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竹林軒出張所

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『アラビアンナイトを楽しむために』(本)

アラビアンナイトを楽しむために
阿刀田高著
新潮文庫

アラビアンナイトの格好の入門書
これで充足するのもアリだ


『アラビアンナイトを楽しむために』(本)_b0189364_7321093.jpg ササン朝ペルシアのシャーリャル(シャフリアール)王はとあるきっかけで女性不信になり、それ以降、毎夜処女を後宮に呼びつけては夜伽をさせ、夜が明けるとその女性を殺すという残虐行為を続けていた。おかげで街中に処女がいなくなったが、大臣の娘シャーラザッド(シェヘラザード)がみずから夜伽役として名乗り出る。シャーラザッドは、シャーリャル王に面白い話を聞かせ「続きはまた明日」ということで、殺されることを逃れた。そしてこれを1001夜続け、結局シャーリャル王は女を殺すことをあきらめて改心し、このようなすばらしい女がいることに気付いて彼女を妻にすることを決める。そしてその1001回続いた話をまとめたのが「千夜一夜物語」つまり「アラビアンナイト」の話。もちろんこれは実話ではなく、この物語のコンセプトに過ぎない。
 この話をヨーロッパに最初に紹介したのはガランというフランス人で、アラブ世界に伝わる説話を集めた底本を翻訳したというのが大元ではないかということである(いわゆる「ガラン版」)。その後、さまざまな異版が作られ、新しい話がどんどん盛り込まれていって、随時ヨーロッパに翻訳されていった。そのため最初のガラン版では280夜程度だった(この時点では「千夜一夜」ではないのだ)のが、有名なバートン版(1888年刊)では1001夜を超えてしまって「補遺」まで出てきたらしい。
 やがてこの中から「シンドバット」や「アラジン」の話が日本でも童話として普及することになる。このお馴染みのアラビアンナイトの話を、一般向けに平易に書き直して紹介しようというのが本書で、語り部は子どもの頃からアラビアンナイトに馴染んでいたと言う阿刀田高。本書では全12編プラスαを非常にわかりやすい語り口で紹介しており、アラビアンナイトをつまみ食いするには格好の書である。ただしシンドバットやアラジンなどの非常に有名な話は収録されておらず、一般的にはあまり知られていない話ばかり。どれもスペクタクルな話ばかりだが、荒唐無稽なものが多く、中には枝葉の話が次から次に出てきてどれが幹の話だったかわからなくなるというものも出てくる。そういうのをひっくるめてアラビアンナイトだということだ。ただ阿刀田高の語り口は非常にうまく、話自体にも適度にツッコミが入ったりしていて読みやすい。実際のところアラビアンナイトは、全部読もうと思ったら相当な労力がかかる(ちくま文庫から出ている『バートン版 千夜一夜物語』は各巻600ページ以上で全11巻構成)ため、こういう形のダイジェストで紹介してくれるのは助かる。アラビアンナイトの入門書として接するのも結構、ダイジェスト版として接するのも結構というスタンスだと思うが、なかなかに有用である。個人的には『バートン版 千夜一夜物語』を呼んでみたい気もするが、6600ページを超える大著はどう考えても読了できるとは思えず、まあつまみ食いしても良いんだが、少々敷居が高いかなーと感じている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『アラビアン・ナイト(映画)』
by chikurinken | 2015-05-25 07:32 |
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