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竹林軒出張所

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『映画女優』(映画)

映画女優(1987年・東宝)
監督:市川崑
原作:新藤兼人
脚本:新藤兼人、日高真也、市川崑
出演:吉永小百合、森光子、菅原文太、石坂浩二、渡辺徹、平田満、岸田今日子、常田富士男、中井貴一、上原謙、高田浩吉

市川崑にもハズレあり

『映画女優』(映画)_b0189364_974788.jpg 「市川崑にハズレはない」と常々思っていたんだが、この映画はハズレの部類に入る。
 「吉永小百合主演99本目記念」と名うって公開された映画だが、「99本目記念」って何よと突っ込みたくなるような呼び文句である。「99本目」で記念になるんだったら「101本目」でも記念になりそうなものだが、ま、ちっちゃいことは気にしない。
 それより何より、映画がつまらなすぎる。原作は新藤兼人の『小説 田中絹代』だということで、新藤兼人が脚本も担当しているところを見ると原作をそのまま映画に移したというような感覚だったんじゃないかと思うが、あらゆる部分が説明的すぎて情緒もへったくれもありゃしないという映画になってしまった。新藤兼人はときとして非常に説明的なやっつけ仕事的なシナリオを書く人だが(『北斎漫画』もそうだったし『午後の遺言状』なんかその最たるものだった)、この映画もそのご多分に漏れず。さながらNHK-BSのドキュメンタリードラマのようである(というのは少々言い過ぎか)。
 ともかく女優、田中絹代の半生を描く映画で、デビュー当時から始まり、その後松竹の大看板になっていき、やがて老け女優としての覚悟を決めていく当たりまで描かれる。映画界が舞台なので、映画界の有名人、城戸四郎(石坂浩二)、五所平之助(中井貴一)、小津安二郎なども当然のように登場し、田中絹代といろいろ噂のあった溝口健二(菅原文太)も登場する。ただし全部仮名で、城都四郎、五生平之助、溝内健二などとなっている。仮名にすることで、あくまでも「創作」という位置付けにしたんだろう。
 途中、田中絹代が主演した映画、『愛染かつら』がモノクロで再現された映像が出てくるが、田中絹代の代わりは当然、田中絹代役の吉永小百合なんだが、相手役の上原謙はなんと上原謙自身が演じている。こういうのは市川崑らしいアソビで面白い。高田浩吉も同じような趣向で本人役として出ていたようだが、こちらは気付かなかった。
 途中ナレーションが入って当時の映画界について説明が入るんだが、このあたりはドキュメンタリータッチになっていて、説明的な要素に拍車をかける結果になっている。シナリオがもうちっとなんとかなっていたら、市川崑がすばらしい映画に仕立ててくれたんじゃないかと思うんだが、シナリオのせいでつまらない映画になってしまった。ただし吉永小百合は非常に美しく、こちらは見所の一つである。撮影当時40過ぎだが、思いっきり照明を当てているせいかもっと若く見える。いずれにしろ吉永小百合だけの映画になってしまった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『北斎漫画(映画)』
竹林軒出張所『墨東綺譚(映画)』
竹林軒出張所『裸の十九才(映画)』
竹林軒出張所『竹山ひとり旅(映画)』
竹林軒出張所『鍵(映画)』
竹林軒出張所『細雪(映画)』
竹林軒出張所『炎上(映画)』
竹林軒出張所『おとうと(映画)』
竹林軒出張所『太平洋ひとりぼっち(映画)』
竹林軒出張所『ぼんち(映画)』
竹林軒出張所『吾輩は猫である(映画)』
竹林軒出張所『野火(映画)』
竹林軒出張所『プーサン(映画)』
竹林軒出張所『幸福(映画)』
by chikurinken | 2015-12-14 09:08 | 映画
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