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竹林軒出張所

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『日本人は何をめざしてきたのか (6)』(ドキュメンタリー)

日本人は何をめざしてきたのか
第6回 障害者福祉 共に暮らせる社会を求めて

(2016年・NHK)
NHK-Eテレ 2015年度「未来への選択」

異色の「障害者福祉」史

『日本人は何をめざしてきたのか (6)』(ドキュメンタリー)_b0189364_8281235.jpg 戦後日本を振り返るシリーズ『日本人は何をめざしてきたのか』の第6回。第6回は日本の障害者福祉の戦後史についてである。
 このシリーズ、毎回、テーマを決めて戦後史を辿るが、この障害者福祉というテーマ、今まで個人的にあまり注目していなかったトピックであるため、今回目からウロコの事実が目白押しで圧倒された。
 戦前から、家庭内に障害者が生まれると人目に付かないところ(いわゆる「座敷牢」)に閉じ込められることが多く、「人目から隠される」のが障害者の扱いだった。それが大きく変わったのが傷痍軍人の登場である。GHQの政策のために軍人恩給が打ち切られることになったため、太平洋戦争で身体に傷を負った人々が、街に出て自らの姿をさらし、政府による待遇改善を訴えるようになった。これをきっかけに世間の目が障害者に向くようになった(このあたり竹林軒出張所『忘れられた皇軍(ドキュメンタリー)』参照)。
 やがて行政も少しずつではあるが障害者に手を差し伸べる方向に移行していく。とは言え、障害者行政は、基本的に「憐れな人に恵みを与えてやる」というスタンスで、結局は障害者を一箇所に集めるというものに終始する。1967年に始まる東京都の美濃部革新都政では、新たに障害者施設を多数設けて障害者を支援するという方向に舵を切ったが、実質は、障害者を収容所に閉じ込めて規則で縛るという状態だったらしく、利用者の側からも大きな反発が起こった。
 またバスの乗車を拒否される障害者がその不当性を世の中に訴えるような運動を展開し始めたのもこの頃で、全国青い芝の会という団体がそれを先導する。彼らの運動は実力行使を伴うなど強行ではあったが、結果的に世間の耳目を集めるのに成功。原一男のドキュメンタリー映画『さようならCP』や山田太一のドラマ『男たちの旅路 第4部「第三話 車輪の一歩」』なども障害者福祉について世に問いかける役割を果たす(どちらもこのドキュメンタリーで紹介されている)。
 多くの人々の活動により、障害者に対する見方も、従来の差別的なものから1人の人間として対等に接するという方向に少しずつ変化してきた。行政の方も、障害者自立支援法を制定するなど障害者福祉に本格的に乗り出すようになったが、一方でこの法律には障害者に金銭面の負担を強いるなどの負の面もあり、なかなか簡単には行かない。
 一つ確かなのは、戦争直後の障害者に対する非常に差別的なスタンスが、今は大きく変わっていることである。このドキュメンタリーで紹介される過去の映像を見ていると、健常者による障害者に対する扱いがあまりに差別的で驚くことが多かった。さすがに今では大っぴらにそういう差別的な言動が行われることは少なくなった。健常者だって何かのきっかけで障害者になるわけで、「明日は我が身」であることを考えると差別的な扱いなどできないはずだが、想像力が欠如した人は今でも存在する。だがそれでも、70年の間の変化は小さくなかったことがこの番組を見ると分かる。このドキュメンタリー・シリーズは、戦後史各論として非常に優れているが、この障害者福祉史も出色のできであった。こうやって通史で扱われることがあまりないことを考え合わせると、その価値の高さがわかる。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『日本人は何をめざしてきたのか (2)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『日本人は何をめざしてきたのか (3)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『チョコレートな人々(映画)』
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『忘れられた皇軍(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『本日ただいま誕生(映画)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』
竹林軒出張所『断らない ある市役所の実践(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2016-02-08 08:28 | ドキュメンタリー
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