容が非常にわかりやすくなっている。またリズミカルに展開するためまったく飽きることはない。中には、ある会社経営者(いわゆる富裕層)のインタビューまであり、現状の富裕層に富が集まる構造が問題であることを具体的に指摘するなど、面白い工夫も随所に見られる。アメリカ(日本もそうだが)の富の問題についての入門編として優れたドキュメンタリーで、良質な「アメリカ(日本)社会問題概論」である。「白熱教室」の類はあまり好きになれないが、これは「白熱教室」を演出にうまく取り込むことに成功した。よくできたドキュメンタリーと言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『コミック貧困大国アメリカ(本)』
竹林軒出張所『金融が乗っ取る世界経済 21世紀の憂鬱(本)』
竹林軒出張所『悪夢のサイクル(本)』
竹林軒出張所『スプリット 二極化するアメリカ社会(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『パーク・アベニュー 格差社会アメリカ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ウォール街の“アンタッチャブル”(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『報道の自由と巨大メディア企業(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史 (8)〜(10)(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-02-22 08:39 | ドキュメンタリー
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