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竹林軒出張所

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『働かないアリに意義がある』(本)

働かないアリに意義がある
長谷川英祐著
メディアファクトリー新書

そのココロはハチの予備役

『働かないアリに意義がある』(本)_b0189364_6533164.jpg アリやハチなどの真社会性生物を研究している研究者が書いたアリの生態に関する本。
 タイトルが示すとおり、ハタラキバチなどの真社会性生物の巣の中を見てみると、常時働いている個体は全体の30%ほどで、あとの70%は何もしていない(つまりサボっている)という。ハタラキバチと言えば一般的には猛烈に働くイメージがあって、そのためにかつては日本のサラリーマンもアメリカのマスコミから「ハタラキバチ」などと揶揄されたことがあるほどだが、そのハタラキバチの結構な数が実は遊んでいるという何ともセンセーショナルな話がこの本の掴みになっている。それを考えるとタイトルはなかなか見事。
 もちろん、これについてはちゃんと理由があって、要するに働いていないように見えるハチであっても、緊急の仕事が出てきたらそれに対応する個体が少しずつ増えてくるということで、超緊急の仕事が大量に出てきたら、極端な話、すべての個体がそれに対応すべく働くような構造になっているらしいのだ。つまり働いていないように見える個体は予備役みたいなもので、働いていないと言うより控えていると言う方が正確である。それぞれの個体で、危機意識に差があるため、一定の仕事に対してすぐに動く個体とまだ良いじゃないかと感じる個体がいるということらしい。こういうのを反応閾値の差と言う。で、こういう社会構造は、一見不合理にも見えるが、実は巣が存続する上で非常に合理的なもので、自分の遺伝子を次の世代に残すという進化論的な意味合いからも合目的性があるというのが著者の主張なんである。
 前半は、さまざまな種類のアリやハチの社会について検討していくため具体性があって比較的わかりやすいが、後半になると、社会を作る個体およびその社会にとっての遺伝的な有利性にまで話が及び、内容ががぜん難しくなっていく。当然進化論にまで言及され、進化論に付随する問題点や現時点で明らかになっていない点まで紹介されるため、専門性が高く、付いていくのがやっとみたいになってしまう。
 ただし全般的に話して聞かせるような優しい語り口で、しかも各章ごとにまとめがあったりして、非常に親切で真摯な本という印象が残る。大学の教養課程で(マニアックな専門を持つ)先生の話を聞いているような感じさえ受ける。怪しげな本が多いメディアファクトリー新書の中では異色の部類で、講談社のブルーバックスに入っていてもおかしくないような好著である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ミツバチの会議(本)』
竹林軒出張所『ハチはなぜ大量死したのか(本)』
竹林軒出張所『ニホンミツバチが日本の農業を救う(本)』
竹林軒出張所『銀座ミツバチ物語(本)』
竹林軒出張所『漫画・日本霊異記(本)』
by chikurinken | 2014-10-17 06:53 |
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