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竹林軒出張所

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『野火』(映画)

b0189364_8301514.jpg野火(1959年・大映)
監督:市川崑
原作:大岡昇平
脚本:和田夏十
撮影:小林節雄
美術:柴田篤二
音楽:芥川也寸志
出演:船越英二、ミッキー・カーティス、滝沢修、浜口喜博

いきなり戦場に放り込まれる

 太平洋戦争末期のフィリピン・レイテ島が舞台。主人公は、米軍に追いつめられてさまよう大日本帝国軍の一兵卒、田村(船越英二)。
 米軍に追いつめられた兵士たちは脱出地点を目指してさまよい歩くが、食料は乏しく、しかも米軍による空陸両方からの攻撃が続けられる。仲間は次々に虫けらのように殺され、たとえ生き延びたところで食い物に事欠く有様。「行くも地獄残るも地獄」状態である。目の前に展開するのは地獄絵図さながらで、おかしくなった兵士も現れる。戦場の現実がこれでもかと突きつけられ、一瞬たりとも目を離せない。
 いきなり戦場に放り込まれて、悲惨な戦争を疑似体験させるという戦争映画の王道のような作りになっていて、しかも『炎628』『プライベート・ライアン』のような生々しいリアルな戦闘シーンも出てくる。戦争映画として破格のリアリティである。その一方で(市川崑らしい)ユーモラスな描写も随所に散りばめられており、「おもろうてやがてかなしき」みたいな状況が展開される。
 演出は正攻法だが、映画全体が非常に丁寧に作られているのがよくわかる。脚本については、冒頭部分があまりに説明的でかなり白けたが、それ以外は気になる箇所は特にない。大映映画の職人芸が発揮されたような映画で、あらゆる部分に隙がない。むしろこんな映画をよく作れたなという感慨が大きい。原作は大岡昇平の同名小説で、ストーリーは幾分改編されているが、それも良い結果に出ている。
 この時代の日本の戦争映画は、戦争賛美映画を含めてかなり作られているが、批判的な視点で描かれたものについては、『人間の條件』しかり、『真空地帯』しかりで、今見てもハッとさせられるような傑作が多い。先の戦争の記憶が残っていたことが大きいんだろうと思うが、この『野火』もそれに並ぶ作品で、映画ファンであれば是非一度は見ておきたい映画である。
★★★★

追記:
 この『野火』は昨年塚本晋也監督が再映画化したようだが、今回見た作品は59年の市川崑版である。
 また、この映画のテーマになっている戦場でのカニバリズムについては、ドキュメンタリー映画、『ゆきゆきて、神軍』でも証言されていた。

参考:
竹林軒出張所『俘虜記(本)』
竹林軒出張所『ゆきゆきて、神軍(映画)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』
竹林軒出張所『真空地帯(映画)』
竹林軒出張所『炎628(映画)』
竹林軒出張所『プライベート・ライアン(映画)』
by chikurinken | 2015-11-25 08:30 | 映画
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