あなたの中のミクロの世界
第2回 ヒトは微生物との集合体
(2014年・豪Smith & Nasht/仏Mona Lisa)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
内容が濃すぎてツライ CGや顕微鏡映像でミクロの世界を紹介するドキュメンタリー。第1回に引き続き人の身体と微生物の関係に焦点を当てる。
第1回にも共通するが、このドキュメンタリー、人に寄生している微生物のほとんどは決して有害なものではなく、むしろ人の健康にとって役に立つものであるという哲学で貫かれている。そして特にこの第2回では、近年の衛生的な生活で駆逐されていった寄生虫が、実は人体にとって必要なものであるという知見を示している。このあたり、寄生虫博士、藤田紘一郎氏がずっと主張してきたことと共通するもので、あらためて藤田氏の先進性にうならされる。
番組では実際に、寄生虫を使った難病治療の例(多発性硬化症、クローン病、レイノー病、セリアック病)がいくつか示されており、良好な結果が出ている。寄生虫のみならず、現代社会で悪者にされてきた微生物も、実は人にとって不可欠なものだったのではないかというのがこの番組の主張である。また、虫歯やアレルギーなどの現代病も、身体の中に棲む微生物の本来のバランスが崩れたために現れた現象だとする。
腸内フローラ(
竹林軒出張所『腸内フローラ(ドキュメンタリー)』参照)についても説明があり、難病の治療法として、病気で苦しむ人の大腸に健康な人の便を注入するという便微生物移植療法についても詳細に紹介されていた。これなんかは微生物(善玉菌)を身体に取り込むことで、症状を改善させようという取り組みである。
このように、微生物と健康に関するさまざまなトピックがこれでもかという感じで詰め込まれており、しかも顕微鏡映像やCGもバンバン出てくるしで、非常に見応えがあるドキュメンタリーになっている。ただし一方で、あまりにさまざまな事項・事例が詰め込まれていたため、見ているこちらの頭の方がちょっと追いつかない。もちろん、現代の過剰衛生に対して警鐘を鳴らすというテーマについてはよく伝わってきたが、もう少しそれぞれの事例を大切に見せてくれても良かったかなと思う。また、他のMona Lisa Production製作の番組同様、全体的にとりとめがない構成になっているのも、そういう点に拍車をかけている。豪華な食材を用意したは良いが、できあがった料理はやや大雑把で繊細さを欠いていたという感じで、そういうような点が少々惜しまれる。内容も主張も非常に目新しく斬新なので、そのあたりが少しばかりもったいない。
これまで書いてきた内容以外にも面白い話が多数紹介されていたので、下に箇条書きで記しておく。
● 虫歯:食生活の変化が口の中の善玉菌と悪玉菌(ミュータンス菌)のバランスを崩し、虫歯の原因となる菌が栄えるようになった。農耕生活を始める前のヒトには虫歯がなかったらしい。
● ピロリ菌:ピロリ菌は胃潰瘍や胃がんの原因であることがわかっているが、ある種の寄生虫が体内にいればピロリ菌によって胃潰瘍が引き起こされることはない。むしろ胃の中のピロリ菌には、身体の免疫機能の過剰反応を弱める作用があるため、喘息を予防する働きさえある。
● 現代食:ジャンクフードにより免疫機能の炎症が起こり、免疫機能の不全が引き起こされている。
● エムバッキー:エムバッキーという微生物(途上国の人々の体内に普通に生息する微生物)がレイノー病や癌に一定の成果を挙げている。乾癬や欝病にも効果があるという。
● デング熱:デング熱を媒介する蚊に、デング・ウイルスに対抗する細菌(ボルバキア)を注入することによって、蚊がデング熱を媒介しないようにするという取り組みがある。オーストラリア北部ではこのような蚊を自然に放つことでデング熱を収束させることに成功している。
● レトロウイルス:レトロウイルスというウイルスは、生殖細胞系列に侵入してDNAに入りこみ、やがて正常な遺伝子の一部になる。これは100万年に一度くらいの頻度で起こり、生物はこのウイルスに適応しながら生き延びてきている。現在このような事態がコアラで見られており、謎の死を遂げるコアラにレトロウイルスが検出されているという。
● 微生物とヒトとの関わり:微生物は人の進化や命まで操っている。ヒトは一人ではなく、ヒトは微生物の集合体である。
★★★★参考:
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (1)(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『腸内フローラ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『あなたの体は9割が細菌(本)』竹林軒出張所『失われてゆく、我々の内なる細菌(本)』竹林軒出張所『土と内臓 微生物がつくる世界(本)』竹林軒出張所『見えざる力“植物の帝国”(ドキュメンタリー)』--------------------------
以下、以前のブログで紹介した藤田紘一郎の著書に関する記事。
(2004年11月5日の記事より)
笑うカイチュウ 寄生虫博士奮闘記藤田紘一郎著
講談社
寄生虫ブーム(?)を起こした藤田紘一郎の原点とも言うべき著書。
寄生虫のことをいろいろ教えてくれるすばらしい本。内容も面白いが、文章がまたうまい。
他の動物の寄生虫が人間に入ると大事につながることがあるのは、その寄生虫と人間との間に共存関係ができていないためで、人間の寄生虫が人間とある程度うまくやっているのは両者間に歴史があるためだそうな。寄生虫に悠久の歴史を感じる。
★★★☆