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竹林軒出張所

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『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』(本)

イスラム国 テロリストが国家をつくる時
ロレッタ・ナポリオーニ著
文藝春秋

肯定的な『イスラム国』観
違和感はかなりある


『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』(本)_b0189364_8151535.jpg 『イスラム国』をかなり肯定的に捉えた本。
 イスラム国(本書ではこのように表記している)は、ジハード(「聖戦」などと訳される)の理念を前面に押し出しながら、政治的空白地帯(イラクとシリア)に、領土支配つまり建国を目的に確立された組織だというのが著者の主張で、特に彼らが優れていたのは、洗練されたプロパガンダと、スンニ派対シーア派の図式を明確に打ち出した宣伝戦略、自前の(経済支援に頼らない)資金調達法の獲得などにあるという(中東の政情不安の地域では、さまざまな思惑を持つ周囲の国や機関がさまざまな団体に資金を提供しているのが普通らしい)。一方で支配域の市民に対しても、救済措置を施したりして善政を敷いているというのが著者の見方である。こういったことを著者の専門であるPLOやIRAなどと比較しながら論じていく。
 著者が論じるイスラム国は、現在世間で流布されているイスラム国のイメージと大きくかけ離れていてかなりとまどうが、実際のところ現地に行って取材した人がほとんどいないわけで、どちらが正しいかというのはにわかに判断できない。著者の見方があるいは正しいかも知れないが、方々で行っている(と言われる)大量虐殺や映像に映される残虐行為を目あるいは耳にすると、著者の視点はうがち過ぎではないかと考えざるを得ない。
 本書は全般的に歴史的な視点が強調されており、イスラムの歴史とイスラム国の出現との関連なども歴史的な視点で扱われていてその辺は非常に面白いんだが、なんとなく全般的にマクロ的な視点が目立ち、ミクロ的な視点が欠如しているような印象も受ける。理屈だけですべてを片付けるとものごとの本質を見失いがちになる。証拠を積み重ねたは良いがとんでもない結論が出てしまったということはよくある。この本もどこかそういう印象を受けるが、何しろイスラム国については情報が著しく欠如しているため本当のところはよくわからない。
 一般的なアプローチとまったく異なる視点は斬新だが、突っ走ってしまった頭でっかち本である可能性も大きい……というのが、本書に対する僕の見解である。
★★★

参考:
竹林軒出張所『イスラーム国の衝撃(本)』
竹林軒出張所『過激派組織ISの闇(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『追跡「イスラム国」(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“イスラミック ステート”はなぜ台頭したのか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『そして、兄はテロリストになった(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホムスに生きる 〜シリア 若者たちの戦場〜(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2015-04-28 08:16 |
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