過激派組織ISの闇(2015年・NHK)
第1部 いま支配地域では何が
第2部 世界に拡散するISの脅威
NHK-BS1 BS1スペシャル
「イスラム国」ドキュメンタリーの決定版 NHKスペシャルで放送された
『追跡「イスラム国」』を100分に拡大した番組。中東地域やアメリカで100人以上の関係者に取材し、「イスラム国」の実態を明るみに出そうとする。
「イスラム国」自体は近づくことが難しいためその正体がなかなか見えてこないのがもどかしいが、「イスラム国」に身近で接した人の話を聞ければ、その姿を垣間見ることはできる。そのためこの番組では、「イスラム国」から逃げてきた元兵士や占領地域から逃れてきた住民、奴隷として売り飛ばされた若い女性などにインタビューを試み、その姿を明らかにしようとする。この番組では、前回のNHKスペシャルの取材源(どのようないきさつでインタビューが行われたかなど)についてもある程度詳細に紹介しており、取材源の信憑性が担保されている。
この番組で明らかにされている「イスラム国」の実態は、恐怖政治、公開処刑、虐殺、暴行、奴隷取引など、人として許せないことばかりで、
『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』に書かれていた「イスラム国」のイメージとは正反対である。あの著者が触れていた「市民に対する善政」については、「イスラム国」が作成したプロパガンダ映像で出てきたが、あくまでもプロパガンダなので信憑性はまったくない。むしろ、迫害され逃れてきた市民の証言の方がずっと信憑性があると思う。この番組を見ながら、あの著者はちょっと素朴すぎるんじゃないかなどと感じた。
さてこの番組だが、第1部、第2部に分かれていて計100時間のずっしり重いドキュメンタリーに仕上がっていた。
『そして、兄はテロリストになった』の映像が使われていた他、
『“イスラミック ステート”はなぜ台頭したのか』の主張も採用されているなど、きわめて包括的にまとめ上げられた番組で、「イスラム国」関連のドキュメンタリーとしては決定版と言える仕上がりである。
この番組の結論として、世界は今後数十年このテロリスト集団に悩まされることになるという暗澹たる未来が提示されており、ちょっと悲観的に過ぎないかとは思ったが、いずれにしても今後世界がしっかり対峙していくべき問題であるのは変わりない。とりわけ「アラブの春」という民主化運動が結局、狂気の殺戮組織を伸張させたという矛盾については、今後、歴史的な視点からも十分検討していく必要があると思う。
★★★★参考:
竹林軒出張所『追跡「イスラム国」(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『“イスラミック ステート”はなぜ台頭したのか(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『IS 狂気の内幕(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『バシャール・アサド 独裁と冷血の処世術(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『そして、兄はテロリストになった(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『フランスで育った“アラーの兵士”(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『イスラーム国の衝撃(本)』竹林軒出張所『イスラム国 テロリストが国家をつくる時(本)』