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竹林軒出張所

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『ヒゲのウヰスキー誕生す』(本)

ヒゲのウヰスキー誕生す
川又一英著
新潮文庫

薄口ではあるが口当たりは良い

『ヒゲのウヰスキー誕生す』(本)_b0189364_6544989.jpg ニッカウヰスキーの創業者、竹鶴政孝の伝記ノンフィクション。1982年に刊行された単行本が、その後文庫化されたもの。刊行時からずっと気になっていた本である。
 かつて酒好きの間では「広告のサントリー、品質のニッカ」と言われていたもので、僕なども若い頃から自分で買う国産ウイスキーはニッカと決めている。僕がウイスキーをよく飲んでいた若い頃は、サントリーがヒット広告を立て続けに飛ばし、あげくに大学新卒予定者の人気企業ナンバー1に選ばれたりしていた時代だが、サントリーの酒は好きになれず、ずーっと背を向けていた。ウイスキーはスコッチと決めていたが、例外的にニッカの製品だけはよく買っていたのである。
 その創業者の竹鶴政孝であるが、日本でも本物のウイスキーを作りたいと考え、第一次大戦が終わった頃に単身スコットランドに赴き、技術を習得して、日本に持ち帰った。その後彼は、寿屋(今のサントリー)で本物のウイスキー作りに精を出しながらも、やがて寿屋の鳥井信治郎と袂を分かち、自らの手で北海道の余市に工場を作って、本格的なウイスキーを作っていく。ちなみに彼の妻は、スコットランドで知り合ってそのまま結婚したリタで、この竹鶴リタ、今度のNHK朝のドラマ『マッサン』の主人公である。
 日本でのウイスキー作りは軌道に乗るが、その性質上、長年の貯蔵・熟成が必要なため、なかなか資金が回収できず、売上は好転しない。当初リンゴ果汁を売ったりもしていたが、竹鶴の生真面目さ、本物志向が裏目に出て、うまくいかない。営業的には厳しい時代が続いたが、第二次大戦の物資不足のために売上が好転、戦後は日本でも本物のウイスキーが見直される時代が来て、現在のニッカの基礎が築かれることになる……というような話である。
 小さな起伏はいろいろあるが、全般的にあまりドラマチックな展開はなく、なんだかニッカの社史の延長みたいな雰囲気もある。そんな中で一番の目玉は、やはりスコットランドでの修行時代ではないかと思う。ほとんどが時系列で描かれており、そういう点では読みやすい。ただ、文中に出てくるウイスキーの製造工程の説明がわかりにくい。せめて、単式蒸留器や連続式蒸留器の図解でもあれば少しは理解しやすかったんじゃないかと思う。それにスコットランドの地図も欲しかったところだ。
 それでも、竹鶴の頑固な本物志向の職人の意地は存分に伝わってくる。薄口ではあるが口当たりの良さが最後まで残る、のどごしの良い作品と言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ジャックダニエル(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2014-10-01 06:55 |
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